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第3話「裏切りの予兆」

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 この異世界に来てから二週間近くが経過した。
 俺はあまり動けないから体力の消耗は少ないけど、悠太、佳奈、真優を含む主力組は、日々魔物を倒すために動き回っている。

 最近、この草原の魔物たちの動きも活発化してきていた。
 能力の多用は体力を使うし、魔力というのも存在していて、出力を上げるためにはそれも必要なんだ。
 睡眠やエネルギーが必要なので、やっぱり食べ物がいる。

 クラスメイトたちの間では、その苛立ちが溜まり始めていた。
 食べ物の不足が、みんなのストレスを増やしている。小さな争いが頻発し、いつもは明るい悠太も疲れた顔をしていた。

「晴人、お前はどう思う?」

 悠太が俺に尋ねる。彼の目には不安が滲んでいた。

「……流石にクラスメイトから差し出すのはダメだろ、今はよくても後々に厄介なことになると思う」

 俺は答える。でも、心の中では、本当に解決策が見つかるのかという不安が渦巻いていた。

 佳奈は明るく振る舞っていたが、彼女の目にも不安が隠れていた。真優はいつも通り冷静を装っていたが、彼女なりに緊張しているのが分かった。

「これ以上、みんながバラバラになったらどうなるんだろう……」
 佳奈が心配そうに呟く。

「きっと何とかなる……私たちは一緒にいるべきだ」

 真優はなんとかみんなを落ち着かせようとしていた。



 その頃から、クラスメイトたちの間に変化が現れ始めた。
 小さなグループができ、陰でささやき合うようになった。
 食料をめぐる争いが発生し始め、友情が試されるような出来事が増えていった。

「このままだと、マジでヤバいことになりそうだ」

 悠太が俺にこぼす。
 俺も同感だった。生贄の話が出てから、みんなの心理が変わり始めている。

 だが、悠太の表情は真剣そのもので、「晴人、お前の引き出しに何か役立つものはないのか?」と聞いてきた。

 俺は「引き出し」を開けてみたけど、やはりそこには薬草しかなかった。

 次第に、クラスメイトたちの間では疑心暗鬼が生まれ始めていた。
 食料を巡るトラブルが増え、互いに警戒し合うようになった。いつもは団結していたクラスだけど、今はそれぞれが自分のことしか考えられない状況だ。

「こんなこと続けてたら、いつか本当に誰かが犠牲になるかもしれない……」

 悠太が重く口にした。その言葉に、深い悲しみと絶望が込められていた。


 夜、俺は星空の下で、自分にできること、何か貢献できる方法をぼんやりと考えながら眠りについた。正義のヒーローみたいなことは考えていない。ただ、自分の力で何か少しでも状況を改善できたらと思っていた。

 翌朝、目が覚めると、周りは静まり返っていた。普段なら、悠太や佳奈、真優が近くにいるはずだが、誰の姿も見えない。他のクラスメイトたちもいない。俺は一人で周囲を見回した。

「もしかして、もう魔物と戦いに行ってしまったのかな?」

 そう思いつつ、悠太たちを探し始めた。いつもなら、朝は彼らが俺を起こしてくれる。だけど、今日は誰もいない。何かがおかしい。

 俺は草原を駆け回り、彼らの姿を探した。
 しかし、どこを見ても、悠太たちの姿は見つからない。不安が募る中、俺は何か異変があったのではないかと思い始めた。

「起こしてくれないなんて、酷いよな……」

 そう思いながらも、心の中では彼らの安全を心配していた。
 いつもは笑い声や話し声でにぎやかな草原が、今は静寂に包まれている。この静けさは、何かを物語っているようだった。

 俺は一人、彼らを探し続けた。戦闘の跡を見つけることもなく、ただ彼らの姿だけが見えない。この状況に、俺の心は不安でいっぱいになった。



「一体、何が起こってるんだ?」

 自問自答しながら、俺は悠太たちを探し続けた。

 俺はこの状況で魔物に遭遇したら、もうおしまいだと思いながら探し回っていた。すると、クラスメイトたちの一部が集まって何か話しているのが見えた。悠太たちもその中にいる。彼らはクラスの中でもトップカーストのメンバーだ。俺は物陰に隠れて、彼らの様子をうかがった。

 しかし、なんだか雰囲気がおかしい。普段とは違う、何か陰謀めいた話をしているようだった。俺は何が起こっているのか理解しようとしたが、突然、クラスメイトの一人が俺に気づいて声を上げた。

 悠太たちも反応して、俺の方を見る。
 しかし、彼らの目には悲しみがあった。それは一体…?

 俺は安易に近づいてしまった。その瞬間、斬撃のような痛みが襲ってきた。これは風の攻撃…真優の能力だ!

 そして、耳を疑うような言葉が飛び出した。

「ごめん、晴人! 話し合いの結果、やっぱり耐えきれなくて……君を生贄にすることになったんだ。」

 まさか……俺が生贄? 俺は信じられない思いで、ただただ茫然と立ち尽くした。そして、直後に自分がどうするべきか理解した。

「とにかく逃げないと……!」

 俺は全力で走り出した。痛みを堪えながら、ひたすらに草原を駆け抜ける。背後からは、悠太たちの声が遠ざかっていく。

 俺はただ一つ思った。
 なぜ、こんなことになったんだろう。そして、これからどうすればいいのか。逃げる先には何が待っているんだろう。

 裏切られ、孤立無援。俺はアルティアの草原を、ただひたすらに走り続けたんだ。


 逃げる俺の後ろから、悠太、佳奈、真優の声が聞こえた。
 彼らは謝りながらも、どうやら追いかけてきているようだった。

「ごめん、晴人! でも、これしか方法がないんだ!」

 悠太が叫ぶ。

 佳奈の声も震えていた。

「本当にごめんね、晴人……」

 真優も静かに、しかし切実に、「これしかないの……許して」と呟いた。

 これは一体どういうことだ?あんなに親しかった彼らが、どうして……?
 俺は混乱しながらも、必死で草原を駆け抜けた。彼らの言葉は、どこかうそ臭く感じられた。

 生贄の話から、この展開は必然だったのかもしれない。戦闘力皆無で動けない俺は、クラスで一番必要がない存在だ。それを理解していたら、もっと早く行動すべきだった。

「と、とにかくマジでやばい!」

 俺は心の中で叫んだ。息を切らしながら、俺はただひたすらに逃げ続けた。
 でも、どこへ行けば安全なのか、どうすればいいのか、何も分からない。

 草原を駆ける足は重く、胸の中は絶望でいっぱいだった。親友と思っていた彼らに裏切られ、今や孤独な逃亡者となった。この広大なアルティアで、俺は一体どこへ向かえばいいのだろう。

 俺の頭の中は、謎と不安で溢れていた。でも、一つだけはっきりしていたことがある。それは、もう後戻りはできないということだ。俺はこのまま逃げ続けるしかなかった。そして、この草原のどこかで、生き延びるための答えを見つけ出さなければならない。それが、俺の運命なんだ。
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