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風が還る場所
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春の風が、再び辺境を撫でていた。
草の匂い、湿った土の香り、そしてどこか懐かしい“初恋草”の甘い香り――。
馬車の窓を開けたクラリッサは、目を細めて微笑んだ。
「……戻ってきましたわね。」
レオンが手綱を緩めながら頷いた。
「王都の喧騒より、こっちの風のほうが性に合ってる。」
「まったく、あなたは相変わらずですわね。」
馬車の先には、彼女が最初に辿り着いたあの村――《アリュール》。
十年前、追放令嬢として泥にまみれた“始まりの地”だった。
村は変わっていた。
かつてのボロ小屋は今、白い壁と木枠の窓を備えた「学院分校」になっており、
庭には、子どもたちが植えたハーブ畑が風に揺れている。
「クラリッサ先生! 帰ってきた!」
駆け寄ってきた少年少女たちに囲まれ、クラリッサは笑った。
「まあまあ、そんなに大げさに迎えられたら、恥ずかしいですわ。」
「でも先生、王様になったって聞いたよ!」
「女王、だろ! 風の女王様!」
「……違いますわ。」
クラリッサは子どもたちの頭を撫でながら言った。
「わたくしはただの“おせっかいな令嬢”ですの。
風を止められなかっただけの。」
夜。
村の丘の上。
クラリッサは焚き火の前に座り、扇子を広げた。
レオンが横に腰を下ろす。
「……ここが始まりだったな。」
「ええ。あの日、泣きながら泥を掘って、
“優雅に生きるとは何か”を考えていた自分が、懐かしいですわ。」
「その答えは、見つかったのか?」
クラリッサは少し黙り、そして微笑む。
「見つかりましたわ。
――優雅さとは、“風に笑える強さ”ですの。」
レオンは静かに頷いた。
「……お前らしい答えだ。」
翌朝。
村の中央に、人々が集まっていた。
クラリッサが新たに建てた「香りの塔」の完成式典。
それは、かつて彼女が王都で提唱した“香りの学院”の最終拠点――
風の流れを感じ取り、世界中の香りを記録する“風の図書館”。
塔の中央には、一枚の銘板が掲げられている。
> “図太く、優雅に生きよ。
> 香りはあなたの誇りであり、風はあなたの道標である。”
村の子どもたちが、初恋草を塔の周りに植えていく。
その小さな花々が風に揺れ、
空へと香りを放っていった。
午後。
クラリッサは塔の上に立ち、見渡す。
遠くの地平線には、砂漠の国の商隊。
北の空には、ヴァルデン王の使いが旗を掲げていた。
そして空の彼方、帝国の残党がまだ動いている――けれど、彼女は恐れなかった。
「……風は争いを越えて吹く。
ならば、わたくしたちはそれを見届ければいいのですわ。」
手すりの上に、あの日拾った小さな“香り瓶”を置いた。
中には、初恋草の花びらが一枚。
クラリッサは目を閉じ、風にその香りを託す。
「行きなさい――世界へ。」
瓶の蓋が開き、
香りが風に乗って空へ昇っていった。
夕暮れ。
村の子どもたちが走り回る中、
クラリッサは腰を下ろし、空を見上げた。
「……ねえ、レオン。」
「ん?」
「わたくし、きっとこれからも“図太く”生きていきますわ。」
「だろうな。お前が静かに暮らせるわけがない。」
「ふふっ……そうかもしれませんわね。」
二人の笑い声が、風に乗って村中に広がっていく。
初恋草の花びらが宙を舞い、光の粒となって消えていった。
その夜、王都の空にも、
辺境から流れ着いた甘い香りが届いていた。
それは――
追放された令嬢が掴んだ、自由と誇りの香り。
そして、静かに世界へと還っていく“風の始まり”だった。
草の匂い、湿った土の香り、そしてどこか懐かしい“初恋草”の甘い香り――。
馬車の窓を開けたクラリッサは、目を細めて微笑んだ。
「……戻ってきましたわね。」
レオンが手綱を緩めながら頷いた。
「王都の喧騒より、こっちの風のほうが性に合ってる。」
「まったく、あなたは相変わらずですわね。」
馬車の先には、彼女が最初に辿り着いたあの村――《アリュール》。
十年前、追放令嬢として泥にまみれた“始まりの地”だった。
村は変わっていた。
かつてのボロ小屋は今、白い壁と木枠の窓を備えた「学院分校」になっており、
庭には、子どもたちが植えたハーブ畑が風に揺れている。
「クラリッサ先生! 帰ってきた!」
駆け寄ってきた少年少女たちに囲まれ、クラリッサは笑った。
「まあまあ、そんなに大げさに迎えられたら、恥ずかしいですわ。」
「でも先生、王様になったって聞いたよ!」
「女王、だろ! 風の女王様!」
「……違いますわ。」
クラリッサは子どもたちの頭を撫でながら言った。
「わたくしはただの“おせっかいな令嬢”ですの。
風を止められなかっただけの。」
夜。
村の丘の上。
クラリッサは焚き火の前に座り、扇子を広げた。
レオンが横に腰を下ろす。
「……ここが始まりだったな。」
「ええ。あの日、泣きながら泥を掘って、
“優雅に生きるとは何か”を考えていた自分が、懐かしいですわ。」
「その答えは、見つかったのか?」
クラリッサは少し黙り、そして微笑む。
「見つかりましたわ。
――優雅さとは、“風に笑える強さ”ですの。」
レオンは静かに頷いた。
「……お前らしい答えだ。」
翌朝。
村の中央に、人々が集まっていた。
クラリッサが新たに建てた「香りの塔」の完成式典。
それは、かつて彼女が王都で提唱した“香りの学院”の最終拠点――
風の流れを感じ取り、世界中の香りを記録する“風の図書館”。
塔の中央には、一枚の銘板が掲げられている。
> “図太く、優雅に生きよ。
> 香りはあなたの誇りであり、風はあなたの道標である。”
村の子どもたちが、初恋草を塔の周りに植えていく。
その小さな花々が風に揺れ、
空へと香りを放っていった。
午後。
クラリッサは塔の上に立ち、見渡す。
遠くの地平線には、砂漠の国の商隊。
北の空には、ヴァルデン王の使いが旗を掲げていた。
そして空の彼方、帝国の残党がまだ動いている――けれど、彼女は恐れなかった。
「……風は争いを越えて吹く。
ならば、わたくしたちはそれを見届ければいいのですわ。」
手すりの上に、あの日拾った小さな“香り瓶”を置いた。
中には、初恋草の花びらが一枚。
クラリッサは目を閉じ、風にその香りを託す。
「行きなさい――世界へ。」
瓶の蓋が開き、
香りが風に乗って空へ昇っていった。
夕暮れ。
村の子どもたちが走り回る中、
クラリッサは腰を下ろし、空を見上げた。
「……ねえ、レオン。」
「ん?」
「わたくし、きっとこれからも“図太く”生きていきますわ。」
「だろうな。お前が静かに暮らせるわけがない。」
「ふふっ……そうかもしれませんわね。」
二人の笑い声が、風に乗って村中に広がっていく。
初恋草の花びらが宙を舞い、光の粒となって消えていった。
その夜、王都の空にも、
辺境から流れ着いた甘い香りが届いていた。
それは――
追放された令嬢が掴んだ、自由と誇りの香り。
そして、静かに世界へと還っていく“風の始まり”だった。
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