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第13話:木の香りと初めての食卓
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第13話:木の香りと、初めての食卓
翌朝。藁(わら)の香りに包まれて目を覚ました。 背中は痛くないし、底冷えもしない。昨日作ったベッドは想像以上に快適だった。
「んぅ……お腹すいた……」
隣でモコがむくりと起き上がる。私たちはベッドの上で、朝食のスープを飲むことにした。
「いただきまーす! ……あっと」
モコが器を傾けた拍子に、スープがこぼれそうになる。 膝の上にお椀を置くのは不安定だ。熱いし、落ち着かない。これじゃあ「食事」というより「補給」だ。
(……よし。今日は、あれを作ろう)
私は庭に視線を向けた。そこには、復活したばかりの頼もしい相棒——ノコギリとノミが並んでいる。
「モコ。今日はテーブルを作ろう」
「テーブル?」
「そう。ご飯を置く台だよ」
「やる! ご飯がおいしくなる魔法の台だね!」
モコは目を輝かせて、最後の一滴までスープを飲み干した。
† † †
私たちは再びフィーロの森へとやってきた。
狙いは、テーブルの天板になる木材だ。
製材所なんてないこの場所で、丸太を板にするのは重労働だ。私一人じゃ何日かかるか分からない。でも、私には「目」がある。
「『構造把握(アーキテクト・アイ)』」
スキルを発動すると、視界から色が消え、物質の構造が線となって浮かび上がる。
探すのは、ただの木じゃない。素直な繊維を持った木だ。
「……あった。あれにしよう」
苔むした倒木を見つけた。私はその断面をじっと見つめる。青白い線が、木の中心を貫くように走っている。
——ここを叩けば、割れる。
「モコ、この線に沿ってナイフを当てて」
「うん! 任せて!」
モコが万能ナイフを当てる。私はその背を、太い枝でカーン! と叩いた。
ピキッ、と乾いた音が響く。
「いまだよ、モコ! 裂いちゃって!」
「ふんぬっ!!」 バキバキバキッ!!
豪快な音と共に、丸太が繊維に沿って真っ二つに割れた。ノコギリで切るよりずっと早いし、繊維が切れないから水にも強い。
私たちは「天板の元」を担いで、意気揚々と家に戻った。
† † †
庭先が、青空工房に早変わりする。
割ったばかりの木はササクレだらけだ。カンナはないから、ツルツルにはできない。だったら——。
(デコボコを、模様にしちゃおう)
私はノミを構えた。丸い刃先を使って、表面を浅く掬(すく)うように削っていく。
コン、サクッ。コン、サクッ。
心地よいリズムで、木肌に魚の鱗(うろこ)のような模様が刻まれていく。「名栗(なぐり)」という、あえて削り跡を残す技法だ。
仕上げに、川砂をつけた布で磨き上げる。
「わぁ……! 水面の波紋(はもん)みたいで綺麗!」
モコがデコボコした表面を撫でている。
ツルツルではないけれど、手のひらに吸い付くような温かい感触。これはこれで、今の私たちに合っている気がした。
次は、一番の難関。「脚」の取り付けだ。
釘も接着剤もない。どうやって固定するか。
(……木の性質を利用しよう)
天板の裏に穴を彫り、そこに脚を差し込む。
ポイントは、天板が森から拾ってきたばかりの「生木」で、脚が昨日から乾かしておいた「乾燥した木」だということ。
——生木は、乾くと縮む。
つまり、今きつく差し込んでおけば、天板が乾くにつれて穴が縮まり、脚をガッチリと締め付けてくれるはずだ。
「よし。モコ、この脚を穴に差し込んで」
「うん! ……えいっ!」 ゴンッ!
モコが体重をかけて押し込む。木と木が擦れ合い、きつく噛み合う音がした。
釘一本使っていないのに、四本の脚は岩のように微動だにしない。
「できた……」
最後に、丸太を輪切りにして磨いただけの椅子を二つ並べる。
夕暮れの庭に、手彫りの跡も味わい深い、世界に一つの「ダイニングセット」が誕生した。
† † †
その日の夕食。私たちは完成したテーブルを部屋の中央に運び込んだ。
今まで床に置いていたスープの鍋を、テーブルの上に置く。木のお皿と、水が入ったコップを並べる。デコボコした天板だが、器を置くと不思議と安定する。
「座ってみて、モコ」
丸太の椅子に腰掛ける。目の前に、湯気を立てるスープがある。背筋が伸びる。視線が高くなる。
「わぁ……!」
モコが目を輝かせた。
「すごいよエリス姉! お店屋さんみたい!」
「ふふ、そうだね。いただきます」
「いただきます!」
スープを口に運ぶ。テーブルに肘をつき、顔を見合わせて笑い合う。ただの板一枚。それがあるだけで、食事がこんなにも豊かな時間になるなんて。
向かい側に座るモコの顔が、ランプの灯りに照らされてよく見える。天板の削り跡を指でなぞりながら、彼女は嬉しそうだ。
床で食べていた時は、どこか餌を食べているような侘しさがあったけれど、今は違う。これは、正真正銘の食卓だ。
「おいしいね、エリス姉」
「うん。すごい美味しく感じるね」
(ただの木材なのに、こんなにも温かい気持ちになる。向かいに座るモコの笑顔が、ランプの黄金色の光に照らされてキラキラと輝く。)
(この板一枚で、ここはもう食卓だ。冷たい床に座っていた日々は、もう遠い過去。私たちは、今日、ここに、自分たちの手で確かな居場所を築いたのだ。)
「明日は、なにしようかな」
木の温もりと、美味しいスープの湯気に包まれながら、私は満ち足りた食後の余韻に浸っていたのだった……。
翌朝。藁(わら)の香りに包まれて目を覚ました。 背中は痛くないし、底冷えもしない。昨日作ったベッドは想像以上に快適だった。
「んぅ……お腹すいた……」
隣でモコがむくりと起き上がる。私たちはベッドの上で、朝食のスープを飲むことにした。
「いただきまーす! ……あっと」
モコが器を傾けた拍子に、スープがこぼれそうになる。 膝の上にお椀を置くのは不安定だ。熱いし、落ち着かない。これじゃあ「食事」というより「補給」だ。
(……よし。今日は、あれを作ろう)
私は庭に視線を向けた。そこには、復活したばかりの頼もしい相棒——ノコギリとノミが並んでいる。
「モコ。今日はテーブルを作ろう」
「テーブル?」
「そう。ご飯を置く台だよ」
「やる! ご飯がおいしくなる魔法の台だね!」
モコは目を輝かせて、最後の一滴までスープを飲み干した。
† † †
私たちは再びフィーロの森へとやってきた。
狙いは、テーブルの天板になる木材だ。
製材所なんてないこの場所で、丸太を板にするのは重労働だ。私一人じゃ何日かかるか分からない。でも、私には「目」がある。
「『構造把握(アーキテクト・アイ)』」
スキルを発動すると、視界から色が消え、物質の構造が線となって浮かび上がる。
探すのは、ただの木じゃない。素直な繊維を持った木だ。
「……あった。あれにしよう」
苔むした倒木を見つけた。私はその断面をじっと見つめる。青白い線が、木の中心を貫くように走っている。
——ここを叩けば、割れる。
「モコ、この線に沿ってナイフを当てて」
「うん! 任せて!」
モコが万能ナイフを当てる。私はその背を、太い枝でカーン! と叩いた。
ピキッ、と乾いた音が響く。
「いまだよ、モコ! 裂いちゃって!」
「ふんぬっ!!」 バキバキバキッ!!
豪快な音と共に、丸太が繊維に沿って真っ二つに割れた。ノコギリで切るよりずっと早いし、繊維が切れないから水にも強い。
私たちは「天板の元」を担いで、意気揚々と家に戻った。
† † †
庭先が、青空工房に早変わりする。
割ったばかりの木はササクレだらけだ。カンナはないから、ツルツルにはできない。だったら——。
(デコボコを、模様にしちゃおう)
私はノミを構えた。丸い刃先を使って、表面を浅く掬(すく)うように削っていく。
コン、サクッ。コン、サクッ。
心地よいリズムで、木肌に魚の鱗(うろこ)のような模様が刻まれていく。「名栗(なぐり)」という、あえて削り跡を残す技法だ。
仕上げに、川砂をつけた布で磨き上げる。
「わぁ……! 水面の波紋(はもん)みたいで綺麗!」
モコがデコボコした表面を撫でている。
ツルツルではないけれど、手のひらに吸い付くような温かい感触。これはこれで、今の私たちに合っている気がした。
次は、一番の難関。「脚」の取り付けだ。
釘も接着剤もない。どうやって固定するか。
(……木の性質を利用しよう)
天板の裏に穴を彫り、そこに脚を差し込む。
ポイントは、天板が森から拾ってきたばかりの「生木」で、脚が昨日から乾かしておいた「乾燥した木」だということ。
——生木は、乾くと縮む。
つまり、今きつく差し込んでおけば、天板が乾くにつれて穴が縮まり、脚をガッチリと締め付けてくれるはずだ。
「よし。モコ、この脚を穴に差し込んで」
「うん! ……えいっ!」 ゴンッ!
モコが体重をかけて押し込む。木と木が擦れ合い、きつく噛み合う音がした。
釘一本使っていないのに、四本の脚は岩のように微動だにしない。
「できた……」
最後に、丸太を輪切りにして磨いただけの椅子を二つ並べる。
夕暮れの庭に、手彫りの跡も味わい深い、世界に一つの「ダイニングセット」が誕生した。
† † †
その日の夕食。私たちは完成したテーブルを部屋の中央に運び込んだ。
今まで床に置いていたスープの鍋を、テーブルの上に置く。木のお皿と、水が入ったコップを並べる。デコボコした天板だが、器を置くと不思議と安定する。
「座ってみて、モコ」
丸太の椅子に腰掛ける。目の前に、湯気を立てるスープがある。背筋が伸びる。視線が高くなる。
「わぁ……!」
モコが目を輝かせた。
「すごいよエリス姉! お店屋さんみたい!」
「ふふ、そうだね。いただきます」
「いただきます!」
スープを口に運ぶ。テーブルに肘をつき、顔を見合わせて笑い合う。ただの板一枚。それがあるだけで、食事がこんなにも豊かな時間になるなんて。
向かい側に座るモコの顔が、ランプの灯りに照らされてよく見える。天板の削り跡を指でなぞりながら、彼女は嬉しそうだ。
床で食べていた時は、どこか餌を食べているような侘しさがあったけれど、今は違う。これは、正真正銘の食卓だ。
「おいしいね、エリス姉」
「うん。すごい美味しく感じるね」
(ただの木材なのに、こんなにも温かい気持ちになる。向かいに座るモコの笑顔が、ランプの黄金色の光に照らされてキラキラと輝く。)
(この板一枚で、ここはもう食卓だ。冷たい床に座っていた日々は、もう遠い過去。私たちは、今日、ここに、自分たちの手で確かな居場所を築いたのだ。)
「明日は、なにしようかな」
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