ところで小説家になりたいんだがどうしたらいい?

帽子屋

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まずは……どうすりゃいいんだ?

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世の中、霜月。師走目前、皆様、本当にご苦労様です。

俺も、少し前までは、冬のボーナスに夢を軽く馳せながら、息を切らして走って訪れる年末、駅伝選手とともにマッハで走り抜ける正月、年が明けたら目前の年度末ゴールの荒波に揉まれていたよ。

ああ。もう、もみくちゃだったさ。

だが俺はもう、そんな世間の潮流に翻弄される事はないんだ。


俺は松土まつど鳩作きゅうさく

わけあって、会社辞めた。
辞めて暫く経つが、仕事はない。
自宅警備係にも限界が出てきた。在宅ワークだと、いつまでも言ってられない。
目ざとく情報通な口沙汰無いものきんじょのワルおばちゃんたちに、なぶり殺されるのも時間の問題だ。

そうして俺は、パソコンに電源を入れてWordを立ち上げた。


小説家になりたくて――。




昼時のこの店は、相変わらずオフィスワーカーたちで賑わっている。
ここ、うまいからな。パスタ。
1時間という限られた昼休みで、英気を養うオアシス、店の名前も “Oasis” 出来すぎだろ。

しかし、無職の俺にとって、最安ランチ780円(税込)も正直痛い。
やっぱ駅前のマックにすりゃ良かったかな。携帯会社のクーポンで、コーヒーならタダだし。
でも、あいつ、マックを指定したら来ない。絶対来ない。

そう。俺の前に空いた席。おじさんでおばさんな、店でたった一人のウェイトレス、ミーちゃんが置いてくれた水のコップは氷が溶けて、机に小さな水溜りを作っている。

早く来いよ。腹減ったよ……。

俺は、豪快な腹鳴(はらのむしが音を立てる前に、水を煽った。

空になったコップを上げてミーちゃんにアイコンタクトを送る。
いつもは駅前で座っているほっこりした恵比寿様さながらのミーちゃんだが、今日は月曜日だからか月末だからか、月末で月曜の二段攻撃か? いつも以上に混雑した店内で奮闘している。まさに闘う姿は、仁王様。
俺に見せた一瞬の表情は鬼の形相で『そこのピッチャーから、自分で入レロヤ!』と、顔面でコンタクトしてきた。

俺は、トイレ近くのせっまい場所とは言え、この混雑で今だ注文もせず待ち人も来ていない状況を鑑み、横の席に座る女性に「すみません」と言って頭を下げ、カニ歩きでクレパスみたいな机と机の隙間を通って水を取りに行った。

お。この娘、なかなか可愛い。ラッキー↑↑↑


12時50分。
戦闘時間超ランチタイムが、そろそろ峠を迎えようとするころ、横に座っていた娘とその連れが、会計を済ませ店の外に出ようとしていた時「すみません。待ち合わせなんですけど」と、声が聞こえた。

「あああぁぁ!」

ミーちゃんの声が裏返った。
何となく、そいつとすれ違ったあの娘たちの会話も聞こえてきそうな気がした。
大方こうだ。
だいたいこうだ。いつもそうだ。むかつく。

『ねぇねぇ、芸能人かな?! 超イケメンじゃなかった?』
『見た見た! 超美形!』
『それにしても、小百合(仮名)の横の男、頭モジャモジャ過ぎない?』
『すごかったよね。あの頭。あのモジャモジャが、気になってパスタの味わからなかった!』

小百合(仮名)、それは違うぞ。俺の頭はお前の味覚は破壊しない。亜鉛が足りてないんじゃないか? おじさん、心配だよ。

「マッツさん」
「おう。お疲れ。忙しいとこ悪かったな」

ふふ。俺はこのあだ名が気に入っている。このあだ名を俺に付けたやつに感謝の意しかない。
誰が呼び始めたかは、覚えてないが。
だってマッツ・ミケルセンみたいでかっこいいじゃないか。

「気持ち悪い顔しないでくださいよ」

俺に声を掛けた男は、いきなり顔の評価を始めた。
違うだろ?お前が言うべきは、30分以上も遅れてごめんなさい、だろうが。
謝れ俺に。

「何を言うんだね。俺は生まれつきこういう顔だ」
「じゃあ、生まれつき気持ち悪い顔なんですね」

俺の親にも謝れ。先祖の墓に土下座しろ。

高身長で足も長く眉目秀麗という四字熟語はこいつの為にあるんだな、的な顔した、性格難有り男はさらりと言いやがった。

「こっちの席、今、空いたから。どうぞ、こっち来て。お水、置いとくから」

ミーちゃんがウキウキしながらテーブルを二つくっつけて、広い席を用意している。そこ、店のカウンターから一番良く見える位置だな。

「お忙しいところ、すみません」

俺の連れは、甘い声でミーちゃんに礼を言うと、用意された席へさっさと向かった。
やめろよ、それ。乙女の顔になってるミーちゃんが悶えるだろ。旦那マスターそこにいるんだからさ。
マスターが作るお前のパスタに「いっけね。韮と間違えちゃったよ」ってスイセンがふんだんに使われてても、俺は助けないぞ。
ふふ。お前ナルキッソスにスイセン、うまい話に繋げやがって。俺って天才。

俺は、脳内でスイセン中毒事件の構成を考えながら席を立った。

「ちょっと、まっつん! れいちゃん来るなら、先に言ってよ! 言ってくれたら、この前買った冬の新色コスメでメイクしてきたわよ!」

「うん。今からしてきたらダメなの?」

「バカね! これだから男は……何分かかると思ってんのよ!」

俺を捕まえたミーちゃんは、そう小声で俺の耳にクレームを叩き込むと、いそいそとカウンターへ戻って行った。
見れば、新しく用意された席に俺のコップは無い。仕方なく俺はコップとお絞りを自分で持って席を移動した。

「で、何なんです、先輩。この忙しい僕に、たっての頼みとは」

だから、そこ!
最初は、遅れてごめんなさい、じゃないのかよ?!

「あー……俺、会社辞めただろ? で、仕事は探してるけど、まだ見つかってないから、時間あるんだよな。で、一念発起。明日から始めようと思うんだ。キリがいいだろ?」

「はぁ。で、何を?」

「小説家だ。夢、叶えようと思って」

俺は、人生で何度目かって出来栄えの、会心の真摯な顔だったと思う。

「僕、忙しいんで帰ります。与太話に付き合う気、ないんで」
「待て! 待て待て待て待て待て! 落ち着け!!」

席を立とうとしたコイツじゃなく、何故か俺の背中にミーちゃんの視線が突き刺さる。

「違う! いや、違くないけど! 最近ネットで投稿出来るんだろ? お前、そう言うの詳しいだろ! な! 今日は、月曜日。お前の大好きな、“和風カニクリームパスタ アスパラトッピング”、あるぞ!(韮に混ぜてスイセンもちょっと入れろ!)メインは、昼飯! 俺の話は、ついでで良いから聞いてくれ!!」

「仕方ないですね。先輩のたっての頼みですか。聞きましょう」

「そうだ。俺はこのキリのいい明日と言う日に、ネット小説家デビューしたいんだ」

「こだわりですか?」

「そうだ。こだわりって大事だろ? 数字はきれいな方がいい」

「気持ち悪いですね」

「うるさい」

「だいたい何で、明日がキリがいいんですか?」

「12月1日だろが。めちゃくちゃキリがいいだろ。きれいな数字だ。しかも今日は11月30日。フィリップ・シドニーの誕生日だろ?」

「誰だか知りませんが、何だかこの話に頭使うとか勿体無い気がしてきました」

「どういう意味だよ。12月1日は、キリよく一日スタートだし、121は11の平方根できれいな数字だ」

席に着いた男は、一瞬体の動きを止めたあと水を飲んだコップを机に置いた。
どうやら俺の、この店自慢のエスプレッソのようなエスプリのきいたこだわりが冷えた水とともに胸に落ちたらしい。
そういうや昔、エスプリって言う高級たっかいオーディオがあったよ。アレも夢だったな。

夢に思いを馳せた俺に、目の前から極冷静な声が聴こえてきた。

「1日ですけど」

「?」

「ちょっと、そのモッサ頭に、え、なにそれ? みたいなキャラ目玉、つけないでくれますか? 笑いそうなんで」

「これは俺の目玉だ。何? 何だって?」

「だから。今日が、12月1日ですよ」

一気にテンションがた落ちの、心はヒマラヤに捨てられた俺の横に、ミーちゃんが頼んでもいないのに、キンキンに冷えた皿の特盛サラダを置いた。ひんやりとした冷気が、顔にかかる。

「ちょっと。頭上げてくださいよ。そのモッサモジャ頭のせいで、サラダが、って言うか、机がみえない」

うるさい、バカ。俺の頭は、机を覆い隠すほどにはでかくねぇよ。さすがに。



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