だがしかし

帽子屋

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 目の前の風景を流れる大きな風から分岐して、わき道にそれた小さな川の流れのような風にが部屋に流れこんできた。誘われるまま、俺は窓を離れ丸いちゃぶだいに腰を下ろした。事故を起こした神田もついてきて、床の間の収納からごそごそとお盆に急須と湯のみ、茶筒それから菓子入れを出してきて机に置いた。それから懐かしいレトロなポット、いや
魔法瓶を持っておもむろに部屋を出ると、どこかに消えて何事もなかったように帰って来た。俺がなにもいわずぼんやりと、しかし、神田、お前って不思議な生き物だよな……と内心思っていることを悟られないように眺めていると、神田もまた無言で茶を淹れ始めた。
ちゃぶだいの上の湯飲みにまず魔法瓶からこぽこぽと音を立て湯気のたつお湯を注ぐ。茶筒を開ければ緑のみずみずしい香りが漂った。急須に葉をいれ、湯飲みから湯を注ぐと茶の葉は丸みを帯びた香りを広げた。神田はまだ無言だ。俺も無言でその様子を見ていた。
変な構図だよなあ。大の大人が二人、ちゃぶだい囲んで無言で何やってんだか……。
神田は急にぴたりと動作を止め、俺が『?』と思っていると、ぶつぶつと数でも数えているようで、1分ほどするとその呪いまじないをやめ2つの湯飲みに交互に茶を注いだ。
すっと俺の前にその一つを寄越す。俺は「どうも」と言って受け取った。
「は~~~ 美味しい~ 僕ってお茶淹れるのうまいと思うんだよね~」
沈黙の終幕、開口の幕開けは、茶をすすり、にこにことした男の自画自賛から始まった。確かにお茶は美味いが、この沈黙の時間はなんだったんだろう。俺が何も言わずに茶をすすっていると、にこにこの視線を感じる。また茶をすする。にこにこの視線が止まらない。
「……はい。美味いです」
「でしょ~」
俺は疲れを感じながら、俺の返事に満足げな男がようやく蓋を開けた菓子入れの菓子を一つ口に放り込んだ。爽やかな梅の酸味と甘みが口の中に広がる。
美味いな、これ。でもどっかで食べたような……。
俺は続けてもう一つ口に入れた。
「このお菓子、美味しいよね~」
「美味いし、なんか懐かしい味がするな。これも特産?」
「これはね~ この村の駄菓子屋さんで作ってるんだよ~」
「駄菓子屋?」
「そうそう。村のちょっと上の方にあるの~」
「へー。駄菓子屋……」
駄菓子屋って子供の頃よく行った気がする。小銭しか持ち合わせてなかったけど、それでも色々買えて子供心にそれが嬉しくって。友達ともよく行ったよな。当り付きのやつとかカード入りので大騒ぎしたり、口の中が赤くなったり青くなったりするやつとか、やたらしょっぱかったり甘かったり。ある意味駄菓子って不思議な、特別な菓子だよな。だけど、子供の頃、家のそばの駄菓子屋には手作りの菓子なんて売ってなかった気がする。この村ならではなんだろうか。だが今この食べている味に懐かしさを感じるってことは、覚えてないだけでどこの駄菓子屋でも似たようなものを作って売ってたんだろうか。
駄菓子菓子。だがしかし。
俺の最大の疑問は駄菓子じゃない。
「で、神田よ。お前はいったいここに何しにきたんだ?」
「虫とり~ 新種、みつけちゃったりして~」
……なに? なんだと? こんなに苦労してきたのは、昆虫採集のためか?!
「僕はこのお茶飲んだらさっそく行って来るから、きみは休憩していていいよ~ 明日からは手伝ってよね~ 木を揺らしたり、登ったり、熊よけとか色々作業はあるから~」
当たり前だ。今の俺のどこに虫を追いかける気力が、体力あるというんだ。って言うか、お前の体力はばけもんか。そして熊よけってなによ?
茶を飲み菓子を食べていた神田はしばらくすると「じゃ、準備したら行ってくるから~」と自室に戻って行った。俺は一人になった部屋で大の字に寝っころがった。畳の匂いと固さに、眠気が押し寄せてくる。遠くのほうで神田の上機嫌なのほほんソングが聞こえた気がした。
「れっつご~ げんせいりん まっていてね~ 巨大みやまくわがた~ 超えろ130mmカブト~」
130mm? いやいや。そんな巨大なカブトムシはコーカサスオオカブトぐらいなもんだろ? ここ日本だろ?
俺は畳と重たい瞼に誘われるまま、眠りに落ちていった。
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