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しおりを挟む太陽が南天の空に昇りきるにはもう少し時間がかかりそうだったが、俺は体力の限界を感じていた。これ以上神田についていくと本当に命を落としかねない……ふと過ぎった思いに俺は離脱を提案してみた。
「なあ神田。俺、ちょっと休憩したいんだけど」
「ん~?」
神田は岩に座っていた俺とそれから空を見上げてから「どうぞ~?」と恐ろしくあっさりと、休憩の許可を出してきた。
なんだよ。俺の体力の無さに呆れたのか。
そう思わないでもなかったが、俺はとにかく休憩が出来ることに、神田に気付かれないようにほっと胸を撫で下ろした。
「この先に~ あのお菓子の駄菓子屋さんがあるから行っておいでよ~ 近いから大丈夫~ ついでに僕の分もお菓子もらってきて~」
この先ってどこのことかな、神田君。と思うほどのうっそうとした山ん中で、近いって本当かよと半信半疑だったが、俺は「ハイハイ」と答えて岩から腰を上げた。神田が示した先を向いて「じゃあな。お前も気を付けろよ」と片手を挙げた。「きみもね~ ……気を付けてね」とのほほん声が背後に聞こえた。
神田と別れてしばらくすると悪路と疲労のせいかほんの少し息苦しさを感じたが、ひんやりとした空気に助けられながらそのまま先を目指した。気付けば足に絡み付いていた草が離れていき、なんとなく道らしき道、茂った草がそっとわきによけたようなケモノ道を歩いていた。静かな森の中を流れる緑の濃い匂いと、水の匂いの中になんだか懐かしい匂いを嗅いだ気がした。匂いに誘われるように、心なしか軽くなった足取りで前に進めば明るい小さな森の出口が見えた。
着いたのか……。ほっと俺は息を吐いた。
森を抜けた先に、大きな樹が見える。その樹の隣にはやはり重要文化財にでもなってそうな古民家がたっていた。俺はあと一息と、その家を目指した。
家の前に着けば、大きな樹は桜の大木だとわかった。春だったらそれはそれは見事な桜の花を咲かすことだろう。今は緑が眩しく揺れている。
「立派だな。こんな大きな桜みたことない。春はさぞかし見事だろうな」
俺は一人呟いた。するとざっと山の上から落ちて来た強い風が葉を揺すり、陽を受けていた葉が風に煽られ乱反射のように細かい光を辺り一面にちりばめ輝かせた。
白い、雪のような満開の光。
『ああ。ほら。やっぱり満開の季節はこんなにも見事なんだ』
俺は心で唱えた言葉が声となって独り事を呟きでもしたのか、その音は少しくぐもって聞こえた。
「誰だおまえ」
は? 誰だと言うお前は誰だ?
俺の感慨に耽った美しい思いをぶち壊す、ぞんざいな下からの呼びかけに俺は足元を見た。
「おまえは誰だ?」
「そういう君は、誰かな?」
俺はどこからやってきたのか5歳ぐらいのがきんちょに名を尋ねていた。
「おまえに名乗る名は無い。おまえ、どうやって入ってきた?」
なんだと?
「どうやってもこうやっても……」
「……さては、おまえ。不審者と言うやつか」
「いや、ちが……」
俺が否定するより先に、がきんちょは全力で家のほうへと駆けていた。
待って! 全力で否定させて! 全否定です! 俺は不審者などではない!!
何より、人の話は最後まで聞け!!!
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