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しおりを挟む「ああ! そうでした! 梅のお菓子、梅のお菓子ありますか? それを買って来いってアイツがね」
「ありますよ。……もし良かったら召し上がっていきませんか。ちょうど冷たく冷えた頃です。お腹、空いていらっしゃるんじゃないですか?」
そう言われて、現金この上ない俺の腹にいる虫は盛大に鳴き声を上げた。
「……」
「こちらにどうぞ」
店員は虫の声にちょっと驚いたように動きを止め、そして静かに笑みを浮かべながら俺を店の奥へと案内してくれた。俺は汗が噴き出すような感覚に襲われながら、その後を「恐縮です」とかなんとか言いながらついて行った。
静かな廊下を抜けて、角を曲がるとやわらかい光の入る縁側が見えてきた。外にはあの桜が見える。そこには、フクロウがうずくまるように座布団の上に鎮座したおばあさんがこっくりこっくりと絶妙なバランスで居眠りしているようだった。その近くから俺の気配を察知してか、小動物的動きでサッと奥の部屋へと逃げ込む何かを見た。逃げ込んだ小動物は障子の隙間からこちらをうかがっている。
がきんちょ……。
「こちらでお待ち下さい。今、お持ちしますね。……しゅうちゃんも一緒にお菓子食べる?」
俺に座布団を用意してくれた人は、こっそりとのぞいてるがきんちょに声をかけた。
「……」
俺と声をかけた人とを交互に見やる気配がする。
「さくら、そいつ不審者だぞ……変なあたましてるぞ」
だから俺は不審者じゃねーっつーの。そして変な頭もしてない! 断じてな!
そう喉から出そうになったが、案内してくれた人の手前、俺は微笑みで耐えた。
……さくら……さくらさんって言うのか……。
俺はがきんちょが呼んだ名前を反芻してこのきれいな人にぴったりの名前だと……!!!!! ついさきほど自分がテンパって口に出した言葉を思い出し、ますますテンパり始めた。顔から火が出そうとはまさにこのことだ。
「大丈夫ですよ、しゅうちゃん。お客様ですから」
さくらさんは俺の心境などお構いなしに「すみません。もう長いこと……お客様は久し振りなものですから」とすまなそうに言った。
「いいいいいえ! いえ! 全然! お気になさらず! ほんと、俺の言葉はそのっ お気になさらず。ええええ。あれは、そのですね……」
「さくら、そいつなんか変だぞ」
「これ、しゅうちゃん。お客様にむかってそんなことを言ってはいけませんよ」
がきんちょ。たしかにお前の言うとおりだ。俺は今、変だ。
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