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なかば強引に引きずられるようにして、俺は少年と川を離れ山の中を暫く歩いた。獣道でしかないような、足場が良いとはとても言えない道なき道を、少年は軽快に草木を分けて歩いていく。俺は、ここは自分の庭だとでもいいたげなその背中に、ただただくっついて歩いていた。風に乗り緑の中に響く、大小さまざまなものものたちの最期の囁き声を聞きながら。
ああ、腹が減ったな。
深く息をすれば、近くの声など一息に飲み込めてしまいそうなほど、俺は空腹を感じていた。だが、この時間この場所に思い残すことがなく、力の限り生きたのなら、俺の中に留まるべきじゃない。早く循環の流れへ身を委ね、新たな始まりを迎えるべきだろう、そう思って俺は小さく息を吐いた。
「もう少しだから頑張れよ。ほら、あそこだから」
振り返った少年は、俺が疲れて溜息をついたとでも思ったのか、少し先に見える小屋を指差した。俺は応えるように、頷いた。
「ばあちゃん。帰ったよ」
小屋の戸を開けながら、少年は中へと声を掛けた。
「客、ほら、この前話した奴、連れてきたんだ。腹空かせてるからさ、飯、一緒に食べようと思って。魚、今日も沢山獲れたんだよ」
小屋の奥からは「おやおや。お客さん、連れてきたんかい」と老婆の声が聴こえた。
「うん。ばあちゃんも傷、心配してたろ。もう足は大丈夫みたいなんだけど。相変わらず、声はでねぇんだって」
中へ入った少年は竹で編んだ魚籠を土間へと置いて「入れよ。遠慮すんな」と俺に声を掛けた。俺は心の中で『お邪魔します……』と言い、首を傾け俺には少し低い入口の戸をくぐり、恐らく家主であろう人間に、突然お邪魔してしまった一礼をと頭を下げた。
「……頭、上げてください」
やや間があって返って来た老婆の言葉に俺は頭を上げた。だがその目の前には、老婆の姿はなく。
「ああ……なんとまあ……やはり、貴方様でしたか」
年老いた狐が目を細めて俺を見ていた。
ああ、腹が減ったな。
深く息をすれば、近くの声など一息に飲み込めてしまいそうなほど、俺は空腹を感じていた。だが、この時間この場所に思い残すことがなく、力の限り生きたのなら、俺の中に留まるべきじゃない。早く循環の流れへ身を委ね、新たな始まりを迎えるべきだろう、そう思って俺は小さく息を吐いた。
「もう少しだから頑張れよ。ほら、あそこだから」
振り返った少年は、俺が疲れて溜息をついたとでも思ったのか、少し先に見える小屋を指差した。俺は応えるように、頷いた。
「ばあちゃん。帰ったよ」
小屋の戸を開けながら、少年は中へと声を掛けた。
「客、ほら、この前話した奴、連れてきたんだ。腹空かせてるからさ、飯、一緒に食べようと思って。魚、今日も沢山獲れたんだよ」
小屋の奥からは「おやおや。お客さん、連れてきたんかい」と老婆の声が聴こえた。
「うん。ばあちゃんも傷、心配してたろ。もう足は大丈夫みたいなんだけど。相変わらず、声はでねぇんだって」
中へ入った少年は竹で編んだ魚籠を土間へと置いて「入れよ。遠慮すんな」と俺に声を掛けた。俺は心の中で『お邪魔します……』と言い、首を傾け俺には少し低い入口の戸をくぐり、恐らく家主であろう人間に、突然お邪魔してしまった一礼をと頭を下げた。
「……頭、上げてください」
やや間があって返って来た老婆の言葉に俺は頭を上げた。だがその目の前には、老婆の姿はなく。
「ああ……なんとまあ……やはり、貴方様でしたか」
年老いた狐が目を細めて俺を見ていた。
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