魔王が転生して来た

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1章 1

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 何処の世界にでも一人は居るだろうごく普通の魔王。
 それが俺だ。
 レベルをMAXにしてやってくる勇者達にフルボッコにされる。
 それが俺の役目。
 あー、本当に魔王って疲れるし、ヤラレるだけの人生。
 退屈だ。

「魔王様、勇者達が乗り込んで来ました! お、お逃げ下さい!」

 やられかけた手下がヨロヨロよやってくる。

「面白い。相手をしてやろう」

 フハハハーと、高笑いする俺。
 どうせ他のセリフ言えないし。
 てか、逃げられないし。
 魔王に選択肢とかないから。

 魔王が現れた。戦うor逃げる。
 その選択肢は勇者にしかない。
 今日の勇者は自信満々で戦うを選択した。
 それはそうだ。
 この勇者は何だか知らないがやたら俺がお気に入りらしい。
 いやストーリーが好きなのか。
 もう30週はしているだろう。
 やり込みすぎだ。
 武器もモンスター図鑑もコンプしている。
 もう見てないエンド無いですよ貴方。
 もしかして隠しとか居ると思ってます?
 居ませんよ。
 だってコレ、凄いシンプルなストーリーだよ。
 5週もしたら皆飽きるやつ。
 だって最近、お前しか来ないから。
 もう飽きて皆遊んでないよ。

「クッ、強い。お前の勝ちだ」

 俺は倒れる。
 きっと画面には勇者を称える文字とか出てるんだろうなぁ。

 いつからだろう。
 俺自身がゲームのキャラだと気づいたのは。
 毎回倒され、たまに無謀な奴を倒す等して、気づけばまた同じ場面の繰り返し。

「魔王様、勇者達が乗り込んで来ました! お、お逃げ下さい!」

 と、手下に言われるのだ。
 気が遠くなる。
 もう、同じ名前の奴しか来なくなったけどな。
 勇者チンポって奴だ。
 名前もう少しどうにか出来なかったのか。
 適当過ぎる。
 
 俺のセリフと言えば「やるな貴様の名前を聞いてやろう」「チンポか良い名だ」である。
 何処が良い名なんだ。クソ。
 チンポ言わすな自我が芽生えてしまってから恥ずかしいんだぞ!
 
「チンポ。ああ、良いぞ。ハァ、楽しいぞチンポ。俺は最高に興奮している」

 とか、言わなきゃいけないんだぞ。
 消えてぇ。

「ああ、いい攻めだチンポ。君は本当に強い。俺はチンポとヤり合う事が至福」

 とかも言わなきゃいけないんだぞ!
 勿論、このヤり合うは殺り合うである。
 ゲームの作者が変換ミスか意図的なのか知らんが、やらかしてくれた。
 本当に最悪なんだ。
 何でゲームのキャラである魔王の俺に自我なんて芽生えちゃったかなぁ。
 結構古いゲームだしな。
 俺も付喪神的な何かになっているのか。
 だったら光栄だけども。
 もうチンポしが会いに来ない。たまに知らない人も来るけど殆ど終わったコンテンツの付喪神辛い。

 そんな毎日を送っていた俺であるが、いよいよやる人が居なくなったとかで、サービスが停止する事になった。
 最後の一週間は別な動きが出来る様になった。

 エンディングで全キャラと手を繋いでランランランと笑顔で踊るのだ。
 そして「また何処かで会おうな!」と手を振って消えるのである。

 長かった俺の魔王としての仕事もようやく終わりだ。
 毎回フルボッコされるのが仕事だったけど、終わると思うと感慨深かった。
 最後に手を繋いで踊ったのはチンポだった。

「チンポ! また何処かで会おうな!」

 と、手を振った。


 気づくと自分は真っ白い空間に居た。
 何処からか声が聞こえる。
 
『魔王よ、よく頑張ったな。褒美に異世界へ転生させてやろう』

 とか、聞こえてくる。
 何の話だ。

「誰だ。異世界へ転生って何だ?」

 疑問を口にする。

『私は神、みたいなもの』
「胡散臭いな」
『では、さらばだ』
「おい。異世界へ転生の説明は無いのか」

 声が聞こえなくなったと思うと、白い世界が暗転した。

「おい! 君! 大丈夫ですか!? おい!!」

 大きな声に目を開けた。

「車の前に飛び出さないで下さい馬鹿野郎ですね。人生に疲れているんですか?」
「は? え? う??」

 目の前に知らない男が。
 肩を抱きとめられている。
 貴方は誰だ。
 そして、何だその服は。
 どんな装備だ。
 多分、防御力はゼロだ。

「大丈夫ですか? 自宅まで送りましょうか? 家、わかります? 警察に届けた方が良さそうですかね?」

 見知らぬ男は困惑した様子だ。
 勇者? では無さそうだよな。
 インプットされている会話では無いし。
 そもそも配信は終了されているし、俺は消えた筈……

「あの? お名前は言えますか? 警察って言うか、病院行きます?」
「……此処は何処だ?」
「え!? あの、記憶喪失!? 車、ぶつけて無いんですけど、何処か痛いです? 病院行きましょう。車乗って下さい!」

 見知らぬ男はとても親切だ。
 だが、車ってなんだ?
 辺りを見渡すと、何かよく解らない物が行き来している。
 モンスターか?
 いや、よく見ると操縦しているのは人間だ。
 これがこの世界の装備と言う事か。
 しかし、イチイチ脱がなければならないらしい。
 何故、直ぐに防御力ゼロの格好になるのだろう。
 危機感が無いのかこの男は。
 大丈夫なのか?
 それにしても、風景を見るに全く見知らぬ世界に来てしまったらしい。
 これが異世界へ転生したという事か?
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