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今日は南がマンションまで顔を出してくれている。
「もし、俺が此処を出たいと言ったらどんな所に行く事になるんだ?」
「家を出たいと思っているんですか?」
「いつまでも高瀬におんぶに抱っこと言うのは良くないんだろ?」
「そうですね…… ここを出るとなると公営団地に部屋を借りて住むとかになると思いますよ。市役所に相談して決める事になります」
「転生者は皆そうしているのか?」
「そうですねぇ……」
南は歯切れが悪い。
「そこに行けば転生者の仲間とも会えるんだろうか」
公営団地という場所に行けば、話の合う奴も居るのだろうか。
マオは若干、ホームシックになっていた。
元の世界よりも、こっちの世界の方が好きだ。
高瀬も居るし、南も山下も怖がらずに話し相手になってくれる。
それは嬉しいのだが……
何もかもが違いすぎて、過酷だった我が世界の事も恋しくなってしまう。
此方の世界では出来ない話だってしてみたい。
主に『貴方はどんな世界から? へー、楽しそう!』みたいな話しとかだ。
フルボッコにされるだけの世界だったが、それも懐かしい。
俺の住まいは薄暗くて埃臭い、常に雲の中に有るような空気の薄い寒くて寂しい部屋だったが、そんな部屋でも俺の部屋。
いつも危険を知らせに来るだけのあの部下や、召使い、野菜達も今となっては恋しいものだ。
どんなに嫌なものでも、もう二度と会えないと思うと悲しい。
「マオさん、ハッキリ言いますが、マオさんのソレは妄想で作り上げた世界です。この世界に転生者等は居ません」
「えっ……?」
南は重そうに口を開いた。
なんて?
「マオさんはきっと物凄いショックを受けて記憶喪失になってしまったんでしょう。高瀬がマオさんの家族や知り合いを探していますが、手掛かりはまだ有りませんし、こうも長くなってしまうと記憶の方も戻らないかも知れません。マオさんが思い出したく無い記憶を無理に思い出す必要は無いのですが、魔王だった記憶は無かった事にした方が良いです。何方にせよ、貴方は向こうの世界には戻れない。この世界で生きるしか無いのですから」
言い聞かせる様にマオの手を取って優しく説明してくれる南。
「俺は本当に…… え? ちょっと待ってくれ。話がよく解らなかった。だって……」
マオは頭が回らない。
南は本当に解る言語で話していたか? と、言うぐらい理解出来なかった。
「伝えた方が良いか解らなかったのですが、このままではいつになっても貴方は此方の世界に慣れません。転生者かどうかは置いておいて、此方の世界で生きていくならば忘れて下さい」
南は力強くマオの手を握ってくれていた。
「南も、山下も、高瀬も、俺の話を信じて無いと言う事か?」
嘘つき扱いされていたんだろうか。
ショックを受ける。
「違います。信じていますよ。ただ、転生者なんて居ないんですこの世界には、貴方がもし本当に転生者だとしても、この世界で生きていくならば忘れなければならないと言う事です」
慌てて否定する南。
眉間に皺を寄せていた。
「転生者は居ないのか? 本当に?」
「居ません」
「かぐや姫は?」
「あれは物語です。史実では有りません」
「そうか…… じゃあ、俺がおかしいのか……」
だってそうだ。
俺の世界でも転生者なんて居なかった。
似たようのは居たけど、ゲームの世界だからな。
勇者の中身は別の世界の人だった。
でも急に何処からか見ず知らずの奴が現れて『自分は転生者だ』なんて名乗る奴は居なかった。
そんな奴が居たら間違いなくバグが発生していると思うだろう。
そうか、俺はバグだったんだ。
シュンと、落ち込むマオ。
「そうじゃありません。マオさんはおかしく無いですよ。マオさんが正常だから自己防衛本能が働いたんです。マオさんをマオさん自身が守っているんです」
南はマオの肩を掴む。
慰めてくれているようだ。
「だが、転生者なんて居ないんだろ? と、言う事は、高瀬も山下も変な奴だと思いながら俺の相手をしてくれていたんだな」
マオはもう頭が真っ白だったり真っ黒だったりしている。
「そんな事は無いと思いますけどね。特に高瀬はそんか事思ってませんよ。マオさんが転生者だろうと何だろうと大事に思っている筈です」
「……解った」
これ以上、南と話していても南からは慰めの言葉しか出てこなさそうだし、マオも頭が回らくて話を聞いていられない。
「ちょっと、頭が痛くなった」
「すみません。急にこんな話をしてしまって……」
「いや、南は俺を思って話してくれたんだよな。有り難う。でも、ちょっと疲れたみたいだ。昼寝してくる」
もう15時になる。
南ももうそろそろ帰る時刻だろう。
マオは南に手を振ると、心ここにあらずと言う感じで寝室に入った。
南は寝室に入るマオを心配そうに見送る。
やはり、話すのが早すぎたと思った。
ただマオはしっかりしている。
もう一般常識は完璧に身に着けた。
勉強だって出来る。
それなのに、記憶の方は全く戻らず、ずっと自分を転生者だと思っているのだ。
想像を絶する程の心の傷が有って、過去を思い出したく無いのなら無理に思い出す必要は無いが、ずっと自分が転生者だと思い続けては日常生活に困るだろう。
捜索願いもいつまで経っても出ないあたりを見れば、天涯孤独の身なのかも知れない。
高瀬はずっとマオの面倒を見る心積もりだ。
ならばマオが住みやすく日常生活を過ごせるようになって欲しかった。
しかし、やはりショックは大きいだろうと南は思う。
だが、いつかは伝えなければならない事だった。
いつまでも自分を魔王の転生者だと思い続けていては生活に支障が出てしまう。
だから真実を伝えなればならなかった。
高瀬に今日は早く帰ってくるように言ってこおこう。
南は高瀬にメッセージを送っておく。
寝室に入ってしまったマオの事は心配だったが、高瀬も午後から仕事に戻らなければならない。
ソッと、高瀬のマンションを後にするのだった。
「もし、俺が此処を出たいと言ったらどんな所に行く事になるんだ?」
「家を出たいと思っているんですか?」
「いつまでも高瀬におんぶに抱っこと言うのは良くないんだろ?」
「そうですね…… ここを出るとなると公営団地に部屋を借りて住むとかになると思いますよ。市役所に相談して決める事になります」
「転生者は皆そうしているのか?」
「そうですねぇ……」
南は歯切れが悪い。
「そこに行けば転生者の仲間とも会えるんだろうか」
公営団地という場所に行けば、話の合う奴も居るのだろうか。
マオは若干、ホームシックになっていた。
元の世界よりも、こっちの世界の方が好きだ。
高瀬も居るし、南も山下も怖がらずに話し相手になってくれる。
それは嬉しいのだが……
何もかもが違いすぎて、過酷だった我が世界の事も恋しくなってしまう。
此方の世界では出来ない話だってしてみたい。
主に『貴方はどんな世界から? へー、楽しそう!』みたいな話しとかだ。
フルボッコにされるだけの世界だったが、それも懐かしい。
俺の住まいは薄暗くて埃臭い、常に雲の中に有るような空気の薄い寒くて寂しい部屋だったが、そんな部屋でも俺の部屋。
いつも危険を知らせに来るだけのあの部下や、召使い、野菜達も今となっては恋しいものだ。
どんなに嫌なものでも、もう二度と会えないと思うと悲しい。
「マオさん、ハッキリ言いますが、マオさんのソレは妄想で作り上げた世界です。この世界に転生者等は居ません」
「えっ……?」
南は重そうに口を開いた。
なんて?
「マオさんはきっと物凄いショックを受けて記憶喪失になってしまったんでしょう。高瀬がマオさんの家族や知り合いを探していますが、手掛かりはまだ有りませんし、こうも長くなってしまうと記憶の方も戻らないかも知れません。マオさんが思い出したく無い記憶を無理に思い出す必要は無いのですが、魔王だった記憶は無かった事にした方が良いです。何方にせよ、貴方は向こうの世界には戻れない。この世界で生きるしか無いのですから」
言い聞かせる様にマオの手を取って優しく説明してくれる南。
「俺は本当に…… え? ちょっと待ってくれ。話がよく解らなかった。だって……」
マオは頭が回らない。
南は本当に解る言語で話していたか? と、言うぐらい理解出来なかった。
「伝えた方が良いか解らなかったのですが、このままではいつになっても貴方は此方の世界に慣れません。転生者かどうかは置いておいて、此方の世界で生きていくならば忘れて下さい」
南は力強くマオの手を握ってくれていた。
「南も、山下も、高瀬も、俺の話を信じて無いと言う事か?」
嘘つき扱いされていたんだろうか。
ショックを受ける。
「違います。信じていますよ。ただ、転生者なんて居ないんですこの世界には、貴方がもし本当に転生者だとしても、この世界で生きていくならば忘れなければならないと言う事です」
慌てて否定する南。
眉間に皺を寄せていた。
「転生者は居ないのか? 本当に?」
「居ません」
「かぐや姫は?」
「あれは物語です。史実では有りません」
「そうか…… じゃあ、俺がおかしいのか……」
だってそうだ。
俺の世界でも転生者なんて居なかった。
似たようのは居たけど、ゲームの世界だからな。
勇者の中身は別の世界の人だった。
でも急に何処からか見ず知らずの奴が現れて『自分は転生者だ』なんて名乗る奴は居なかった。
そんな奴が居たら間違いなくバグが発生していると思うだろう。
そうか、俺はバグだったんだ。
シュンと、落ち込むマオ。
「そうじゃありません。マオさんはおかしく無いですよ。マオさんが正常だから自己防衛本能が働いたんです。マオさんをマオさん自身が守っているんです」
南はマオの肩を掴む。
慰めてくれているようだ。
「だが、転生者なんて居ないんだろ? と、言う事は、高瀬も山下も変な奴だと思いながら俺の相手をしてくれていたんだな」
マオはもう頭が真っ白だったり真っ黒だったりしている。
「そんな事は無いと思いますけどね。特に高瀬はそんか事思ってませんよ。マオさんが転生者だろうと何だろうと大事に思っている筈です」
「……解った」
これ以上、南と話していても南からは慰めの言葉しか出てこなさそうだし、マオも頭が回らくて話を聞いていられない。
「ちょっと、頭が痛くなった」
「すみません。急にこんな話をしてしまって……」
「いや、南は俺を思って話してくれたんだよな。有り難う。でも、ちょっと疲れたみたいだ。昼寝してくる」
もう15時になる。
南ももうそろそろ帰る時刻だろう。
マオは南に手を振ると、心ここにあらずと言う感じで寝室に入った。
南は寝室に入るマオを心配そうに見送る。
やはり、話すのが早すぎたと思った。
ただマオはしっかりしている。
もう一般常識は完璧に身に着けた。
勉強だって出来る。
それなのに、記憶の方は全く戻らず、ずっと自分を転生者だと思っているのだ。
想像を絶する程の心の傷が有って、過去を思い出したく無いのなら無理に思い出す必要は無いが、ずっと自分が転生者だと思い続けては日常生活に困るだろう。
捜索願いもいつまで経っても出ないあたりを見れば、天涯孤独の身なのかも知れない。
高瀬はずっとマオの面倒を見る心積もりだ。
ならばマオが住みやすく日常生活を過ごせるようになって欲しかった。
しかし、やはりショックは大きいだろうと南は思う。
だが、いつかは伝えなければならない事だった。
いつまでも自分を魔王の転生者だと思い続けていては生活に支障が出てしまう。
だから真実を伝えなればならなかった。
高瀬に今日は早く帰ってくるように言ってこおこう。
南は高瀬にメッセージを送っておく。
寝室に入ってしまったマオの事は心配だったが、高瀬も午後から仕事に戻らなければならない。
ソッと、高瀬のマンションを後にするのだった。
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