(完結)魔王と従者

甘塩ます☆

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2話

 瞬きをするその一瞬に、目を開けば別の場所であった。

「我が城へようこそ俺の花嫁。ここがお前の部屋だ」

 跪き、裏柳の手の甲へとキスをする漆黒。

「用があったら呼べ」

 漆黒はそれだけ言うと姿を消してしまう。
 黒の王国は未知の国であるが、王は瞬間移動まで出きるらしい。

 直ぐドアに駆け寄りノブを捻るが、外から鍵が掛けられていてびくともしなかった。
 窓には鉄格子、完全に監禁状態だと裏柳は認識した。
 部屋にある物と言えば、白いカーテンが綺麗な天蓋付きの豪華なベッドと、本棚だけである。
 トイレとかどうしたら良いのだろう。
 そもそも呼ぶにはどうしたら良いのだ。
 裏柳はただただ困惑していた。
 ああ、まるで悪い悪夢。
 目が覚めたら白亜の我が儘に振り回されるいつもの自分に戻っていたら良いのに。
 裏柳は溜め息混じりにベッドに横になるしかなかった。
 他に何もないし、出きる事もない。
 もう寝てしまう他無さそうだ。



 カァカァ

「そう怒らないでくれ」

 裏柳を置いて出てきた漆黒を非難する様に回りをぐるぐる飛び回るのは、ペットの烏だ。
 この城は白の王国の城とはうってかわり、霧深き森のなかにひっそりと立つ古城である。
 黒の王国は闇に支配された小国だ。
 魔物や獣、怪物が溢れる。呪われた王国。 
 国をバリアで囲い、獣と魔物を閉じ込めるのが黒の国王たる漆黒の勤めであった。
 それでも閉じ込めきれない魔物が時おり表の王国を襲う。
 そのせいで誤解を受けているのは知っていた。
 周囲の国を恐怖させてしまっている。
 表では己が魔物をけしかけていると思われている事であろう。
 まだ物分かりの良い知能を持った魔物は漆黒が支配し、従者としていられる。
 しかし知能を持たない奴らは支配しきれないのだ。
 漆黒は頭を抱えるしかない。
 こんな国に彼を連れてくるのでは無かったのだと思う。
 それでも欲しかったのだ。
 なのに、己を見て怯えられるのが怖い。
 漆黒は深い溜め息をつきつつ、仕事に専念するしかなかった。
 青の王国は魔法が得意で有るためにまだ大丈夫だし、赤も武力で何とかする。
 緑も頭脳で解決出来る。
 だが如何せん、白の王国は弱いので目をかけなければならない。
 力の弱まってる場所を補強したり、しもべの魔物を護りに向かわせたりと、漆黒は気が休まらない日々だ。
 これが自分の運命。
 黒の国王として生まれた自分の勤めであると解っている。
 でも、そろそろ限界だ。
 魔力の補強が必要だった。
 世継ぎも産まなければ。
 いや、世継ぎはまだ良いにしても、魔力の補強は急がなければならない問題だった。
 自分の護りが切れてしまったら、世界が滅びる。
 一番最初に落ちるのは間違いなく白の王国だ。
 裏柳を悲しませたく無かった。
 今一番悲しませているであろう己が何を、という話であるが……
  


 目を開いた裏柳は体を起こす。
 ふかふかで寝心地の良いベッドは己の部屋の物では無く、窓を見れば鉄格子。
 やはり夢では無かったか。
 淡い期待は脆くも崩れさる。
 裏柳はベッドから降りて窓の外を眺めた。
 星どころか月あかりさえ無い。
 暗闇しか。
 何だかを心細さを覚えた。

「起きたか。夕食だ」
「うわ!」

 急に後ろから声を掛けられ、驚く。
 魔王が立っていた。

「急に後ろに立つな! ビックリする」

 思わず苦情を言ってしまう裏柳。

「慣れろ。来い」
「いちいち抱き抱えるな!」

 軽々と抱き抱えられ、暴れる裏柳。

「暴れるな。落とす」
 
 漆黒は有無を言わさず、食堂へと連れて行くのであった。


 食卓は魑魅魍魎だらけだ。

「ほぉ、その方が我が王の花嫁ですか」
「なんだかパッとしませんな。本当にΩですか?」
「子供を産めそうに見えませんが……」

 虎やら羊やら、ワニの様な見た目のおぞましい魔物が食卓に座った王の腕のなかを見て声を上げる。

「黙れ。我が花嫁が怖がっているだろ」

 そう睨みをきかせる漆黒。
 魔物達はビックリと肩を震わせ、静になった。

「花嫁よ、説明しよう。そこの虎は俺の護衛だ。羊は執事でな、ワニはコックだ。あとこの烏は俺のペット」
「そうか。うん…… 取り敢えず花嫁って呼ぶのはやめろ」

 大きな者に囲まれてしまい、飯を食う気にはなれない裏柳。
 説明されても頭に入らない。
 唯一の和みは魔王のペットの烏だろうか。
 烏は普通の烏の様だった。

「姫と呼べば良いのか? 妃か?」
「名前で呼べば良いだろ。裏柳だ」

 姫とか妃とか、虫酸が走る。
 そもそも一応はΩだが、女では何のに姫も妃も呼び方としてどうなのかと常々思う裏柳だ。

「俺は漆黒だ」
「うん……」

 何でこんな所で自己紹介なんだ。
 なんか変な感じでだ。
 変に律儀な魔王である。

「料理が口に合わないのか? ワニ、お前解雇」
「えええーー 理不尽ですよ」 

 食事が進まない様子の裏柳に、コックのワニを睨む漆黒。
 ワニが泣きそうである。

「お、美味しいぞ。美味しい」

 自分が食べないとワニが解雇されてしまう。
 それは可哀想だと、裏柳は頑張って食べる事にした。
 悪いのはワニの料理の腕では無い。
 見た目が怖すぎる連中に囲まれてるせいであるのだが……
 食べてみれば普通に美味しく。
 食欲も戻ってくる。

「そうか良かった」
「私も良かったですよ」 

 フッと笑う漆黒に、首の皮が繋がったワニもホッとするのだった。

「所で式の日取りはいつになさるおつもりですか?」

 羊が口を開く。

「挙げなければいけないのか?」

 漆黒は乗り気では無さそうだ。

「皆楽しみにしていますし、お妃様の御披露目も必要でしょう」
「……じゃあ明日だな」
「「「明日!!!??」」」

 少し考えてから口を開いた漆黒に、虎と羊とワニの声が被る。 
 裏柳も驚いた。
 明日!?

「駄目か? じゃあ、今から」
「明日にしましょう」

 首を傾げる漆黒に慌てる羊。
 今からなんて、とても無理である。

「直ぐにフラミンゴを呼びますね」

 羊は急いで食卓を離れると、何処かへ行ってしまった。

「フラミンゴは洋服を作ってくれるんだ。センスが良い。俺の服もフラミンゴが作ってるんだ」
「はぁ……」

 まさか羽で作っているのだろうか。

 取り敢えずワニの為にも食事を完食する事だけを考える事にしよう。
 裏柳は若干、現実逃避をはじめていた。

 なんか、明日、俺は結婚式を挙げられるらしい。
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