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 しばらく涙が止まらず、月さんと雪那さんが必死に慰めてくれたのだが、正気に戻ってくると恥ずかしくて顔を上げられない。
 すごく情緒不安定だった。
 しばらく雪月花のSNS見るのやめよう。
 あれもエゴサといえばエゴサだったかもしれない。
 視野が狭まって自分へのヘイトしか目に入らないなんて。
 本当は精神衛生上良くなかった。
 自分の中にもまだ腑に落ちていなかったのかもしれない。
 憧れの二人と肩を並べるのは烏滸がましいと思えて仕方なかった。
 雪月が好きで推し過ぎたから自分へのヘイトにも同感してしまい、気づいたら自分自身が自分をヘイトしていた。
 雪月花は雪那と月と花蓮の三人組なんだだって言うのも自分の中で受け入れられていなかったのかもしれない。
 やっぱり月さんの言うに、俺は俺自身が花蓮を拒絶してしまっていたのだ。
 無意識の内に。 
 そして、その気持ちがだんだんと大きくなってしまっていた。
 それに気づけて良かった。
 二人にも本当は申し訳ない。
 せっかく俺を望んで仲間に引き入れてくれたのに。
 ずっと不義理をしていたなんて。

「タマ、落ち着いた? お水飲める?」
「有難うございます」

 たくさん泣いてしまったので、脱水症状を心配されたのかもしれない。
 受け取った水は少し塩っぱい。

「月は強引過ぎるよな。さっきの指切りは無効だぞ」
「ごめんね。ほんの冗談だよ。タマを和ませたかったんだよ」

 なんか、勝手に同棲する流れで泣いちゃったと思われているみたいだ。
 
「それは良いんです」

 それはまた別の話しにして欲しい。
 頭がいっぱいいっぱいなんだ今。

「え!? 一緒に住んでくれるの!?」
「いや、そうではなく……」

 だからそれは別の話!

「月は黙ってろ」

 雪那さんが月さんを黙らせてくれた。

「そうだ。俺、提案があるんです」
「急に何!?」

 ハッと、顔を上げる俺に驚く月さん。

「雪月花の三人組としての提案なら喜んで聞くけどな」

 雪那さんはもう落ち着いてソファーに腰掛けていた。

「もう一人、どなたか誘って四人組にすると言うのは?」
「本当に唐突だね。どうしたの?」

 唐突な提案に、首を傾げる月さん。
 でも表情が嫌そうだ。

「何で四人組にしたいんだ?」
「俺へのヘイトを少しでも減らせるんでは無いかと……」
「その話は終わったんじゃなかったか?」

 雪那さんも嫌そうだ。
 なんならちょっと機嫌をそこねた。

「だいたい、誰か誘いたい人でも居るの?」

 月さんは嫌そうだが、話を聞いてくれる気はある。

「いえ…… お二人の方には?」
「居たらもう誘ってるよ」
「俺が居たバンド同好会のリーダーは?」
「誰だっけ?」

 月さんは雪那さんを見る。

「花蓮が居た掃き溜めな。あそこのリーダー1度対バンで一緒になったぐらいで、別に知り合いじゃねぇよ。しつこいから一度顔出してやっただけ」
「思い出した! あれはすごい掃き溜めに鶴だったね」

 雪那さんの言葉に、頷く月さん。
 酷い言われようだ。
 鶴は誰なんだ。

「その掃き溜めに居た鶴さんはどうしたんですか?」
「もちろん口説き落した」
「すごいじゃないですか! で、その鶴さんは今?」
「すごいのはタマの鈍感さだよな」

 雪那さんと月さんで目を合わせて頷いている。

「あ、でも鶴さんなんですよね。じゃあ雪月花から花鳥風月に改名できるのは!?」 
「雪那も風那に改名しなきゃだよ」
「そもそも鶴さんは花蓮なんだけどな。泥中の蓮と言えば良かったな」
「俺!?」

 そんな、鶴だなんて。
 
「二人とも俺を褒めすぎです!」

 嬉しいけど、二人からの評価が何故か高すぎて恥ずかしい。

「本当の事だから仕方ない。兎に角、俺ら花蓮以外に欲しい人居ないから。そもそも、気難しい月に合わせられんの俺とタマくらいなもんだ」
「そうだよ! 自由人過ぎて訳わかんない雪那に合わせられるのは僕とタマだけだよ」

 ガシッと、手を握られた。
 もしかして口説き落しているのは現在進行系なのか。
 もう十分です。
 口説き落されてます。

「解りました解りました。三人で雪月花です」

 俺が折れる形になる。

「雪月花になって二年目でやっと理解してくれたよ」
「長かったな」

 月さんと雪那さんが染み染みと頷く。

「本当にごめんなさい……」

 やっぱり、少なからず二人を傷付けてしまい、罪悪感がすごい。
 二年間も理解出来てなかったとは、また新たに黒歴史が俺の人生に刻まれたな。
 これから新しい白歴史を創ろう!

「三人で雪月花です!」

 もう一度、口にする。
 俺は今日、やっと本当に雪月花の一員になれたのかも知れない。
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