大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

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『……いたわ。二年生の候補。あの図書館のテラス席で、一つのマフィンを半分こしている二人。女の子の方は魔導具科、男の子の方は……あら、弓術科ね。二人とも心臓の音がバクバク鳴ってて、とっても「新鮮」よ!』

 精霊の弾んだ声に従い、ユナは双眼鏡を片手に窓の外を指差した。 

「二組目、発見です。二年生の魔導具科の令嬢と、弓術科の令息……。教授、彼らの身元を」

「……ふむ、どちらも名門の出だが、家柄の折り合いが悪くて周囲には隠しているカップルのようだね」

 教授が手元の学生名簿をめくりながら、手際よくメモを取る。

「無事に二年生と三年生のカップルが見つかってよかった……」

 教授はホッとした様子だが、ユナの心は休まらない。

「三年生は卒業まであと一年近く、二年生はもっと長く。その間、彼らに『間違い』が起きないように……かつ、愛が冷めないように見守るなんて……」

 考えれば考えるほど果てしなく難しい課題に、ユナが音を上げそうになった時、それまで黙っていたエルが怪しく瞳を光らせて一歩前に出た。

「ユナ、心配しなくていい。彼らが卒業前に一線を越えようとしたら、僕の『氷結魔法』で物理的に冷却してあげよう。愛の炎が燃え上がりすぎないようにね」

「……エル様、それはさすがに嫌がらせです。私たちがやるべきなのは、彼らが『清い関係』のまま最高潮の感情で卒業式を迎えられるよう、障害を取り除き、かつ適度な距離を保たせることです!」

「ならば、リサを彼らの監視に付けよう」

 ヴィクトールが冷淡に付け加える。

「彼女なら、夜這いや密会を察知して未然に防ぐのは得意だろう。……リサ、二組のカップルの『純潔』を二十四時間体制で守護せよ。必要なら実力行使も厭わん」

「リサは私のメイドです。勝手に命令しないでください」

 ヴィクトールといえど、自分のメイドを私物化されるのは面白くない。ユナは即座に抗議した。しかし、ヴィクトールの返答は冷酷だった。

「リサは元々、僕がエルの誕生日に貸し出したメイドだよ。今は君のメイドかもしれないが、僕は『貸し出した』だけなんだ。僕に不都合があればいつでもリサを返してもらう。そういう契約だよ。……わかっているね、リサ?」

 リサには(拒絶するなら手元に戻す)と、圧をかけ、同時にユナに対しては(リサの生殺与奪は自分が握っている)と知らしめるような言い回し。
 ユナはそんな経緯は知らなかった。不安な目をリサに向ける。背後に彼女がいない生活など、もはや考えられない。そんな彼女の動揺を見透かすように、ヴィクトールは薄く笑った。

「ヴィクトール様、承知いたしました。お嬢様もご安心を。不純な異性交遊は、この私が根絶いたします」

 背後でリサがシュンッとナイフを抜き、ユナは「違う、そうじゃないの!」と頭を抱えた。




 翌日から、ターゲットにされた二組のカップルは、正体不明の「過剰な守護」にさらされることになった。
 三年生カップルが放課後、人目のない温室でいい雰囲気になり、男子生徒が女子生徒の肩に手を回そうとした瞬間――。
 どこからともなく飛んできたトランプカードが、二人の指先の間に突き刺さった。

「な、なんだ!? 誰だ!」

「……見ているぞ」

 天井の梁の上から、リサの冷徹な声が響く。

「成人前の不純な接触は、風紀を乱します。離れなさい」

「ひっ!? 」

 トランプカードを乱れ打ちされ、怯えて飛び退くカップル。彼らにとって、それはロマンチックな密会から一転、ホラー体験へと変わった。

 一方、二年生の「訳ありカップル」が、家同士の反対に遭って落ち込んでいる時には、ヴィクトールが権力で無理やり両親にサインさせた『王家の署名入り激励状(ただし「卒業式まで手を出さないこと」という一筆書き付き)』が届けられた。

 一組だけでは心許ないと、ユナ自身も精霊のリモート指示を受けながら学園内を奔走していた。

「精霊様、あちらのカップルはどうですか?」

『うーん、あの子たちはダメね。去年、図書室の裏で済ませちゃったわ。私の肥やしにはなったけどね。わざわざ連れて来なくて良いわ』

 精霊の言葉に、ユナは顔を引きつらせる。(学生でそんな事しちゃうなんて! 本当に風紀取締委が必要なんじゃないの!)そんな事を考えながら教授に振り返る。

「教授、次は一年生から『将来有望な純潔予備軍』を探しましょう。入学したての初心な子たちを、三年間かけて大事に育てるんです」 

「ユナさん、君はだんだん農場主のような顔つきになってきたね」

 教授の苦笑いをスルーし、ユナは血眼になって学園の中庭を見渡す。
 一番大事なのは聖樹を助ける事だが、エルのヤンデレ発作を止める為にも、この任務は遂行しなければならない。他ならぬ自分の身がかかっているのだ。

『あ、ユナ! 今、噴水の前でぶつかった一年生同士! 運命の出会いの音がしたわ! あの子たちを「キープ」しておいて!』 

「了解です! 教授、一年生ペアをロックオン!」

 こうして、学園内に「恋をすると、どこからともなく監視と妨害(と、妙な応援)が入る」という奇妙な都市伝説が広まり始めるのだった。
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