1 / 17
1
しおりを挟む「エルイース・エルラント、貴殿は本日をもって、辺境伯の爵位継承の権利ならびに辺境伯家の有する領土、および屋敷を始めとする財産の一切を剥奪されるものとする!」
「そうか、分かった」
自信満々と言う感じで壇上から大仰に言い放った婚約者でもあるユリウス・ビスコンティ子爵は、私があっさり了承したのを聞いてズッコケた。
「な!なんだと!バカか貴様!爵位と財産の剥奪だぞ!は・く・だ・つ!貴族の令女から唯(ただ)の庶民へのまさかの転落劇だぞ!そこは『キー!くやしー!』とか何とか言うところだろうが!平然と受け入れるな!」
「そんな事を言われてもな、お前の差金とは言え、国王陛下の命令だ。受け入れるしかないだろう」
私は頭を振って答えた。
この突然の無茶苦茶とも言える剥奪命令は、エルイースの目の前にいる、婚約者のユリウス・ビスコンティが企んだことだったのは明白だ。
ユリウスは、名門ビスコンティ家の一人息子で、金髪に緑色の瞳で、いかにも貴族の子息といった見た目で騙される人は多いが、中身はクズのヘタレだと言うことは、幼い頃からの付き合いで私は充分知っている。
彼の家は、前々からエルラント家の領地を狙って婚約までしていたのだが、ここにきて結婚まで待てずに奪いにきたようだ。
きっと叔父である、宰相のブレマン侯爵に働きかけ、この無茶な命令を国王に了承させたのだろう。
国王の母親の兄にあたるブレマン侯爵は、まだ年若く病弱な国王の後見人として、イクリツィア王国の政治を掌握しているので、その気になれば貴族の娘一人飛ばすくらいはできる。
「それとも激高して暴れればよかったのか。この距離ならば、お前の首一つ圧し折るのは秒で出来るぞ」
さすがの私も腹が立ったので、ピシャリと言ってやる。
今いるこの場は、王宮内にある広間、ユリウスは、本来なら国王や諸侯を集めた大勢の前でエルイースの爵位の剥奪を宣言したかったらしいが、病弱な国王は欠席、重臣達も茶番に付き合う暇はないらしく、皆欠席で、百人は入る大広間は、ユリウスとエルイースの他は、ユリウス子飼いの貴族の若者数人が居るだけでなんともさびしい状況だった。
王宮内なので、入る際に愛用の剣(つるぎ)は衛兵に預けてしまって手元に無いが、剣などなくとも衛兵が駆けつける前にヘタレのユリウス一人を倒すくらいなら、辺境で魔物を切りまくっているエルイースには簡単なことだった。
「な!な!な!なんて女だ!おい!ザイーン!!」
エルイースの言葉にビビってしまったユリウスは、自分の腹心を呼んだ。
「お呼びですか、ユリウス様」
いつの間に部屋に入ったのか、即座に現れたユリウスの側近であるザインは、褐色の肌を持つ黒髪の遠い異国から来た男で、噂では暗殺術を得意としていると言う。噂ではなく本当に暗殺術は得意だとエルイースは本人から聞いているのだが、やってきたザインもエルイース同様剣を携えてない。
が、彼のことだ、体のどこかに暗器を隠しているのは間違いない。
「こ、ここここの女はよりにもよって剥奪が気に入らないから俺の首をへし折るとか言ってるぞ!俺を守れ!」
「へし折るとは言っていない、へし折るのは簡単だぞと言っただけだ」
「そういうのを脅迫って言うんだよ!力のあるヤツがそういう事言っちゃ駄目だろうが!」
「ユリウス様、ご安心下さい。エルイース殿が驚かないようにあらかじめ剥奪について伝えておきましたので」
ザインがあっさりと言った。
「お前かよ!エルイースに漏らしたのお前なのかよ!台無しじゃないか!もー!」
ユリウスはその場で地団駄をふんだ。
ユリウスにとっては聴衆(ギャラリー)は減ったとはいえ、昔から頭の上がらない婚約者相手にやっとザマァできるはずだったのに、エルイースがショックを受けなければ意味がないのだ。
「いや、ザインに伝えてもらって助かったぞ、おかげで心の整理はつけられてバカな考えは捨てることはできたさらな」
「それは良かった。エルイース殿に急にこんな事を伝えて、もしユリウス様を人質にとっての命令の撤回を要求されては厄介だと思ったので」
「おいおい…、二人共なに物騒(ぶっそう)な話をしているんだ!ここは王宮!王宮なんだぞ。そんな事したらエルイース、お前反乱軍だぞ」
「父から受け継いだ領地と爵位が無くなるんだ、それくらいやってもいいかとちょっとは思ったが、まあ、いい。ユリウス、話が終わったなら私はもう行くぞ」
聞くことは聞いたと、さっさと私が退出しようとするのを見て、慌てたユリウスは手を出して止めに入った。
「ええい!待て!エルイース!こっちが本命だ!そういう事でお前との婚約は、破棄!だ!破棄!どうだ!」
とうとう言ってやったと胸そらしてユリウスはドヤ顔をした。
「そうか、婚約破棄を了承したぞ。では失礼する」
爵位と領地の剥奪に比べればなんてことはない内容だが、ユリウスは何故かドヤ顔だ。
まあ私としても依存はない。
婚約者でなくなったからにはもうこれ以上ユリウスのアホの茶番に付き合う暇はないだろう。
これから忙しくなるので、私は後ろ姿のまま手を振ってこの場を退出した。
「は?おい、エルイース!婚約破棄だぞ!まだお前には言いたい事が…、子供の頃からの恨みつらみ…!おい!待て!聞いていけーー!」
広間にはポツンとユリウスが残されたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
姉の忘れ形見を育てたいだけなのに、公爵閣下の執着が重いんですが!?~まっすぐ突き進み系令嬢の公爵家再建計画
及川えり
ファンタジー
突然届いた双子の姉からの手紙。
【これをあなたが読んでいるころにはわたしはもう死んでいることでしょう。わたしのことは探さないでね。双子を引き取ってもらえないかしら?】
姉の遺言通り双子を育てようと姉の嫁ぎ先へと突入する。
双子を顧みなかったという元夫のウィルバート公爵に何とか双子を引き取れるよう掛け合うが、話の流れからそのまま公爵家に滞在して双子を育てる羽目に。
だが、この公爵家、何かおかしい?
異常に気付いたハンナは公爵家に巣くう膿をとりのぞくべく、奮闘しはじめる。
一方ハンナを最初は適当にあしらっていたウィルバートだったが、ハンナの魅力に気付き始め……。
ハンナ・キャロライン・バーディナ 22歳
バーディナ伯爵家令嬢
✖️
ウィルバート・アドルファス・キングスフォード 26歳
キングスフォード公爵
ブックマーク登録、いいね❤️、エール📣たくさんいただきありがとうございます。
とても励みになります。
感想もいただけたら嬉しいです。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。
再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。
妻を一途に想い続ける夫と、
その想いを一ミリも知らない妻。
――攻防戦の幕が、いま上がる。
婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです
鍛高譚
恋愛
内容紹介
「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」
王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。
婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。
「かしこまりました」
――正直、本当に辞めたかったので。
これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し……
すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。
そしてその瞬間――
王宮が止まった。
料理人が動かない。
書類が処理されない。
伝令がいない。
ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。
さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。
噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。
そしてついに――
教会・貴族・王家が下した決断は、
「王太子廃嫡」
そして。
「レティシア、女王即位」
婚約破棄して宰相をクビにした結果、
王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――?
これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの
完全自業自得ざまぁ物語。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる