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しおりを挟む「エルイース・エルラント、貴殿は本日をもって、辺境伯の爵位継承の権利ならびに辺境伯家の有する領土、および屋敷を始めとする財産の一切を剥奪されるものとする!」
「そうか、分かった」
自信満々と言う感じで壇上から大仰に言い放った婚約者でもあるユリウス・ビスコンティ子爵は、私があっさり了承したのを聞いてズッコケた。
「な!なんだと!バカか貴様!爵位と財産の剥奪だぞ!は・く・だ・つ!貴族の令女から唯(ただ)の庶民へのまさかの転落劇だぞ!そこは『キー!くやしー!』とか何とか言うところだろうが!平然と受け入れるな!」
「そんな事を言われてもな、お前の差金とは言え、国王陛下の命令だ。受け入れるしかないだろう」
私は頭を振って答えた。
この突然の無茶苦茶とも言える剥奪命令は、エルイースの目の前にいる、婚約者のユリウス・ビスコンティが企んだことだったのは明白だ。
ユリウスは、名門ビスコンティ家の一人息子で、金髪に緑色の瞳で、いかにも貴族の子息といった見た目で騙される人は多いが、中身はクズのヘタレだと言うことは、幼い頃からの付き合いで私は充分知っている。
彼の家は、前々からエルラント家の領地を狙って婚約までしていたのだが、ここにきて結婚まで待てずに奪いにきたようだ。
きっと叔父である、宰相のブレマン侯爵に働きかけ、この無茶な命令を国王に了承させたのだろう。
国王の母親の兄にあたるブレマン侯爵は、まだ年若く病弱な国王の後見人として、イクリツィア王国の政治を掌握しているので、その気になれば貴族の娘一人飛ばすくらいはできる。
「それとも激高して暴れればよかったのか。この距離ならば、お前の首一つ圧し折るのは秒で出来るぞ」
さすがの私も腹が立ったので、ピシャリと言ってやる。
今いるこの場は、王宮内にある広間、ユリウスは、本来なら国王や諸侯を集めた大勢の前でエルイースの爵位の剥奪を宣言したかったらしいが、病弱な国王は欠席、重臣達も茶番に付き合う暇はないらしく、皆欠席で、百人は入る大広間は、ユリウスとエルイースの他は、ユリウス子飼いの貴族の若者数人が居るだけでなんともさびしい状況だった。
王宮内なので、入る際に愛用の剣(つるぎ)は衛兵に預けてしまって手元に無いが、剣などなくとも衛兵が駆けつける前にヘタレのユリウス一人を倒すくらいなら、辺境で魔物を切りまくっているエルイースには簡単なことだった。
「な!な!な!なんて女だ!おい!ザイーン!!」
エルイースの言葉にビビってしまったユリウスは、自分の腹心を呼んだ。
「お呼びですか、ユリウス様」
いつの間に部屋に入ったのか、即座に現れたユリウスの側近であるザインは、褐色の肌を持つ黒髪の遠い異国から来た男で、噂では暗殺術を得意としていると言う。噂ではなく本当に暗殺術は得意だとエルイースは本人から聞いているのだが、やってきたザインもエルイース同様剣を携えてない。
が、彼のことだ、体のどこかに暗器を隠しているのは間違いない。
「こ、ここここの女はよりにもよって剥奪が気に入らないから俺の首をへし折るとか言ってるぞ!俺を守れ!」
「へし折るとは言っていない、へし折るのは簡単だぞと言っただけだ」
「そういうのを脅迫って言うんだよ!力のあるヤツがそういう事言っちゃ駄目だろうが!」
「ユリウス様、ご安心下さい。エルイース殿が驚かないようにあらかじめ剥奪について伝えておきましたので」
ザインがあっさりと言った。
「お前かよ!エルイースに漏らしたのお前なのかよ!台無しじゃないか!もー!」
ユリウスはその場で地団駄をふんだ。
ユリウスにとっては聴衆(ギャラリー)は減ったとはいえ、昔から頭の上がらない婚約者相手にやっとザマァできるはずだったのに、エルイースがショックを受けなければ意味がないのだ。
「いや、ザインに伝えてもらって助かったぞ、おかげで心の整理はつけられてバカな考えは捨てることはできたさらな」
「それは良かった。エルイース殿に急にこんな事を伝えて、もしユリウス様を人質にとっての命令の撤回を要求されては厄介だと思ったので」
「おいおい…、二人共なに物騒(ぶっそう)な話をしているんだ!ここは王宮!王宮なんだぞ。そんな事したらエルイース、お前反乱軍だぞ」
「父から受け継いだ領地と爵位が無くなるんだ、それくらいやってもいいかとちょっとは思ったが、まあ、いい。ユリウス、話が終わったなら私はもう行くぞ」
聞くことは聞いたと、さっさと私が退出しようとするのを見て、慌てたユリウスは手を出して止めに入った。
「ええい!待て!エルイース!こっちが本命だ!そういう事でお前との婚約は、破棄!だ!破棄!どうだ!」
とうとう言ってやったと胸そらしてユリウスはドヤ顔をした。
「そうか、婚約破棄を了承したぞ。では失礼する」
爵位と領地の剥奪に比べればなんてことはない内容だが、ユリウスは何故かドヤ顔だ。
まあ私としても依存はない。
婚約者でなくなったからにはもうこれ以上ユリウスのアホの茶番に付き合う暇はないだろう。
これから忙しくなるので、私は後ろ姿のまま手を振ってこの場を退出した。
「は?おい、エルイース!婚約破棄だぞ!まだお前には言いたい事が…、子供の頃からの恨みつらみ…!おい!待て!聞いていけーー!」
広間にはポツンとユリウスが残されたのだった。
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