辺境令嬢は追放されても気にしない

オイモ

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王都にある乗り合い馬車の停留所からは、イクリツィアの各地へ馬車が出ている。

まずはオルドア近郊にある街道沿いの街、ケレシュに向かう馬車をエルイースは探した。

「お嬢さんついてるよ、ケレシュ行きの乗り合い馬車は調度出る所だ」

「それはよかった。そのケレシュにはいつ頃着きそうだろうか」

「そうだねぇ、何事もなければ、明後日には着くだろうね」

「そうか…」

ケレシュまで行くのに、利用者も多い馬車を使うのが手っ取り早いかと思ったが、思っていたより時間がかかるようだ。

エルイースがやってきた王都の停留所は賑わっていて、友人同士なのか、二、三人連れの若い女性の姿が多くいるようだ。

つい昨日までなら、私がこういった場所に通りがかると、"白き乙女"に気付いた女性達から黄色い声が上がっりしたが、白銀の鎧を脱いだ地味な格好だと、誰も私が"白き乙女"だと気付かないらしい。

「"白き乙女“というのは、鎧が本体だったようだな」

少し寂しいような気もするが、気は楽だ。
この注目されない状況を私は楽しんでいた。

時間のかかる馬車以外の移動手段となると、他に早馬を借りながら行くという手もあるが、私は悩んだ末に、手元にある金を確認した。剣と鎧を買っても残りはまだまだある。 

「これなら足りそうだ」

そのまま私は街の外れの方へ向かった。


☆☆☆


「よし、どうどう、少し速度を落として良いぞ」

私は乗った馬の手綱を引いた。
もう少しでケレシュの街が見えてくる。王都を出て一日半、思っていたより早く着きそうだ。

「やっぱり馬を買って正解だったな」

街外れの牧場で馬を買ったのは良かったが、長旅に耐えれそうないい馬を選んだので、一気に2万リールは飛んでしまった。

まだまだあるとはいえ、質屋に無理やり押し付けられた金をこれ以上使うのは心苦しい。

あまり使わないようにするため、昨日は、節約も兼ねて野宿をしてしまった。魔物との戦いで野営は慣れているが、たった一人での野宿と言うものは中々新鮮だった。

「アイザックにマントをもらっておいて正解だな。これ一つあれば布団にも枕にもあって便利なものだ」

思っていた以上に野宿というのは体が冷えるものだとエルイースはやってみて始めて知った。

部下たちが張ってくれたテントで野営をするのとはわけが違う。

「落ち着いたらアイザックに礼の手紙でも出さなければ、なかなか手触りも良い物だし…、いや代わりの品でも贈った方がいいのかな」

アイザックが聞いたら泣いて喜びそうな話だが、いまは街道の上はエルイース一人だけだ。

徐々にケレシュの街が見えてくると、街道を行く商人や住人と、すれ違うようになってくる。やがてケレシュの門が見えて来た。
ここまで来たら隣国オルドアまでは目と鼻の先だ。


私はケレシュの街に入ると、目についた一軒の宿屋兼食堂に馬をつないだ。

昼食にはまだ早いが、昨晩は買っておいた干し肉をかじっただけだったのでなにか温かい物が食べたかったのだ。

「いらっしゃい、なんにします?」

私が席に座ると、恰幅のいい女将さんがすぐ注文を聞きに来た。

「そうだな、パンを一つと、温かいスープを頼む」

「あいよ」

料理を注文すると、しばらくして、湯気の立ったスープと黒いパンが運ばれてきた。
口をつけてみると…美味い、私は夢中になって食べ進め、たちまち完食してしまった。

店内はまだ昼前なので客はまばらだったので、女将さんに質問してみる。

「すまないが、国境を越えてオルドアの最初の町までどれくらいかかるだろうか」

「そうだねぇ、一番近い町までなら半日って所かねぇ」

「ふむ」

半日か、なら今から行けば日暮れ前には着けそうだ。

「もしかしてお嬢ちゃんまさか一人で行くつもりかい?止めときなって!最近国境近くで野盗が出るって話だよ!」

女将さんが青い顔をして言った。

「野盗か。だが大丈夫、辺境で魔物相手に鳴らした私だ。野盗になどは遅れはとらせない」

今まで、人よりも何倍も強い力を持つ魔物を切り捨ててきたのだ。
一人とはいえ、野盗程度には負けるつもりはない。

「ええ?あんたみたいな若い娘さんが?言われてみりゃなんだか強そうだけど…、でも一人じゃ危ないよ、せめて他の人と一緒に行ったらどうだい」

心配する女将はしきりに引き止めてくれたが、オルドアに早く行きたい私は、ケレシュの町を出て、街道を進んで行った。

しばらく行くと、人家もまばらになって荒野に差し掛かり、大陸を包む霧も濃くなってきた。足元の街道の石畳も徐々に荒れていくようだ。


クレイウス帝国を始め、イクリツィア、オルドアといった六国があるこの大陸では、人が住める場所以外は濃い霧に包まれ、その霧の中からは人に害をなす魔物達が湧いて尽きることはない。

人々は、霧を避け、その中から現れる魔物に怯えながら暮らしている。

その大陸を縦断するのが、古(いにしえ)の英雄達が切り開いたこの街道で、ここ上は魔物達が襲ってくることはなく、人間達が安全に往来できる唯一の道だ。

他にも霧の濃度の薄い場所を通る道がまばらにあるが、そちらは魔物と出くわす危険があるので、行き交う人は少ない。

ボルコフ卿の領地へは、この街道沿いではなければもう少し短い距離で行けるのだが、腕に自信があるとはいえたった一人で抜けるのは危険だ。

「しかし道が荒れているな…。国と領主にはこの街道を維持する義務があるはずなんだが、ここの領主は何をしているんだ」

足元に見える道の荒れ具合に、私はつい顔をしかめた。

これでは魔物を退ける街道の力も弱まってしまうだろう。

街道の周りはすっかり霧に囲まれていて、昼というのに薄暗くなる。
この街道から少しでも外れれば、血に飢えた魔物に出会ってしまうことは間違いない。

荒れた道を進み、もうそろそろオルドアの国境にさし掛かろうという所で、前方に異変が見えた。

何が起こったのかと、よく目を凝らしてみると、一台の馬車が襲われているようだ。
魔物ではない、だとすれば

「野盗か!」

こんな昼間から出るのか、私は馬を走らせた。

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