7 / 17
7
しおりを挟む王都にある乗り合い馬車の停留所からは、イクリツィアの各地へ馬車が出ている。
まずはオルドア近郊にある街道沿いの街、ケレシュに向かう馬車をエルイースは探した。
「お嬢さんついてるよ、ケレシュ行きの乗り合い馬車は調度出る所だ」
「それはよかった。そのケレシュにはいつ頃着きそうだろうか」
「そうだねぇ、何事もなければ、明後日には着くだろうね」
「そうか…」
ケレシュまで行くのに、利用者も多い馬車を使うのが手っ取り早いかと思ったが、思っていたより時間がかかるようだ。
エルイースがやってきた王都の停留所は賑わっていて、友人同士なのか、二、三人連れの若い女性の姿が多くいるようだ。
つい昨日までなら、私がこういった場所に通りがかると、"白き乙女"に気付いた女性達から黄色い声が上がっりしたが、白銀の鎧を脱いだ地味な格好だと、誰も私が"白き乙女"だと気付かないらしい。
「"白き乙女“というのは、鎧が本体だったようだな」
少し寂しいような気もするが、気は楽だ。
この注目されない状況を私は楽しんでいた。
時間のかかる馬車以外の移動手段となると、他に早馬を借りながら行くという手もあるが、私は悩んだ末に、手元にある金を確認した。剣と鎧を買っても残りはまだまだある。
「これなら足りそうだ」
そのまま私は街の外れの方へ向かった。
☆☆☆
「よし、どうどう、少し速度を落として良いぞ」
私は乗った馬の手綱を引いた。
もう少しでケレシュの街が見えてくる。王都を出て一日半、思っていたより早く着きそうだ。
「やっぱり馬を買って正解だったな」
街外れの牧場で馬を買ったのは良かったが、長旅に耐えれそうないい馬を選んだので、一気に2万リールは飛んでしまった。
まだまだあるとはいえ、質屋に無理やり押し付けられた金をこれ以上使うのは心苦しい。
あまり使わないようにするため、昨日は、節約も兼ねて野宿をしてしまった。魔物との戦いで野営は慣れているが、たった一人での野宿と言うものは中々新鮮だった。
「アイザックにマントをもらっておいて正解だな。これ一つあれば布団にも枕にもあって便利なものだ」
思っていた以上に野宿というのは体が冷えるものだとエルイースはやってみて始めて知った。
部下たちが張ってくれたテントで野営をするのとはわけが違う。
「落ち着いたらアイザックに礼の手紙でも出さなければ、なかなか手触りも良い物だし…、いや代わりの品でも贈った方がいいのかな」
アイザックが聞いたら泣いて喜びそうな話だが、いまは街道の上はエルイース一人だけだ。
徐々にケレシュの街が見えてくると、街道を行く商人や住人と、すれ違うようになってくる。やがてケレシュの門が見えて来た。
ここまで来たら隣国オルドアまでは目と鼻の先だ。
私はケレシュの街に入ると、目についた一軒の宿屋兼食堂に馬をつないだ。
昼食にはまだ早いが、昨晩は買っておいた干し肉をかじっただけだったのでなにか温かい物が食べたかったのだ。
「いらっしゃい、なんにします?」
私が席に座ると、恰幅のいい女将さんがすぐ注文を聞きに来た。
「そうだな、パンを一つと、温かいスープを頼む」
「あいよ」
料理を注文すると、しばらくして、湯気の立ったスープと黒いパンが運ばれてきた。
口をつけてみると…美味い、私は夢中になって食べ進め、たちまち完食してしまった。
店内はまだ昼前なので客はまばらだったので、女将さんに質問してみる。
「すまないが、国境を越えてオルドアの最初の町までどれくらいかかるだろうか」
「そうだねぇ、一番近い町までなら半日って所かねぇ」
「ふむ」
半日か、なら今から行けば日暮れ前には着けそうだ。
「もしかしてお嬢ちゃんまさか一人で行くつもりかい?止めときなって!最近国境近くで野盗が出るって話だよ!」
女将さんが青い顔をして言った。
「野盗か。だが大丈夫、辺境で魔物相手に鳴らした私だ。野盗になどは遅れはとらせない」
今まで、人よりも何倍も強い力を持つ魔物を切り捨ててきたのだ。
一人とはいえ、野盗程度には負けるつもりはない。
「ええ?あんたみたいな若い娘さんが?言われてみりゃなんだか強そうだけど…、でも一人じゃ危ないよ、せめて他の人と一緒に行ったらどうだい」
心配する女将はしきりに引き止めてくれたが、オルドアに早く行きたい私は、ケレシュの町を出て、街道を進んで行った。
しばらく行くと、人家もまばらになって荒野に差し掛かり、大陸を包む霧も濃くなってきた。足元の街道の石畳も徐々に荒れていくようだ。
クレイウス帝国を始め、イクリツィア、オルドアといった六国があるこの大陸では、人が住める場所以外は濃い霧に包まれ、その霧の中からは人に害をなす魔物達が湧いて尽きることはない。
人々は、霧を避け、その中から現れる魔物に怯えながら暮らしている。
その大陸を縦断するのが、古(いにしえ)の英雄達が切り開いたこの街道で、ここ上は魔物達が襲ってくることはなく、人間達が安全に往来できる唯一の道だ。
他にも霧の濃度の薄い場所を通る道がまばらにあるが、そちらは魔物と出くわす危険があるので、行き交う人は少ない。
ボルコフ卿の領地へは、この街道沿いではなければもう少し短い距離で行けるのだが、腕に自信があるとはいえたった一人で抜けるのは危険だ。
「しかし道が荒れているな…。国と領主にはこの街道を維持する義務があるはずなんだが、ここの領主は何をしているんだ」
足元に見える道の荒れ具合に、私はつい顔をしかめた。
これでは魔物を退ける街道の力も弱まってしまうだろう。
街道の周りはすっかり霧に囲まれていて、昼というのに薄暗くなる。
この街道から少しでも外れれば、血に飢えた魔物に出会ってしまうことは間違いない。
荒れた道を進み、もうそろそろオルドアの国境にさし掛かろうという所で、前方に異変が見えた。
何が起こったのかと、よく目を凝らしてみると、一台の馬車が襲われているようだ。
魔物ではない、だとすれば
「野盗か!」
こんな昼間から出るのか、私は馬を走らせた。
0
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした
まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」
王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。
大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。
おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。
ワシの怒りに火がついた。
ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。
乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!!
※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる