わたしは美味しいご飯が食べたいだけなのだっ!~調味料のない世界でサバイバル!無いなら私が作ります!聖女?勇者?ナニソレオイシイノ?~

野田 藤

文字の大きさ
35 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

32 人は欲深いので…

しおりを挟む

「ケイ様ー!次っ、丸い亀食べたあい」

 ポールの呼び掛けで三人の元へと行く。
 だから、亀じゃないって。

 出来たてのカンパーニュ、これは手で割けないので普通にスライス。でかいので半分にしてから薄く切り、クリームチーズと蜂蜜を用意。

「んんっ、これは食パンと違って硬いけど柔らかい!そしてちょっと酸味があるけど美味しいです!」
「酸味とレーズンが合いますです!」
「わあ!クリームチーズと蜂蜜のせたらもっと美味しいよお!」

 そう、カンパーニュはすこし酸味が後味に残るそういうパンだ。材料も、最低限なので天然酵母と小麦粉の味がダイレクトに伝わる。そしてハードパンとしては食べやすく、サンドウィッチなどにとても向いてる。シンプルにマヨネーズとハムもおいしいけど、今回は朝なのでクリームチーズと蜂蜜をのせた。

 フィリング入りはよくあるぶどうパン。生地の酸味とフィリングの甘酸っぱい味が合うと思う。そのままヤックは食べてるけど、これはトーストした方がおいしいだろう。

「ケイ様?何を……」
「スライスしたのをもう一度焼くとね……おいしいよ……」
「焼いたのに、また焼くのか!!」 
「固くなっちゃうよお!?」

 信じられない!との言葉またいただきましたー。異世界人のすること何でもかんでも信じられない!ってするのやめろ。文化が違うの!
 こっちの食べ物にはそれにあった調理法があるんだよ!

 全員から止められたけど絶対おいしいからって言って、食パンも一緒にトーストする。
 バターも用意して、焼きたてのパンに塗って食べさせたら四人ともトーストした方が好きだって。ほらねー??

「トースト、というのですか?さらに焼いたらサクサクとふわふわで……これはまた美味しいです」
「バターがしみてサクッとじゅわっとで……パンがしっとりして、美味しすぎなのです……」
「ぶどうパンも、焼くと干しぶどうの甘さが増して何もつけなくてもおいしいぃ!」

 みんな、トーストしたパンの虜となりました。

「すげえな……今までパンってこんなもんだって作ってたけど、ちゃんとやると違うのわかったし、本当に俺がこれを作ったんだなあ」 

 ダンは自分の手で新しいものを生み出した実感を噛み締めてる。

「そうだよ?これからはダンが中心となって作って行ってね!任せたよ!」
「……おう、任せとけ!」

 こうして、突発的に始まったパン作りは終わったのだけど。
 この後に騎士達にバイキングスタイルで出したところ、まあ、もう、出しては捌ける、を繰り返しオーブンはフル稼働、なんとか切らせずに出せたのだけどこの調子で食べられたら天然酵母二日も持たない!

 ……となったので、ふわふわパンはしばらくは朝のみになりました。

 安定供給出来るようになるまで、きっとそうかからないだろうけどね。


**************


「パンといったらジャムなんだよね……」

 朝のパン作り戦争が終わり、トーストと目玉焼きとサラダという至って普通の朝食を食べているわたし。
 いやあ、よく改善させたよね、ここまで。
 今はもう見る影もない塩だけの献立。
 あの頃にはもう戻れないし戻りたくない。
 それは騎士達も、そしてルーを始め見習い組も同じなのである。
 一度聞いたら、無言の笑みで答えられたのでちょっと怖かった。

「ジャム、ですか。……このフルーツバターだけでは駄目なのですか?」

 ルーが指さすのは私が作ったフルーツバター。
 せっかくおいしいドライフルーツが沢山あるのだから、と思ってラム酒(と、思われるもの)と適当に選んだドライフルーツを一晩漬け込んだものを作って、バターを混ぜて固めたのだ。

 そしてこれがまたワインやブランデーなどと言った酒にピッタリなおつまみとしてプチ流行。甘党の騎士達はこれをつまみにして呑むのが日課だと言ってる人もいる。

 パンにつけて食べたかっただけなんですけどね……。

「んー……それはそれで美味しい。だけど私はもっとパンに合うものを知っている……」
「異世界のパンに合うもの……それは興味ありますね」

 意味ありげに呟けば、ノリのいいルーが合わせてくれた。

「ところで、ジャムってーのはなんなんだ?」

 トーストを齧りながらダンが問いかける。
 今日も自分が作ったパンの味に満足そうに頷いている。ちなみにダンは何もつけない派。
 酵母と小麦粉の味を感じたいのだそう。

「新鮮な果物を砂糖と一緒に煮込んだ甘いもの……かな?」
「それってお菓子なのお?作りたいっ!」

 既に朝ごはんをすでに平らげたポールが、おかわり、というかデザート的にパンにフルーツバターをつけて食べながら、甘いものという単語にぱあっといい笑顔を向けてきます。
 ……本当に甘いもの好きだね。
 それでもそれ以上太らず今の体型を維持しているのは日頃の訓練の賜物なんだろうな。

「お菓子とは違うよ。ジャムを使ったお菓子はいっぱいあるから……お菓子の元、かなあ?」
「俄然やる気出てきたあ!」

 ふんすっと鼻息荒いポール。

「でも、果物がね……作れそうな果物はリンゴしかないから……作ったとしてもリンゴジャムかな?」
「そうなの?」

 正直、リンゴジャムでもいいんだけど……ちょっとリンゴに飽きた私がいる。
 散々お世話になってるリンゴに本当に申し訳ないけど。
 この世界にどんな果物があるか私にはよく分からない。ドライフルーツにされているのを見ればぶどうと柑橘類はあるっぽい。
 ……が!わたしの知ってる果物が果物じゃない時があるし、野菜が果物の時もあるし、ジャムに出来るのかすら分からない。
 ルーに聞くけど分からないものが多いのだ。
 こういう時に鑑定とかあればウハウハなのだけど生憎わたしにはそう言うチート能力は無い。あるのは今や宝の持ち腐れになりつつあるチート道具だけだ。

 早く旅に出たいんだけど、現状は難しい。

「あ、そういえば今日は行商人が来ますです。ケイ様も行ってみるのはどうです?」

 ヤックが思い出したようにぱんっと手を叩きながら言う。

「行商人……って?」
「月一で来られる方々なのですが、王宮の中庭でそれぞれが各地より選りすぐりの品々を持って、雑多な物を売り出す日なのです」

 言わば小さなバザーみたいなものか?
 中庭で、てことはそれなりに大きめなバザーと考えておこう。

「ヤック達は行くの?」
「んー……先月行ったので特に用事が無いですー」
「俺もパス。人混み苦手だし」
「ぼくもー」

 そうか、三人組は行かないか。
 ちらっと横のルーを見ると、 茶色の髪が揺れてこくり、と頷くのが見える。

「僕はケイ様について行きます」

 いつもありがとうございます!
 今日の訓練は行商人が来るのでほぼお休みとの事。自主練をする騎士はやる、という緩やかな日らしいので朝食後はやる事なし。
 晩ご飯を作る事も無いので今日はこれから一日フリーなのだ。

「あ、でも……王宮の中庭、か……」

 王宮……嫌な事を思い出してしまった。
 もしかしたらあの馬鹿王子が来る……?
 いや、王子は腐っても王子だから来るとしたらその取り巻きか……?

 色々と思案し、難色を示していると、ルーが私の背中をぽん、と叩く。

「大丈夫です、王宮は王宮の行商人が来ますので。中庭は僕らみたいな下の者向けですから」
 
 私の個人的理由もルーはわかっている。
 そうだよね、王宮の人が来るんだったら事前にルーがやんわり止めてるもんね!
 それに、ルーの話だと私を召喚した奴らは王宮外には滅多に出ないし身分も上でこちらに来ないから鉢合わせはないとの事。
 それならば、と急いで朝ごはんを食べる私をダンが呆れた顔で見ていたけど、欲求に素直な私は全く気にしなかった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしたいけど、なかなか難しいです。

kakuyuki
ファンタジー
交通事故で死んでしまった、三日月 桜(みかづき さくら)は、何故か異世界に行くことになる。 桜は、目立たず生きることを決意したが・・・ 初めての投稿なのでよろしくお願いします。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...