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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編
50 れっつごー!デイキャンプ!②
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「ケイ様、僕……前に魔族は怖いですか?って聞いた事あると思うんです」
ルーが、突然呟いた。
多分、言ってることは以前一緒にバザーを見に行った時の話だろう。
当然、覚えている。
「それがどうしたの?」
「ケイ様はあの時、大丈夫と言ってくれたけど……それは魔物を見た後も変わりませんか?」
不安そうに、声を震わせて問い掛ける。
私の顔を見れないのか、体操座りのように足をかかえて下を向いている。
魔物。
聞いただけであの牛のようにどデカいバックボアが私を追いかけてきた恐怖が蘇る。
だけどそれと魔族は関係ない……と思う。
「正直、魔族がどんなものか分からないから今はまだ怖くないかな?」
「魔物に襲われたのにですか?」
「んー?魔物と魔族って同じなの?違うでしょ?」
私の疑問に、ルーはガバッと顔を上げた。
信じられない、という顔をしてるので首を捻って反応する。
そんなに大袈裟な回答だったのだろうか。
「普通はっ、どちらも怖がるんですよ!」
珍しく、ルーが声を荒らげた。
驚いたけど、私はそのまま平然とした態度で言葉を放つ。
「そりゃ魔物は容赦なく攻撃してきたから怖かったけど、攻撃して来なければ私はスルーするし怖くないよ? それは魔族にも人間にも何事にも当てはまる事だから、種族は関係ないし、攻撃してくるのは自己防衛じゃないの?」
自分を攻撃してくるから自分を守るために攻撃する、というのは本能なんだから仕方ないこと。魔物だって生きているのだから攻撃してくる相手に攻撃するのは当たり前なのである。
この世は弱肉強食なのだ。特にこの世界は。
それを理解しているから、私は怖くてもそれとこれとは別という考えも持っているので、こうなるのだと思う。
攻撃しないなら、こちらもしないし逆もありきなのだ。矛盾しているけど、理解しているのとしてないとでは大違いなのではないだろうか
。これは生きとし生けるもの全ての自己防衛であって、生きる手段なので、私としては当たり前の感覚なんだけど。
……ルー達、レイスディティアの考えとは違うらしい。
ぽかーんと、私を見ている。
「ルー?」
「僕は、半魔族です」
ルーが固まってたのでほっぺをつんつんしていたら、呆然としながら打ち明けられた。
半魔族?……魔族と何かしらの種族のハーフってことかな?
確かに、ルーは年齢より見た目が幼い。15歳と聞いていたけど見た目だけで言うと小学校高学年みたいな……クラスでちょっと小さい方の男の子、という感じだ。
そして八重歯がチャームポイントだなあ、と思っていたんだけど、そうか、半魔族なら納得した。
「へー、そうなんだ?」
「……それだけですか?」
「え、それだけ……って、他に何を言えばいいの?」
ルーが言いたいことがさっぱりわからない。
欲している言葉が分からないので下手な事が言えない。
すると、ルーが突然泣き出した。
「えっ、えええ!?」
オロオロとする私に、ルーは申し訳なさそうにぐしぐしと袖で乱暴に目元を拭う。
痛々しい、その仕草に思わず手を引かせて辞めさせた。
「だめだよ、目が腫れちゃう」
「ケイ様はっ優しすぎます……っ!」
「何それ、私は責められてるの?何故?えー?」
泣きながら怒るルー。
癇癪を起こす子供になったので、ますますわからない。
「普通は、そう聞いたら離れるし遠巻きにしたりするし、差別するものなんですっ!なのに、どうして態度変わらないんですかあぁ!」
「えええええ!?」
ついには大泣きしてしまった。
何故、と言われても元の世界で例えるなら『実ハーフなんだ』って言われたようなものだから普通の感覚なんだけども。
そうか、レイスディティアだと種族問題がそのまま虐めや生き方を決める大事なものなのだな。私のような感覚は珍しいんだろうな。
私は大泣きするルーの柔らかな茶髪を撫でる。相変わらずトイプードルみたいな髪質だと思った。
「あのね、ルー?私はそんなことで差別しないし、態度が変わったりないよ?」
「……本当に?」
「うん。ルーは半魔族だからって私の事攻撃したり、食べたりしたいの?」
「そんなことしたくないです」
「でしょ? でも、私はむしろルーが人間食べなきゃお腹すいてどうしようもないよー!ってなったら血くらいはあげてもいいかなって思うよ。それくらい大事な人なんだよ」
そう言うとルーは泣き止んだ。……いや、びっくりして涙が止まった、のほうかな?
泣いたり泣き止んだり忙しいな。
「前にも言ったけど、私は私に攻撃してくる物が怖いだけでそこに種族は関係ないし、むしろルーが言いにくかった半魔族……だっけ?それも、私の居た元の世界感覚だと『そうなんだー』くらいのレベルだよ?」
まあ、魔族がどんなものか知らないからという理由もあるけれど、今のところその魔族とやらにアズール国がなにかされてる訳でないし、目の前の半魔族はさっきまでBLTサンドに夢中になってたただの可愛い弟のような存在なので、今のところ私の中では魔族は怖くない、だ。
もし仮に魔族が襲ってきて恐ろしいと感じても、同じように半魔族だからという理由でルーも恐ろしいと言う思いになるのか、と問われたら、答えはノー!!と大きく宣言できる。
だって、ルーが私にくれたものはあったいものだし、それが嘘なわけない。
魔族だって馬鹿じゃないんだから、話し合いでどうにかなるならそれでいいじゃん?……という平和な考えなのだけど。
良く知らないのに恐れるのはお門違いかなって、私は思う。
そう言う事を懇々と説明する。
固まってるルーは、私の言葉を理解するのに時間がかかるのか、じわじわと表情を歪ませると泣く前に私に抱き着いてきた。
「ほ、本当はっ!怖かった……怖かったんです!魔物に襲われたケイ様が、僕のこと、嫌いになるんじゃないかって!半魔族って知られたらきっと、捨てられる……って!」
涙混じりにルーは続ける。
「だから、絶対言わないって……思って……でも、ケイ様優しいからっ、だからぁ!」
そこまで言うと、嗚咽で咳き込んでしまったので慌てて背中をさすってやる。
それに安心したのか、抱きつく力が強くなる。
……あぁ、そうか。だからルーは討伐後も、足が治ってからも、ずっと私からくっついて離れなかったんだ。
きっと、私が魔物を怖がって魔族まで怖がると思って。そして自分がその魔族の血を半分引いてるなら、私に知られた時に嫌われてしまうんではないか、と。ずっとずっと、不安だったんだろう。
……そんな事、絶対ないのに。
「優しいとか、関係なく。私はルーがルーだから好きだし、種族とかなーんにも気にしてないよ。大丈夫だよ、だから泣かないで」
「ケイ様ぁ……っ!」
ルーはその後、自分の生い立ちをポソポソと話してくれた。
生まれて直ぐに本当の家族と生き別れて、両親は生きてるかわからず、今の家族に偶然拾われて育てられた、と。
人間にしか見えない見た目のおかげでやってこれたけど、10歳の時に自分の属性が闇属性と分かって周りから孤立し始めたらしい。
人より身体能力が高いのも、魔族だから……との理由。
「……そっか、だから騎士団に……?」
「はい。僕の異例の出世の秘密です……って言っても、皆さん知ってるんですけど……知ってました?僕、最近までひとりぼっちだったんです。嫌われ者なんです」
えへへ、と笑いながらルーは言うけど、それはとても辛かっただろう。
今としては信じられない事実だけれど、ルーが言うなら本当なんだろう。
三人組とも、きっと……。
でも、私は確信している事があった。
「あのさ、私が来る前もルーはお食事係で騎士団の皆はルーのご飯食べてたんでしょ?」
「……はい。でも、きっと嫌々で……」
「もしそうだったら普通食べなくない? 嫌ってたり恐れられてたら団長さんみたいに避けられるよ」
「……でも」
「みんな、元からルーのこと好きだから、だよ。でも知らないものは怖いし、どう扱えばいいか分からなかったから遠巻きなだけ何だってと思う。 だから、ルーは嫌われてない」
キッパリと言ってあげると、ルーは不安そうに、だけど嬉しそうに笑顔を見せた。
「ケイ様は、僕の光です」
「え」
「ケイ様が来てから、色々な事が変わりました。とても、いい方向に。だから、僕にとってケイ様はずっとずっとケイ様だし、聖女様なんです」
ライオネルにも、似たようなことを言われた気がする。
私ごときがそんな大層なものな訳がないんだけど、今は否定してはいけない気がしたから、返事はせずに笑っておいた。
ミッシェルが迎えに来るまで私たちは互いに本音を言い合いながら、時には笑ったり泣いたりして――主にルーが、だけど……――夕日を見ながら語り合った。
青春かよ、と思ってくすぐったかったけど、こういう時間をとってよかった。
そしてその日から、ルーは私に必要にひっついては来なくなった。
その変わり、吹っ切れたルーくんの魔法指導は容赦なくなったんだけどね、おーまいごっと!
ルーが、突然呟いた。
多分、言ってることは以前一緒にバザーを見に行った時の話だろう。
当然、覚えている。
「それがどうしたの?」
「ケイ様はあの時、大丈夫と言ってくれたけど……それは魔物を見た後も変わりませんか?」
不安そうに、声を震わせて問い掛ける。
私の顔を見れないのか、体操座りのように足をかかえて下を向いている。
魔物。
聞いただけであの牛のようにどデカいバックボアが私を追いかけてきた恐怖が蘇る。
だけどそれと魔族は関係ない……と思う。
「正直、魔族がどんなものか分からないから今はまだ怖くないかな?」
「魔物に襲われたのにですか?」
「んー?魔物と魔族って同じなの?違うでしょ?」
私の疑問に、ルーはガバッと顔を上げた。
信じられない、という顔をしてるので首を捻って反応する。
そんなに大袈裟な回答だったのだろうか。
「普通はっ、どちらも怖がるんですよ!」
珍しく、ルーが声を荒らげた。
驚いたけど、私はそのまま平然とした態度で言葉を放つ。
「そりゃ魔物は容赦なく攻撃してきたから怖かったけど、攻撃して来なければ私はスルーするし怖くないよ? それは魔族にも人間にも何事にも当てはまる事だから、種族は関係ないし、攻撃してくるのは自己防衛じゃないの?」
自分を攻撃してくるから自分を守るために攻撃する、というのは本能なんだから仕方ないこと。魔物だって生きているのだから攻撃してくる相手に攻撃するのは当たり前なのである。
この世は弱肉強食なのだ。特にこの世界は。
それを理解しているから、私は怖くてもそれとこれとは別という考えも持っているので、こうなるのだと思う。
攻撃しないなら、こちらもしないし逆もありきなのだ。矛盾しているけど、理解しているのとしてないとでは大違いなのではないだろうか
。これは生きとし生けるもの全ての自己防衛であって、生きる手段なので、私としては当たり前の感覚なんだけど。
……ルー達、レイスディティアの考えとは違うらしい。
ぽかーんと、私を見ている。
「ルー?」
「僕は、半魔族です」
ルーが固まってたのでほっぺをつんつんしていたら、呆然としながら打ち明けられた。
半魔族?……魔族と何かしらの種族のハーフってことかな?
確かに、ルーは年齢より見た目が幼い。15歳と聞いていたけど見た目だけで言うと小学校高学年みたいな……クラスでちょっと小さい方の男の子、という感じだ。
そして八重歯がチャームポイントだなあ、と思っていたんだけど、そうか、半魔族なら納得した。
「へー、そうなんだ?」
「……それだけですか?」
「え、それだけ……って、他に何を言えばいいの?」
ルーが言いたいことがさっぱりわからない。
欲している言葉が分からないので下手な事が言えない。
すると、ルーが突然泣き出した。
「えっ、えええ!?」
オロオロとする私に、ルーは申し訳なさそうにぐしぐしと袖で乱暴に目元を拭う。
痛々しい、その仕草に思わず手を引かせて辞めさせた。
「だめだよ、目が腫れちゃう」
「ケイ様はっ優しすぎます……っ!」
「何それ、私は責められてるの?何故?えー?」
泣きながら怒るルー。
癇癪を起こす子供になったので、ますますわからない。
「普通は、そう聞いたら離れるし遠巻きにしたりするし、差別するものなんですっ!なのに、どうして態度変わらないんですかあぁ!」
「えええええ!?」
ついには大泣きしてしまった。
何故、と言われても元の世界で例えるなら『実ハーフなんだ』って言われたようなものだから普通の感覚なんだけども。
そうか、レイスディティアだと種族問題がそのまま虐めや生き方を決める大事なものなのだな。私のような感覚は珍しいんだろうな。
私は大泣きするルーの柔らかな茶髪を撫でる。相変わらずトイプードルみたいな髪質だと思った。
「あのね、ルー?私はそんなことで差別しないし、態度が変わったりないよ?」
「……本当に?」
「うん。ルーは半魔族だからって私の事攻撃したり、食べたりしたいの?」
「そんなことしたくないです」
「でしょ? でも、私はむしろルーが人間食べなきゃお腹すいてどうしようもないよー!ってなったら血くらいはあげてもいいかなって思うよ。それくらい大事な人なんだよ」
そう言うとルーは泣き止んだ。……いや、びっくりして涙が止まった、のほうかな?
泣いたり泣き止んだり忙しいな。
「前にも言ったけど、私は私に攻撃してくる物が怖いだけでそこに種族は関係ないし、むしろルーが言いにくかった半魔族……だっけ?それも、私の居た元の世界感覚だと『そうなんだー』くらいのレベルだよ?」
まあ、魔族がどんなものか知らないからという理由もあるけれど、今のところその魔族とやらにアズール国がなにかされてる訳でないし、目の前の半魔族はさっきまでBLTサンドに夢中になってたただの可愛い弟のような存在なので、今のところ私の中では魔族は怖くない、だ。
もし仮に魔族が襲ってきて恐ろしいと感じても、同じように半魔族だからという理由でルーも恐ろしいと言う思いになるのか、と問われたら、答えはノー!!と大きく宣言できる。
だって、ルーが私にくれたものはあったいものだし、それが嘘なわけない。
魔族だって馬鹿じゃないんだから、話し合いでどうにかなるならそれでいいじゃん?……という平和な考えなのだけど。
良く知らないのに恐れるのはお門違いかなって、私は思う。
そう言う事を懇々と説明する。
固まってるルーは、私の言葉を理解するのに時間がかかるのか、じわじわと表情を歪ませると泣く前に私に抱き着いてきた。
「ほ、本当はっ!怖かった……怖かったんです!魔物に襲われたケイ様が、僕のこと、嫌いになるんじゃないかって!半魔族って知られたらきっと、捨てられる……って!」
涙混じりにルーは続ける。
「だから、絶対言わないって……思って……でも、ケイ様優しいからっ、だからぁ!」
そこまで言うと、嗚咽で咳き込んでしまったので慌てて背中をさすってやる。
それに安心したのか、抱きつく力が強くなる。
……あぁ、そうか。だからルーは討伐後も、足が治ってからも、ずっと私からくっついて離れなかったんだ。
きっと、私が魔物を怖がって魔族まで怖がると思って。そして自分がその魔族の血を半分引いてるなら、私に知られた時に嫌われてしまうんではないか、と。ずっとずっと、不安だったんだろう。
……そんな事、絶対ないのに。
「優しいとか、関係なく。私はルーがルーだから好きだし、種族とかなーんにも気にしてないよ。大丈夫だよ、だから泣かないで」
「ケイ様ぁ……っ!」
ルーはその後、自分の生い立ちをポソポソと話してくれた。
生まれて直ぐに本当の家族と生き別れて、両親は生きてるかわからず、今の家族に偶然拾われて育てられた、と。
人間にしか見えない見た目のおかげでやってこれたけど、10歳の時に自分の属性が闇属性と分かって周りから孤立し始めたらしい。
人より身体能力が高いのも、魔族だから……との理由。
「……そっか、だから騎士団に……?」
「はい。僕の異例の出世の秘密です……って言っても、皆さん知ってるんですけど……知ってました?僕、最近までひとりぼっちだったんです。嫌われ者なんです」
えへへ、と笑いながらルーは言うけど、それはとても辛かっただろう。
今としては信じられない事実だけれど、ルーが言うなら本当なんだろう。
三人組とも、きっと……。
でも、私は確信している事があった。
「あのさ、私が来る前もルーはお食事係で騎士団の皆はルーのご飯食べてたんでしょ?」
「……はい。でも、きっと嫌々で……」
「もしそうだったら普通食べなくない? 嫌ってたり恐れられてたら団長さんみたいに避けられるよ」
「……でも」
「みんな、元からルーのこと好きだから、だよ。でも知らないものは怖いし、どう扱えばいいか分からなかったから遠巻きなだけ何だってと思う。 だから、ルーは嫌われてない」
キッパリと言ってあげると、ルーは不安そうに、だけど嬉しそうに笑顔を見せた。
「ケイ様は、僕の光です」
「え」
「ケイ様が来てから、色々な事が変わりました。とても、いい方向に。だから、僕にとってケイ様はずっとずっとケイ様だし、聖女様なんです」
ライオネルにも、似たようなことを言われた気がする。
私ごときがそんな大層なものな訳がないんだけど、今は否定してはいけない気がしたから、返事はせずに笑っておいた。
ミッシェルが迎えに来るまで私たちは互いに本音を言い合いながら、時には笑ったり泣いたりして――主にルーが、だけど……――夕日を見ながら語り合った。
青春かよ、と思ってくすぐったかったけど、こういう時間をとってよかった。
そしてその日から、ルーは私に必要にひっついては来なくなった。
その変わり、吹っ切れたルーくんの魔法指導は容赦なくなったんだけどね、おーまいごっと!
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