ペルソナ・ハイスクール

回転焼き。

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「あ!見てみてこれ!すっごく可愛くない?」

 音流とまゆら、そして朱莉はハンガーに掛かっている洋服を手に取っては自分にあてがいながら喋っている。売り場の店内にはEDMが流れ、コーンロウを編み込んだ店員は淡々と洋服を整理している。

「朱莉も似合ってる!買っちゃいなって!」
「そうかなぁ、あたしには派手すぎないかなぁ」
「いやいや、似合ってるって!」

 まゆらが朱莉に言った。恥ずかしそうな顔をしながらも朱莉はそれを手にした。

「音流ちゃん、それにしてもいきなりどうしたの?あたしなんか呼んで…」
「え?だって人は多いほうがいいじゃない?アタシもさ、誤解だってわかったんだから。ね?」

 朱莉はいきなり音流から来た突然のLINEに戸惑っていた。昨日まで自分をイジメていた張本人からの謝罪。それに呼応したかのようなまゆらの掌を返したような対応。ショッピングに出かける前に急に泣き出して許しを請うた音流と、酷く落ち込んだまゆらを見ると、朱莉の溜飲は下がり、いいの、気にしないでという言葉と共に完全に霧散した。
 それから3人はショッピングを楽しみ、ランチにお洒落なカジュアルイタリアンを食べ、スイーツを楽しんだ。

「あっ、そうだ朱莉とまゆら」
「ん?」
「この後、ちょっと寄りたいところがあるんだけど、ちょっと付き合ってもらえないかな?」
「えっ?あたしは構わないよ?朱莉は?」
「うん、大丈夫。行こう」
「ゴメンねぇ、こっちこっち」

 音流とまゆらと朱莉は駅のロータリーに降り、そこから裏路地に入っていった。微かに漂うごみ臭い匂いを我慢しながら。しばらく歩くと、そこには古ぼけたビルがある。地下に降りる階段の向こうには閉店した音楽スタジオがある。

「ねぇ、音流ちゃん、ここであってんの?」

 まゆらが訊いた。音流はうん。と頷く。防音扉を開くと、奥は壊れたドラムセットに埃が被ったお立ち台とアンプセット。

「お待たせ」
「よ、楽しかったか?」

 そこには久根と河西がいた。朱莉はキョトンとした顔をして音流とまゆらを見る。

「え?これって…?」

 音流とまゆらは無表情で朱莉を見ている。マズいと感じた時はもう遅かった。久根はスマホを弄りながら言った。

「俺はなんもしないからな」
「ちょっとこれ…」
「あ~疲れたなぁ。これを猿芝居っつうんだよねぇ」
「まゆら…ちゃ…」
「気安く呼ぶなよ、馴れ馴れしい!」

 まゆらは朱莉の肩を押さえつけて地面に座らせる。埃にまみれた床にパンツの膝をくっつけながら。

「ちょっと訊きたいんだけどさ」
「えっ?」
「アンタ、先生にあたしらの事、チクったっしょ」
「え?」
「惚けんなって、今イジメられてんの、お前しかいねぇんだからさ」

 久根は腰を下ろし、柔らかな笑顔を朱莉に見せた。

「これ、ほら。よく出来てると思わねぇ?」
「えっ?」
「音流が送ってきた写メ、こいつと2人で弄ってみたんだけどさ」
「嘘でしょ?」

 アイコラ写真ではあるが、それはあられもない姿だった。朱莉の写真を使い、時には目線もいれて。

「喋るんだな。じゃないとコレ、ばら撒くからね?」
「そんなの…」
「学校だけじゃねぇよ、世の中にはね、こんな痴女の女子高生に会いたいっつう気持ち悪い奴等が大勢いるんだって。学校の奴は騙せなくても、アッチ側はそれが真実になっちまうからな」
「それだけはやめて!」
「なら喋ってよね」

 久根は冷たく言い放つ。表情は笑顔のままである。隣ではむっつりとした顔をした河西と、腕組みをして見下ろす音流。

「あたしじゃ、ない…」
「なんだって?」
「あたしじゃない…」
「誰か知ってるのか?チクったの」

 朱莉の目が泳ぐ。自白にそれは近かった。河西は腰を下ろして朱莉に訊いた。

「あ~あ、嘘つけない正直なコだねぇ」
「ねぇ、朱莉さ」

 音流は朱莉を見てにっこりと笑った。買った洋服の紙袋をひらひらと動かしながら言う。

「めっちゃ楽しかったね」
「えっ…」
「ショッピングに、イタリアンに、スイーツに、プリクラまでさ」
「…」
「今日はアタシらは演技だったけど、アタシらもそれなりに楽しかったんだ。もし、誰がチクったか言ってくれたら、また一緒に遊んであげるから」

 唇をかみながら朱莉は小さく肩を震わせた。

「だってほら、そいつの名前言うだけでいいんだよ?何文字よ?すぐ終わるじゃん。そしたらまた元通りだよ?」
「……」
「すぐじゃなくていいけどさ、ちょっとここ、カビ臭いんだよね」

 まゆらも鼻をぐすぐすとさせながら言う。朱莉は下を向いて肩を震わせながら言った。

「……ま、くん」
「えっ?なんだって?」
「こ、小山……くん…」
「だってよ!嘉樹!」
「よ~し、有難うな朱莉ちゃん!」

 久根と河西は立ちあがり、スタジオから手をヒラヒラとさせながら出て行く。音流はにっこり笑いながら言った。

「朱莉、アタシらずっ友だよね」
「……」
「じゃあね。また明日、が、っ、こ、う、で」

 朱莉は暫くそこで肩を震わせていた。

「……ごめん……小山くん」

 小山のメモの文字を思い出しながらふらふらと朱莉はスタジオの防音扉を開いた。地上に上がる階段は、何より長い長い階段に感じた。
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