音路町ストーリー

回転焼き。

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音路町ラプソディ

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 YouTubeによるバブルが訪れたその翌日。いつもより多めに今川焼きを焼いていつもの駅前通りに向かった。この日は夜中にざん降りした雨がからりと晴れ、太陽の日射しに乾かされたアスファルトは黒とグレーのツートンカラーを描いている。やや長蛇の列を想像して向かったが、そこはいつものお嬢さんが数人いるだけであった。あれはまさか夢だったのか?

「いやぁ燎くん!昨日は何だったのかねぇ」
「ははは、夢だったんでしょうか?珍しく忙しかったんですがねぇ」
「ホントよ~、若い子ばっかり集まってたからねぇ。にしても、YouTubeって凄いわねぇ、あんなのがあったらすぐに集まったのがいなくなっちゃうんだから……」
「……あんなの?」
 
 俺は何の事かさっぱり分からなかった。俺はお嬢さん方に今川焼きを売ると、やや持て余すように残った今川焼きを眺めた。

「アマさん、えらいこってすわ」
「事件っす事件」

 【甘納豆】の二人だ。ギターの夜湾はスマホを取り出して必死に画面をこちらに向けている。

「どうしたんだ?」
「ここ、すごい叩かれてますよ」
「なんで?」
「とりあえず、これ」

 俺は夜湾のスマホの画面を見た。そこには信じられない動画……

「何なんだこりゃ……」
「YouTuberのくもちと男女の関係だぁ?どっからそんな話が?」
「アマさん、これホンマやないですよね?」
「なわけねぇだろ!」

 再生数は2,000回。コメントもやたら集まっている。殆どが桜に対する罵詈雑言の数々、目も当てられない。

「今川焼き屋さぁん……」

 サングラスをかけた高校生くらいに見える女が小走りで走ってきた。俺はすぐにそれが桜だと分かった。ナップザックは背負っていない。随分泣き腫らしたのかリスのようにくりんとした瞳は腫れぼったくなっている。

「あっ!くもちちゃんや!」
「ホントだ!」
「と、とりあえずこっちに来るんだ」

 俺はキッチンカーに駆け込んだ桜を乗せ、一旦商売を中断した。鼻を啜りながらひくひくと肩を震わせる桜に夜湾は黒餡を差し出す。

「えっ」
「アマさんが食えって。とりあえず話聞かせてや」



 今川焼きを三個平らげ、やや気分が落ち着いたらしい。少し広い公園にキッチンカーを停車させると、4人はベンチに座った。

「どうしたんだよ。これ」
「わかりません。ただ、動画挙げたのが一昨日で、昨日これが挙がってて、そしたら引っ切りなしにDMが……」

 ダイレクトメール。この記事だけ見ると鼻で嗤って済ませられそうな話題だが、変に歪んだ奴等はこれを真に受けて、糞味噌に暴言を吐き散らす。

「YouTuberやってると、ある程度は覚悟がいるんです。でも……あまりに酷くて」
「発信者は【皿なし河童】やて、なんやねんこいつ」

 【皿なし河童】の挙げている動画は昨日の動画だけではなさそうだ。殆どが飲食店に対するクレームを吐き散らしている動画。エスカレートしたら名誉毀損クラスのものばかりだ。

「心当たりは?」
「全く……」

 俺は桜に顔を近付け、小さな声で言う。

「俺達はな、この街でワケありな奴等の依頼を受けて動いてる【捜し屋】なんだ」
「え?今川焼き屋さんが?」
「天河だ。こいつらは皆俺をアマさんって呼ぶ」

 桜はこっちを見ながら深く頷いた。

「報酬はいらない。こいつを捜してやるよ」
「できるんですか?」
「できるできないやなくて、やるんや。それがわいらの仕事やさかいに」
「で、心当たりあんの?」

 桜は顎に手を当てて考えている。

「ごめんなさい、全然……」
「そうか、ならしょうがないな」
「アマさん、どうにかしましょうや。同じ動画配信仲間として許せへん」

 俺は足りない頭を捻って考えた。とりあえず、【皿なし河童】が配信している動画の内容を確認しよう。
 内容を観る限り、【皿なし河童】が叩いてる店はほぼ音路町界隈の少し名の知れた飲食店のようだ。俺はこの辺りに土地鑑のある奴の仕業だと踏んだ。だとすると……

「俺の友達に訊いてみる」
「友達って、アマさん誰っすか?」
「警察だよ。幼稚園からの仲の奴がいる」
「アマさん、警察に友達おるんかいな?」
「あぁ、まあ行こう。多分呼べばすぐに来るよ」



 たまには話したいという口実でその件の相手を呼び出した。話好きな奴だ。昔から俺とはウマが合う。昔からある喫茶店に奴を呼ぶと、奴はすぐにやって来た。

「よぉ、燎久しぶりだなぁ!同じ街にいんのに、なかなか構ってくんねぇしさぁ」

 奴は御夕覚悠みゆうざひさし巡査部長。生活安全課の刑事。ノリの軽い目立ちたがり屋のこいつがまさか刑事になってるなんて、当時の仲間は皆思わなかっただろう。
 あまり開いていない細い目、にっと笑うとピンクの歯茎が見える。それをよくいじられていた。

「オファーありゃ来るのか?忙しいだろ?」
「いやいや、暇人そのもの!ジョンレノンは【イマジン】、俺は【暇人】!なんちって、なはなは!」
「……」
「んで?どしたん?」

 俺は御夕覚に桜のYouTubeの件を話した。軽いノリの御夕覚はそれを訊くとシリアスな顔に変わった。

「あ~、そりゃ気の毒だわ。最近はそのテの話をよく訊くからな」
「ほう」
「でもね、お嬢さん。うちら警察は事が起きないとなかなか動けないんだ。すまねぇな」
「……ですよね」
「しかし、俺個人として動くことはできる」
「恩に着るぜ」
「水臭いじゃねぇか燎。お前が【捜し屋】だってのは俺、黙ってんだぜ?この街を守る仲間として、働いてんのは同じだからな」

 俺は泣きそうになった。こいつは軽石みたいに軽い奴だが、決して薄っぺらい男では無い。

「んじゃ、何かあったら連絡するぜ。俺はじゃ、署に戻るっしょ。なんちって、じゃあな」

 空気を瞬間冷却した御夕覚は伝票をかすめ取って出て行った。俺は地道に被害者に話を訊いて回ることにしよう。
 長い戦いに挑む前のランボーになった気分。
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