電人ジャンク

回転饅頭。

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第一章 覚醒

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――大輝は夢を見ていた。
深い深い眠りの中で、何かが頭の中にずしりと重々しい声で、耳の奥を揺らすように声をかけてくる。
――お前に、できるのか?
――もう後戻りはできないんだ。
――もし、後戻りをしないなら、全てがお前の肩にのし掛かる。
――戦う覚悟ができたなら、目を開くが良い。
――そこからが、始まりだ。



 大輝が瞼を開いた時、頭上の電灯は既に消えていた。身体は何の違和感もない。改造手術を受けたなどという事など感じられないくらいに。

「あ、目を開いたよ」
「やっぱり、適合したみたいね」

 大輝の上半身には心電図を採るためのパッチがついている。バイタルサインは良好のようだ。ブースのようなガラスの向こうからマリが話しかけてきた。

「体調はどう?」
「なぁ、終わったのか?」
「終わりよ。あんたはもう改造人間よ」

 何の実感もない。両手を眺めるも何も感じない。

「どこが?」
「強いて言えば、あんたの体内には特殊金属を注入してる。あとはデフォルトで動体視力、瞬発力は少しだけ高めにしてある」

 大輝はベッドから起き上がる。軽く膝を曲げて反復横跳びをする。実感はないが、言われてみたら軽い気がする。

「そこに金属のコップがあるでしょ」
「あ、これか?」
「あれを引き寄せてみて」
「引き寄せる?」
「そう、あれにベッドから手を翳して、集中してみて」

 5メートル程先にある金属のコップ。半信半疑のまま大輝は手をコップに向けて集中した。

「念じてみて」

 大輝の指先にかっと熱が走った。そのまま指先からは稲光のようなスパークが走り、コップを絡めとる。磁石に引っ張られるようにコップは大輝の手のひらに向けて吸い寄せられた。

「マジか…」
「磁性のある金属なら、なんでも引き寄せたり、貼り付いたりできる。念じれば磁性人間になれるってわけ」
「これ、外すのは?」
「外れろって、念じるだけ」

 大輝は外れろと念じた。コップは手のひらから離れ、リノリウムの床にからんと落ちた。

「凄い」
「驚くのはまだ早いわ。もう一度コップを持ってみて」

 大輝はまたコップを拾い上げた。マリは続ける。

「磁性をキープしたまま、別の物をイメージしてみて。そのコップに向けて念じてみて」
「ん、こうかな…」

 大輝がイメージをコップに飛ばす。コップはぐにゃぐにゃと姿を変え、一個の丸い球に姿を変えた。

「嘘だろ?」
「これは付与した特殊能力。自分をコントロールできるようになれば、もっと有意に使えるわ」
「凄い、俺はこれを使ってあの怪人と戦うってことなんだな?」
「今の人間に多少毛が生えたくらいの能力じゃ、虎之介のパワードスーツにも及ばない。あんたは変身でききる。その効果は未知数。パワードスーツを凌ぐか否かは、あんたの使い方次第よ」
「…変身?」
「変身すれば常人の数十倍の身体能力を得ることができる。その体内に装填した特殊金属が変身スーツみたいになるのよ」
「…!」
「まずは、変身してみて」

 あっさりと言ってくれるな。と思いながらマリに大輝は訊いた。

「念じればいいのか?」
「そこまでいくのが理想だけど、まずは増幅の為にブースターが必要かもね。そこに栄養ドリンクみたいなビンがあるわよね?」

 コップがあった所の隣に、ガラスのビンが一本ある。

「あれか」
「そう、まずはあれを飲んで。変身する時の感覚を身体に染みつけてもらう」

 大輝は栄養ドリンクの蓋をきりりと開けると、中身を一気に飲み干した。はっきり言って、鉄臭くて血のような味。大輝は眉に皺を寄せて舌を出す。

「まずっ」
「何か変わってきた?」
「んっ、なんだか身体が熱くなってきて…」

 全身にかっと熱が走る。指先からスパークを放った時の倍の熱が大輝に走る。痺れるような感覚の中、大輝の全身に光るスパークが走る。

「うわっ…!」

 スパークが消えた。大輝にはシルバーのフルフェイスのメットが装着され、アーマーのようなスーツが大輝の身体を包んでいる。

「マジかよ」
「その時点で、あんたの体力は常人を軽く超えてるわ」

 大輝は軽くジャブを放つ。風を切る音。膝を曲げて跳躍すると、軽く天井に触れそうなくらいのジャンプ。

「使えなきゃ意味がないけどね、その状態でトレーニングしてもらうわ」
「あぁ」
「そこにAIのソルジャーを転送する。まずはそいつを倒すつもりでスパーリングしてみて」

 目の前に、真っ黒な影のような人型のAIが現れた。

「こいつは?」
「安心して、自我のないAIよ。遠慮はいらない。でもレベルが上がる度にそいつはあんたの行動パターンを学習する。闇雲に戦うだけじゃなくて、考えることね」

AIはファイティングポーズをとった。正面で拳を握り込んだボクサースタイル。大輝は片脚を一歩前に出し、両腕を胸のあたりで構える。

「頼むぜ」
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