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「あ~、ドキドキする」
「私もー」
アリスはユリアンヌやサーシャと一緒に魔法学の教室へ向かっていた。キャッキャしているユリアンヌやサーシャと違いアリスはガチで緊張していた。
クラリアはアリスに借りたノートと自分ノートを使ってクリラブ1の攻略本を作ってくれていた。各キャラ情報、攻略ルート、ゲーム上でのビフォー&アフターに追加情報記入用スペースまでまで有り至れり尽くせり。その攻略本によるとこれから受ける魔法学の初授業でイベントが発生する予定だった。
魔力を測るテストでアリスが光の魔力の持ち主という事がクラスメートの前で明かされ同じクラスの攻略対象&ライバル令嬢に印象付けられる。その中でも攻略対象の一人、アーサー・フロイセ、近衛騎士団団長フロイセ侯爵の子息とのイベントの前フリとなる筈なのだが、クラスが違う。
今アリスのいるBクラスには攻略対象者はいない。
ど~なっちゃうんだろ~。
不安な気持ち一杯でアリスは教室のドアを開けた。
なにかの映画でこんなシーンがあった気がする。教授の前で教壇の上に置かれた水晶玉に生徒達が手をかざしていく。持っている魔力によって水晶の色が変化し、魔力が強い程濃くなる。水は青色、火は赤色、雷は黄色、土は茶色、光は白だ。
この世界には前世には存在しない魔素という物質があり魔法の源となっている。魔力保持者とは魔素を扱える者の事で魔力の強さは扱える量の事を指す。魔素はクリスタルやガラスに込めて一種のエネルギーとして水や火、雷の力を利用した誰でも使える魔具を作れたりと便利な反面、1か所に溜まり過ぎると瘴気に変わり土地が汚れ荒れてしまう。土の魔力は土に溜まった瘴気を払う事が出来るが、植物や動物が魔素を取り込み過ぎて魔物に変わった場合は駆除するしかなく問題になっている。最近になってようやく駆除後の活用法が確立されてきた所だ。
四大魔力は研究も進んでいるが光の魔力は保持者自体が少ない為に研究も進んでおらず解っていない事も多い。
治癒の力なんだけどね。まあ、まともに使えませんが、私。
アリスはボーッとした顔で緊張した面持ちのユリアンヌを眺めた。先程サーシャは水晶玉を黄色く明るく輝かせていた。順番がきたユリアンヌは教授に促されて右手を水晶玉の上にかざす。水晶玉は茶色に変わり、薄いが茶色に輝かせた。おぉと感心する声が上がる。土の魔力は土の瘴気を感じ取れる為、王族の様に払える強さが無くても重宝される。ユリアンヌはホッとした顔で席へ戻って来た。そして、
「アリス・ブラウン嬢、前へ」
教授の声にアリスは立ち上がると教壇の前に立ち無心で水晶玉の上に手をかざした。水晶玉は明るく輝くとミルクの様な白に変わる。その光景に教室がどよめいた。
「光の魔法、初めて見た…」
「あれが癒しの光なのね」
「光の魔力保持者が入学するっていう噂は本当だったんだ」
「まさかアリスとは」
アリスは自分の席に戻って周りの生徒の驚きの視線を受けながら大きく深呼吸した。
ここまではゲームアリスと同じ。(クラスは違うが)水晶玉の結果も町の役場でのテストと同じ。問題はここから。次は魔力をどの位制御出来るかのテストとなる。
サーシャはテーブルの上の箱に入った鈴を手をかざして鳴らしてみせて教授に褒められて嬉しそうにしていた。ユリアンヌは手の平の上で小さな土玉をコロコロ跳ねさせている。他の生徒達もコップの中の水をクルクル回転させて渦を作ったりロウソクの炎を長く伸ばしたり大きく揺らしたりしている。その中でアリスは机の上の枯れかけた鉢植えの花を一心不乱に見つめたり祈ったり手をかざしてみたりしていた。アリスは見兼ねた教授が、
「アリス嬢。もういいですよ」
と優しく声を掛けるまで続けたが枯れ掛けた花は萎れたまま全く何の変化も無かったというか却って萎れた。
チーン。
授業が終了しアリスは枯れ掛けた花より萎れていた。ユリアンヌやサーシャだけでなく他のクラスメート達もアリスに励ましの言葉を掛けるが項垂れたままのアリス。
「アリス、元気出して」
「まだ発動させて間がないんだろ。しょうがないよ」
「俺だって使いこなす迄時間が掛かったぜ」
「うん、……頑張るよ」
力無く答えるとアリスはのろのろと立ち上がった。
「アリス?」
「この鉢植え、庭師さんに何とか助けて貰える様に頼んでくる」
「アリス、私も一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫。一人で行く」
鉢植えを手にアリスはヨロヨロと教室を出て行く。アリスの頭の中は、癒しの魔法が使えない→アーサーとのイベント前フリ失敗→アーサーイベント無し→??のチャート式で一杯一杯。
これはクラリア的には有り。アーサースルーでOK。しかしこの先のカイル&アランルートでの分岐イベントでは癒しの力が必須。ちょびっとでも使えないのは恐らく非常にマズイ。
誰でもいいからルートには入らなきゃ。ノールート怖い。
ふらふらと廊下であちこちぶつかりながら進むアリス。それをユリアンヌやクラスメート達は心配そうに見ていた。
「大丈夫かなぁ」
「いや、ドウ見ても大丈夫じゃないだろう」
「そうよね。私、アリスが次の授業に辿り着くまで見守るわ。」
「担ぐ必要があるかもしれないから俺も行くよ」
「俺も」
「私は先回りして庭師さんを探しておく」
アリスはクラスメート達に温かく見守られながらヨレヨレと廊下を進んでいた。
「あう、痛でで」
その後も魔力の進展はなくアーサーから声を掛けられる事も無く日々は過ぎていった。
「はー、スッキリ」
トイレから出たアリスは次の授業へと廊下を一人で歩いていた。念の為に一人行動を心掛けているアリスだったが効果は今の所無い。そりゃそ~だ。
「アリス」
そこに後ろから声を掛けられ振り返るとクラリアがアリスに向かって小走りに駆け寄って来る所だった。クラリアも一人だ。門番シスターズがいない。あれっとアリスは首を傾げた。
「あれ、クラリア様。双子ちゃんズはどうしたんですか?」
アリスの前に立ったクラリアはデコピン。
「痛てっ」
「校内でのルールは敬称は無し」
「はい、でも慣れないというかキチンとしなきゃというか」
デコ押さえながら、だってバイト先の上司感がハンパないんだもんとは言えないアリスだった。腰に手を当てたクラリアははぁとため息を付く。
「そもそも敬語が怪しいから。敬語は無し、いいわね?」
「はーい」
「まあいいわ。アナベルとセシルは先生の御用中。その隙に来たのよ。転生に関する話を他の人がいる所でする訳にいかないでしょう」
そう言いながらクラリアはアリスを廊下の隅に引っ張っていった。
「ここなら人が近づいたら判るかな。アリスは誰か転生に関する事を打ち明けた人はいるの?」
「いえ、前世の記憶が戻ってから間もないし誰にも話して無いです。」
「賢明ね。私も誰にも言って無いわ。幽閉されかねないし」
「貴族って大変ですね」
「貴方の両親も出は貴族よ。そんな事より魔力テストの事聞いたわよ」
「はい、すみません。アーサー様をお見掛けする事すら有りません」
「でしょうね」
しょんぼりアリス。その姿はまるで雨に打たれて困り顔の野良犬(ブサ犬寄り)のよう。うーんとクラリアは唸った。
アリスは光の魔力の持ち主という事でゲーム上で浮いていて優秀でもあった為に他生徒から意地悪されるエピソードも多かった。実は現実アリスも本人に自覚は無いが目立つ存在ではあるのだ。実際、彼女の事を面白くなく思う生徒や悪く言う生徒もいる。あまり本人の耳や目に入っていないのはモブ友が壁になっている為だ。本来は攻略対象が守るのだが。
これってゲーム展開にはどう影響してくるのかしら。しかも、
「アリス、この前の小テスト、点数が下がっていたそうね」
「すみません」
更に小さくなる駄犬寄りアリス。
「勉強をもっと頑張らないとCクラス落ちよ。主人公としてどうなの?」
「すみません」
「Cクラス落ちしたら特待生扱いから外されるわよ。学費全額自腹よ」
「ウチの父に学費全額払えなんて無理ですーっ」
「進級ラインを超えていないと退学よ、留年は無いのよ。学園が舞台の乙女ゲームで主人公が成績不振で途中退学ってどうなの?」
「ううっ、代わりにクラリア様が主人公やってくれます?」
「私は悪役令嬢!」
「ずびばぜ~ん」
尻尾丸めてきゅんきゅん鳴く駄犬アリス。母のスパルタ教育から離れすっかり緩んでいるアリスだった。
「鳴く暇があったら勉強するっ。次の小テストで取り返しなさい。」
「はい、頑張ります」
「凡ミスが多いわ、集中よ」
「はい、集中します」
アリスは本気で言っているのであろう。しかし気合が入っていないのはクラリアの目にも明らかだった。ふむとクラリアはアリスの軽く握られた拳をじっと見た。
「…アリス、かん水って知ってる?」
「かん水?」
急に話題が変わりアリスは?クラリアはにっこりと笑顔になった。
「かん水は中華麺を作るのに必要な物です」
「中華麺、……ラーメン?!」
その瞬間、アリスの目がカッと見開かれた。
「ウチの職人がかん水作りに成功しました。中華麺が作れるとラーメンが作れます」
アリスの頭の中を醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメン、豚骨ラーメン、様々なラーメンが飛び跳ね回る。
「食べたくなぁい?」
クラリアの甘美な問い掛けにアリスは即答した。
「はいっ、食べたいです!!」
「勉強、頑張れるわね」
「はい、勿論です!」
「アリス、あなたはやれば出来る子よ」
「はい、全集中で勉学に励みます!」
「声が大きい」
「だってラーメンですよ、ラーメン!」
アリスは固く握った拳を高々と突き上げるとスキップしながら謎のダンスを踊った。
「アリス、止めて。恥ずかしいから」
「ラーメン、ラーメン!何度食べたいと願った事か」
「そうなの、取り敢えず落ち着こっか」
「もー、カップ麺でもいいから食べたいって~」
「カップ麺の方が難易度高いんだけど」
「クラリア様!私はやります。ラーメンの為ならどこまでも!!」
「う、うん、やる気が出たのは良かったわ…」
クラリアはこの件については考えるのは保留にする事にした。クラリアは
「ヤバい、ヨダレが」
と口元を手で拭うアリスの肩を掴むとグイッと自分に引き寄せた。
「今日、剣技の授業が有ったわね」
「はい、ゲームでアリスは女子向けの短剣を選んでいましたけど私は父から剣を習っているのでそちらを選択しました。超シゴカれたから楽勝っすよ」
「そうね、女子トップは当然。男子の中でも出来るだけ上位につけるのよ。」
「はい」
「これから実力が近いクラスメートの注意点と弱点を教えるから覚えなさい。まだ魔力を併用した攻撃は禁止されているから私の戦術通りにやれば順位を上げられる筈。勝つのよ、アリス。ラーメンの為にも、推しのアレク様の為にも推しの待つルートを目指してひた走るの。アリス、このミッションを必ず成功させなさい」
「はい、頑張ります!」
やる気MAXのアリス。ちょっと不安になったがクラリアはこれも考えない事にした。
「まあ、大丈夫でしょ…」
「これでOKっと。フェンシング用ユニホームみたいだなぁ」
更衣室で制服から運動着に着替えたアリスは動き易さを確認して着換えブースを出た。脱いだ制服をハンガーに掛けて自分のロッカーに放り込もうとしたアリスは先に着換え終わっていたユリアンヌに注意された。
「もっとちゃんと掛けておかないと制服がシワになるよ」
「もー、しょうがないな、アリスは」
サーシャがアリスがいい加減に掛けた制服をキチンと掛け直してくれる。
「ありがとう、サーシャ」
アリスは制服をロッカーに仕舞うとニカッと笑った。
「楽しそうね、アリス」
「うん、剣は父さんに習ってたんだ。身体を動かすのって楽しいよ」
授業が待ち切れないという顔のアリスに反して二人は憂鬱そうな顔をしていた。
「私は苦手だなぁ」
「私も鈍臭いし」
運動はちょっとというユリアンヌとサーシャにアリスは理解るわ~と思った。
だって前世では私もそうだったから!
走れば歩くなと怒られ卓球やテニスではホームラン、バレーボールやバスケットではボールを顔面で受け、ロボットダンスしか踊れないと見なされ。
それが今のアリスはやれば出来る子!練習すれば必ず結果が返ってくる。設定万歳。
父さんとよく稽古してたしクラリア様直伝の必勝法もあるし、バッタバッタ相手をなぎ倒し次の授業で点数を稼ぐぞ!
「ストレス発散と二の腕の引き締めに素振りは最適だよ。行こう」
ラーメン食べたい。
食欲という名の欲望を腹の下に隠しアリスはユリアンヌやサーシャの背中を押した。
ラーメン食べたい。
「私もー」
アリスはユリアンヌやサーシャと一緒に魔法学の教室へ向かっていた。キャッキャしているユリアンヌやサーシャと違いアリスはガチで緊張していた。
クラリアはアリスに借りたノートと自分ノートを使ってクリラブ1の攻略本を作ってくれていた。各キャラ情報、攻略ルート、ゲーム上でのビフォー&アフターに追加情報記入用スペースまでまで有り至れり尽くせり。その攻略本によるとこれから受ける魔法学の初授業でイベントが発生する予定だった。
魔力を測るテストでアリスが光の魔力の持ち主という事がクラスメートの前で明かされ同じクラスの攻略対象&ライバル令嬢に印象付けられる。その中でも攻略対象の一人、アーサー・フロイセ、近衛騎士団団長フロイセ侯爵の子息とのイベントの前フリとなる筈なのだが、クラスが違う。
今アリスのいるBクラスには攻略対象者はいない。
ど~なっちゃうんだろ~。
不安な気持ち一杯でアリスは教室のドアを開けた。
なにかの映画でこんなシーンがあった気がする。教授の前で教壇の上に置かれた水晶玉に生徒達が手をかざしていく。持っている魔力によって水晶の色が変化し、魔力が強い程濃くなる。水は青色、火は赤色、雷は黄色、土は茶色、光は白だ。
この世界には前世には存在しない魔素という物質があり魔法の源となっている。魔力保持者とは魔素を扱える者の事で魔力の強さは扱える量の事を指す。魔素はクリスタルやガラスに込めて一種のエネルギーとして水や火、雷の力を利用した誰でも使える魔具を作れたりと便利な反面、1か所に溜まり過ぎると瘴気に変わり土地が汚れ荒れてしまう。土の魔力は土に溜まった瘴気を払う事が出来るが、植物や動物が魔素を取り込み過ぎて魔物に変わった場合は駆除するしかなく問題になっている。最近になってようやく駆除後の活用法が確立されてきた所だ。
四大魔力は研究も進んでいるが光の魔力は保持者自体が少ない為に研究も進んでおらず解っていない事も多い。
治癒の力なんだけどね。まあ、まともに使えませんが、私。
アリスはボーッとした顔で緊張した面持ちのユリアンヌを眺めた。先程サーシャは水晶玉を黄色く明るく輝かせていた。順番がきたユリアンヌは教授に促されて右手を水晶玉の上にかざす。水晶玉は茶色に変わり、薄いが茶色に輝かせた。おぉと感心する声が上がる。土の魔力は土の瘴気を感じ取れる為、王族の様に払える強さが無くても重宝される。ユリアンヌはホッとした顔で席へ戻って来た。そして、
「アリス・ブラウン嬢、前へ」
教授の声にアリスは立ち上がると教壇の前に立ち無心で水晶玉の上に手をかざした。水晶玉は明るく輝くとミルクの様な白に変わる。その光景に教室がどよめいた。
「光の魔法、初めて見た…」
「あれが癒しの光なのね」
「光の魔力保持者が入学するっていう噂は本当だったんだ」
「まさかアリスとは」
アリスは自分の席に戻って周りの生徒の驚きの視線を受けながら大きく深呼吸した。
ここまではゲームアリスと同じ。(クラスは違うが)水晶玉の結果も町の役場でのテストと同じ。問題はここから。次は魔力をどの位制御出来るかのテストとなる。
サーシャはテーブルの上の箱に入った鈴を手をかざして鳴らしてみせて教授に褒められて嬉しそうにしていた。ユリアンヌは手の平の上で小さな土玉をコロコロ跳ねさせている。他の生徒達もコップの中の水をクルクル回転させて渦を作ったりロウソクの炎を長く伸ばしたり大きく揺らしたりしている。その中でアリスは机の上の枯れかけた鉢植えの花を一心不乱に見つめたり祈ったり手をかざしてみたりしていた。アリスは見兼ねた教授が、
「アリス嬢。もういいですよ」
と優しく声を掛けるまで続けたが枯れ掛けた花は萎れたまま全く何の変化も無かったというか却って萎れた。
チーン。
授業が終了しアリスは枯れ掛けた花より萎れていた。ユリアンヌやサーシャだけでなく他のクラスメート達もアリスに励ましの言葉を掛けるが項垂れたままのアリス。
「アリス、元気出して」
「まだ発動させて間がないんだろ。しょうがないよ」
「俺だって使いこなす迄時間が掛かったぜ」
「うん、……頑張るよ」
力無く答えるとアリスはのろのろと立ち上がった。
「アリス?」
「この鉢植え、庭師さんに何とか助けて貰える様に頼んでくる」
「アリス、私も一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫。一人で行く」
鉢植えを手にアリスはヨロヨロと教室を出て行く。アリスの頭の中は、癒しの魔法が使えない→アーサーとのイベント前フリ失敗→アーサーイベント無し→??のチャート式で一杯一杯。
これはクラリア的には有り。アーサースルーでOK。しかしこの先のカイル&アランルートでの分岐イベントでは癒しの力が必須。ちょびっとでも使えないのは恐らく非常にマズイ。
誰でもいいからルートには入らなきゃ。ノールート怖い。
ふらふらと廊下であちこちぶつかりながら進むアリス。それをユリアンヌやクラスメート達は心配そうに見ていた。
「大丈夫かなぁ」
「いや、ドウ見ても大丈夫じゃないだろう」
「そうよね。私、アリスが次の授業に辿り着くまで見守るわ。」
「担ぐ必要があるかもしれないから俺も行くよ」
「俺も」
「私は先回りして庭師さんを探しておく」
アリスはクラスメート達に温かく見守られながらヨレヨレと廊下を進んでいた。
「あう、痛でで」
その後も魔力の進展はなくアーサーから声を掛けられる事も無く日々は過ぎていった。
「はー、スッキリ」
トイレから出たアリスは次の授業へと廊下を一人で歩いていた。念の為に一人行動を心掛けているアリスだったが効果は今の所無い。そりゃそ~だ。
「アリス」
そこに後ろから声を掛けられ振り返るとクラリアがアリスに向かって小走りに駆け寄って来る所だった。クラリアも一人だ。門番シスターズがいない。あれっとアリスは首を傾げた。
「あれ、クラリア様。双子ちゃんズはどうしたんですか?」
アリスの前に立ったクラリアはデコピン。
「痛てっ」
「校内でのルールは敬称は無し」
「はい、でも慣れないというかキチンとしなきゃというか」
デコ押さえながら、だってバイト先の上司感がハンパないんだもんとは言えないアリスだった。腰に手を当てたクラリアははぁとため息を付く。
「そもそも敬語が怪しいから。敬語は無し、いいわね?」
「はーい」
「まあいいわ。アナベルとセシルは先生の御用中。その隙に来たのよ。転生に関する話を他の人がいる所でする訳にいかないでしょう」
そう言いながらクラリアはアリスを廊下の隅に引っ張っていった。
「ここなら人が近づいたら判るかな。アリスは誰か転生に関する事を打ち明けた人はいるの?」
「いえ、前世の記憶が戻ってから間もないし誰にも話して無いです。」
「賢明ね。私も誰にも言って無いわ。幽閉されかねないし」
「貴族って大変ですね」
「貴方の両親も出は貴族よ。そんな事より魔力テストの事聞いたわよ」
「はい、すみません。アーサー様をお見掛けする事すら有りません」
「でしょうね」
しょんぼりアリス。その姿はまるで雨に打たれて困り顔の野良犬(ブサ犬寄り)のよう。うーんとクラリアは唸った。
アリスは光の魔力の持ち主という事でゲーム上で浮いていて優秀でもあった為に他生徒から意地悪されるエピソードも多かった。実は現実アリスも本人に自覚は無いが目立つ存在ではあるのだ。実際、彼女の事を面白くなく思う生徒や悪く言う生徒もいる。あまり本人の耳や目に入っていないのはモブ友が壁になっている為だ。本来は攻略対象が守るのだが。
これってゲーム展開にはどう影響してくるのかしら。しかも、
「アリス、この前の小テスト、点数が下がっていたそうね」
「すみません」
更に小さくなる駄犬寄りアリス。
「勉強をもっと頑張らないとCクラス落ちよ。主人公としてどうなの?」
「すみません」
「Cクラス落ちしたら特待生扱いから外されるわよ。学費全額自腹よ」
「ウチの父に学費全額払えなんて無理ですーっ」
「進級ラインを超えていないと退学よ、留年は無いのよ。学園が舞台の乙女ゲームで主人公が成績不振で途中退学ってどうなの?」
「ううっ、代わりにクラリア様が主人公やってくれます?」
「私は悪役令嬢!」
「ずびばぜ~ん」
尻尾丸めてきゅんきゅん鳴く駄犬アリス。母のスパルタ教育から離れすっかり緩んでいるアリスだった。
「鳴く暇があったら勉強するっ。次の小テストで取り返しなさい。」
「はい、頑張ります」
「凡ミスが多いわ、集中よ」
「はい、集中します」
アリスは本気で言っているのであろう。しかし気合が入っていないのはクラリアの目にも明らかだった。ふむとクラリアはアリスの軽く握られた拳をじっと見た。
「…アリス、かん水って知ってる?」
「かん水?」
急に話題が変わりアリスは?クラリアはにっこりと笑顔になった。
「かん水は中華麺を作るのに必要な物です」
「中華麺、……ラーメン?!」
その瞬間、アリスの目がカッと見開かれた。
「ウチの職人がかん水作りに成功しました。中華麺が作れるとラーメンが作れます」
アリスの頭の中を醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメン、豚骨ラーメン、様々なラーメンが飛び跳ね回る。
「食べたくなぁい?」
クラリアの甘美な問い掛けにアリスは即答した。
「はいっ、食べたいです!!」
「勉強、頑張れるわね」
「はい、勿論です!」
「アリス、あなたはやれば出来る子よ」
「はい、全集中で勉学に励みます!」
「声が大きい」
「だってラーメンですよ、ラーメン!」
アリスは固く握った拳を高々と突き上げるとスキップしながら謎のダンスを踊った。
「アリス、止めて。恥ずかしいから」
「ラーメン、ラーメン!何度食べたいと願った事か」
「そうなの、取り敢えず落ち着こっか」
「もー、カップ麺でもいいから食べたいって~」
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「う、うん、やる気が出たのは良かったわ…」
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「ヤバい、ヨダレが」
と口元を手で拭うアリスの肩を掴むとグイッと自分に引き寄せた。
「今日、剣技の授業が有ったわね」
「はい、ゲームでアリスは女子向けの短剣を選んでいましたけど私は父から剣を習っているのでそちらを選択しました。超シゴカれたから楽勝っすよ」
「そうね、女子トップは当然。男子の中でも出来るだけ上位につけるのよ。」
「はい」
「これから実力が近いクラスメートの注意点と弱点を教えるから覚えなさい。まだ魔力を併用した攻撃は禁止されているから私の戦術通りにやれば順位を上げられる筈。勝つのよ、アリス。ラーメンの為にも、推しのアレク様の為にも推しの待つルートを目指してひた走るの。アリス、このミッションを必ず成功させなさい」
「はい、頑張ります!」
やる気MAXのアリス。ちょっと不安になったがクラリアはこれも考えない事にした。
「まあ、大丈夫でしょ…」
「これでOKっと。フェンシング用ユニホームみたいだなぁ」
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「もっとちゃんと掛けておかないと制服がシワになるよ」
「もー、しょうがないな、アリスは」
サーシャがアリスがいい加減に掛けた制服をキチンと掛け直してくれる。
「ありがとう、サーシャ」
アリスは制服をロッカーに仕舞うとニカッと笑った。
「楽しそうね、アリス」
「うん、剣は父さんに習ってたんだ。身体を動かすのって楽しいよ」
授業が待ち切れないという顔のアリスに反して二人は憂鬱そうな顔をしていた。
「私は苦手だなぁ」
「私も鈍臭いし」
運動はちょっとというユリアンヌとサーシャにアリスは理解るわ~と思った。
だって前世では私もそうだったから!
走れば歩くなと怒られ卓球やテニスではホームラン、バレーボールやバスケットではボールを顔面で受け、ロボットダンスしか踊れないと見なされ。
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父さんとよく稽古してたしクラリア様直伝の必勝法もあるし、バッタバッタ相手をなぎ倒し次の授業で点数を稼ぐぞ!
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