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イベント発生!なのか?3

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「大丈夫かい?」
 その時、聞き覚えのある声と共に猫まみれアリスの顔面の子猫がひょいと取り除かれた。
「ぶへっ」
 何とか息をついたアリスは声の方を見上げ、
「あ、ありが…」
 硬直した。
 アリスの目の前にあったのはカイル王太子の笑顔だった。
 クリラブ1、2どちらでも高難易度攻略対象キャラクター、カイル・ロイ・クレムラート、青薔薇の貴公子が子猫を手にアリスの前にひざまずき爽やかな見せていた。キラキラな青い薔薇がアリスの上にこれでもかと言わんばかりに降り注ぎ、
 溺れるっ。息が出来ないっ!
 な、はわわアリス。その上に、
「こらこら、レディを困らせてはいけないよ」
 白い薔薇が舞い落ちた。カイルの後ろから顔を出したのは、アラン・ロイ・クレムラート、白薔薇の君。アランはアリスの肩に乗っていた子猫をそっと手にすると優しく子猫の背を撫でてニコッとアリスに微笑み掛けた。更に黒い薔薇が舞い、アリスの腕の子猫をひょいと摘み上げ、
「いけない子だね」
 と子猫の頭を撫でながらチラッとアリスにイタズラっぽい流し目を寄こしたのは、ウェイン・ヴィニタス、魅惑の黒薔薇だ。
 次に舞ったのは赤い薔薇。赤い薔薇の騎士、アーサー・フロイセがバリッとアリスの背中に張り付いていた子猫を引っ剥がし、ちょっときまり悪そうな顔で、
「女性の背中を登るな。俺にでもよじ登っておけ」
 とアリスにそっぽを向いたままで子猫を自分の腕に貼り付けた。
「にゃ~ん♪」
 子猫は大喜びでアーサーの腕をよじ登り始める。
 アリスは思った。
 ノーラのリクエスト通りアーサーが子猫に弄ばれている。いや、今はそんな事はどうでも良い。これってイベント?!とうとうイベント降臨?!でも何で?
 何で攻略対象キャラクター達が、正確には地元とシークレットを除くキャラクター全員が何故今ここで全員集合なの?ゲームでは前半4人まとまって登場するイベントは無かった筈なんだけど。
 そしてそしてそして、とうとうついにクリラブ2にも登場の攻略対象キャラクターが、来たー!!!
 クリラブ1からクリラブ2に引き続き登場するキャラクターはクラリアやアナベル&セシル、プラスアリス自身も同じ。しかしキャラクターデザイン担当が変わったとか女は大人になると化けるとかなのかクリラブ2で見ていたキャラの面影が殆ど無いに等しかった。
 しかし男子キャラクターはキャラクターデザイン担当者の気合が違うのか若かりし頃も面影がバッチリ残っていた。
 クリラブ2高難易度キャラクター、魔法省購買部売店アルバイト店員アイル・グリーンこと社会勉強中のカイル・ロイ・クレムラート王太子が、その隣にはバージョン違い?のアラン王子が今アリスの目の前にいた。
 薔薇風呂で溺れかけのアリスは兎に角必死に息を吸う。
「ん?」
 不意にカイルが首を小さく傾げ、アリスは自分の手がカイルに向かって伸びているのに気が付いた。
「ひゃっ」
 慌ててアリスは手を引っ込める。
 しっかりしろ、アリス。今目の前にいるのは2次元や2・5次元ののアイルたんじゃない。3次元のアイルたんよ。いきなり触るとか日本でもアウトだから。いや2・5次元はいきなり触っちゃ駄目か。でも解らない。
 どうして半年近く音沙汰が無かったくせに突然攻略対象がまとめて4人も登場するの?!どうしよう、どうすればこのイベント?を乗り切れるの?!本来のゲームでの発表会イベントとは設定が全く違うんだけど~。
 どうすれば。
 アリスはチラッと横目で東屋の外にいるユリアンヌ達に助けを求めた。ユリアンヌもサーシャとノーラもピクニックシートの上でチュール?をカゴから取り出そうとした所で、リカルドと熊は驚いてイーゼルを倒した所で固まっていた。
 ストップモーションかよ。駄目だ。イベント?の時はモブは当てにならない。
 アリスは必死に真っ白な自分の頭で考えて、当然だが何も出てこない。
 どどどどどうしよう~。
「ああ、これだね」
 その時アランがスッとカイルの髪に付いていた木の葉を取った。アランにその木の葉を見せられたカイルは慌てて自分の髪を触ると、
「ああ、あの時か。気が付かなかったよ。ありがとう」
 ニッコリとアリスに笑い掛けた。その光り輝くカイルの笑顔に、
 はうっ。
 キラキラ印のこん棒でメッタ打ちアリス。
 ああ、あの魔法省購買部売店のアイドルアルバイト店員、魔法省女子+α全ての癒やし、アイルたん。あの生アイルたんが今目の前に。しかもファンサが過ぎまする~♪アリス、感激ー!
 カッコ良いっ。カッコ良いっ。若かりし頃のアイルたん、超カッコ良いっ。顔も声も所作も全てが優雅で素敵、尊さがチョモランマ!アリス、絶対に魔法省に就職する~♪
 取り敢えず一時停止してこの御尊顔をしばし堪能しようっ。いや、せねばっ。
 はわわなアリスはほけーっとカイルに見惚れ続け、その間にアリスはカイルに手を取られ自然な所作に流されるままに東屋のベンチに腰掛けていた。
 ああ、大人気の低反発クッション大にゆったりと身を任せているみたい。
 うっとりと向かいのベンチに座るカイルを見つめていたアリスは、
「どうして子猫と遊んでいたの?」
 カイルの言葉で我に返った。
 そう、今も窮地に陥っている事に変わりは無かった。
 ヤバい。リアル乙女ゲーム特典ご褒美スチルに夢中で忘れてた。よく分らないけれどもしこれが乙女ゲーム進行上で重要な選択肢に繋がる質問だったら。もしここで選択を間違えたら。
 アリスの脳裏に仁王立ちのクラリアとアナベル&セシルにどつかれる自分の姿が浮かぶ。
 でもどう答えればいいのか全くさっぱり全然分からないー!
 1、正直に答える。
 2、ゲーム中のイベントの選択肢を流用する。
 正直に言って笑いを取ってイベント終了って有り?
 イベントの選択肢を流用する場合、参考になるイベントは、カイルがアリスの手を取るシーンがあるのはクラリアによるいじめイベント。その時のゲームアリスは心配そうに声を掛けるカイルに瞳に涙を浮かべつつも笑顔で、
「花が綺麗で」
 等と答えていた。
 が、現在リアルアリスは涙も出なければ、庭園の東屋周りの花は全て咲き終わり庭師が萎れた花を摘み取った後。
 詰んだ。逃げよう。
 アリスは、3、逃げる を選択して腰を浮かし掛け、その時閃いた。
 いじめイベント=悪役令嬢=クラリア様。そうよ、クラリア様特製の攻略対象別想定問答集、イケメンと簡単おしゃべりマニュアルがあるじゃない。今こそあのイケメンと簡単おしゃべりマニュアルの出番でしょう!
 ………。
 駄目だ。何も出てこない。てゆーか皆、最初の数ページを読んだらまた明日で止まってた。
 マニュアルを貰っただけでもう安心♪なアリスだった。
 いや張り込み用にアランのマニュアルはざっと目を通していた。そこから使えそうなフレーズをっ。
 アリスは腰を浮かしたままスカートを少しつまんでうやうやしく会釈をした。
「お恥ずかしい所をお見せして申し訳ありません。お気遣いありがとうございます」
「あ、ああ」
 アリスの返事にカイルとアランもちょっと困った顔になる。当然だ。質問と返答の内容がズレている。
 ぬお~~ぉっ。
 アリスは一番接触があるかもと他の攻略対象キャラよりは読み進めたウェインのページを頭の中でめくった。
 こういう困った場面で使えるフレーズ、使えるフレーズ…、というかこれしか思い出せなーいっ!
 アリスはクラリアがマニュアルを渡してくれた時に実演して見せてくれたフレーズをポーズ付きでやってみた。
 邪気の無い笑顔で人差し指を片頬に当て小首を傾げて、
「何故だと思いまして?」
 質問返し。
 真似っ子アリスにウェインが嬉しそうに笑う。が、肝心のカイルはアランも目を丸くした。
 クラリアはちゃんと兄にしか効かないと注釈を付けていた。
 やっぱり、3、逃げる 一択か。
 アリスが覚悟を決めた時、フンとアーサーが鼻を鳴らした。
「何故って子猫が寝た隙に描こうとしたけどコケて起こしっ……」
 頭に子猫を乗せたアーサーがズバッと正解を言い掛けた所をウェインに腹パンされて沈黙した。
 逃げるついでにコイツに一発蹴り入れとこう。
 アリスは違う決心も堅めた。
「ぷっ」
 その時、目の前のカイルが吹き出した。相好を崩したカイルは口を押えると慌てて横を向き、チラッと横目でアリスを見て、再び吹き出し掛けてぐっとそれを堪えた。アランはアリスにくるっと背を向けている。笑いを堪えて肩を震わせるカイルにアリスは頬に人差し指を当てたまま、
 はううっ~。生アイルたんが笑いを堪えていらっしゃるうぅ。震える背中も素敵~♪震える背中をゲームの中で全く違うシチュエーションで見た気がするけどどーでもいい~。このハンパないキラキラの滝行は全てを浄化していくわ~。兎に角アイルたんが素敵過ぎまする~♪
「ふぅ」
 何とか息を整えたカイルははわわアリスを見てクスッと可笑しそうに笑うとスッと視線を東屋の外にいるユリアンヌ達に移した。
「やあ、君達はアリス嬢のクラスメイトだね」
『はっはいっ』
 カイルの言葉に全員が飛び上がると、
「ユリアンヌ・シーブスで御座います」
「サーシャ・フェイマンで御座います」
「ノーラ・ハリントンで御座います」
「リカルド・ニールセンです」
「ミハイル・ダウソンです」
 女子はスカートの裾を少し上げて、ガチガチな会釈を男子はゼンマイ仕掛けの様な敬礼をする。カイルはそれに優雅に頷き返して腕の中の子猫に視線を優しく撫でた。
「もう少しで子猫達も眠りそうだ。アリス嬢が陽が陰る前に絵を描き上げられる様に手助けをしてあげてくれないか?」
『はいっ、勿論ですっ』
 モブ令嬢とモブ令息はカイルに直立不動で答えるとあたふたとアリスが絵を描く為の準備を再開する。それを見ながらアリスは、
 ミハイルの愛称はミーシャ。大熊のミーシャ。
 と、どーでもいい事を考えていた。
 カイルは腕の中の子猫の背中を優しい瞳で見つめながらゆっくりと撫でている。アリスは青い薔薇が舞い散る中をキラキラと光輝くカイルを若かりしアイルたんをただ思考停止した脳でうっとりと眺めていた。
 カイルの隣では白薔薇の君アランが既に眠りに落ちた子猫を静かに籐カゴに寝かせている。黒薔薇をバックにしたウェインが魅惑の瞳に見つめられて瞬時に眠りに落ちた子猫をアランに手渡し、赤い薔薇の騎士アーサーは背中を登る途中で寝落ちした子猫を取ってくれとウェインに背を向けていた。
 アリスのいる東屋は今、色とりどりの薔薇が舞い散りキラキラが溢れ返る異空間と化している。その中でアリスは、
 私は東屋の一部。
 と、なっていた。モブですらない。背景としてアイルたんをうっとりと眺めていた。
 アーサーの子猫とようやく眠ったカイルの子猫もアランの手でカゴに寝かされ、子猫達は再び籐カゴの中で気持ち良さそうにスヤスヤと寝息を立て始める。
 その光景を東屋アリスは薄っすらと笑みを浮かべて眺めていた。
 超キラキラスチル~♪悶絶美麗。4人揃い踏みの生スチル。眼福感が凄まじいですわ~。
 ウェインが目の前で手をヒラヒラとさせているのにも気付かないアリス。ウェインは肩をすくめるとポンポンと叩こうとアリスの肩に手を伸ばし、それをカイルが制した。
「失礼」
 そしてカイルは腕を伸ばすとスッとアリスを抱き上げた。
「?!」
 アリスはいきなり目の前に現れたカイルのどアップに硬直すると、
「……」
 気を失った。
 カイルはそのままアリスをお姫様抱っこして東屋からリカルドと熊が準備したイーゼルの前の椅子まで運んで座らせた。それを固まったまま見守るユリアンヌ達。微笑みを浮かべたまま固まっている(気を失っている)アリスにカイルは、
「絵を楽しみにしているよ」
 と笑い掛け、スッと身を起こした。他の攻略対象キャラクター達も、
「グレースと一緒に必ず見に行くよ」
「君の新作を妹達も楽しみにしている」
「ま、絵は上手いし頑張れよ」
 との言葉を残し、そして薔薇が舞い散る中を彼等は去って行った。
『……』
 背景モブは固まったままそれを見送る。
 アリスは気を失っていた…。


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