夜の歌

朽木桜斎

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バス停に、二人

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 帰り道。

 バス停に、二人。

 にわか雨、じゃ、なかった。

 ただし、傘は、あった。

「やまないな」と、俺。

「永遠に?」と、彼女。

 森は、滴る。

 土は、濡れる。

「あ、キリギリス」と、彼女。

「死んでるね」と、俺。

「無残やな カブトの下の キリギリス」

 アカリは、つぶやく。

「芭蕉」

 俺も、つぶやく。

「獄門島」

「釣鐘」

「安珍」

「清姫」

 問答?

「わたしは、清姫?」

「俺は、安珍?」

「釣鐘、ないかな」

「あるらしい、近くに」

 雨は、強くなる。

「バス、来ないな」と、俺。

「来ない、かもね」と、彼女。

「永遠に?」と、俺。

「そうほうが、いい?」と、彼女。

 いい、かも。

 シチュも、いい。

「アカリさ、俺……」

「あ、バス、来たよ」

「え」

「行こ」

「ああ」

 天は、泣く。

 誰の、ため?

 泣きたいのは、俺。

「無残やな」

「なに?」

 ぼやく、俺。

 笑う、彼女。

 白い顔に、亀裂。

「キリギリス カブトの下の 赤ら顔」

 先生、ごめん。
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