妖符師少女の封印絵巻

リュース

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一章 妖符師誕生編

5 挨拶回り

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 あやかし屋の表面、雑貨屋の仕入れ関連は早急に対応が必要です。

 なるべく早くにご挨拶したいので優先。
 ただ、朝早くに尋ねられても迷惑でしょうから、この時間を選びました。

 バスで移動して最初に訪れたのは、金物を扱う『カネダ鉄工』様。


「こんにちは、あやかし屋の者ですが、どなたかいらっしゃいませんか・・・!」

「・・・おう、ちっと待ってな!すぐに行く!」


 工場の中から男性の声が聞こえてきた。
 大きな声を出すのは苦手なので一度で反応してもらえてよかった・・・。


「・・・よっ、と。待たせたな、嬢ちゃん。俺は工場長の金田五郎っつうモンだ。
 確かさっき、あやかし屋っつったな?
 咲夜さんと紅葉さんとこの後継ぎってことで合ってるよな?」

「はい、そうです。私は影山若葉と申します。
 父と母が先日亡くなりましたので、私が継ぐことになりました。
 つきましては、契約の件についてお話と、御挨拶をと思い訪ねさせて頂きました」

「お、おう・・・。まだ若ぇのにしっかりしてんな・・・。
 あ・・・ああっと、ご両親のことは、残念だったな・・・」


 作業着姿で出てきたカネダ鉄工の工場長、金田五郎さんは四十台前半くらいの方でしょうか。如何にも鉄工業に従事している方といった雰囲気があります。
 咲夜と紅葉というのは私の父と母の名前。影山咲夜と影山紅葉です。


「しっかし・・・前々からいつ死ぬか分からんって話は聞いてたが・・・。
 まさか本当に死んじまうとはな・・・。惜しい人たちをなくしたもんだ」

「ありがとうございます。そう言ってくださると、父と母も喜ぶと思います」


 メモに書いてありましたが、あやかし屋の契約先はどこも父と母が直接契約を結んだ場所で、お世話をしたりお世話になったり、持ちつ持たれつの関係とのこと。
 ただ、相手方は必要以上に恩義を感じてくださっているらしく、何か困っていることがあったら力を貸してくださるようです。契約延長の確約もその一環ですね。
 私とは会ったこともないのに、二人の子どもなら大丈夫だろう、という理由で快く引き受けてくれたそうで。

 それほど信頼されるとは、流石は自慢の父親と母親。私も鼻が高いです。


「それで、契約の件なのですが、これまで通りの契約でよろしいでしょうか?」

「ああ、勿論いいぜ。何の問題もねぇ」


 予めそういう約束だったようですが、一安心。
 ここで駄目だと言われる可能性もありましたから。
 口約束の上、相手方にもやむにやまれぬ事情というものが起こり得るので。
 その場合は残念ながら諦めることになるのでしょう。
 約束を盾に無理を強いたところで不幸にしかなりませんから。


「だがよ、わざわざ確認に来なくともよかったんだぜ?
 嬢ちゃんも大変だろうし、電話一本で確認も済むだろ?」

「それは確かにそうですね。
 ですが、お世話になる契約先の方の顔を知らないというのは、酷く歪ですから。
 今後の事も考えて、一度顔合わせをしておくべきだと判断しました」

「お、おう・・・。本当にしっかりしてやがる・・・。
 こっちの事情も考慮しようとしてたみたいだしな・・・」


 事情の考慮云々は顔に出ていたのかもしれませんね。
 やはり、ポーカーフェイスは苦手です。


「親方ーっ!ちょっと来てくださいっ!」

「親方って呼ぶなと何度言えば分かんだよっ!!直ぐに行くから待ってろ!
 ・・・そんじゃ、明日にでも今月分を運ばせるから、そん時はよろしく頼むぜ」

「はい、こちらこそよろしくお願い致します。
 今日はお忙しい中ありがとうございました」

「おう、いいってことよ!」


 五郎さんはそう言い残すと工場の中へ入っていきました。
 問題なく挨拶が済んで良かったです。
 残り三件ですので、そちらの方も今日中に回れるといいなぁ・・・。




 その後、二件の契約先を回り、無事に今まで通りの契約を承認して頂けました。
 ですが、最後の四件目で問題が起こってます。


「本当に申し訳ありませんっ!どうか、契約を変えさせてくださいっ・・・!」

「えっと、その・・・」


 現在の私は土下座されるという経験をしている最中です。
 姿勢が綺麗な方ですね。

 ・・・いえ、そうではなく。


「あの、とりあえず頭を上げてください」


 いつまでも土下座させている訳にもいきませんから。
 それにしても、何故こうなったのか。
 先程までのことをよく思い起こしてみましょう。



 私が最後に訪れたのは製糸工場、『沢渡製糸』様。
 従業員が十人に満たない小企業ですが、大事な取引先です。

 初めは工場の方へ顔を出したのですが、工場は閉鎖されていました。
 そこで、すぐ隣にある沢渡さんのお宅へお邪魔することに。

 家のインターフォンを押して待つと、女性の声が聞こえてきました。
 あやかし屋の名前を出したところ、酷く慌てた様子で出迎えてくださって、玄関から中に入ったところで土下座された、というのが現状です。

 ・・・よく思い出してみても、まるで分からない。
 私はどうして土下座されていたの・・・!?
 契約については口約束で、そこまで重んじることでもないのに・・・!

 ・・・ゴホン。落ち着きましょう。
 慌てたり焦ったり動揺したりすると心の中の声まで口調が乱れます。
 親しい相手と話す時も似たようなことになりますが、それは別問題。
 私の悪い癖ですね。昨日あたりはさぞ酷い口調をした心の声だったのでしょう。


 和室らしき場所に案内されて、畳の上にて再び土下座されました。
 お願いですからやめてください。


「あの、一体どうされたのでしょうか。工場の方も閉鎖されていましたし・・・」

「っ・・・。実は・・・夫が倒れまして、経営が破綻寸前、なんです・・・!」


 どうやら、相応に重い話の模様です。

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