妖符師少女の封印絵巻

リュース

文字の大きさ
91 / 91
三章 水の怪異編

91 多尾狐と鎌鼬

しおりを挟む
「では、感覚を忘れないうちに何度も練習するようにしてくださいね?」

「・・・分かった。だから、終わったのなら離してくれ」

「あ・・・失礼しました」


 安倍君の額から私の額を離し、顔の横側を掴んでいた手も退けます。

 今更ですが、どうして彼が抵抗しようとしたのか分かりました。
 冷静になって考えてみれば、とても恥ずかしいことをしていましたね・・・。

 ・・・何だか体が熱くて、心臓の鼓動がやけに速いです。
 顔が赤くなっていなければいいのですが・・・。


「・・・ゴホン。練習を重ねて、息をするように妖力感知ができるようになりましたら、私の下を訪れてください。そうすれば、私のことが少しは分かるでしょう」

「・・・結局教えてはもらえないということか」


 ああ・・・そんな肩を落として落ち込まずとも・・・!
 これは安倍君の練習にもなって、その上で私のもとを訪れさせる最高の案なのです。
 さらに、段階を踏んで互いのことを知るのにもピッタリです。

 ですから、決して謀るつもりはなかったのですよ・・・?


「そう焦ることもないでしょう。私たちには時間があるのですから」

「・・・はぁ。それもそうだな」


 ため息をつきながらですが、納得してくれたようです。
 私も、安倍君がどんな血を引いているのかは興味がありますが、そこまでは実際に目で見ないと分かりません。

 ・・・私、もっと彼のことを知りたいです。

 どうしてこんな感情を抱くのでしょうね・・・?
 もしや、同じ現世の理を外れた者同士、シンパシーを感じているのでしょうか?

 思えば、これ程何かにこだわったことは、過去にそう何度もありません。
 男性についてともなると、初めてではないでしょうか。

 ・・・願わくば、彼が私の敵にならんことを。


「では、私は用事がありますので、これで失礼しますね」

「・・・ああ。・・・・・・教えてくれて助かった」

「っ・・・いどういたしまして、です」


 正直驚きました。思わず息を呑んでしまうくらいに。
 彼がお礼を言ってくれる姿など想像も出来なかったので。
 そもそも、こちらから一方的に押し付けただけですから、感謝されるいわれもないのですけどね・・・。

 私は踵を返して立ち去っている最中です。
 後ろを振り向くと、既に頬を掻く後ろ姿しか見えませんでしたが、聞き間違いではなかったと思います。

 ・・・心が温まりますね。

 さて、今度こそ帰ることにしましょう。
 上位符変換をして<高位符>を生み出さなければ。

 ・・・よくよく考えたら、敵に塩を送るようなものでしたね。
 敵対するかもしれない人に指導などするのは。

 まあいいでしょう。
 きっと安倍君は悪い人ではありませんから。



 〇〇〇



 時間帯は夜。


「―――<上位符変換ハイアップ・プロモーション>っ!」


 掌の上で妖力を精密な操作で解し、<中位符>を<上位符>へ変換しました。
 妖怪<泥田坊>との戦いに備えて、少しでも戦力を強化しておきたかったのです。

 手元に残ったのは<低位符>七枚、<中位符>三枚、<高位符>四枚ですね。
 それに加えて、黄妖符<多尾狐>『フォーン』と緑妖符<鎌鼬>になります。
 随分とスッキリしてしまいました。

 手配していた物の片方は、既に加工を終えています。
 家に着いた時に丁度届いたので、先にやってしまいました。
 どれくらい効果があるのかは未知数ですが、やらないよりはマシでしょう。
 正面から戦って勝てるとも思えませんからね。

 あ、もし明後日・・・日曜日の戦いで死んでしまったら、安倍君との約束は御破算ですね。それは嫌なので絶対に負けたくありません。
 勝たなければならない理由がまた一つ増えました。


「若葉、終わったコン? だったら夕食分の油揚げが欲しいコンっ!」

「うん、ちょっと待ってね。今から準備するから・・・」


 フォーンが私の居る倉庫の方にやってきました。
 尻尾を左右へ揺らしながら宙を歩く姿、いつみても可愛らしいですねぇ・・・。

 思わず抱きしめたい衝動に駆られますが、我慢です。
 いちいちそんなことをしていては、時間がいくらあっても足りませんから。

 台所で油揚げをお皿にのせて、フォーンの前に置きます。
 ふふっ・・・油揚げを見つめながらうずうずしていますね。

 可哀そうなので、待て、のポーズをやめます。


「いただきますっ! はむはむ・・・むしゃむしゃ・・・!」


 直後にフォーンは挨拶をすると、油揚げへ噛みつきました。
 一心不乱に食べています。


<―――オイオイ。まるで犬じゃネェか。妖怪としてのプライドはネェのかヨ>

<・・・五月蠅いよ、鎌鼬。ボクは食事の最中だから黙ってるコン>

<アァ? やんのかテメェ?>

<ふん。未だに<顕現召喚>すらしてもらえないのに、いい気になるなコン>


 おやおや、喧嘩が始まってしまいましたね。
 もしかして狐と鼬って、仲が悪いのでしょうか?


<<そういう問題じゃ(ないコン!)(ネェよ!)>>


 ・・・仲が良いのか悪いのか、どちらなんでしょう。

しおりを挟む
感想 105

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(105件)

ママさん
2020.02.04 ママさん

すごく!すごく!面白くて、毎日読んでいました。フォーンメメメΣ(●´д`●)メチャカワァー
モフモフ(੭ु ›ω‹ )੭ुモフモフしたいです!
お忙しいとは思いますが、更新待ってます。

解除
テツナ
2019.01.28 テツナ

とても面白かったです!!
更新待ってます(๑♡ᴗ♡๑)

2019.01.29 リュース

感想ありがとうございます。
長らく更新が滞っていて誠に申し訳なく。

解除
紫翠
2018.10.04 紫翠

続きがきになります!
更新お待ちしております。

2018.10.04 リュース

感想ありがとうございます。
そうですね……書籍化作業が終わって、他作品も完結させられたなら、その時は執筆に時間を割けると思います。
気の長い話で申し訳ありません。
なにぶん、まとまった時間が取れないもので……。

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。