異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

獄界の穴5

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「・・・落ち着いた?」

「ええ・・・。落ち着きましたわ・・・。」


 ここは断絶空間の中。

 ようやく立ち直ったマリアが、力なく返答する。


「・・・まだ気にしてるの?」

「気にするなと言う方が無理ですわ・・・。」

「分からなくもないけど、僕以外は聞いていなかったわけだし・・・。」

「・・・・・・そうですわね。」


 今度こそ本当に立ち直った様子だ。


「念のため聞いておきますが、誰かに言いふらしたりはしませんわよね?」

「そんなことはしないよ。」


 マリアは言質をとれて安心したようだ。

 打って変わって、明日のことを尋ねて来た。


「それで、明日はどうしますの?」

「明日は・・・やっぱり大部屋かな?」

「さすがに危険ではありませんの?」


 小部屋でもあれ程の敵が居たのだから、大部屋は危険過ぎではないか。

 マリアはそんな心配をクロトに伝えた。


「僕もそう思っていた・・・んだけど。」

「けど、なんですの?」

「ん・・・あんまり危険な予感がしないんだよね・・・?」


 クロトはここまで、3つの小部屋のある洞窟を探索した。

 探索中に気になったのが、小部屋になりかけている場所があったことだ。

 クロトは、直にその場所にも、堕天使が生まれるのではないかと推測した。

 
 堕天使は、獄界の穴に流れ込んだ悪意が集まり、顕現した存在。

 現在は、次の堕天使が生まれるための悪意が足りていない。

 ゆえに、中途半端な洞窟になっている。


 これが、堕天使に対するクロトの考察だ。

 
 そして、小部屋より先に大部屋に堕天使が生まれるというのは、違和感がある。

 大部屋に集まった悪意を各小部屋に流し、堕天使を誕生させる。

 そう考えた方がしっくりくる。

 
「別に、先に大部屋に誕生していてもおかしくないと思いますわよ?」

「・・・そう?そう考えた方がしっくりくるんだけど・・・。」

「・・・まあいいですわ。クロトが進むと決めたなら、何も言いませんわ。」

「ありがとう、マリア。」

「どういたしまして、ですわ。」



 そうして夜は更けていった。


 同じベッドで寝るのは、昨日よりも若干、気まずかった。









 ここは、獄界の穴、そこにある洞窟の大部屋の中。



「・・・何も居ない、よね?」

「わたくしの感知には何も引っ掛かりませんわ。」


 部屋の中心部まで来た二人だったが、敵の存在は確認できない。


 代わりに、そこには・・・



「なん、ですの・・・コレ?」

「あんまり気分の良いモノではないね・・・。」


 マリアは、根源的な恐怖にあてられ、体が震えている。

 クロトは、すかさずマリアを抱き締め、なぐさめる。


「クロト、は、よく、平気、ですわ、ね・・・?」

「まあ、ね。」


 若干震えが収まり、たどたどしく言葉を紡ぐマリア。



 





 途方もない、悪意の塊が、そこにはあった。



 並の人間では、近づいただけで、発狂してしまうほど。

 それくらいに途轍もない強さの悪意。

 近くに居るだけで、その悪意が、自分に向けられている気になってくる。


 マリアが震えるのも無理はない。

 これに耐えられると言い切れる人間は、クロトの知り合いには居ない。

 ヴィオラやエメラ、カレンですら、厳しいだろう。



「・・・さて、始めようか。マリア、近づかないようにね?」


 マリアを離れた場所に置いて、目的を果たそうとするクロト。

 恐らく、悪の魂は手に入る。

 問題は、条件についてだが・・・。

 

 悪意の塊に、魂魄結晶と霊体の残滓を近づける。

 すると、すぐに呑み込まれてしまった。

 そこへ更に、魔結晶、邪結晶、魔力結晶を投入。

 おおよそ、魂の輪のときと同じだ。


(ん・・・足りない、ね。困ったな・・・探し直しかな?)


 それならそれで構わないが、もう少し考えてみるクロト。


(悪の魂というくらいだから、仕上げには悪意の欠片。他には・・・。)
 

 ふと閃いたのは、エターナルゴーストのこと。


 クロトは永霊結晶を追加で投入。

 最後に、悪意の欠片も投入。



 しばらくすると、非物質状の悪意の塊の中に、何かが生成されたのが見えた。


(・・・この中に入るのか。さすがに嫌だけど、仕方ないね。)


 念のため、釣り竿で回収を試みるが、一瞬で竿が消滅した。

 悪意が糸を辿って、持つ部分まで消滅してしまった。


(ああ・・・!特製の釣り竿が・・・!)


 悪意に巻き込まれそうになったことより、釣り竿の消滅を残念がるクロト。




 その後、クロトは意を決して、悪意の塊の中に突入した。


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