異世界隠密冒険記

リュース

文字の大きさ
93 / 600
第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

精霊神殿

しおりを挟む
 砂皇帝を倒してから数時間。

 ヴィオラは未だに、断絶空間内で落ち込んでいた。

 クロトに本気で叱られたのが、相当堪えたようだ。


 やがてヴィオラは、どんどん悪い想像をするようになってきた。


 あんな酷いミスをした自分は、嫌われてしまったのではないか。

 そうであったら、別れを切り出されるのだろうか。


(・・・それだけは、嫌だ。何をされてもいいとは言ったが、絶対に、嫌だ。)


 その時は、恥も外聞も気にせず、縋りついてしまうかもしれない。

 そう思ってしまった。


 クロトがそんな男ではないということはヴィオラも分かっているつもりだ。

 だが、全く想像しないという訳では無いのだ。

 
(・・・馬鹿だな、私。何をされてもいい、なんて。思い上がっていた。)


 クロトが望んでくれなければ、何もされないというのに。

 その何かを求めているのは、自分の方なのに。


(・・・はぁ。落ち込んでいても仕方が無いな。次に繋げよう。)


 ヴィオラは気持ちを切り替えた後、眠りについた。




 ヴィオラの様子をこっそり伺っていたクロト。


(・・・気持ちを切り替えたみたいだね。流石はヴィオラだ。)


 好きな人にあそこまで言われたら、落胆はもっと長引くのが普通だ。

 ヴィオラのクロトを想う気持ちが弱いからではない。


 普段クロトのことをよく見ているからこそ、本能的に理解しているのだ。

 失敗を引きずり過ぎず、反省して次に繋げる大事さを。


 今のクロトの強さは、数えきれないほどの失敗と反省から来ている。

 
(ヴィオラは本当に、アクアやエメラよりも、僕に似ているね。)


 クロトはヴィオラの成長を喜びつつ、瞼を閉じて眠りについた。







 クロトとヴィオラは精霊神殿の入口まで来ていた。

 砂漠を進み、オアシスを見つけ、精霊神殿の入口まで来た。

 そこまでは問題ない。


「精霊神殿に門番が居るなんて聞いていないんだけど?」

「我は門番という訳ではない。」


 精霊神殿の入口に、人間の男が居たのだ。

 風貌はごく普通、なのだが・・・。


(・・・強い。ひょっとしたら、カレン並みかな?)


 クロトはそんな感想を、目の前の男に抱いた。


「・・・門番でないなら、なぜここに?」

「それは勿論、精霊の王冠を手に入れるためだ。」

「よくここにあるって知ってたね?」

「とある筋からの情報だ。」


 情報源については話さないつもりのようだが、信じてもいいだろう。

 別段、敵意の類も感じない。


「そういえば、名乗っていなかった。我が名はアルレイン。」

「僕はクロト。こっちはヴィオラ。それで、あなたは冒険者かな?」

「そうだ。S+ランク冒険者「無双」のアルレイン。」

「僕はS+ランク冒険者「深淵」のクロト。」

「・・・A+ランク冒険者「紫剣」のヴィオラ。」


 自己紹介を終えた三人だが、内容に驚いている者は居ない。

 相手がそれだけの実力者だということは、とっくに分かっていたのだ。


「そちらの女性がA+ランクで収まるかは別として、相当強いようだな。」


 アルレインは、クロトの方を向きながらそう言った。

 立ち振る舞いは自然だが、少し緊張しているようだ。

 クロトは平常心だが。


「ところで、精霊の王冠は男女ペアでないと手に入らないよ。」

「それは知っているが、相方として押し付けられた者は死んでしまった。」


 そして、アルレインは少し首を捻った後、とんでもないことを言い出した。


「ゆえに、そちらのヴィオラ殿に協力を依頼できないか?」

「・・・!?」

「・・・何を言ってるか分かってるのかな?」


 クロトは怒りを抑えながら、問いただした。

 精霊の王冠は、男女が結ばれなければ手に入らないのだ。

 つまりは・・・そういうことである。


「意味は理解している。しかし、こちらにも引けない訳がある。」

「その訳というのは?」

「国からの依頼でな。あと数日で持ち帰れなければ、我は投獄される。」

「・・・そんな無茶苦茶な話は聞いたことがないね。」

「ブルータル王国はそういう国だ。」


 アルレインの言い分は理解した。

 だが、それを認めるつもりなど欠片もない。


「悪いけど、ヴィオラは僕の恋人だ。お断りさせてもらうよ。」

「・・・断固拒否する。」


 アルレインの依頼に断りを入れた二人。

 そうなるだろうことは理解していたアルレインは、ある提案をする。


「では、決闘をしないか?」

「決闘、ね・・・。」

「ああ。私が勝てば、依頼を受け入れてもらう。」

「決闘を受けるメリットは?」


 一応聞いてみるクロト。

 どんなメリットを提示されても、断るつもりだが。

 ヴィオラを賭けられるはずがない。


「我の全財産。そこには、伝説級のアイテムも含まれる。」

「具体的には?」

「一番貴重なのは、完治の白玉か。どんな病でも治せるアーティファクトだ。」


 確かに、途轍もなく貴重であるが、やはりヴィオラを賭けるつもりはないクロト。



 しかし、断ろうとしたクロトを遮ったのは、そのヴィオラであった。

しおりを挟む
感想 1,172

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。