異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

ローナの用事

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 一段落ついた後、ローナはクロトに用事の内容を切り出した。


「実は、新しく働き始めたファーナが、クロトとエメラに会いたそうなんだよね。」

「ファーナが?」

「うん。決して口には出さないけどね。」


 ファーナはブルータル旅行中に立ち寄った村でスカウトした少女。

 植物探知というレアスキル持ちなので、クローナ雑貨店で働いている。


「ん、分かった。エメラは居ないけど、一度会いに行ってみるよ。」

「ありがと。ごめんね、忙しいだろうに・・・。」

「ローナが謝る事じゃないよ。それに、僕はやりたいことしかやらない主義だよ?」


 暗に、嫌な事という訳でも無いと伝えて、ファーナに会いに行くことに決めた。

 エメラは東国に出向いているので、流石に連れてこれないかもしれないが。


「それにしても・・・何をしたら、あんなに懐かれるのかな・・・?」


 ローナは不思議そうに首を傾げたのだった。








「クロト・・・そろそろ、降ろしてくださいまし・・・。」


 マリアを抱えたまま向かおうとしたクロトに、マリアはそう要求した。

 もっとも、どこか残念そうな声色も混じっていたし、とても弱弱しい声だったが。










 クローナ雑貨店採取責任者のファーナは、店でため息をついていた。


(はぁ・・・会いたいなぁ・・・。でも、まだ特別任務も果たせてないし・・・。)


 ファーナは地底樹捜索という特別任務をクロトから頼まれていた。

 だが、未だ手掛かりすら見つけられていない。

 そのせいで、微妙にクロトやエメラに会い辛く感じている。


 なお、クロトのことは完全に、父親と思うようになっていた。


 寂しさを紛らわすため、ローナにクロトの話を聞く程度にしていたのだが・・・。



「はぁ・・・やっぱり会いたいなぁ・・・。」

「だったら、会ってしまえば良いんじゃないかな?」

「ふえっ?」


 ファーナが店の内側、声のした方を確認すると、そこには一人の男性。

 ファーナが会いたくてやまなかった、クロトその人であった。


「会長!?どうしてここに・・・!?」

「ファーナが僕に会いたがっていると聞きつけて、会いに来たんだよ?」

「えええええっ!?」


 何故自分の会いたいという感情がバレているのか。

 そして、それだけの為に会いに来てくれたのか。

 驚愕や歓喜が混ざり合って、何と言ったらいいのか分からなくなってしまう。


 クロトはファーナが困惑している内に、彼女の手を取った。


「もうすぐ夜だけど、以前のように家族らしく、一緒に晩御飯にしよう。」

「えっ、でも仕事が・・・。」

「ファーナはたった今から明日中まで特別休暇だから、大丈夫。」

「えっ!そんなことは初めて聞きましたよ・・・!?」

「うん、ここに来る前に休みをねじ込んだからね。」


 権力濫用を自白したクロトは、そのままファーナの返事を待たずに転移。

 まあ、拒絶されなかった訳だし、問題はあるまい。

 これが日本だったら、通報案件かもしれないが。





 転移してきた場所は、ファーナの故郷であるスソウ村。

 そのファーナの家跡地である。


 クロトはファーナの家を元あった場所に置いて、その周辺に隠蔽を掛ける。

 家に気づいた村人たちに寄って来られても面倒なのだ。


「ファーナ、入らないの?」

「えっ?あ、入ります。」


 色々な感情がごちゃ混ぜになっている様子のファーナ。

 それでも、懐かしい家に入ることに異論は無さそうだ。


「当たり前かもしれませんが、何も変わってませんね・・・。」


 そう呟きながら、家の中を見回す。

 辛い思い出もあるが、大好きだった母の暖かさが感じられる家。


「お母さん・・・!」


 瞳には涙が溜まり始め、ファーナは零さないようにと堪える。

 クロトは頭を撫でて、優しく諭す。


「ファーナ、我慢する必要は無いよ。今は、泣いても良い。」

「っ、ううっ・・・うあぁぁぁぁっ!」


 クロトの言葉を受けて決壊した涙腺。

 ファーナはクロトに縋りつきながら、泣き始めた。


 まだ成人もしていない、十代前半の少女。

 まだまだ母親に甘え足りなかっただろう。

 そんな中でも、弱音一つ漏らさず強く生きて来たファーナ。


 クロトは娘を慈しむような表情で、頭を撫で続けた。


 自分たちに隠蔽を掛けることも忘れずに。







 数時間後、ファーナは泣き止んだ。


「ぐすっ・・・ありがとうございました、クロトさん。少しスッキリしました。」

「そっか。それは良かった。」


 やはり、色々と感情をため込んでいたようだ。

 ファーナの笑顔を見て、早いうちに発散させて正解だったと感じるクロト。


 と、その時、家の外から声が掛かった。






「ん・・・。遅く、なって・・・ごめん、ね・・・?」

「いや、良いタイミングだよ。これから、丁度夕食だからね。」




 家の中に入って来たのは、孤高の道をクリアしてきたばかりの、エメラであった。

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