異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

スイレンとチョコレート

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 ミカゲ財閥会長秘書であるスイレンは葛藤していた。


(今日は既に一つ食べましたが、仕事が多大だった分もう一つ・・・。)


 そう、本日二つ目のチョコレートを食べるかどうかで葛藤していたのだ。

 クロトから特別ボーナスとしてもらったSランクのチョコレート。

 もう何度目になるか分からない葛藤だが、今回はやや旗色が悪い。

 少々大仕事があったために、流石に疲労を感じているからだ。


(しかし、会長の言いつけと残り個数を考えると・・・っ。)


 スイレンはフラフラとした手つきでチョコレートに手を伸ばす。

 やがて、手に取って、ついには口に入れてしまった。


(はぁ・・・美味しい・・・。)


 罪悪感と幸福感が入り混じり、とても艶のある表情を浮かべるスイレン。


「スイレン様、例の資料を・・・っ!?」

「っ、そこに置いといて。」

「は、はい!」


 スイレンの部下である男は、色っぽいスイレンにドキリとさせられた。

 元々がアクアたちに劣らぬ美人なので、とても目に毒だ。

 慌てて資料を置いて去っていく男。


「はぁ・・・。失敗した・・・。」


 恋愛に興味など無いスイレンにとって、そういう展開は邪魔でしかないのだ。

 普段はそういう感情を抱かれないように気を付けているのだが。

 メガネを直しながらため息を吐いた。


 しかしながら、スイレンはモテる。

 美人で知的でクールで天才。

 本来、これでモテないということなどありえない。


 では、何故これまで色恋沙汰に発展することがなかったのか。

 言うまでもなくクロトのせいである。

 会長秘書という立ち位置であるので、クロトが囲っていると判断されるのだ。


 ミカゲ財閥内で会長の女に邪な感情を抱くなど、自殺行為でしかない。

 みんな優秀であるために、そこを間違えることはしない。


 もっとも、それは誤解であり、クロトとスイレンの間にそんな関係性はない。

 スイレンは誤解に気づいているが、好都合なので放置している。


「スイレン、仕事をしにきたよ?」

「っ、会長。・・・では、そこにあるものをお願いします。」


 スイレンは急に現れたクロトに動揺しながらも、仕事を振った。

 慣れたはずの登場に動揺したのは、二つ目のチョコを食べた罪悪感からか。

 クロトが言ったことを守らなかったのは、スイレンにとって初めて経験だ。


「了解。・・・ん?スイレン、どうかした?」

「・・・いえ、特に何も。」


 何故気づいてしまうのかと怒りたくなったが、間違いなく八つ当たりだ。

 スイレンは色々と呑み込んで何事も無かったかのように振舞った。


「・・・嘘だね。」

「っ・・・。」


 断定するような言葉にドキリとさせられる。

 そもそも、何故隠そうとしているのかを自問したくなったが、後回しだ。


 クロトはスイレンの目の前まで近づいて、何を隠しているのかと尋ねた。


「ほら、怒りはしないから、言ってごらん?大したことでもないんでしょ?」

「・・・・・・っ!」


 確かにその通りではあるが、既にそれどころではなくなっていた。

 クロトの顔が目前に迫っているせいで落ち着かないのだ。

 心臓の鼓動が冗談のように速くなる。


 平静を取り戻すため、クロトから少しでも離れようと後ずさる。

 だがしかし、あっという間に部屋の壁にぶつかった。


「スイレンが非合理的な逃げ方をするなんて珍しい。ますます気になるね。」

「っ・・・!!」


 クロトの瞳をうっかり直視してしまい、目が離せなくなる。

 クロトに魅了されてしまわないように、見ないように気を付けていた。

 だが、今回初めて、間近で見てしまった。


(綺麗・・・。だめ、目が離せない・・・!)


 凡人を超人たらしめた、強い意志を宿す瞳。

 努力で天才の自分を越えてしまった、敬愛するクロトが持つ漆黒の瞳。

 抵抗さえできずに一瞬で引き込まれてしまうスイレン。


 だんだんと息が荒くなっていくのが分かる。

 必死に隠しているが、恐らくじきに気づかれるだろう。

 何故か体も火照ってきてしまった。


 スイレンはこの年で初めて、異性というものを意識した。

 色恋など無縁だと考えていたが、大きな間違いだと思い知らされた。


「・・・ん?まさか、あのチョコレートを二つ以上食べた・・・?」

「っ、はぁ、何故、それを・・・。」


 どうして分かったのかと素直に尋ねるスイレン。

 色々と余裕がなくなっているのが窺える。


「何故って・・・呼吸が荒いから、かな。あれは食べ過ぎるとそうなるんだ。」

「・・・・・・。」


 簡単に言えば、軽い催淫作用だろうか。

 大量に食べればそうなるかもしれない、ということだが。

 クロトも知っていた為、保険として一日一つまでと伝えたのだ。


 まさか、二つだけで効果が現れるなど、流石に予想外。

 よほど、その手の耐性が弱いのか、これまでため込み過ぎたのか。


「ッ!?」


 スイレンは後者の可能性に思い至って、頬を赤らめた。


「あー、何というか、今日は仕事にならないだろうし、もう休んで?」

「しかし・・・。」

「その状態で働かせるとか無理だから。後は僕がやっておくよ。」


 スイレンは呼吸が荒く、意識レベルも低下している。

 流石にこれで、仕事の続行は不可能だ。

 そのことはスイレンも分かっているのだが、余りにも情けなくて頷けない。


「はぁ・・・。そのままここに居るなら、僕を誘っていると受け取るけど?」

「っ・・・!分かりました・・・。今日は失礼します。」


 自分の体を抱き締めて、呼吸を荒くする自分。

 言われてみればその通りだと判断し、やむなく帰ることにした。


 スイレンにとって、一生の不覚となる一日であった。

 二度とチョコの誘惑に負けないと誓ったとかなんとか。

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