異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

リオンちゃん、勉強する

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 黄昏の門、それは世界七大危険地帯の一角。


 曰く、その門は決して開かず、常に閉じている。

 曰く、その先に存在する悪魔を閉じ込めている。

 曰く、その先には伝説の都がある。


 差し迫る脅威は見えないため、有名無実化した危険地帯。

 それが黄昏の門である。




「・・・確か、『宵呼びの嵐』は黄昏の門が原因なんだっけ。」

「殿下、それは何の話でしょうか。寡聞にして存じ上げませんが。」

「うん。クロト君が雑談で教えてくれたからね。」

「・・・そうでございますか。」


 第一王子改め第一王女であるリオンは、兎に角勉強をしなおしていた。

 未だ自分が進むべき方向性は完全には定まらないが、今は下積み時代なのだ。


 だが、その勉強も上手く進んでいない。

 何故なら、真実と偽りの違いについて、判断がつかないものが多すぎるから。


 既にリオンが女であることは、そこそこ広まっている。

 それによって、一部の貴族たちから不安の声があがっている。


 しばらく女であることを隠しておくのが賢い選択だったのだろう。

 だが、アーティファクトは破壊してしまったし、あれはリオンなりの決別。

 避けては通れない道だったのだ。

 それに、まだ男の振りをするというのは、信念にもとるというのもある。


 なお、不安の声をあげる貴族たちも、悪い奴らではない。

 純粋に、国の未来を心配しているのである。

 リオンはマリアに感謝した方がいいだろう。


(クロト君だったら、どうするのかな・・・?)


 つい先日の出来事を思い出し、胸が締め付けられるリオン。

 あの日の出来事は、一生忘れられないであろうことは、想像に難くない。


 また、部下に集めさせた情報で、天の塔というダンジョンを攻略したと知った。

 それを聞いて、自分も頑張らなくてはという気にさせられた。

 自分は、クロトの親友で居たいから、と。


 だが、それはそれとして。


(きっとしばらく会いにきてはくれないよね。あんな別れ方をしたんだから。)


 事実は違うが、喧嘩別れに近いものがあった。

 そう考えると、何気なく会うことが出来ていた日を、とても懐かしく思う。

 そんな暇は無く、我が儘だと分かっていながらも、思わず漏らしてしまう。


「はぁ・・・。会いたいなぁ・・・。」

「殿下、ため息を吐くと幸せが逃げますよ?」

「そんなクロト君みたいなこと言わないでよ、セバス。」

「それは申し訳ありませんでした。」


 リオンは再びため息を吐く。


「お言葉ですが殿下、あまりあの者を信用するのはどうかと。」

「・・・どういう意味?」


 リオンはセバスの方を見ないまま、不機嫌になってそう尋ねた。


「あの者は絶大な力を持っており、国を脅かす存在ですので。」

「クロト君は意味もなくそんなことをしないよ。」

「分かりませんよ。ただの擬態やもしれません。先程の情報も本当かどうか。」


 リオンは耳を傾けながらも、半ば聞き流していた。

 まともに聞けば、怒りが湧いてきそうなので。


「挙句、女性を侍らしている女好き。殿下のことも狙っているのでは?」

「・・・・・・っ!」


 前半部分については、事実ではある。

 だが、この世界ではそれほどおかしなことでもない。

 そして、流石に今の暴言は聞き流せず、ふつふつと怒りが湧いてくる。

 同時に、後半部分について考えて、顔が熱くなる。


 結果として、色んな意味の籠った顔の赤さになった。


「殿下、顔がお赤いようですが、どうかなさいましたか?」

「・・・何でもないよ。少し熱いだけだ。」


 リオンは平静を装ってそう答えた。


「そうでございますか。狙われているかもと考え、照れているのだと・・・。」

「なあっ!?」


 リオンは間抜けな声を上げた。


「ちょっと待って!私はそんなこと考えてない!」

「おや?言葉遣いが変わっているようですが・・・?」

「っ!?」


 どうやら、気を抜くと一人称が私になるらしい。

 普段はこれまでの習慣のせいか、僕という一人称なのだが。


「やはり気になっておられるのですね?確か、求婚されたという話も・・・。」

「ッ!ッッ!?」


 一瞬でその時の心境を思い出し、パクパクと口を動かすリオン。

 どうやら、何故それを知っているのかと聞きたいようだ。


(誰にも話してないのに、どうしてっ!?知ってるのは僕とクロト君、だ、け?)


 そこで、ピンとくるものがあったリオンは、セバスをまじまじと見つめる。


「・・・まさかと思うけど、クロト君、なの?」

「・・・ご名答。変装って、中々気づかれないものなんだね。」


 セバスに変装していたクロトが、変装をときつつ、あっけらかんとそう告げた。

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