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不滅の鬼
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それは、人々から平和が無くなったとある世界のお話。
「HQHQ!A班、二名を残して全滅です!至急救護班を…!」
咳混じりの声で本部に助けを求める。未央は自分の使えなくなった、大切な右腕を見つめてただ時間を費やすことしか出来なかった。目の前に広がる血なまぐさい景色。
「あー…はは…。しぶりんなら、これを絶景とでも呼ぶんだろうなぁ。」
そう呟くと共に、彼女の意識は暗闇に薄れていった。
気づけば質素な天井を見ていた。視線を横にずらすと、本部で私の帰りを待っていたあーちゃんが自分の視界を酷く揺らしながらこちらの顔を心配そうに、それでいて少し怒りっぽく、じっと見ていた。
「ごめんね。怪我なしでは、帰ってこれなかったや。」
少しでも心配をかけたくないから、無理矢理にでも笑ってみた。しかし、無理に笑ってるのが見て取れたのか、嫌味っぽく返事をされる。
「大丈夫。未央ちゃんが怪我をして帰ってくることにはもう、慣れちゃった。」
今日のは流石に驚いたけどね。挙句の果てにはそう付け加えられてしまった。あーちゃんの本音はわかってる。言葉ではそう言っていても、心の奥にある感情は正直に表情へと姿を変えて私に訴えてくる。今にも溢れんばかりにたまった、大粒の涙が私の右腕の代わりに優しく頬を撫でて落ちた。
「次こそは、無傷で帰ってみせるからね。」
不慣れな左手で流れ続ける涙を傷つけないように優しく、いつもよりも優しく拭うと、そのまま背中に手を回し軽く抱き寄せる。今まで通りにはもう、抱きしめることが出来ないことをひどく後悔しながら。
コンコン。誰かが扉をノックする音で凛の意識は書類から逃れた。
「救護班班員の高森藍子です。」
「ん…。どうぞ。」
失礼します。彼女は一歩ずつ丁寧に入ってくる。凛は、彼女の声が不自然に枯れていることから、ある事柄を頭の中にたたき出した。
「藍子がここに来るということは何か問題があったんでしょう。何があったんですか。」
はい、と意を決したように頷く藍子は一呼吸置くと、告げた。
「もう、もう守られているだけは嫌なんです。いつまでも、泣いているだけじゃ嫌なんです。」
絞り出すような(まるで鴉のよう)声で自分の思いを告白する藍子は、凛にとって余りにも寂しそうでもあり、哀れでもあった。いつもの藍子と、二人の関係を知っているからこそ思うことだった。凛は腕を組み思考を張り巡らせる。すると一つの答えにたどり着いた。
「…では、''誓い''を立てしょう。」
「誓い…?どんな誓いですか。」
先程より希望を持った、かと言って不安も捨てていないような目で凛を見る。
「とりあえず、未央をここへ。」
説明はあとだ。そう藍子に伝えると、静かなこくりと頷き一礼してから彼女は未央を連れに部屋から出ていった。
コンコン。再びノックの音が聞こえる。凛が扉をあけるとそこには、二人が立っていた。
「急に呼んでごめんなさい。酷な話ではないから、安心して。」
二人を自分の机の前まで来させると、凛は話を続ける。
「未央。あなたは今日、自分の右腕を潰すという失態を犯した。そうよね。」
彼女は気まずそうに首を縦にふる。
「そのせいで君の隣にいる藍子が悲しんみ、不安を背負っていたことに気づいているね。」
さらに縦に振る。それをみて凛は決心した。この二人には本当に誓いをたててやろうと。
「…うん。ではこうしましょう。絶対に怪我をするな、とは言わない。ただ、ただ必ず生きてここに帰ることを…今ここで、彼女の前で私に誓いなさい。」
鋭く、畏れをまとった目で告げる。彼女は固く、固く答えた。
「必ず生きて帰ってくること、今ここに、誓いましょう。」
凛は未央の決意を聞き入れると、視線を横にずらす。
「藍子。君も彼女が生きている限り、傷を幾度となく治すことを誓いなさい。」
「はい。彼女が生きている限り、私は何度でも治し守って見せます。」
彼女もまた、固く頷く。目には未央と同じ目をしていた。
その後、私は戦場に出て怪我をすることが以前よりも増えた。でも、それを気に負うことはあれ以降無くなった。たとえ、片腕だろうと剣を振り続け、戦場に赴くことを決意したから。絶対に帰るの。「誓いを刃に」変えていく。
その後、彼女の怪我は前のような酷い傷はつかなくなった。その分、小さな傷は増えたけど。それでも、何度戦場に向かっても、私は帰ってくると信じた。誓いを胸に。必ず未央ちゃんは帰ってくる。「誓いをこの手に」私はどんな傷だって癒していくんだ。
これは、人々から平和が無くなったとある世界でうまれた、ある鬼の話。己の大切な人を守るために自らの体を気にせずに前線へ出続ける。どんな傷をつけても、絶対的な信念を見せつけ進見続ける彼女はいつしか、「不滅の鬼」と呼ばれていく。
「HQHQ!A班、二名を残して全滅です!至急救護班を…!」
咳混じりの声で本部に助けを求める。未央は自分の使えなくなった、大切な右腕を見つめてただ時間を費やすことしか出来なかった。目の前に広がる血なまぐさい景色。
「あー…はは…。しぶりんなら、これを絶景とでも呼ぶんだろうなぁ。」
そう呟くと共に、彼女の意識は暗闇に薄れていった。
気づけば質素な天井を見ていた。視線を横にずらすと、本部で私の帰りを待っていたあーちゃんが自分の視界を酷く揺らしながらこちらの顔を心配そうに、それでいて少し怒りっぽく、じっと見ていた。
「ごめんね。怪我なしでは、帰ってこれなかったや。」
少しでも心配をかけたくないから、無理矢理にでも笑ってみた。しかし、無理に笑ってるのが見て取れたのか、嫌味っぽく返事をされる。
「大丈夫。未央ちゃんが怪我をして帰ってくることにはもう、慣れちゃった。」
今日のは流石に驚いたけどね。挙句の果てにはそう付け加えられてしまった。あーちゃんの本音はわかってる。言葉ではそう言っていても、心の奥にある感情は正直に表情へと姿を変えて私に訴えてくる。今にも溢れんばかりにたまった、大粒の涙が私の右腕の代わりに優しく頬を撫でて落ちた。
「次こそは、無傷で帰ってみせるからね。」
不慣れな左手で流れ続ける涙を傷つけないように優しく、いつもよりも優しく拭うと、そのまま背中に手を回し軽く抱き寄せる。今まで通りにはもう、抱きしめることが出来ないことをひどく後悔しながら。
コンコン。誰かが扉をノックする音で凛の意識は書類から逃れた。
「救護班班員の高森藍子です。」
「ん…。どうぞ。」
失礼します。彼女は一歩ずつ丁寧に入ってくる。凛は、彼女の声が不自然に枯れていることから、ある事柄を頭の中にたたき出した。
「藍子がここに来るということは何か問題があったんでしょう。何があったんですか。」
はい、と意を決したように頷く藍子は一呼吸置くと、告げた。
「もう、もう守られているだけは嫌なんです。いつまでも、泣いているだけじゃ嫌なんです。」
絞り出すような(まるで鴉のよう)声で自分の思いを告白する藍子は、凛にとって余りにも寂しそうでもあり、哀れでもあった。いつもの藍子と、二人の関係を知っているからこそ思うことだった。凛は腕を組み思考を張り巡らせる。すると一つの答えにたどり着いた。
「…では、''誓い''を立てしょう。」
「誓い…?どんな誓いですか。」
先程より希望を持った、かと言って不安も捨てていないような目で凛を見る。
「とりあえず、未央をここへ。」
説明はあとだ。そう藍子に伝えると、静かなこくりと頷き一礼してから彼女は未央を連れに部屋から出ていった。
コンコン。再びノックの音が聞こえる。凛が扉をあけるとそこには、二人が立っていた。
「急に呼んでごめんなさい。酷な話ではないから、安心して。」
二人を自分の机の前まで来させると、凛は話を続ける。
「未央。あなたは今日、自分の右腕を潰すという失態を犯した。そうよね。」
彼女は気まずそうに首を縦にふる。
「そのせいで君の隣にいる藍子が悲しんみ、不安を背負っていたことに気づいているね。」
さらに縦に振る。それをみて凛は決心した。この二人には本当に誓いをたててやろうと。
「…うん。ではこうしましょう。絶対に怪我をするな、とは言わない。ただ、ただ必ず生きてここに帰ることを…今ここで、彼女の前で私に誓いなさい。」
鋭く、畏れをまとった目で告げる。彼女は固く、固く答えた。
「必ず生きて帰ってくること、今ここに、誓いましょう。」
凛は未央の決意を聞き入れると、視線を横にずらす。
「藍子。君も彼女が生きている限り、傷を幾度となく治すことを誓いなさい。」
「はい。彼女が生きている限り、私は何度でも治し守って見せます。」
彼女もまた、固く頷く。目には未央と同じ目をしていた。
その後、私は戦場に出て怪我をすることが以前よりも増えた。でも、それを気に負うことはあれ以降無くなった。たとえ、片腕だろうと剣を振り続け、戦場に赴くことを決意したから。絶対に帰るの。「誓いを刃に」変えていく。
その後、彼女の怪我は前のような酷い傷はつかなくなった。その分、小さな傷は増えたけど。それでも、何度戦場に向かっても、私は帰ってくると信じた。誓いを胸に。必ず未央ちゃんは帰ってくる。「誓いをこの手に」私はどんな傷だって癒していくんだ。
これは、人々から平和が無くなったとある世界でうまれた、ある鬼の話。己の大切な人を守るために自らの体を気にせずに前線へ出続ける。どんな傷をつけても、絶対的な信念を見せつけ進見続ける彼女はいつしか、「不滅の鬼」と呼ばれていく。
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