断罪の公爵令嬢は日本に転移して心変わりすると元の世界で成り上がります

三毛猫

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断罪に処す

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「公爵令嬢レリア、其方を断罪に処す」


「お願いです!陛下ー!」

寝ていた私は飛び起きた。私が斬首刑を国王陛下から言い渡される夢を見た。しかし夢ではない過去の記憶が蘇った現実なのだ。

ゴツゴツした石を敷いた床が生身の脚には冷たく、手足に拘束する鉄の枷ですら体温を奪う。
ボロ切れ一枚では冬も近い夜は越せそうもない。そもそも私のような高貴な人に牢屋は全く似つかわしくない。

ユリウス公爵家の令嬢の私は、才色兼備で国内に名の通った存在だったにも関わらず18歳になっても誰からも縁談話はなかった。今考えると私の噂話の方が知れ渡っていたのかもしれない。

男勝りな性格、悪女、非道の令嬢、汚れた心の公爵令嬢という噂だ。


噂は私の耳にも入っていた。でも気にせず毎日のようにメイドや執事、家に仕える者に強く当たっていた。外では身分の低い者には容赦なくこき使い駒のようにして戯れていた。そんな日常が祟って、私は国王の一人息子である7歳のアーマイン・アーバンに対して敬語も無く「カップにお茶を注いで」と言ってしまったのだ。
戯れだった。しかしその光景をたまたま目撃した国王陛下はお怒りになり不敬罪で捕らわれ遂に断罪が下された。


私の行いの何がいけないのか未だに分からない。ただの戯れだったのだ。


お父様は私を差し出すことで罪を免れてお家も守られた。しかし投獄されてからお父様もお母様もお兄様も私に仕えていたメイドでさえ誰一人面会に来ない。
私はようやく誰にも相手にされない痛みと愛されていない苦痛に気付いた。


翌日、処刑日当日。
私の最後の願いでロング丈のドレスを着て刑を執行されることが許された。
執事の中でも1番年老いているセバルスが私のお気に入りの青のドレスを持って駆け付けてくれた。

ドレスに着替えて牢屋から出され処刑人の大男が私の髪を掴み、物置のような小さな部屋に連れられ断頭台に乗せられた。
頭と体を固定し、大男が斧の刃を研ぐ。
部屋にセバルスも入ってきた。

「私も立ち会います」

立ち会いか。セバルスが刑の中止を求めてくれると期待した私が馬鹿だった。
誰も刑を止めない。面会もこない。親ですら嘆願し娘を救おうとしない。愛されない。誰からも愛されていなかった。

処刑人の研いだ斧の刃が首筋にそっと触れる感触が伝わる。

「ゔぁーあー!ゔぁぁあ!」

泣かないと決めていたのに嗚咽し大粒の涙を流した。


終わった・・・。
何もかも終わった。

涙で目の前の景色が滲む。部屋の隅に置かれた木箱も歪んで見える。

処刑人が斧を振り上げた。


すると景色全体が徐々に歪み、断頭台を中心に床一面が白く光った。
処刑人は小さくウッ!と唸り、斧の軌道が僅かにズレて断頭台の縁に当たった。断頭台は壊れて私は断頭台から落ちて頭から床に倒れた。

「お嬢様!」

セバルスの慌てる声がする。
体を捩ってセバルスの方を見ると、セバルスは処刑人を引っ張って倒し、私に駆け寄る。

その瞬間、光は私とセバルスを包んだ。



「眩しい」

一言呟いて起き上がると青い空の下だった。見たことがない巨大な柱や建物。金属の箱のような乗り物が幾つも動いていた。地面を見ると灰色と白色の太い線が交互に描かれている。正面を向くと私とはまるで違う顔立ちをした人々の群れが灰色と白線の上だけを歩いて私の方に向かってくる。

「コスプレイヤーか?ハロウィンは早いぞ」
「うわー。綺麗。ヨーロッパから旅行かしら?」
「おい。邪魔だよ」

行き交う人々の群れの中に入ると、肩がぶつかり合い私は倒れた。

「お嬢様!」

「セバルス!ここは?」

セバルスは手を差し伸べ私を引き起こした。

「さぁ、分かりませぬ。これで枷を外しましょう」

「早く外して!」

セバルスが処刑人から奪った鍵で枷を外した。
人々が私の周りから過ぎ去り、私とセバルスだけ灰色と白色の線の中に取り残された。


「信号変わったから横断歩道早く渡らないと!」

向こうで老齢の女性が叫んだ。



「来て!」という声と共に少女が後ろから強引に私の腕を掴んで引っ張る。少女の力に負け、少女と共に駆け足で灰色と白色の床を走り抜けた。セバルスも私の後から付いてきた。


「渡り切れてよかったわねー」

老齢の女性が私のドレスをポンと叩いた。


「平民風情が触るな!無礼だ」

私はポンと叩いた手を払った。


「心配して損した。失礼な姉ちゃんやね」

老齢の女性は私を一瞥して嫌な顔をして去って行った。



「横断歩道渡らないと危ないよ」

私を引っ張った少女は肩で息をしていた。
振り返ると動く鋼鉄の箱が馬よりも速く行き交っている。もしあの場に居続けていれば私はどうなっていたか。

「危ない場所ね」

「お姉さん日本語分かるの!?」

少女の目はキラキラと輝いていた。
確かに言葉にが分かる。聞いたこともない言葉なのに不思議と理解できた。



「私はニチカ・・・。お姉さんの名前は?何処から来たの?」

「私はユリウス公爵家ユリウス・レリア。アーマイン王国から来ましたわ。ここは何処なの?」

「ここは日本。アーマイン王国?海外の国かな?」

ニチカは黒い光る薄い箱を指で触り
「アーマイン王国は存在しないよ」
と呟いた。

アーマイン王国が存在しない?箱を触っただけで小娘に何が分かると言うのか。

「いたたたっ」

「セバルスどうした?」

私の後ろにいたセバルスは床に座って足首を押さえていた。

「足大丈夫?」

ニチカがセバルスに駆け寄る。

「走ったときに足を捻りました」

「あら。もう歳ね。執事が走れないようでは駄目ね。引退なさい」
私は高笑いする。

「ちょっと待っててね」

ニチカは走って透明なガラスで囲まれた建物の前で止まった。

「ガラスの壁が動いた」

ニチカが建物に入る手前で自動で動いたガラス。日本にも魔法があると私は確信した。

ニチカは手に何かを持ってくるとセバルスの足に巻き付けた。

「冷んやりします」

「靴下に氷を詰めて作ったよ。巻いて冷やしてね」

「ありがとうございます」

セバルスはニチカの手を取って泣いていた。
たかだか介抱されたぐらいで大袈裟な!と私は少し呆れていた。

「ニチカ、私は足が痛い。そなたの履き物が欲しい」

「うーん。いいけど返してね。レリアさん達は何処に泊まってるの?」

「ん?泊まるとは?」

「迷子の観光客だよね?」

「迷子と言えば迷子。観光ではない。行く宛はもうない・・・」

私は知らない国に来た断罪の公爵令嬢なのだ。




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