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つむぎ
しおりを挟むつむぎは、考えあぐねていた。これで、最後にしよう。松本先生へと宛てる手紙は、これが最初で最後だ。
「どうしよう」そう思うと、書きたいことは山ほどあるのだか、筆が進まない。
つむぎは高校生の時、摂食障害を罹患した。高校は受験で勝ち取った屈指の進学校に通っていたが、終止食べ物のことが気になるようになり、結局3ヶ月ほどで辞めざる終えなくなった。終わった。私の人生お先真っ暗だ。つむぎは、絶望のどん底へ突き落とされた気分だった。それから、つむぎは自室へと引きこもるようになった。母親は、ネットを使わずにアナログ的な方法で、児童精神科を探した。母のかかりつけの医師につむぎのことを話したのだ。つむぎの母親のかかりつけ医は、すぐさま精神病院を紹介してくれた。
松本先生と初めて会ったとき、つむぎは下を向いて、「こんな悩みに、一生苛まれるくらいなら本当に死んだ方がましだ」つむぎは吐き捨てるように、松本に言い放った。
松本は、つむぎの負の感情をなだめるように、「悩め悩め」そう言った。少し間があいた。松本は次の瞬間、真面目な顔をして、「きっとつむぎさんは、他の人より繊細で他の人が、達成できないほど真面目で、やり遂げる力があるんだね。その力がつむぎさんを苦しめているのだと思うよ。果たして本当に拒食をしている時だけが、君を救ってくれるのかな」
それが、最初の診察だった。
つむぎは、松本との診察に時に内心ドキリとしたが、診察の時間が苦痛ではなかった。むしろ、自分の中の喜怒哀楽の感情をぶつけても、松本は持って生まれたセンスと経験で柔らかく受け止めてくれたからだ。
松本との診察は決して魔法のように病気を治してくれるものてはなかった。体重が少し増えて怖くなってまた、食べる量を減らしてしまう。つむぎは自分に嫌気が差し、診察室で泣いてしまうこともあった。それでも松本は「回復はまっすぐな道ではなく、坂道を上がったり、下がったりするものだからね」と穏やかに言った。
その言葉につむぎは次第に自分を責めるのやめていった。
一生普通に食べられることなんてない!そう思っていた。つむぎの中で決定的に何が変わったのかは分からない。確かなのは松本と共に悩む
「時間」が流れたことだ。
つむぎは、大学入学検定試験を受けて、見事合格し、この春から、大学生となっていた。病気のほうは少しずつではあるが、よくなっていた。
松本はつむぎが大学進学するとの話を聞いて、「今までがんばったね。君はここに来たときよりも、言葉で表現する力を手に入れた。これからも、葛藤はすると思う。でも、今の君ならきっと大丈夫だ」と満面の笑みで、精神科からの卒業を提案した。
松本はこの意見を後世になって反省したが、この時代の方針としては、普通の生活に患者を戻していくことがいちばんだと考えられていたのだ。
つむぎは、改めて手紙と向き合い、ゆっくりとペンを動かし最後に、「先生のお陰で、自分の思っていることは、態度ではなく、言葉にしないと人に伝わらないということを学びました。最後に先生、生きてさえいれば何とかなるのです。私もようやく生きていてよかったと思えるようになりました。だから、松本先生も多くの人に、伝えていってください。だから生きて!と。私も伝えていきます」
つむぎの書いた力強い秋の便りは、松本のもとへ今を悩める人のもとへ届いていく。
松本は、つむぎからの手紙を、何度も何度も読み返していた。穏やかな秋晴れの日。みなの心がそうであれば、この世に精神科医は要らないなぁ。松本は、1人苦笑いしていた。束の間の昼休み。きついことも多いが、この仕事の醍醐味を感じていた。
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