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一、大陸の孤島 - un’isola della Regina -
マルス大陸の最東端に、イノイル王国という国がある。
小国である。
「大陸に在る」と言うのは少々誤りがある。確かに大陸最東端に位置する半島がその領土だが、唯一大陸と繋がっている僅かな土地は満潮とともに消滅し、イノイル王国は完全な島へと化す。つまり、半日ごとに孤島へ、陸続きの国へと変化を繰り返すのである。
面積は隣の大国エマンシュナの四分の一にも及ばないが、その土地柄、古くから交易が盛んで航海術や造船術のほか、外交にも長けており、屈強な海軍を擁する大海洋国家である。
エマンシュナとの国境から東の制海権は彼らにあり、洋上に点在する独立した島国や、海の向こうのウェヌス大陸との交流も盛んに行われている。
このイノイル王国には、マルス大陸には珍しく黒い髪と瞳を持つ者が多い。「多い」と言っても千年の昔から異民族との混血が進んでいるために、そういう者は十人のうち一人いれば多いほうだ。しかし、たまたま王家に真っ黒な髪と瞳の者が多く生まれることから、イノイルでは例え下層民であっても、黒髪や黒い瞳の者が持て囃される傾向にある。
イノイルがこの大陸で異質な雰囲気を持っている理由は、他にもある。即ち言語である。この国では大陸の共通語であるマルス語を公用語としているが、その独特な方言と他国とは異なる表現方法が多用されることから、マルス大陸の他の国からはイノイル語と呼ばれている。古くは彼らの母語であったイノイルの古語は、マルス語とは似ても似つかず、文字も全く違っていた。この地にやって来た最初のイノイル人はしばらくの間、その未知の言語のみを使っていた。そのために、大陸の他の国々との交流も極端に少なく、閉鎖的な世界で彼ら独自の文化を形成していった。
しかし、時代が下ると共に、イノイルの民は大陸の言語を話すようになった。それまで漁や農耕を生業としていたイノイル民族が、造船技術の発達を機に、交易という新たな主産業を手に入れたからである。交易で発展するには、どの国も使っていない異質な言語を話すよりも大陸と同じ言語を多くの人間が話せる方が、都合がいい。この頃から時の権力者たちによって、イノイルの古語は教養として学ばれる学問の一つになり果ててしまった。
その言語が一体どこで生まれたものなのか、もはや誰にも分からない。最も古い文献でさえ、その根源を辿ることはできない。
そんなイノイル民族の始まりについては、伝説がある。
太古の時代、遥か遠く、東の最果ての地で土を耕して暮らしていた人々のもとへ、異民族がやって来て侵略を始めた。侵略者から逃れるために、人々は巨大な船を造り海へ出、新天地を求めた。流亡の民となった彼らは途中、何度も遭難しそうになりながら、幾年もかけて幾つもの海を越えた。大きな嵐が起き、食糧も尽き、何百という命が失われかけた時、どこからともなく青い鷲が船首に舞い降りて、再び空へ舞い上がり、船を陸へと導いた。流亡の民がその地に根を下ろしたのが、イノイルの始まりであるとされている。
あくまでも伝説である。正確な資料も痕跡も残されておらず、正確なことは歴史学者にも分からない。
しかし、イノイルの民はみな幼い頃から海を故郷と思って育つ。
イノイルの民が大陸の言葉を話すようになってから千年ほど経った頃、イノイル王国は、隣の大国エマンシュナ王国と長年にわたる激しい戦争状態にあった。
戦争の始まりは、当時エマンシュナ王国の属州であったイノイルでクーデタが起こり、統治者が変わったことがきっかけだった。エマンシュナのイノイル総督を倒して新たに統治者となったイノイル民族の王は得意な海戦で勝利し、見事国家としての独立を果たした。しかしながら、血族を重用しすぎるあまり専横甚だしく、結果、三代目で内乱が起きた。
エマンシュナ王国は内乱に乗じて領土を取り返すべく再び戦を仕掛けた。その時、民を守るべく善戦したのが、漁師の身分から世に出て海軍総督となったオーレン・ヴィットーレ・シトーだった。オーレンは見事な外交手腕で休戦協定を結ぶと、次は内乱の終結を図った。――即ち、王家の滅亡である。
オーレンはその野心の大きさと圧倒的な統率力から、海の怪物と呼ばれた。諸外国の君主たちは既に権力を失いつつあった国王よりも、一介の軍人でしかなかったオーレン・ヴィットーレ・シトーとの交渉を重視した。輝かしい戦功を上げ、既に多くの支持者を得ていたオーレンは、同士たちと共に王を弑し、その一族を処罰し、自らが玉座に座った。その後、シトー新王朝の政権が盤石になる前に、大貿易港を擁する領土の一部を取り返そうと、老獪なエマンシュナ国王は協定を破って三度戦を仕掛け、その小競り合いが数年続いた。
両国の弱体化を目前に、オーレン王は娘をエマンシュナ国王の嫡男に嫁がせ、更にエマンシュナの王女を自らの嫡男に嫁がせることで、同盟締結に成功した。同盟の結果、数百年にも及ぶ戦争は終結し、奪い合っていた土地は数年後に独立してルメオ共和国となった。
それから更に百年余りの時が経ち、現在のイノイル王国はオーレン王の曾孫であるイサ・アンナ女王の統治下にある。
女傑である。
イサ・アンナはイノイル・シトー王朝三代国王アキネ・フィオリノの三女として生まれた。イノイルは前王朝の時代から長男相続を常としていたが、アキネ王は男児に恵まれず、先に生まれた二人の王女たちは政治に関心を持たなかった。アキネ王が晩年、病床に臥した折に見事代理を務めたのが第三王女イサ・アンナだった。幼少の頃から政治学や算術のほか武芸にも秀で、他の姫たちがおしゃれや芸事に夢中になる年頃には国政や外交の勉強に勤しんだ。そういう姿を見てきた譜代の家臣たちは、天命を悟ったアキネ王が三女に玉座を譲ろうとした時も女だからと言って異を唱える者はほとんどおらず、むしろみなそれが当然であるかのように受け入れた。
シトー王朝三代アキネ王が崩御すると、イサ・アンナは二十七歳の若さで初のイノイル王国女王として即位した。女王となった彼女が最初に取り掛かった仕事は、大海賊団を排除することだった。海賊団は、東の海上にしばしば現れては交易品や船員、乗客を奪い、イノイルを始め、東の海を渡るあらゆる国々に大きな損害を与えていた。この時周囲の者たちが大いに驚いたのは、女王自らが船首に立ち、討伐に乗り出したことだった。イサ・アンナが盟主となって周辺諸国のルメオ共和国、アム共和国、エマンシュナ王国と連合軍を結成し、諸国の老練な指揮官たちとともに自らも陣頭で指揮を執り、海賊団の一掃に成功した。即位してから五年目のことだった。
このことが若きイサ・アンナ女王の名声を世に知らしめ、彼女は東西諸国の国主たちからも一目置かれる存在となった。以来、諸外国との貿易同盟は更に堅固なものとなり、イノイル王国はますますの発展を遂げている。
晴天の日、イサ・アンナ女王はエマンシュナ国王レオニードとの会見の帰路にあった。イサ・アンナは従者の諫言を無視し、馬にも乗らず、初夏の陽射しを気にも留めずに港の脇の街道を歩いている。先程従者が差し出した日傘を忌々しげに拒否したばかりだ。
まったく不本意な会見だった。
(あのじじい)
女王は柳眉を歪めた。
黒く形の良い眉が白い肌によく映え、遠目から見てもその不機嫌な表情がよく分かる。
イサ・アンナは、父子ほども年の離れたレオニード王とのやりとりがあまり好きではない。レオニードは温厚で篤実な男だ。そのくせ、飄々として人を煙に巻くのが巧い。とても芳しいとは言えない東の海の情勢に関して、「すべてイノイルに任せた」とまるで買い物を頼むような気軽さで言われてしまったのである。「その力をもってすれば海上に敵なし」とまで言われては、殊勝にも引き受けるしかない。
この手の外交は得意なほうだが、やはりレオニード王が一枚上手だ。殊更それが癪に障る。
実のところ、大海洋国家のイノイルも、東の海を荒らしまわる海賊の新興勢力には手を焼いている。大海賊団を制圧したのは既に十年以上前のことだが、その残党が新たに徒党を組み、力をつけ、ウェヌス大陸の大国エル・ミエルド帝国の内乱と政治混乱が手伝って、にわかにその活動範囲を広げているのである。
海賊はそれぞれ一人の首領が自分の手下を従えて一つの党を形成しているが、それらのうち最も大きな党の首領はカノーナスと呼ばれ、元締めとして彼らを統率している。土地を持たない一種の連邦国家のような集団で、忌々しいほど戦が巧い。その上、決して尻尾を掴ませない。先頃派遣した討伐隊は、一応は勝ったものの多くの死傷者を出し、イノイル軍としても大きな痛手を受けた。
女王は腰まで伸びた絹糸のような黒髪を海風に晒し、白い麻のドレスの裾を邪魔くさそうにバサバサと蹴飛ばしながら歩いた。裾に施された波模様の刺繍が金色に光りながら足元に舞っている。
――外交官が必要だ。
それも女王付きの通詞として同行できる上、機転が利いて海に精通している者が。護衛までさせるつもりはないが、いざとなれば自分の身を護れる程度に武術にも長けていれば、なお良い。
今宮廷にいる外交官は、みな優秀ではあるが、精神がやや軟弱か強硬すぎるかのどちらかしかおらず、同盟国や敵対する国々との交渉は任せられても、国家としての大義名分などを持たない海賊団などとの交渉に使える者はいない。どの者もイサ・アンナのすべての要求を満たさないのだ。育ちが良く優秀で勤勉な外交官なら、腐るほどいる。どうせ選ぶならもっと泥臭い者がいい。海を知り、海の人々をよく知っている者が。
大海賊団の制圧から十年、イサ・アンナは同じ自問を繰り返している。
(そのような都合の良い者が、浜にでも落ちてはいまいか)
イサ・アンナは憂鬱な気分で、せわしなく働く船乗りたちの群れに目をやった。
小国である。
「大陸に在る」と言うのは少々誤りがある。確かに大陸最東端に位置する半島がその領土だが、唯一大陸と繋がっている僅かな土地は満潮とともに消滅し、イノイル王国は完全な島へと化す。つまり、半日ごとに孤島へ、陸続きの国へと変化を繰り返すのである。
面積は隣の大国エマンシュナの四分の一にも及ばないが、その土地柄、古くから交易が盛んで航海術や造船術のほか、外交にも長けており、屈強な海軍を擁する大海洋国家である。
エマンシュナとの国境から東の制海権は彼らにあり、洋上に点在する独立した島国や、海の向こうのウェヌス大陸との交流も盛んに行われている。
このイノイル王国には、マルス大陸には珍しく黒い髪と瞳を持つ者が多い。「多い」と言っても千年の昔から異民族との混血が進んでいるために、そういう者は十人のうち一人いれば多いほうだ。しかし、たまたま王家に真っ黒な髪と瞳の者が多く生まれることから、イノイルでは例え下層民であっても、黒髪や黒い瞳の者が持て囃される傾向にある。
イノイルがこの大陸で異質な雰囲気を持っている理由は、他にもある。即ち言語である。この国では大陸の共通語であるマルス語を公用語としているが、その独特な方言と他国とは異なる表現方法が多用されることから、マルス大陸の他の国からはイノイル語と呼ばれている。古くは彼らの母語であったイノイルの古語は、マルス語とは似ても似つかず、文字も全く違っていた。この地にやって来た最初のイノイル人はしばらくの間、その未知の言語のみを使っていた。そのために、大陸の他の国々との交流も極端に少なく、閉鎖的な世界で彼ら独自の文化を形成していった。
しかし、時代が下ると共に、イノイルの民は大陸の言語を話すようになった。それまで漁や農耕を生業としていたイノイル民族が、造船技術の発達を機に、交易という新たな主産業を手に入れたからである。交易で発展するには、どの国も使っていない異質な言語を話すよりも大陸と同じ言語を多くの人間が話せる方が、都合がいい。この頃から時の権力者たちによって、イノイルの古語は教養として学ばれる学問の一つになり果ててしまった。
その言語が一体どこで生まれたものなのか、もはや誰にも分からない。最も古い文献でさえ、その根源を辿ることはできない。
そんなイノイル民族の始まりについては、伝説がある。
太古の時代、遥か遠く、東の最果ての地で土を耕して暮らしていた人々のもとへ、異民族がやって来て侵略を始めた。侵略者から逃れるために、人々は巨大な船を造り海へ出、新天地を求めた。流亡の民となった彼らは途中、何度も遭難しそうになりながら、幾年もかけて幾つもの海を越えた。大きな嵐が起き、食糧も尽き、何百という命が失われかけた時、どこからともなく青い鷲が船首に舞い降りて、再び空へ舞い上がり、船を陸へと導いた。流亡の民がその地に根を下ろしたのが、イノイルの始まりであるとされている。
あくまでも伝説である。正確な資料も痕跡も残されておらず、正確なことは歴史学者にも分からない。
しかし、イノイルの民はみな幼い頃から海を故郷と思って育つ。
イノイルの民が大陸の言葉を話すようになってから千年ほど経った頃、イノイル王国は、隣の大国エマンシュナ王国と長年にわたる激しい戦争状態にあった。
戦争の始まりは、当時エマンシュナ王国の属州であったイノイルでクーデタが起こり、統治者が変わったことがきっかけだった。エマンシュナのイノイル総督を倒して新たに統治者となったイノイル民族の王は得意な海戦で勝利し、見事国家としての独立を果たした。しかしながら、血族を重用しすぎるあまり専横甚だしく、結果、三代目で内乱が起きた。
エマンシュナ王国は内乱に乗じて領土を取り返すべく再び戦を仕掛けた。その時、民を守るべく善戦したのが、漁師の身分から世に出て海軍総督となったオーレン・ヴィットーレ・シトーだった。オーレンは見事な外交手腕で休戦協定を結ぶと、次は内乱の終結を図った。――即ち、王家の滅亡である。
オーレンはその野心の大きさと圧倒的な統率力から、海の怪物と呼ばれた。諸外国の君主たちは既に権力を失いつつあった国王よりも、一介の軍人でしかなかったオーレン・ヴィットーレ・シトーとの交渉を重視した。輝かしい戦功を上げ、既に多くの支持者を得ていたオーレンは、同士たちと共に王を弑し、その一族を処罰し、自らが玉座に座った。その後、シトー新王朝の政権が盤石になる前に、大貿易港を擁する領土の一部を取り返そうと、老獪なエマンシュナ国王は協定を破って三度戦を仕掛け、その小競り合いが数年続いた。
両国の弱体化を目前に、オーレン王は娘をエマンシュナ国王の嫡男に嫁がせ、更にエマンシュナの王女を自らの嫡男に嫁がせることで、同盟締結に成功した。同盟の結果、数百年にも及ぶ戦争は終結し、奪い合っていた土地は数年後に独立してルメオ共和国となった。
それから更に百年余りの時が経ち、現在のイノイル王国はオーレン王の曾孫であるイサ・アンナ女王の統治下にある。
女傑である。
イサ・アンナはイノイル・シトー王朝三代国王アキネ・フィオリノの三女として生まれた。イノイルは前王朝の時代から長男相続を常としていたが、アキネ王は男児に恵まれず、先に生まれた二人の王女たちは政治に関心を持たなかった。アキネ王が晩年、病床に臥した折に見事代理を務めたのが第三王女イサ・アンナだった。幼少の頃から政治学や算術のほか武芸にも秀で、他の姫たちがおしゃれや芸事に夢中になる年頃には国政や外交の勉強に勤しんだ。そういう姿を見てきた譜代の家臣たちは、天命を悟ったアキネ王が三女に玉座を譲ろうとした時も女だからと言って異を唱える者はほとんどおらず、むしろみなそれが当然であるかのように受け入れた。
シトー王朝三代アキネ王が崩御すると、イサ・アンナは二十七歳の若さで初のイノイル王国女王として即位した。女王となった彼女が最初に取り掛かった仕事は、大海賊団を排除することだった。海賊団は、東の海上にしばしば現れては交易品や船員、乗客を奪い、イノイルを始め、東の海を渡るあらゆる国々に大きな損害を与えていた。この時周囲の者たちが大いに驚いたのは、女王自らが船首に立ち、討伐に乗り出したことだった。イサ・アンナが盟主となって周辺諸国のルメオ共和国、アム共和国、エマンシュナ王国と連合軍を結成し、諸国の老練な指揮官たちとともに自らも陣頭で指揮を執り、海賊団の一掃に成功した。即位してから五年目のことだった。
このことが若きイサ・アンナ女王の名声を世に知らしめ、彼女は東西諸国の国主たちからも一目置かれる存在となった。以来、諸外国との貿易同盟は更に堅固なものとなり、イノイル王国はますますの発展を遂げている。
晴天の日、イサ・アンナ女王はエマンシュナ国王レオニードとの会見の帰路にあった。イサ・アンナは従者の諫言を無視し、馬にも乗らず、初夏の陽射しを気にも留めずに港の脇の街道を歩いている。先程従者が差し出した日傘を忌々しげに拒否したばかりだ。
まったく不本意な会見だった。
(あのじじい)
女王は柳眉を歪めた。
黒く形の良い眉が白い肌によく映え、遠目から見てもその不機嫌な表情がよく分かる。
イサ・アンナは、父子ほども年の離れたレオニード王とのやりとりがあまり好きではない。レオニードは温厚で篤実な男だ。そのくせ、飄々として人を煙に巻くのが巧い。とても芳しいとは言えない東の海の情勢に関して、「すべてイノイルに任せた」とまるで買い物を頼むような気軽さで言われてしまったのである。「その力をもってすれば海上に敵なし」とまで言われては、殊勝にも引き受けるしかない。
この手の外交は得意なほうだが、やはりレオニード王が一枚上手だ。殊更それが癪に障る。
実のところ、大海洋国家のイノイルも、東の海を荒らしまわる海賊の新興勢力には手を焼いている。大海賊団を制圧したのは既に十年以上前のことだが、その残党が新たに徒党を組み、力をつけ、ウェヌス大陸の大国エル・ミエルド帝国の内乱と政治混乱が手伝って、にわかにその活動範囲を広げているのである。
海賊はそれぞれ一人の首領が自分の手下を従えて一つの党を形成しているが、それらのうち最も大きな党の首領はカノーナスと呼ばれ、元締めとして彼らを統率している。土地を持たない一種の連邦国家のような集団で、忌々しいほど戦が巧い。その上、決して尻尾を掴ませない。先頃派遣した討伐隊は、一応は勝ったものの多くの死傷者を出し、イノイル軍としても大きな痛手を受けた。
女王は腰まで伸びた絹糸のような黒髪を海風に晒し、白い麻のドレスの裾を邪魔くさそうにバサバサと蹴飛ばしながら歩いた。裾に施された波模様の刺繍が金色に光りながら足元に舞っている。
――外交官が必要だ。
それも女王付きの通詞として同行できる上、機転が利いて海に精通している者が。護衛までさせるつもりはないが、いざとなれば自分の身を護れる程度に武術にも長けていれば、なお良い。
今宮廷にいる外交官は、みな優秀ではあるが、精神がやや軟弱か強硬すぎるかのどちらかしかおらず、同盟国や敵対する国々との交渉は任せられても、国家としての大義名分などを持たない海賊団などとの交渉に使える者はいない。どの者もイサ・アンナのすべての要求を満たさないのだ。育ちが良く優秀で勤勉な外交官なら、腐るほどいる。どうせ選ぶならもっと泥臭い者がいい。海を知り、海の人々をよく知っている者が。
大海賊団の制圧から十年、イサ・アンナは同じ自問を繰り返している。
(そのような都合の良い者が、浜にでも落ちてはいまいか)
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