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八、挑発 - una provocazione -
ある日の午後、同盟国の駐屯地からある報せが入った。ここ数日、南方の海で海賊の新興勢力が活発に動き出している、というものだ。海賊がイノイルの南東に位置する島、アム共和国の海岸に上陸してはいくつかの町を荒らして去り、周囲の島へ移動して同じ蛮行を繰り返すといったことが度々起きている。それらの島々の盟主とも言えるイノイル王国も無論その事態を重く見、アム共和国と共同で討伐隊を派遣することになった。
アルテミシアとの軽妙な会話の後に礼服や軍服を着た閣僚たちの辛気臭い顔と対面するのはとても楽しいとは言えないが、さすがのイサ・アンナもそうは言っていられない。行動範囲を徐々に広げている新興の海賊どもが、いつイノイルの海岸に上陸するとも分からなくなってきたからだ。辛気臭い中年どもが顔を並べる中に、サゲンもいた。
イサ・アンナはそれぞれの部署の責任者に軍備と出動部隊、今回の軍事費用などについて試算させた後、サゲンのほうを向いた。
「バルカ将軍。此度の討伐、そなたが指揮を執れ」
名門バルカ家の嫡男だけあって、サゲンの威厳は堂々たるものだ。父親の威光を借りずして一兵卒から出世を重ねてきたその実力が認められ、老練な先達からも一目置かれている。皆異論はなかった。
「御意」
サゲンは低い声で厳かに応えた。ところが、次の女王の言葉で空気が変わった。
「交渉役としてアルテミシア・リンドを連れていけ」
ざわざわと一斉に男たちが囁きだした。
「リンドとは、陛下が浜で拾ったというあの娘ですか」
「さよう。ゆくゆくは正式な外交官に任命するつもりだ。小手調べにはちょうど良かろう」
一番に女王に進言したのは、口髭を左右に細く伸ばした陸軍の外交役だった。経験者を差し置いて外国人の小娘を起用するとは、心外だとでも言いたそうな顔だ。
「年若い娘を海賊との戦に駆り出すのですか。それはあまりにも…」
「わたしが即位したのも年若いアルテミシア・リンドと同じ二十代だったが、問題か?ハツカリ」
女王が闊達な良く響く声で牽制すると、ハツカリと言う名の外交役は押し黙ってしまった。次に異論を唱えたのは、サゲンだ。
「恐れながら、陛下。リンドが入城してからまだ二週間です。時期尚早かと存じます」
「あれは使い物にならないか?バルカ将軍」
「…数日前まで馬の御し方も知りませんでした」
女王は一笑した。
「そなたらしくもない。愚にもつかぬことを言うな。指南役からはいつでも実戦でやれると報告が来ている。何より、あの者の交渉役としての能力ならこのイサ・アンナが保証している。不足があるとは言わせぬぞ」
(さすがに苦しかったか)
サゲンは眉間に皺が寄るのをこらえた。実のところ、ルメオの乳母のところへ遣いにやった部下がまだ戻って来ていないのだ。身元が不確定の状態では、戦地へ連れて行くのは気が引ける。だからと言って、内々に身元を調査しているとこの場で公言しては、女王の権威を侵害しかねない。今後のアルテミシア・リンドの宮廷での立場もますます苦しくなるだろう。彼女がよく思われていないのは、先程の閣僚たちの表情を見れば一目瞭然だ。
「明朝出発だ。身支度をさせろ」
女王は短く命じた。
アルテミシア・リンドが有能なのは疑いようがない。それだけに、厄介だ。
レイ・シロト・キネウリは上官からの命で赴いたルメオ共和国トーレ港からティグラ港への帰りの船中にあった。レイはサゲンの部下の中でも特に実直な男で、詮索などは全くせずに上官の命令を忠実に遂行する。トーレへの遣いにこの男を選んだ理由はそれだ。イグリやリコでは口数が多すぎ、乳母へ――あるいはアルテミシアへ余計な情報を流しかねない。
乳母のドナ・ジリアーニは中産階級の上品な婦人だった。半分ほど白髪が混じった暗い金髪を後頭部でひっつめ、いかにも熱心な教育係といった感じの女性だ。トーレ地方はルメオ屈指の大貿易港を擁し、ここを拠点に富を築く事業家も多い。ドナの息子もそのうちの一人なのだろう。大豪邸とまではいかないが、綺麗で快適そうな屋敷に住んでいる。
ドナは突然の訪問者に驚いたが、「アルテミシア・ジュディット殿をご存知ですか」と尋ねられると皺の多い顔に嬉色を浮かべ、次いですぐに警戒するような表情を見せた。
「ベルージの旦那様の遣いではないようね」
「イノイルのバルカ家から参りました」
「ラデッサの件と何か関係が?」
レイが訝しんで否定すると、ドナは態度を大いに変え、イノイルからの客人を温かく迎え入れた。世話好きなドナとその家族は、すぐに辞去しようとするレイを酒や食事でもてなし、半ば無理矢理わが家に宿泊させることに成功した。その間、ミーシャお嬢様は元気でやっているのか、御髪は大切に手入れされているかなどと質問攻めにした。残念ながらレイはそれらに答えられるほどアルテミシアのことを知らなかったが、幼い頃の思い出話やいかに利発だったかなどの自慢話をさんざんに聞かされ、強風で海が荒れたために出発が数日遅れたことも手伝って、トーレを発つ頃にはおそらく城内の誰よりもアルテミシアの少女時代に詳しくなっていた。ドナと息子の妻が作った食事はとても美味しく家族揃ってもてなし上手だったため、思いの外楽しい宿泊となった。話し好きなドナのおかげで、上官への収穫も十分すぎるほどだ。
レイがオアリス城に戻ったのは、予定よりも五日過ぎた日の夕刻のことだった。旅塵も落とさぬまま城内のサゲンの執務室へ赴き、見聞きしたことをありのままに報告した。
「ラデッサ」
と、サゲンはそのことに関心を持った。
「ラデッサ地方のことか」
サゲンは頭の中でルメオの地図を思い起こした。ルメオの首都ユルクスの隣がラデッサ地方で、マルス大陸の遥か西方からルメオ北東部に位置するトーレ地方までを結ぶ大街道が通っている。
「おそらく。滞在中、何度も聞き出そうと試みましたが、乳母殿は肝心なことには決して口を開きませんでした」
ほとんど全てがアルテミシアの話と一致するが、思った通り隠していることがあるようだ。彼女が話したくないことはこれに関係するに違いない。
「それから、上官。乳母殿からミーシャに荷物を預かっていますが、一度ご覧になりますか」
サゲンはレイの手にあるピンクのリボンで口を閉じられた可愛らしい花柄のキルティングの包みに目をやり少し考えて、「いや、いい」と首を振った。
「リンドに渡してやれ」
「何を?」
二人の男は戸口を振り返った。アルテミシアがそこに立っている。サイズのぴったりな真新しい軍服姿で、いつものように髪を一つに束ねている。レイの頭に、アルテミシアが髪を肩まで短く切っていることを伝えたときの残念そうなドナの顔が思い浮かんだ。
レイが包みを渡すと、アルテミシアはこの生地と包み方で見当がついたらしい。わくわくと頬を紅潮させながらリボンを解いて、中から大きめの瓶にたっぷり詰まったナッツの蜂蜜漬けを手に取るなり、「やっぱり!」と飛び跳ねて喜んだ。
「ありがとう!」
と満面の笑みでレイに抱き付き、「ドナ元気だった?」「料理は何を作ってくれたの?」「髪のこと言われたでしょ?」と、ドナ顔負けの質問攻めを食らわせた。これにはレイも苦笑した。
「後でやれ」
サゲンが静かに一喝すると、レイは畏まって姿勢を正し、アルテミシアは不服そうに頬を膨らませた。
「あなたはレイからわたしに関する報告を受けたんだから、わたしもドナについて聞く権利がある」
「今はダメだ」
サゲンはにべもない。
「レイ・シロト、帰城早々悪いが、明朝アムへ海賊の討伐に向かう。すぐに準備をして今日は早く休め」
「承知しました」
レイが立ち去ると、サゲンはアルテミシアに向き直った。
「ラデッサで何があった」
アルテミシアは不愉快そうに眉を歪め、サゲンを睨みつけた。
(ドナってば意外とうっかりしてるんだから)
とは言え、遠く離れたドナを詰るわけにもいかない。
「言いたくない。ご自分で調べてみたらどう?でも、そのために呼んだんじゃないよね」
サゲンは苛立ちを隠さずに溜め息をついた。
「そうだ。明日の討伐は君にも同行してもらう」
「知ってる。昼に陛下から聞いた」
アルテミシアは事も無げに肩をすくめた。
「いいか、あくまで通詞としてだ。だが交渉の余地はないだろう。恐らく戦闘は避けられない。その場合、君は決して加わるな。俺の軍令には例外なく守ってもらう」
「わたしの能力を信頼していないってことね」
「君を見込んだ陛下には悪いが、大義名分もない連中に交渉できるとは思えない」
「やってみなければわからないよ」
アルテミシアは小包を持って出て行った。
夜、アルテミシアは簡素な麻の寝衣のままサゲンの書斎に現れた。
サゲンの書斎は広い平屋の一番奥にある渡り廊下を渡った所にある。アルテミシアはこの屋敷に来てから四日目にこの場所を見つけ、以来毎晩のように入り浸ってはお気に入りの本を探すのが日課になっている。軍事関係の書物や語学書のほか、図鑑や辞典、イノイルの古典文学を始めとした各国の文学書が所狭しと並べられ、母屋よりも高い天井に届くほどの大きな本棚が壁を囲むようにいくつも置かれている。初めて足を踏み入れた時に、一目見て気に入ってしまった。大きな窓のそばに置かれた深い青の大きなソファは適度に柔らかくて長時間座って本を読んでも快適だった。やはりこの屋敷は素晴らしい。本棚のひとつに多様な酒とグラスがいくつか置かれているのも尚良い。六年間の船乗り生活で覚えたものの一つが、酒の味だ。もっとも、船長のバルバリーゴは娘を持つ厳格な父親よろしく十七になるまで決して飲ませてはくれなかったが。アルテミシアは、書斎の本だけではなく酒瓶も度々拝借していた。
いつもは書斎の奥に置かれている暗い色の大きな執務机には主人の姿はないが、この日は違っていた。サゲンがランプに明るく照らされた執務机に軍装のまま座っているのを見て、自分の家にワニが入り込んだような場違いさを感じた。当人の屋敷なのに、おかしな話だ。
「その机、使ってたんだ」
サゲンは海図を広げ眺めていたが、アルテミシアに気付くと顔を上げた。
「当たり前だろう。何のためにあると思っている」
アルテミシアは「はは」と笑い声をあげた。自分のことを――無論全てではないが――話して以来、妙な緊張感は消え、二人で談笑するようにまでなった。サゲンもアルテミシアの譲歩を評価し、本心はどうあれあからさまに不信感を表すことはなくなった。結果、乗馬の訓練も成果上々で終わることができた。アルテミシアが馬に乗り満足なスピードで屋敷と城を行き来できるようになると二人が顔を合わせることは減ったが、礼儀正しく適度な距離感で同居生活を維持している。アルテミシアとしては、譲歩した見返りに気兼ねなく気に入った風呂に入れるのだから、それだけでも身を削った甲斐があると思っている。助言をくれた女王陛下に感謝しなければ。
「そこにいるの、初めて見た」
「普段はあまり時間がないから、必要に駆られたときでないと机も出番がない。…酒の出番は最近増えたようだが」
と、サゲンが横目で後ろの本棚の真ん中らへんを見た。酒瓶が置かれている場所だ。
「全部味見したけど、左から三番目のブランデーがいちばん好きだな」
「まったく」
呆れ顔を隠しもせずに左から三番目の瓶とグラスを取り、アルテミシアに注いでやった。
「君みたいな女は初めてだ」
アルテミシアは右手のグラスをサゲンの方に向けて上げ、にんまりと笑った。
「よく言われる」
海図の上には赤と青の小さな船の模型があり、海賊の拠点となるアム共和国周辺の島々のあたりにいくつか印が付けられている。印の周りに赤の模型、それに対するように青の模型が置かれている。
「…包囲戦は無理」
アルテミシアがブランデーを一口飲み、静かに口を開いた。無論、サゲンも承知だ。硬い表情で頷いた。
「あいつらはひとつの場所には留まらずに短期間で拠点を変える。霧や夜陰に紛れ、船や民家を遅い、軍が到着する頃にはまた遠くへ移動している。…まさに神出鬼没だ」
「軍議は船で?」
「ああ。参謀たちがいくつか作戦を提案してくるだろうが、海賊の居場所を割り出す方法は誰も挙げないだろう。アムに着いたら向こうの責任者と共同で軍議に入る」
アルテミシアはグラスのブランデーを飲み干し、サゲンに向き合うように机の端に腰かけた。アルテミシアが近づくと、ラベンダーやローズマリーに混じって樹木の香りがした。サゲンのちょうど目線の高さに生成のドレスに包まれたアルテミシアの細い腰がある。サゲンは渋面を作ったが、アルテミシアは気に留めなかった。
「将軍、作戦を進言してもいい?」
サゲンは首を上に傾け、複数の色が混在するハシバミ色の瞳を見た。アルテミシアも上の位置からサゲンの青灰色の瞳をまっすぐ見つめ、「進言」などと言いながら遠慮する気がないことを示している。
「子供騙しだ」
アルテミシアから作戦を聞いたサゲンは、にべもなく一蹴した。
「軍人だけでやればね。わたしは船乗りだから、あなたの部下よりうまくやれる」
「だめだ」
サゲンの瞳は暗さを増し、もはや不機嫌を通り越して怒りを滲ませている。
「…身元を調べた結果、信用に値しないと思うから?」
「それとは関係ない。君の案は危険すぎると言っているんだ」
「これより良い案はある?偵察隊を出しても本隊到着までに空っぽになる拠点を襲って無駄足になる以外に」
「明日の軍議までは分からない」
「じゃあ、わたしの案も他と同じように検討して」
「失敗すれば、部下が大勢死ぬことになる」
「そんなの、どの作戦にしたって同じでしょ。安全な策なんてない。それに、リスクを取らずに討伐できる相手じゃない。違う?わたしが若い女だからって聞く耳を持たないなら、将軍なんて空っぽの肩書で、あなたはただの臆病者。今の地位もパパのおかげ。正直、幻滅だね」
この挑発は多少効いた。サゲンは椅子から立ち上がると、アルテミシアを剣呑な目つきで見下ろした。間近に立たれるとやはり大きい。壁のような圧迫感がある。それでもアルテミシアは怯まなかった。まっすぐ青灰色の目を受け止める。冷たい色なのにじりじりと焼けつくように感じた。この男が将軍として畏怖され、多くの部下を従えている理由がこれだけでもよくわかる。
「…明日の軍議に出て参謀どもを説得してみろ」
歯の間から唸るように言った。アルテミシアは片方の眉を得意げに上げ、唇の端を吊り上げて笑って見せた。
「アムとの軍議にも出ることになるよ」
ささやかな勝利に内心で勝ち誇っていると、いきなり上腕を掴まれ、机に押し倒された。真上にはサゲンの怒りを滲ませた顔がある。切れ長の目は細まり、大きな手が鋼のような力でアルテミシアの体を刺し貫くように机へ押し付けている。アルテミシアは一瞬狼狽したが、決して顔には出すまいとした。少しでも動揺を悟られればどうなるか分かっている。「所詮は女」と侮られるのは死んでも嫌だ。
「兵士が俺の軍でそのような口をきけば、鳩尾に一発では済まないぞ」
サゲンが拳のかわりに手のひらを鳩尾へ押し付けても、アルテミシアは表情を変えず、サゲンの瞳からも目を逸らさなかった。布越しに熱が伝わってくる。
「兵士じゃなくて残念だったね」
「女ならもっと手酷い目に遭うとは思わないのか」
鳩尾から腰へと手のひらが滑り降り、青灰色の瞳がいっそう暗くなった。それでもアルテミシアは身じろぎしそうになるのを堪えた。
(舐められたら終わり)
「わたしが貞操を失くすぐらいのことを恐れているとでも思うわけ?」
サゲンが僅かに眉を上げたのに気付いて、これは口が滑ったと思った。相手に優位に立たれた気がする。それでも危うい青灰色の瞳から目を逸らさなかった。
「では、少なくとも屈辱は与えられるな」
「どうかな。屈辱を感じるのはそっちかもよ」
サゲンは腰から手を離し、苛立ち紛れにアルテミシアの顎を掴んだ。アルテミシアは気丈にも自由な方の手でサゲンの顎を同じように掴み、鼻で笑った。
「あんたがわたしで勃つと思えない」
「試してみるか」
と、挑発したサゲンが次に見たのは、アルテミシアの何とも言えない表情だった。理解不能な言語を初めて聞いた時のように心底不思議そうな顔をしている。が、それも一瞬だった。再び勝気で小生意気な表情に戻り、軽く口角を上げてサゲンを見ている。
サゲンは大きく舌打ちをして乱暴にアルテミシアの顎を離すと、顔も見ずに荒っぽい足取りで戸口へ向かった。
「明朝六時の出港に遅れるな」
こんな時でも上官らしく言い残していくあたりが腹立たしい。引き戸が音を響かせて閉まった後、アルテミシアはのろのろと上体を起こし、震える手で空のグラスにサゲンの高価なブランデーをなみなみと注いで一気に飲んだ。喉が焼けるようだったが、ものすごい速さで脈打つ心臓にはこれくらいがいい。鳩尾と腕にまだ熱が残り、寝衣の下にじっとり汗をかいている。
(わたしは戦った。相手は尻尾を巻いて逃げた)
初めて挑発に乗り怒りを露わにしたサゲンを前に、感じたのが恐怖だったのかどうか自分でもよく分からなかった。ただ、身体はまだ震えていて頭はびっくりするほど冴えている。眠れるまで本を読むしかない。アルテミシアは分厚い古典文学の本を何冊か手に取り、自室へ戻って行った。
ともあれ、ここ二週間で築き上げた礼儀正しく穏便な関係は破られたと思っていいだろう。
アルテミシアとの軽妙な会話の後に礼服や軍服を着た閣僚たちの辛気臭い顔と対面するのはとても楽しいとは言えないが、さすがのイサ・アンナもそうは言っていられない。行動範囲を徐々に広げている新興の海賊どもが、いつイノイルの海岸に上陸するとも分からなくなってきたからだ。辛気臭い中年どもが顔を並べる中に、サゲンもいた。
イサ・アンナはそれぞれの部署の責任者に軍備と出動部隊、今回の軍事費用などについて試算させた後、サゲンのほうを向いた。
「バルカ将軍。此度の討伐、そなたが指揮を執れ」
名門バルカ家の嫡男だけあって、サゲンの威厳は堂々たるものだ。父親の威光を借りずして一兵卒から出世を重ねてきたその実力が認められ、老練な先達からも一目置かれている。皆異論はなかった。
「御意」
サゲンは低い声で厳かに応えた。ところが、次の女王の言葉で空気が変わった。
「交渉役としてアルテミシア・リンドを連れていけ」
ざわざわと一斉に男たちが囁きだした。
「リンドとは、陛下が浜で拾ったというあの娘ですか」
「さよう。ゆくゆくは正式な外交官に任命するつもりだ。小手調べにはちょうど良かろう」
一番に女王に進言したのは、口髭を左右に細く伸ばした陸軍の外交役だった。経験者を差し置いて外国人の小娘を起用するとは、心外だとでも言いたそうな顔だ。
「年若い娘を海賊との戦に駆り出すのですか。それはあまりにも…」
「わたしが即位したのも年若いアルテミシア・リンドと同じ二十代だったが、問題か?ハツカリ」
女王が闊達な良く響く声で牽制すると、ハツカリと言う名の外交役は押し黙ってしまった。次に異論を唱えたのは、サゲンだ。
「恐れながら、陛下。リンドが入城してからまだ二週間です。時期尚早かと存じます」
「あれは使い物にならないか?バルカ将軍」
「…数日前まで馬の御し方も知りませんでした」
女王は一笑した。
「そなたらしくもない。愚にもつかぬことを言うな。指南役からはいつでも実戦でやれると報告が来ている。何より、あの者の交渉役としての能力ならこのイサ・アンナが保証している。不足があるとは言わせぬぞ」
(さすがに苦しかったか)
サゲンは眉間に皺が寄るのをこらえた。実のところ、ルメオの乳母のところへ遣いにやった部下がまだ戻って来ていないのだ。身元が不確定の状態では、戦地へ連れて行くのは気が引ける。だからと言って、内々に身元を調査しているとこの場で公言しては、女王の権威を侵害しかねない。今後のアルテミシア・リンドの宮廷での立場もますます苦しくなるだろう。彼女がよく思われていないのは、先程の閣僚たちの表情を見れば一目瞭然だ。
「明朝出発だ。身支度をさせろ」
女王は短く命じた。
アルテミシア・リンドが有能なのは疑いようがない。それだけに、厄介だ。
レイ・シロト・キネウリは上官からの命で赴いたルメオ共和国トーレ港からティグラ港への帰りの船中にあった。レイはサゲンの部下の中でも特に実直な男で、詮索などは全くせずに上官の命令を忠実に遂行する。トーレへの遣いにこの男を選んだ理由はそれだ。イグリやリコでは口数が多すぎ、乳母へ――あるいはアルテミシアへ余計な情報を流しかねない。
乳母のドナ・ジリアーニは中産階級の上品な婦人だった。半分ほど白髪が混じった暗い金髪を後頭部でひっつめ、いかにも熱心な教育係といった感じの女性だ。トーレ地方はルメオ屈指の大貿易港を擁し、ここを拠点に富を築く事業家も多い。ドナの息子もそのうちの一人なのだろう。大豪邸とまではいかないが、綺麗で快適そうな屋敷に住んでいる。
ドナは突然の訪問者に驚いたが、「アルテミシア・ジュディット殿をご存知ですか」と尋ねられると皺の多い顔に嬉色を浮かべ、次いですぐに警戒するような表情を見せた。
「ベルージの旦那様の遣いではないようね」
「イノイルのバルカ家から参りました」
「ラデッサの件と何か関係が?」
レイが訝しんで否定すると、ドナは態度を大いに変え、イノイルからの客人を温かく迎え入れた。世話好きなドナとその家族は、すぐに辞去しようとするレイを酒や食事でもてなし、半ば無理矢理わが家に宿泊させることに成功した。その間、ミーシャお嬢様は元気でやっているのか、御髪は大切に手入れされているかなどと質問攻めにした。残念ながらレイはそれらに答えられるほどアルテミシアのことを知らなかったが、幼い頃の思い出話やいかに利発だったかなどの自慢話をさんざんに聞かされ、強風で海が荒れたために出発が数日遅れたことも手伝って、トーレを発つ頃にはおそらく城内の誰よりもアルテミシアの少女時代に詳しくなっていた。ドナと息子の妻が作った食事はとても美味しく家族揃ってもてなし上手だったため、思いの外楽しい宿泊となった。話し好きなドナのおかげで、上官への収穫も十分すぎるほどだ。
レイがオアリス城に戻ったのは、予定よりも五日過ぎた日の夕刻のことだった。旅塵も落とさぬまま城内のサゲンの執務室へ赴き、見聞きしたことをありのままに報告した。
「ラデッサ」
と、サゲンはそのことに関心を持った。
「ラデッサ地方のことか」
サゲンは頭の中でルメオの地図を思い起こした。ルメオの首都ユルクスの隣がラデッサ地方で、マルス大陸の遥か西方からルメオ北東部に位置するトーレ地方までを結ぶ大街道が通っている。
「おそらく。滞在中、何度も聞き出そうと試みましたが、乳母殿は肝心なことには決して口を開きませんでした」
ほとんど全てがアルテミシアの話と一致するが、思った通り隠していることがあるようだ。彼女が話したくないことはこれに関係するに違いない。
「それから、上官。乳母殿からミーシャに荷物を預かっていますが、一度ご覧になりますか」
サゲンはレイの手にあるピンクのリボンで口を閉じられた可愛らしい花柄のキルティングの包みに目をやり少し考えて、「いや、いい」と首を振った。
「リンドに渡してやれ」
「何を?」
二人の男は戸口を振り返った。アルテミシアがそこに立っている。サイズのぴったりな真新しい軍服姿で、いつものように髪を一つに束ねている。レイの頭に、アルテミシアが髪を肩まで短く切っていることを伝えたときの残念そうなドナの顔が思い浮かんだ。
レイが包みを渡すと、アルテミシアはこの生地と包み方で見当がついたらしい。わくわくと頬を紅潮させながらリボンを解いて、中から大きめの瓶にたっぷり詰まったナッツの蜂蜜漬けを手に取るなり、「やっぱり!」と飛び跳ねて喜んだ。
「ありがとう!」
と満面の笑みでレイに抱き付き、「ドナ元気だった?」「料理は何を作ってくれたの?」「髪のこと言われたでしょ?」と、ドナ顔負けの質問攻めを食らわせた。これにはレイも苦笑した。
「後でやれ」
サゲンが静かに一喝すると、レイは畏まって姿勢を正し、アルテミシアは不服そうに頬を膨らませた。
「あなたはレイからわたしに関する報告を受けたんだから、わたしもドナについて聞く権利がある」
「今はダメだ」
サゲンはにべもない。
「レイ・シロト、帰城早々悪いが、明朝アムへ海賊の討伐に向かう。すぐに準備をして今日は早く休め」
「承知しました」
レイが立ち去ると、サゲンはアルテミシアに向き直った。
「ラデッサで何があった」
アルテミシアは不愉快そうに眉を歪め、サゲンを睨みつけた。
(ドナってば意外とうっかりしてるんだから)
とは言え、遠く離れたドナを詰るわけにもいかない。
「言いたくない。ご自分で調べてみたらどう?でも、そのために呼んだんじゃないよね」
サゲンは苛立ちを隠さずに溜め息をついた。
「そうだ。明日の討伐は君にも同行してもらう」
「知ってる。昼に陛下から聞いた」
アルテミシアは事も無げに肩をすくめた。
「いいか、あくまで通詞としてだ。だが交渉の余地はないだろう。恐らく戦闘は避けられない。その場合、君は決して加わるな。俺の軍令には例外なく守ってもらう」
「わたしの能力を信頼していないってことね」
「君を見込んだ陛下には悪いが、大義名分もない連中に交渉できるとは思えない」
「やってみなければわからないよ」
アルテミシアは小包を持って出て行った。
夜、アルテミシアは簡素な麻の寝衣のままサゲンの書斎に現れた。
サゲンの書斎は広い平屋の一番奥にある渡り廊下を渡った所にある。アルテミシアはこの屋敷に来てから四日目にこの場所を見つけ、以来毎晩のように入り浸ってはお気に入りの本を探すのが日課になっている。軍事関係の書物や語学書のほか、図鑑や辞典、イノイルの古典文学を始めとした各国の文学書が所狭しと並べられ、母屋よりも高い天井に届くほどの大きな本棚が壁を囲むようにいくつも置かれている。初めて足を踏み入れた時に、一目見て気に入ってしまった。大きな窓のそばに置かれた深い青の大きなソファは適度に柔らかくて長時間座って本を読んでも快適だった。やはりこの屋敷は素晴らしい。本棚のひとつに多様な酒とグラスがいくつか置かれているのも尚良い。六年間の船乗り生活で覚えたものの一つが、酒の味だ。もっとも、船長のバルバリーゴは娘を持つ厳格な父親よろしく十七になるまで決して飲ませてはくれなかったが。アルテミシアは、書斎の本だけではなく酒瓶も度々拝借していた。
いつもは書斎の奥に置かれている暗い色の大きな執務机には主人の姿はないが、この日は違っていた。サゲンがランプに明るく照らされた執務机に軍装のまま座っているのを見て、自分の家にワニが入り込んだような場違いさを感じた。当人の屋敷なのに、おかしな話だ。
「その机、使ってたんだ」
サゲンは海図を広げ眺めていたが、アルテミシアに気付くと顔を上げた。
「当たり前だろう。何のためにあると思っている」
アルテミシアは「はは」と笑い声をあげた。自分のことを――無論全てではないが――話して以来、妙な緊張感は消え、二人で談笑するようにまでなった。サゲンもアルテミシアの譲歩を評価し、本心はどうあれあからさまに不信感を表すことはなくなった。結果、乗馬の訓練も成果上々で終わることができた。アルテミシアが馬に乗り満足なスピードで屋敷と城を行き来できるようになると二人が顔を合わせることは減ったが、礼儀正しく適度な距離感で同居生活を維持している。アルテミシアとしては、譲歩した見返りに気兼ねなく気に入った風呂に入れるのだから、それだけでも身を削った甲斐があると思っている。助言をくれた女王陛下に感謝しなければ。
「そこにいるの、初めて見た」
「普段はあまり時間がないから、必要に駆られたときでないと机も出番がない。…酒の出番は最近増えたようだが」
と、サゲンが横目で後ろの本棚の真ん中らへんを見た。酒瓶が置かれている場所だ。
「全部味見したけど、左から三番目のブランデーがいちばん好きだな」
「まったく」
呆れ顔を隠しもせずに左から三番目の瓶とグラスを取り、アルテミシアに注いでやった。
「君みたいな女は初めてだ」
アルテミシアは右手のグラスをサゲンの方に向けて上げ、にんまりと笑った。
「よく言われる」
海図の上には赤と青の小さな船の模型があり、海賊の拠点となるアム共和国周辺の島々のあたりにいくつか印が付けられている。印の周りに赤の模型、それに対するように青の模型が置かれている。
「…包囲戦は無理」
アルテミシアがブランデーを一口飲み、静かに口を開いた。無論、サゲンも承知だ。硬い表情で頷いた。
「あいつらはひとつの場所には留まらずに短期間で拠点を変える。霧や夜陰に紛れ、船や民家を遅い、軍が到着する頃にはまた遠くへ移動している。…まさに神出鬼没だ」
「軍議は船で?」
「ああ。参謀たちがいくつか作戦を提案してくるだろうが、海賊の居場所を割り出す方法は誰も挙げないだろう。アムに着いたら向こうの責任者と共同で軍議に入る」
アルテミシアはグラスのブランデーを飲み干し、サゲンに向き合うように机の端に腰かけた。アルテミシアが近づくと、ラベンダーやローズマリーに混じって樹木の香りがした。サゲンのちょうど目線の高さに生成のドレスに包まれたアルテミシアの細い腰がある。サゲンは渋面を作ったが、アルテミシアは気に留めなかった。
「将軍、作戦を進言してもいい?」
サゲンは首を上に傾け、複数の色が混在するハシバミ色の瞳を見た。アルテミシアも上の位置からサゲンの青灰色の瞳をまっすぐ見つめ、「進言」などと言いながら遠慮する気がないことを示している。
「子供騙しだ」
アルテミシアから作戦を聞いたサゲンは、にべもなく一蹴した。
「軍人だけでやればね。わたしは船乗りだから、あなたの部下よりうまくやれる」
「だめだ」
サゲンの瞳は暗さを増し、もはや不機嫌を通り越して怒りを滲ませている。
「…身元を調べた結果、信用に値しないと思うから?」
「それとは関係ない。君の案は危険すぎると言っているんだ」
「これより良い案はある?偵察隊を出しても本隊到着までに空っぽになる拠点を襲って無駄足になる以外に」
「明日の軍議までは分からない」
「じゃあ、わたしの案も他と同じように検討して」
「失敗すれば、部下が大勢死ぬことになる」
「そんなの、どの作戦にしたって同じでしょ。安全な策なんてない。それに、リスクを取らずに討伐できる相手じゃない。違う?わたしが若い女だからって聞く耳を持たないなら、将軍なんて空っぽの肩書で、あなたはただの臆病者。今の地位もパパのおかげ。正直、幻滅だね」
この挑発は多少効いた。サゲンは椅子から立ち上がると、アルテミシアを剣呑な目つきで見下ろした。間近に立たれるとやはり大きい。壁のような圧迫感がある。それでもアルテミシアは怯まなかった。まっすぐ青灰色の目を受け止める。冷たい色なのにじりじりと焼けつくように感じた。この男が将軍として畏怖され、多くの部下を従えている理由がこれだけでもよくわかる。
「…明日の軍議に出て参謀どもを説得してみろ」
歯の間から唸るように言った。アルテミシアは片方の眉を得意げに上げ、唇の端を吊り上げて笑って見せた。
「アムとの軍議にも出ることになるよ」
ささやかな勝利に内心で勝ち誇っていると、いきなり上腕を掴まれ、机に押し倒された。真上にはサゲンの怒りを滲ませた顔がある。切れ長の目は細まり、大きな手が鋼のような力でアルテミシアの体を刺し貫くように机へ押し付けている。アルテミシアは一瞬狼狽したが、決して顔には出すまいとした。少しでも動揺を悟られればどうなるか分かっている。「所詮は女」と侮られるのは死んでも嫌だ。
「兵士が俺の軍でそのような口をきけば、鳩尾に一発では済まないぞ」
サゲンが拳のかわりに手のひらを鳩尾へ押し付けても、アルテミシアは表情を変えず、サゲンの瞳からも目を逸らさなかった。布越しに熱が伝わってくる。
「兵士じゃなくて残念だったね」
「女ならもっと手酷い目に遭うとは思わないのか」
鳩尾から腰へと手のひらが滑り降り、青灰色の瞳がいっそう暗くなった。それでもアルテミシアは身じろぎしそうになるのを堪えた。
(舐められたら終わり)
「わたしが貞操を失くすぐらいのことを恐れているとでも思うわけ?」
サゲンが僅かに眉を上げたのに気付いて、これは口が滑ったと思った。相手に優位に立たれた気がする。それでも危うい青灰色の瞳から目を逸らさなかった。
「では、少なくとも屈辱は与えられるな」
「どうかな。屈辱を感じるのはそっちかもよ」
サゲンは腰から手を離し、苛立ち紛れにアルテミシアの顎を掴んだ。アルテミシアは気丈にも自由な方の手でサゲンの顎を同じように掴み、鼻で笑った。
「あんたがわたしで勃つと思えない」
「試してみるか」
と、挑発したサゲンが次に見たのは、アルテミシアの何とも言えない表情だった。理解不能な言語を初めて聞いた時のように心底不思議そうな顔をしている。が、それも一瞬だった。再び勝気で小生意気な表情に戻り、軽く口角を上げてサゲンを見ている。
サゲンは大きく舌打ちをして乱暴にアルテミシアの顎を離すと、顔も見ずに荒っぽい足取りで戸口へ向かった。
「明朝六時の出港に遅れるな」
こんな時でも上官らしく言い残していくあたりが腹立たしい。引き戸が音を響かせて閉まった後、アルテミシアはのろのろと上体を起こし、震える手で空のグラスにサゲンの高価なブランデーをなみなみと注いで一気に飲んだ。喉が焼けるようだったが、ものすごい速さで脈打つ心臓にはこれくらいがいい。鳩尾と腕にまだ熱が残り、寝衣の下にじっとり汗をかいている。
(わたしは戦った。相手は尻尾を巻いて逃げた)
初めて挑発に乗り怒りを露わにしたサゲンを前に、感じたのが恐怖だったのかどうか自分でもよく分からなかった。ただ、身体はまだ震えていて頭はびっくりするほど冴えている。眠れるまで本を読むしかない。アルテミシアは分厚い古典文学の本を何冊か手に取り、自室へ戻って行った。
ともあれ、ここ二週間で築き上げた礼儀正しく穏便な関係は破られたと思っていいだろう。
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