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四十三、 宝箱 - lo Scrigno -
軍議はオアリス城三階の北側に位置する「鍵の間」と呼ばれるサロンで開かれる。普段から軍に関する会議や接見はここで行われ、特に機密事項の多い軍議の際はこの部屋の四方十メートル以内には限られた者しか立ち入ることが許されず、例え将校の従者であっても例外ではない。この日も扉とその周囲を見張るために四人の衛兵が配置されていた。扉の前方に立つ衛兵が、サゲンが伴って現れたアルテミシアに向かって品定めするような視線を投げたが、サゲンが無感情な目で衛兵を一瞥すると、衛兵は一歩下がって頭を下げ、無言で二人を通した。
鍵の間では既に数人の将校が席に着き、ゴランが何やら立ち働いている。短い黒髪に枕の跡と思しき寝癖がついたままだ。
将校たちはサゲンを見ると立ち上がって頭を下げ、ゴランは作業を続けながら軽く会釈して簡単に挨拶をした。続いてアルテミシアも折り目正しく宮廷風の挨拶をし、彼らも貴婦人に対する恭しい礼をした。
ゴランはこの時、壁に大きな海図とエマンシュナ南部の地図を並べて貼り、中央の円卓にも同じものを用意して色のついた船や馬や人型の模型を用意していた。
サゲンが円卓の一番奥の右側の席に座ると他の将校たちも各々の席に着き、アルテミシアはせっせと軍議の準備に勤しむゴランに歩み寄った。
「イキさん、手伝うよ」
「ああミーシャ、ありがとう。では、この模型は地図の北側にお願いします」
「あ、ねえイキさん。この間連れて行ってくれた小料理屋なんだけど…」
サゲンはぴくりと眉を上げた。アルテミシアとゴランは地図や模型の他に必要な資料を円卓の上に揃えながら何やら談笑している。会話の内容から察するに、いつの間にか二人で食事を楽しむほど親しくなっていたらしい。まさかこの場で悋気を露わにするわけにはいかないが、これは捨て置けない。
(あとで尋問してやる)
まだ二人の関係は公になっていないものの、将校の中には既に海軍司令官と女王陛下の通詞殿の仲を噂に聞いている者もいるから、二人が仲良く雑談をしている間、サゲンは一部の者たちからちょっと腫れ物に触るような視線に晒されることになった。
サゲンたちよりも少し遅れて自慢の白髭を優雅に蓄えたトーラク将軍と顎のがっしりした若い副官が席に着き、それからしばらくしてイサ・アンナがロハクを伴って現れた。慎ましやかなヘリオトロープ色のドレスに花の地紋が入った白絹のベルトを締め、肩からは金糸で鷲の模様が刺繍された重厚な漆黒のローブを纏っている。イサ・アンナが入室すると同時にサゲン以下全員が立ち上がり、円卓の一番奥にイサ・アンナが着席すると、全員が各々の席に座った。アルテミシアは一番下っ端だから、サゲンやイサ・アンナとは正反対の下座に着いた。目の前のイサ・アンナは神妙な表情を変えず、目元だけでアルテミシアに微笑んで見せた。
本当にこの女王はどんな色のドレスでも似合う。と、アルテミシアは内心で感服した。
「諸卿、早朝から苦労を掛ける。軍議を始めよう」
軍議は女王の簡潔な一声で始まった。
初めに同盟国やそれぞれが間諜などから集めた最新の情報を共有し、それらを秘書官であるロハクが文書にする。それらはどれも概ねアルテミシアが既に知っている内容だった。ただ一点、
「ベルージの証言とその他のいくつかの情報をもとにラウル・ヒディンゲルの居場所を特定した」
というサゲンからの情報は初耳だ。
南エマンシュナにある屋敷でアミラの言葉を話す数人の使用人と主人らしき老人が確認され、既にナヴァレから監視を付けているとのことだった。
サゲンの放った密偵が周辺に暮らす者たちから集めた情報は詳細だった。ヒディンゲルと使用人らしき者たちは年に何度かこの屋敷にやって来てはひと月ほど滞在し、主だった来客も他家との交流もなくさっさと国へ帰っていく。これが、毎回必ず大荷物と共に行われるのだ。立派な屋根付きの荷馬車が三台も四台も行き来するのを目撃した者もいる。
アミラ王国とエマンシュナ王国は長い間領土を巡って緊張状態にあるから、エマンシュナ人からすれば近所にアミラ人の住む屋敷があればそこに細心の注意を払いたくなりそうなものだが、それでもこれ以上の情報は誰からも聞き出せなかった。つまり、屋敷の中で何が行われているのかも、何のために大掛かりな移動までしてこの屋敷に滞在するのかも、誰も知らないのだ。ただ、荷物が多いと言うだけで怪しい素振りも実害もないために、周辺の南エマンシュナ人たちはこのよく分からないアミラ人貴族を暗黙の裡に隣人として受け入れていた。
ところが、今回の滞在はどうも少し様子が違う、と密偵はサゲンに報告していた。
「今回ヒディンゲルは少なくとも三か月以上この屋敷に滞在している。近所の者が言うには、これほど長い滞在は前例がないそうだ」
「しかし、バルカ将軍」
と、‘白髭さん’ことトーラク将軍が片手を挙げた。
「そのアミラ人がラウル・ヒディンゲルだという確証は?ベルージ本人が詳細な居場所を知っていたわけではないだろう」
アルテミシアも白髭さんと同じ疑問を持っている。年に数度大荷物でやってくるアミラ人らしき老人がラウル・ヒディンゲル本人だという証拠はまだ示されていない。
「それも既に内偵済みだ。彼らがラウル・ヒディンゲル宛ての請求書を受け取ったのが確認されている」
「ではすぐにでも捕縛しましょう」
と一人の将校が言ったのを皮切りに、彼らはナヴァレに単独で動いてもらうか、共同作戦としてイノイル軍を合流させるかの議論を始めた。ナヴァレは手っ取り早く単独で動きたがるだろうが、連合軍として指揮権をこちらが握っている以上、各軍の行動を統一するためにもイノイルから指揮官を派遣した方が賢明だと言うのだ。それに、盟主であり作戦の監督者であるイノイル軍の体面もある。
サゲンは黙してもっと慎重な意見を待っていた。下座に並んで座るアルテミシアとゴランは彼らの議論に加わらず、円卓の地図を指差して何やら話している。やや二人の距離が近いのが気になるが、この際それは関係ない。
アルテミシアが左隣に座るゴランの顔をチラリと見た。ゴランはくっきりした二重目蓋の下の黒い瞳を光らせて小さく頷き、片手を挙げた。将校たちの視線がゴランに向かって一斉に集まる。
「僕とリンドさんから発案します」
将校たちの視線がアルテミシアへと移った。白髭さんのギョロ目は相変わらず「生意気な」とでも声を発しそうだが、以前よりはその視線も和らいで見えた。イサ・アンナとサゲンは無言でその続きを促した。
「持っている情報から、金の動きを調べてみたんです」
アルテミシアは立ち上がってポケットから五枚のコインを出し、円卓に広げた地図の南エマンシュナの西側のやや内陸部の位置と海に近い位置に一枚ずつ、東側の内陸部に二枚と沿岸部に一枚置いた。
「南エマンシュナに銀行は五つあります。それから、不審船がちょくちょく目撃されるのがここら辺」
と言いながら、南の海の西寄りの沖に黒い船の模型を置いた。
「東側では不審船は目撃されていません。たぶん、東側の領主が自警団を組織して熱心に海上の見回りをしているからだと思います。だから、東側の銀行が使われている可能性は極めて低い」
アルテミシアは東側に置かれた三枚のコインを取り上げ、地図には西側の内陸部と沿岸部に置かれた二枚のコインが残った。
「残りの銀行はどちらもかなり大きな規模で、ルメオ、エマンシュナ、イノイルの主要都市に支店を持っています。この港に近い支店がある方はルメオの銀行で、大手の貿易商御用達。船に大金を積むのに便利だし、海賊も真っ先に目をつけそう。でも…」
アルテミシアは海に近い場所に置いたコインを取り上げた。
「この銀行の事情通でお喋りな奥方は造船所についてなんにも知りませんでした。以前コルネール邸の夜会で話を聞いたから、この銀行は無関係と思っていいはずです」
「残る一つは、西エマンシュナに本拠がある銀行です」
ゴランが残された内陸側のコインを指差し、エマンシュナの西の国境付近に馬の模型を置いた。馬の鼻は西隣のアミラ王国の方を向いている。
「銀行は動いていますが、ご存じの通りエマンシュナ西域はアミラ王国との政情不安で混乱していて正確な情報が届きにくく、遠方に不審な顧客がいるとしてもなかなか気付かない、或いは気付いても対処が難しい状況です」
ゴランは太い眉の下の黒い瞳を輝かせて上座のサゲンを見た。
「バルカ将軍、ヒディンゲル邸の場所はもう把握していらっしゃいますね?」
「ああ。報告では――」
サゲンが立ち上がり、赤く塗られた人型の模型を地図に置いた。
「南エマンシュナ、ソルソン通り四番地」
模型とコインの距離は一ミリほどしかない。
軍議の後、サゲン麾下の隊が全て招集され、作戦に関する情報共有と訓練が行われた。アルテミシアもサゲンの執務室の机を借り、既に行動を開始している。
国を跨ぎ、外国の機関と協力し合った上での作戦になるから、イサ・アンナ女王からの文書に加え、イノイル軍、更に後々起こり得る法的な折衝のために法務局からの文書も乱れのないマルス語に直さなければならない。
本当なら外交担当者と通詞を総動員したいところだが、作戦に関する情報に触れる者は最小限でなければならないため、この業務を担当するのはアルテミシアと茶色い口髭を細くピンと伸ばしたハツカリという中年の外交役の二人だけだった。尚悪いことに、ハツカリは女王に重用される新参の通詞を目の敵にしていて何かと厳しく当たってくる。もちろんアルテミシアもいい気はしないが、ハツカリの立場を考えれば気持ちも理解できる。自分の畑を突然越してきた隣人に荒らされたようなものだ。それに、態度は厳しいものの、さすがに二十年ものあいだ軍の外交役として勤めているだけあってハツカリの仕事は正確で公平だった。だから、書類を分担する時と校正済みの書類を互いに確認する時の僅かな接触の間、やや理不尽にも思えるハツカリの態度の悪さを許してやることにした。
アルテミシアがこの日最後の書類を仕上げようとした時、部屋のドアが開いてサゲンが姿を現した。
「まだいたのか」
サゲンのしかめっ面を見て、アルテミシアは窓の外を見た。既に日が暮れ、いつの間にか執務室の至る所に煌々とランプが灯されている。そういえば使用人が火を入れに来たような気がするが、それに気付く余地もないほど集中していたから、何時間前のことだったか定かではない。
「…道理で肌寒いと思った」
サゲンはアルテミシアの後ろへやって来て分厚い軍服の上衣を脱いでアルテミシアの肩に掛けてやり、仕上がった書類を一束取り上げた。
「ゴラン・イキとこそこそ会っていたのは軍議のためか」
「こそこそはしてないけど、そうだよ。いつ軍議があるか分からなかったから、ちょっと前からイキさんと二人で情報を整理してたんだ。イキさんもわたしと同じで、金の動きから何か掴めないかって考えてた。いい案だったでしょ?」
アルテミシアは得意気に言ってみせた。事実、他にも献策はあったが、最終的にサゲンとイサ・アンナが採用したのはアルテミシアとゴランの作戦だった。
ヒディンゲルを捕縛して海賊への送金の準備をさせ、ヒディンゲルの遣いや銀行の関係者を装った軍の工作員が金の受け渡しの際に海賊船を乗っ取り、カノーナスの船へ案内させる、というものだ。この際、港に停泊する他の商船や客船には連合軍の兵士が待機し、海賊船がカノーナスの乗る母船へ向かって進み出したらその後を尾けることになる。
リスクも負担も大きいが、変幻自在で掴み所のないカノーナスの本拠地を突き止めるには、金の足取りを追うのがいちばん有効な作戦だ。――が、
「何故俺に先に言わない」
と、サゲンの声は不機嫌だ。
アルテミシアはサゲンの顔を見上げた。眉間には微かに皺が寄っている。
「だって、あなたは屋敷にほとんどいなかったもの」
そう言いながら、アルテミシアは自分の言い訳がましさがちょっと嫌になった。
事実、アルテミシアとゴランが金の動きに目を付けたのはサゲンがあちこち忙しく走り回っている時だった。アルテミシアが南エマンシュナに支店を置く銀行を調べるために塔の書庫を訪ねると、先客――ゴランがいた。ゴランが手に金融業者の長いリストとエマンシュナの地図を持っているのを見て、この参謀も自分と同じ考えを持っていることを知った。それから互いに多忙な中、手分けして情報を集め、週に一度仕事の後に食事をしながら中間報告をし合い、作戦を練っていたのだ。
しかし、アルテミシアがサゲンにこのことを言わなかったのは単にサゲンの留守の間にゴランと意見が一致したからというだけではない。だから、
「いればゴラン・イキより先に俺のところに来たか」
というサゲンの問いに言葉を詰まらせ、無意識のうちに唇を噛んだ。
「答えは否か」
サゲンはますます不機嫌そうに眉根を寄せた。アルテミシアは目を伏せ、静かに息を吐いた。これから口にする言葉はサゲンを怒らせるかもしれない。
「前の作戦もそうだったけど、イキさんはわたしと考え方が近い。それに、あなたは…」
チラリとサゲンの目を見た。憂いの多い、嵐の前の空の色をしている。
「近頃はわたしのことになると、私情が入るでしょ。まさか軍議に出ることまで反対されると思わなかったけど、わたしが動かなければならない作戦を立てるとしたら、例えそれが有効な作戦だったとしても絶対ダメって言うもの」
「愛する者を危険から遠ざけておきたいと思うのは当然のことだ」
と、サゲンは否定しない。
アルテミシアは顔が赤くなるのを抑えたくてまた唇を噛んだ。が、無駄な努力だ。顔がみるみる熱くなっていくのが自分でもわかる。しかし、態度だけは毅然として口を開いた。
「それが、わたしとあなたの利害の不一致なんだよ」
サゲンは無表情のまま、アルテミシアをまっすぐ見ている。怒っているのかどうか、アルテミシアにはよくわからない。
「前は情報が入ればすぐに教えてくれたのに、最近はまるで…」
アルテミシアは俯いてまた唇を噛んだ。
「なんだ」
机に映ったサゲンの影が濃くなり、後ろに立つサゲンの存在がいっそう強く感じられる。
「繊細なガラス細工を宝箱に入れるみたいにしてる。それはわたしが望む関係じゃない」
サゲンは軍議にアルテミシアが出ることを不承不承認めたものの、彼女を必要としているとまでは言わなかった。あくまでもサゲンはアルテミシアを守る気だ。
多くの女性は男性に愛され守られることを幸せとするだろうが、アルテミシアは違う。恋人や妻としてだけではなく、ユルクス大学を首席で卒業し大商船の航海士として経験を積み、女王に外交・通詞役として雇われたアルテミシア・リンドとして必要として欲しかった。
一方、サゲンはひどく複雑な思いでいた。
アルテミシア・リンドの力が海賊討伐に関わるべきだというのが海軍司令官サゲン・バルカ将軍としての意見だ。一個人としても、ヒディンゲルの関わる人身売買に対してアルテミシアが望むように決着を付けさせてやりたいと思う。それが彼女が過去の辛苦と決別する手助けになるからだ。
しかし、もはや司令官として、公的な立場の人間として私情を抑えるには、彼女を愛し過ぎてしまった。
アルテミシア・ジュディットを愛するただの男は、彼女を命の危機や任務に伴う肉体的、精神的苦痛から遠く安全で平穏なところに置いておきたいと強く願っている。
この場合、どちらの感情も間違っていない。どちらも理性的で、どちらも感情的だ。ただ一つの問題は、サゲンがどちらの立場を選ぶかだ。そしてこの男は生まれて初めての壁にぶち当たった。サゲン自身、この矛盾に満ちた感情に対処する術を持ち合わせていない。
サゲンがすっかり押し黙ってしまったことに不安を感じ、アルテミシアは顔を上げた。サゲンの眉間に寄った皺と歪な線を描く下まぶたがサゲンの苦悩を表している。
アルテミシアは胸がちくちくと痛くなった。この人にこんな顔をさせるなんて、なんていやな女。と、心のどこかで自分が言った。それでも自分には必要なことだ。自分や亡くなった従妹のためだけでなく、エラのように傷つけられた少女たちや、まだ見ぬ囚われた人々のために。――わたしはそれを終わらせることができる。
「あなたはわたしに命を預けられるって言った」
「ああ」
サゲンが重々しく口を開いた。二人の間にある特別な感情を抜きにしてもそれは変わらない。彼女の正義への忠誠心は、自分が一番よく理解しているつもりだ。
「わたしも同じだよ。あなたのことは初めて会った日から信用してる。わたしを守ってくれるからじゃなくて、あなたが公正で誠実だと思ったから。だって、あなたはイサ・アンナ様の船で初めて会った時わたしを女子供みたいに扱わなかったもの」
「君を選んだ陛下の手前があったからとも言えるぞ」
「それでも、他の人はわたしのことを‘たかが小娘’って思ってるよ。ハツカリさんなんか、いい例。でもあなたは違う」
アルテミシアは立ち上がってサゲンと向き合い、控えめにサゲンの小指をそっと握った。
「一緒に戦わせてくれる?」
サゲンは切れ長の目をアルテミシアに向けたまま短く息を吐き、小指に掴まったアルテミシアの手を大きな手で覆った。
「…君を宝箱にしまってはおけない。そうだろう」
「うん」
アルテミシアの短く断固とした返事を聞き、サゲンはとうとう観念した。最初から分かっていたことだ。アルテミシアを安全なところに置いておくなど、不可能なのだ。
こうなっては認めざるを得ない。
「作戦にも俺にも、君が必要だ」
アルテミシアはサゲンの手のひらの中で自分の手を返して長く節の目立つサゲンの指に自分の指を絡め、その手を自分の唇へ持ってきて口付けをした。
「ありがとう、サゲン」
柔らかな弧を描くアルテミシアの唇が触れた場所が熱を持ってサゲンの心を溶かした。
「…君のそういうところも愛してしまったから、仕方ない」
惚れた弱みと言うやつだ。
アルテミシアは頬を染めて微笑んだ。髪と同じ色のまつ毛がオパールのように輝くハシバミ色の瞳を彩り、目の下にのびのびと影を作った。
「わたしも、あなたが大好き」
アルテミシアは爪先立ちになってサゲンの首に腕を回し、抱きついた。サゲンはその細い腰を支えて上体を屈め、可憐な花びらのような唇にキスをした。
「…今度の作戦が終わったら、婚約を陛下に正式に申し出るぞ」
アルテミシアの唇を親指でそっと撫でながらサゲンが甘く低い声で言った。
「うん」
サゲンはアルテミシアの腰を持ち上げてひょいと執務机の上に座らせ、アルテミシアの両脚の間に入り込んで腰を抱くと、再び深く口付けた。
アルテミシアは心を歓喜に震わせ、唇と手のひらから伝わるサゲンの肌の熱に身体を委ねた。
鍵の間では既に数人の将校が席に着き、ゴランが何やら立ち働いている。短い黒髪に枕の跡と思しき寝癖がついたままだ。
将校たちはサゲンを見ると立ち上がって頭を下げ、ゴランは作業を続けながら軽く会釈して簡単に挨拶をした。続いてアルテミシアも折り目正しく宮廷風の挨拶をし、彼らも貴婦人に対する恭しい礼をした。
ゴランはこの時、壁に大きな海図とエマンシュナ南部の地図を並べて貼り、中央の円卓にも同じものを用意して色のついた船や馬や人型の模型を用意していた。
サゲンが円卓の一番奥の右側の席に座ると他の将校たちも各々の席に着き、アルテミシアはせっせと軍議の準備に勤しむゴランに歩み寄った。
「イキさん、手伝うよ」
「ああミーシャ、ありがとう。では、この模型は地図の北側にお願いします」
「あ、ねえイキさん。この間連れて行ってくれた小料理屋なんだけど…」
サゲンはぴくりと眉を上げた。アルテミシアとゴランは地図や模型の他に必要な資料を円卓の上に揃えながら何やら談笑している。会話の内容から察するに、いつの間にか二人で食事を楽しむほど親しくなっていたらしい。まさかこの場で悋気を露わにするわけにはいかないが、これは捨て置けない。
(あとで尋問してやる)
まだ二人の関係は公になっていないものの、将校の中には既に海軍司令官と女王陛下の通詞殿の仲を噂に聞いている者もいるから、二人が仲良く雑談をしている間、サゲンは一部の者たちからちょっと腫れ物に触るような視線に晒されることになった。
サゲンたちよりも少し遅れて自慢の白髭を優雅に蓄えたトーラク将軍と顎のがっしりした若い副官が席に着き、それからしばらくしてイサ・アンナがロハクを伴って現れた。慎ましやかなヘリオトロープ色のドレスに花の地紋が入った白絹のベルトを締め、肩からは金糸で鷲の模様が刺繍された重厚な漆黒のローブを纏っている。イサ・アンナが入室すると同時にサゲン以下全員が立ち上がり、円卓の一番奥にイサ・アンナが着席すると、全員が各々の席に座った。アルテミシアは一番下っ端だから、サゲンやイサ・アンナとは正反対の下座に着いた。目の前のイサ・アンナは神妙な表情を変えず、目元だけでアルテミシアに微笑んで見せた。
本当にこの女王はどんな色のドレスでも似合う。と、アルテミシアは内心で感服した。
「諸卿、早朝から苦労を掛ける。軍議を始めよう」
軍議は女王の簡潔な一声で始まった。
初めに同盟国やそれぞれが間諜などから集めた最新の情報を共有し、それらを秘書官であるロハクが文書にする。それらはどれも概ねアルテミシアが既に知っている内容だった。ただ一点、
「ベルージの証言とその他のいくつかの情報をもとにラウル・ヒディンゲルの居場所を特定した」
というサゲンからの情報は初耳だ。
南エマンシュナにある屋敷でアミラの言葉を話す数人の使用人と主人らしき老人が確認され、既にナヴァレから監視を付けているとのことだった。
サゲンの放った密偵が周辺に暮らす者たちから集めた情報は詳細だった。ヒディンゲルと使用人らしき者たちは年に何度かこの屋敷にやって来てはひと月ほど滞在し、主だった来客も他家との交流もなくさっさと国へ帰っていく。これが、毎回必ず大荷物と共に行われるのだ。立派な屋根付きの荷馬車が三台も四台も行き来するのを目撃した者もいる。
アミラ王国とエマンシュナ王国は長い間領土を巡って緊張状態にあるから、エマンシュナ人からすれば近所にアミラ人の住む屋敷があればそこに細心の注意を払いたくなりそうなものだが、それでもこれ以上の情報は誰からも聞き出せなかった。つまり、屋敷の中で何が行われているのかも、何のために大掛かりな移動までしてこの屋敷に滞在するのかも、誰も知らないのだ。ただ、荷物が多いと言うだけで怪しい素振りも実害もないために、周辺の南エマンシュナ人たちはこのよく分からないアミラ人貴族を暗黙の裡に隣人として受け入れていた。
ところが、今回の滞在はどうも少し様子が違う、と密偵はサゲンに報告していた。
「今回ヒディンゲルは少なくとも三か月以上この屋敷に滞在している。近所の者が言うには、これほど長い滞在は前例がないそうだ」
「しかし、バルカ将軍」
と、‘白髭さん’ことトーラク将軍が片手を挙げた。
「そのアミラ人がラウル・ヒディンゲルだという確証は?ベルージ本人が詳細な居場所を知っていたわけではないだろう」
アルテミシアも白髭さんと同じ疑問を持っている。年に数度大荷物でやってくるアミラ人らしき老人がラウル・ヒディンゲル本人だという証拠はまだ示されていない。
「それも既に内偵済みだ。彼らがラウル・ヒディンゲル宛ての請求書を受け取ったのが確認されている」
「ではすぐにでも捕縛しましょう」
と一人の将校が言ったのを皮切りに、彼らはナヴァレに単独で動いてもらうか、共同作戦としてイノイル軍を合流させるかの議論を始めた。ナヴァレは手っ取り早く単独で動きたがるだろうが、連合軍として指揮権をこちらが握っている以上、各軍の行動を統一するためにもイノイルから指揮官を派遣した方が賢明だと言うのだ。それに、盟主であり作戦の監督者であるイノイル軍の体面もある。
サゲンは黙してもっと慎重な意見を待っていた。下座に並んで座るアルテミシアとゴランは彼らの議論に加わらず、円卓の地図を指差して何やら話している。やや二人の距離が近いのが気になるが、この際それは関係ない。
アルテミシアが左隣に座るゴランの顔をチラリと見た。ゴランはくっきりした二重目蓋の下の黒い瞳を光らせて小さく頷き、片手を挙げた。将校たちの視線がゴランに向かって一斉に集まる。
「僕とリンドさんから発案します」
将校たちの視線がアルテミシアへと移った。白髭さんのギョロ目は相変わらず「生意気な」とでも声を発しそうだが、以前よりはその視線も和らいで見えた。イサ・アンナとサゲンは無言でその続きを促した。
「持っている情報から、金の動きを調べてみたんです」
アルテミシアは立ち上がってポケットから五枚のコインを出し、円卓に広げた地図の南エマンシュナの西側のやや内陸部の位置と海に近い位置に一枚ずつ、東側の内陸部に二枚と沿岸部に一枚置いた。
「南エマンシュナに銀行は五つあります。それから、不審船がちょくちょく目撃されるのがここら辺」
と言いながら、南の海の西寄りの沖に黒い船の模型を置いた。
「東側では不審船は目撃されていません。たぶん、東側の領主が自警団を組織して熱心に海上の見回りをしているからだと思います。だから、東側の銀行が使われている可能性は極めて低い」
アルテミシアは東側に置かれた三枚のコインを取り上げ、地図には西側の内陸部と沿岸部に置かれた二枚のコインが残った。
「残りの銀行はどちらもかなり大きな規模で、ルメオ、エマンシュナ、イノイルの主要都市に支店を持っています。この港に近い支店がある方はルメオの銀行で、大手の貿易商御用達。船に大金を積むのに便利だし、海賊も真っ先に目をつけそう。でも…」
アルテミシアは海に近い場所に置いたコインを取り上げた。
「この銀行の事情通でお喋りな奥方は造船所についてなんにも知りませんでした。以前コルネール邸の夜会で話を聞いたから、この銀行は無関係と思っていいはずです」
「残る一つは、西エマンシュナに本拠がある銀行です」
ゴランが残された内陸側のコインを指差し、エマンシュナの西の国境付近に馬の模型を置いた。馬の鼻は西隣のアミラ王国の方を向いている。
「銀行は動いていますが、ご存じの通りエマンシュナ西域はアミラ王国との政情不安で混乱していて正確な情報が届きにくく、遠方に不審な顧客がいるとしてもなかなか気付かない、或いは気付いても対処が難しい状況です」
ゴランは太い眉の下の黒い瞳を輝かせて上座のサゲンを見た。
「バルカ将軍、ヒディンゲル邸の場所はもう把握していらっしゃいますね?」
「ああ。報告では――」
サゲンが立ち上がり、赤く塗られた人型の模型を地図に置いた。
「南エマンシュナ、ソルソン通り四番地」
模型とコインの距離は一ミリほどしかない。
軍議の後、サゲン麾下の隊が全て招集され、作戦に関する情報共有と訓練が行われた。アルテミシアもサゲンの執務室の机を借り、既に行動を開始している。
国を跨ぎ、外国の機関と協力し合った上での作戦になるから、イサ・アンナ女王からの文書に加え、イノイル軍、更に後々起こり得る法的な折衝のために法務局からの文書も乱れのないマルス語に直さなければならない。
本当なら外交担当者と通詞を総動員したいところだが、作戦に関する情報に触れる者は最小限でなければならないため、この業務を担当するのはアルテミシアと茶色い口髭を細くピンと伸ばしたハツカリという中年の外交役の二人だけだった。尚悪いことに、ハツカリは女王に重用される新参の通詞を目の敵にしていて何かと厳しく当たってくる。もちろんアルテミシアもいい気はしないが、ハツカリの立場を考えれば気持ちも理解できる。自分の畑を突然越してきた隣人に荒らされたようなものだ。それに、態度は厳しいものの、さすがに二十年ものあいだ軍の外交役として勤めているだけあってハツカリの仕事は正確で公平だった。だから、書類を分担する時と校正済みの書類を互いに確認する時の僅かな接触の間、やや理不尽にも思えるハツカリの態度の悪さを許してやることにした。
アルテミシアがこの日最後の書類を仕上げようとした時、部屋のドアが開いてサゲンが姿を現した。
「まだいたのか」
サゲンのしかめっ面を見て、アルテミシアは窓の外を見た。既に日が暮れ、いつの間にか執務室の至る所に煌々とランプが灯されている。そういえば使用人が火を入れに来たような気がするが、それに気付く余地もないほど集中していたから、何時間前のことだったか定かではない。
「…道理で肌寒いと思った」
サゲンはアルテミシアの後ろへやって来て分厚い軍服の上衣を脱いでアルテミシアの肩に掛けてやり、仕上がった書類を一束取り上げた。
「ゴラン・イキとこそこそ会っていたのは軍議のためか」
「こそこそはしてないけど、そうだよ。いつ軍議があるか分からなかったから、ちょっと前からイキさんと二人で情報を整理してたんだ。イキさんもわたしと同じで、金の動きから何か掴めないかって考えてた。いい案だったでしょ?」
アルテミシアは得意気に言ってみせた。事実、他にも献策はあったが、最終的にサゲンとイサ・アンナが採用したのはアルテミシアとゴランの作戦だった。
ヒディンゲルを捕縛して海賊への送金の準備をさせ、ヒディンゲルの遣いや銀行の関係者を装った軍の工作員が金の受け渡しの際に海賊船を乗っ取り、カノーナスの船へ案内させる、というものだ。この際、港に停泊する他の商船や客船には連合軍の兵士が待機し、海賊船がカノーナスの乗る母船へ向かって進み出したらその後を尾けることになる。
リスクも負担も大きいが、変幻自在で掴み所のないカノーナスの本拠地を突き止めるには、金の足取りを追うのがいちばん有効な作戦だ。――が、
「何故俺に先に言わない」
と、サゲンの声は不機嫌だ。
アルテミシアはサゲンの顔を見上げた。眉間には微かに皺が寄っている。
「だって、あなたは屋敷にほとんどいなかったもの」
そう言いながら、アルテミシアは自分の言い訳がましさがちょっと嫌になった。
事実、アルテミシアとゴランが金の動きに目を付けたのはサゲンがあちこち忙しく走り回っている時だった。アルテミシアが南エマンシュナに支店を置く銀行を調べるために塔の書庫を訪ねると、先客――ゴランがいた。ゴランが手に金融業者の長いリストとエマンシュナの地図を持っているのを見て、この参謀も自分と同じ考えを持っていることを知った。それから互いに多忙な中、手分けして情報を集め、週に一度仕事の後に食事をしながら中間報告をし合い、作戦を練っていたのだ。
しかし、アルテミシアがサゲンにこのことを言わなかったのは単にサゲンの留守の間にゴランと意見が一致したからというだけではない。だから、
「いればゴラン・イキより先に俺のところに来たか」
というサゲンの問いに言葉を詰まらせ、無意識のうちに唇を噛んだ。
「答えは否か」
サゲンはますます不機嫌そうに眉根を寄せた。アルテミシアは目を伏せ、静かに息を吐いた。これから口にする言葉はサゲンを怒らせるかもしれない。
「前の作戦もそうだったけど、イキさんはわたしと考え方が近い。それに、あなたは…」
チラリとサゲンの目を見た。憂いの多い、嵐の前の空の色をしている。
「近頃はわたしのことになると、私情が入るでしょ。まさか軍議に出ることまで反対されると思わなかったけど、わたしが動かなければならない作戦を立てるとしたら、例えそれが有効な作戦だったとしても絶対ダメって言うもの」
「愛する者を危険から遠ざけておきたいと思うのは当然のことだ」
と、サゲンは否定しない。
アルテミシアは顔が赤くなるのを抑えたくてまた唇を噛んだ。が、無駄な努力だ。顔がみるみる熱くなっていくのが自分でもわかる。しかし、態度だけは毅然として口を開いた。
「それが、わたしとあなたの利害の不一致なんだよ」
サゲンは無表情のまま、アルテミシアをまっすぐ見ている。怒っているのかどうか、アルテミシアにはよくわからない。
「前は情報が入ればすぐに教えてくれたのに、最近はまるで…」
アルテミシアは俯いてまた唇を噛んだ。
「なんだ」
机に映ったサゲンの影が濃くなり、後ろに立つサゲンの存在がいっそう強く感じられる。
「繊細なガラス細工を宝箱に入れるみたいにしてる。それはわたしが望む関係じゃない」
サゲンは軍議にアルテミシアが出ることを不承不承認めたものの、彼女を必要としているとまでは言わなかった。あくまでもサゲンはアルテミシアを守る気だ。
多くの女性は男性に愛され守られることを幸せとするだろうが、アルテミシアは違う。恋人や妻としてだけではなく、ユルクス大学を首席で卒業し大商船の航海士として経験を積み、女王に外交・通詞役として雇われたアルテミシア・リンドとして必要として欲しかった。
一方、サゲンはひどく複雑な思いでいた。
アルテミシア・リンドの力が海賊討伐に関わるべきだというのが海軍司令官サゲン・バルカ将軍としての意見だ。一個人としても、ヒディンゲルの関わる人身売買に対してアルテミシアが望むように決着を付けさせてやりたいと思う。それが彼女が過去の辛苦と決別する手助けになるからだ。
しかし、もはや司令官として、公的な立場の人間として私情を抑えるには、彼女を愛し過ぎてしまった。
アルテミシア・ジュディットを愛するただの男は、彼女を命の危機や任務に伴う肉体的、精神的苦痛から遠く安全で平穏なところに置いておきたいと強く願っている。
この場合、どちらの感情も間違っていない。どちらも理性的で、どちらも感情的だ。ただ一つの問題は、サゲンがどちらの立場を選ぶかだ。そしてこの男は生まれて初めての壁にぶち当たった。サゲン自身、この矛盾に満ちた感情に対処する術を持ち合わせていない。
サゲンがすっかり押し黙ってしまったことに不安を感じ、アルテミシアは顔を上げた。サゲンの眉間に寄った皺と歪な線を描く下まぶたがサゲンの苦悩を表している。
アルテミシアは胸がちくちくと痛くなった。この人にこんな顔をさせるなんて、なんていやな女。と、心のどこかで自分が言った。それでも自分には必要なことだ。自分や亡くなった従妹のためだけでなく、エラのように傷つけられた少女たちや、まだ見ぬ囚われた人々のために。――わたしはそれを終わらせることができる。
「あなたはわたしに命を預けられるって言った」
「ああ」
サゲンが重々しく口を開いた。二人の間にある特別な感情を抜きにしてもそれは変わらない。彼女の正義への忠誠心は、自分が一番よく理解しているつもりだ。
「わたしも同じだよ。あなたのことは初めて会った日から信用してる。わたしを守ってくれるからじゃなくて、あなたが公正で誠実だと思ったから。だって、あなたはイサ・アンナ様の船で初めて会った時わたしを女子供みたいに扱わなかったもの」
「君を選んだ陛下の手前があったからとも言えるぞ」
「それでも、他の人はわたしのことを‘たかが小娘’って思ってるよ。ハツカリさんなんか、いい例。でもあなたは違う」
アルテミシアは立ち上がってサゲンと向き合い、控えめにサゲンの小指をそっと握った。
「一緒に戦わせてくれる?」
サゲンは切れ長の目をアルテミシアに向けたまま短く息を吐き、小指に掴まったアルテミシアの手を大きな手で覆った。
「…君を宝箱にしまってはおけない。そうだろう」
「うん」
アルテミシアの短く断固とした返事を聞き、サゲンはとうとう観念した。最初から分かっていたことだ。アルテミシアを安全なところに置いておくなど、不可能なのだ。
こうなっては認めざるを得ない。
「作戦にも俺にも、君が必要だ」
アルテミシアはサゲンの手のひらの中で自分の手を返して長く節の目立つサゲンの指に自分の指を絡め、その手を自分の唇へ持ってきて口付けをした。
「ありがとう、サゲン」
柔らかな弧を描くアルテミシアの唇が触れた場所が熱を持ってサゲンの心を溶かした。
「…君のそういうところも愛してしまったから、仕方ない」
惚れた弱みと言うやつだ。
アルテミシアは頬を染めて微笑んだ。髪と同じ色のまつ毛がオパールのように輝くハシバミ色の瞳を彩り、目の下にのびのびと影を作った。
「わたしも、あなたが大好き」
アルテミシアは爪先立ちになってサゲンの首に腕を回し、抱きついた。サゲンはその細い腰を支えて上体を屈め、可憐な花びらのような唇にキスをした。
「…今度の作戦が終わったら、婚約を陛下に正式に申し出るぞ」
アルテミシアの唇を親指でそっと撫でながらサゲンが甘く低い声で言った。
「うん」
サゲンはアルテミシアの腰を持ち上げてひょいと執務机の上に座らせ、アルテミシアの両脚の間に入り込んで腰を抱くと、再び深く口付けた。
アルテミシアは心を歓喜に震わせ、唇と手のひらから伝わるサゲンの肌の熱に身体を委ねた。
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