王城のマリナイア

若島まつ

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四十八、罪の記録 - le mal -

 屋敷の検分が全て終わる頃には夜が明けて日が昇り、人々の日常生活が始まる時間になっていた。雲は多いが、その切れ間から陽が差して草花についた朝露をキラキラと輝かせ、時々秋の涼しい風が吹いて南エマンシュナ特有の温暖な空気を清々しいものにしている。
 ところが、この屋敷には真冬が早々に訪れたように重苦しい空気が流れていた。
 ソファや絨毯が取り払われて木の床が剥き出しになった一階の広間の床に、地下室で見つけたおびただしい数の証拠品が並べられ、リコの隊が目録を作っている。中には例の肖像画もあった。縫い付けられた髪を取り外すために額縁から外されたキャンバスの裏には画家の走り書きと思わしきものがあり、およそ八十年前の日付と「K・ヒディンゲル男爵夫人」とモデルの名前が記されていた。ラウル・ヒディンゲルの母親と見て間違いないだろう、ということで皆の見解が一致した。この屋敷には家系図などは置かれていないために確証はないが、密偵をアミラに送って調べさせればすぐにわかることだ。
 地下室から出てきたものは、もう一つある。
 額縁が取り外された際、後ろの壁に四十センチ四方の小さな鉄の扉が付いているのが見つかり、その中から出てきたものだ。
 白い陶の壺で、花模様のレリーフで装飾され、赤やオレンジで彩色されている。蓋を開けた時、多くのエマンシュナの兵士たちはこの見慣れない物が何だか分からず首をひねったが、国内の一部の地域で同じ習慣を持っているイノイル人と同じくルメオ人のアルテミシアは、壺を見た瞬間に中を見るまでもなくそれがどういうものか分かった。
 中に入っていたものは、骨と遺灰だった。
 地下室は、ラウル・ヒディンゲルが母親のために造った霊廟だったのだ。
 既に絵画から毛髪を取り外す作業が始まっているが、色や長さの微妙な違いで何人分の髪があるのか特定するのは恐らく不可能だろう。一つ確かなのは、ヒディンゲルが少女たちから髪を切るときに、絵の中で母親の髪を輪留めにしていた髪飾りまでの長さと同じになるよう慎重に切っていたということだ。頭頂部から一つ目の髪留めの長さになるよう長めに切られた髪と、一つ目の髪留めから二つ目の髪留めまでの長さで短く切られたもの、更にその下の髪留めから次の髪留めまでのもの、と続き、それが足元の毛先まで続いていた。同じ束の髪にも色や太さに微妙な差異が認められたため、その中に複数人分の髪が含まれていたことは確実だった。
 その上、色も元の絵の陰影に合わせて暗い金髪と明るい金髪を使い分けていたらしい。細い針と糊を使ってキャンバスに髪を刺し込み、新しい髪を増やすたびに逐一ブラシで毛並みを揃えていたらしい痕跡まで見つかった。おまけに、元々キャンバスに描かれていた髪は腰の長さまでだったことも分かった。元の絵の髪の長さを超えてもなお、母親の髪を増やし続けたことになる。恐るべき妄執だ。
 その後、残された「奴隷」たちにもアルテミシアが個別で話を聞き、証言を得た。半分は死に瀕してもなお主人を恐れているのか頑なに口を開こうとしなかったが、他の者たちは概ね協力的だった。
 彼らは完全分業制だった。ヒディンゲルはそれぞれの役割を細かく決め、決して配置を変えることはなく、彼らが互いの仕事に干渉することはおろか、私的な話をすることをも厳しく禁じていた。必要以上の教育を与えず、奴隷たちを結束させないことで、ヒディンゲルは支配力を保っていたのだ。彼らの母親は全員違うようだったが、彼女たちの素性を知っている者は誰一人としていなかった。
 息子たちと同じように、女たちも厳しく管理されていた。
 エサドの証言では、この屋敷に連れられて来た女は概ね十三から十七歳くらいで、彼女たちには二種類あった。
 一つは「奴隷」だ。彼女たちの多くは当初貧しい家から奉公人として雇われて来た。他にも、外国の没落した貴族の家から非正規のルートで奉公に召し出されたり、行儀見習いとしてヒディンゲル邸へやって来ることもあったらしい。彼女たちはこの屋敷へやって来たその日のうちに地下室へ連れて行かれ、長い時は数か月もの間、毎晩交代で地下室へ連れて行かれた。ヒディンゲルの慰み者として扱われるうちに子を孕めば、働ける程度の年齢になるまでひっそりと子を育てさせられ、あとは奴隷として海賊船へ売られていく。が、これはあくまでも生まれた赤ん坊が男だった場合の話だ。生まれた赤ん坊が女なら、無慈悲にも乳離れと同時に母子共々売られていく。
 もう一つは、「花嫁」――エサドは「花嫁」としか言わなかったが、これがどういうものかアルテミシアには分かっている。貴族の子女が「妻」として売られ、行き着く先だ。かつてアルテミシアがベルージによって歩まされるはずの道だった。
 花嫁は最初客間に案内されて二日から三日のあいだ丁重に扱われ、その後地下室へ連れられる。そして数日間の拷問の後、髪を一束切られて海賊船に売られる。これには例外があり、ヒディンゲルのお眼鏡に適わなかった少女は地下室へは行かない。暗い茶色の髪や背が高い少女はヒディンゲルの好みではなかったというのである。そして意外なことに、ヒディンゲルは処女にはほとんど手をつけなかったらしい。花嫁がやって来た日に、ヒディンゲル自身がそれを確かめていた。多分、高く売れるからだろう。歪んだ性衝動に駆られた末の異常な行動に見えて、内実は恐ろしく冷静で打算的だった。
 花嫁がこの屋敷にいる時には必ず二、三人の奴隷がいて、花嫁の身の周りの世話をさせられた。花嫁が住んでいる間は地下室へ行かされるのは花嫁一人だけだが、花嫁がいない期間は複数の奴隷を同時にいたぶることもあったらしい。
 花嫁は、エサドが知っているだけでも二十一人いた。そのうち三人が船に乗るまでに命を落とした。一人は地下室に連れられて行った翌日に自ら首を吊り、一人は地下室から逃げようとして足を滑らせて頭蓋骨を割り、一人は食事を与えられないまま何日も拷問され続け、虫の息で馬車に乗せられた。――アルテミシアの従妹、マリエラだ。
 奴隷の死者はもっと多かったらしい。エサドは少なくとも過去に百人以上の奴隷を地下室へ案内したと話した。にも関わらず、実際に海賊へ引き渡したのは三分の二程度だったという。遺体の処理を担当していた者は遂に口を開かなかったから、残りの少女たちの中で逃げ果せた者がいたのか、全員命を落としたのか、正確には分からない。
 
 アルテミシアはこれらの内容を全てマルス語に直して報告書に書き起こさなければならなかった。
 全員の証言を聴き取るのに丸三日を要したが、それが終わった後はそれ以上忌々しいヒディンゲルの屋敷に居続けることに堪えられず、報告書のための机仕事をするのに別の場所を所望した。結果、バスケ元帥の計らいでヒディンゲル邸から程近いエマンシュナ軍関係者が所有する別荘の一室を用意された。屋敷の主人が引退したエマンシュナ軍の元高官でバスケとは旧知であり、ヒディンゲルの監視にも協力していたため、部屋の提供にも協力的だった。アルテミシアが聴き取りを終えたその足で訪ねると、早朝にも関わらず既に大きなソファ付きの書斎を用意してくれていた。
 広過ぎず快適な書斎で、陽当たりはよく、窓から差す陽光が床の木目を美しく見せ、窓際の机の隅にはポットとカップと皿にこんもり盛られたクッキー、それに使用人を呼び出すための銀のベルが置かれている。しかし、屋敷の主人や使用人の心遣いもポットに入っているであろう熱い紅茶も、アルテミシアの心を軽くしてはくれなかった。
 アルテミシアはまず後ろでひっつめていた髪を解き、ブーツと軍服のドレスとズボンを脱ぎ捨て、下着姿になってソファに身を投げ出した。他人の屋敷で無作法極まりないが、バスケ元帥の指示で機密情報である報告書の作成が終わるまではこちらから声をかけない限り誰も書斎に近付かないことになっているから、誰にも見られる心配はない。それよりもあの屋敷のむせ返るような薔薇の匂いと地下室に漂っていたカビと死臭の混ざったようなにおいが身体中に染み付いているような気がしてならず、それがたまらなくいやだった。
 使用人が気を利かせ、部屋の隅に大きな盥に入った湯と大きな布を用意してくれていた。アルテミシアはそれを見つけるなり下着も脱いで身体中をごしごし拭い、髪も湯につけて洗った。それでも鼻の奥に薔薇とあの屋敷のにおいが残っている。どうにも不快感が拭えず、後先を考えずに下着もたらいの湯につけて洗ってしまった。
(しまった)
 替えの下着が馬の鞍に括りつけたままの荷物袋に入っていることを思い出した時には、もう後の祭りだ。素肌の上から軍衣に身を包む気にはなれなかったから、椅子に登ってカーテンレールに下着を引っ掛けた後で大きな浴用の布をショール代わりに肩から掛けて身体を覆い、机に向かった。窓からは十分陽が差しているから、報告書を完成させる頃には下着も多少乾いているだろう。
 布にくるまって羊皮紙の束に羽ペンを走らせ始めたものの、時折筆を進めるのに耐えられなくなって頭を抱え、椅子の周りをぐるぐると回った。場所を変えてソファの上に書見台を置いて寝そべりながら書いてみたりもした。この報告書が今後の作戦やヒディンゲルの罰を確定するための根拠になるので、これが終わらなければ次の任務に関する軍議が開けない。サゲンやバスケ元帥がヒディンゲル邸に留まって残りの調査をしている間に報告書を完成させる必要がある。気が急くばかりだった。
 アルテミシアにとって、この三日間はひどく憂鬱な日々だった。朝から晩までヒディンゲルの息子たちの調書を取り、証拠の検分に参加し、陽が落ちてから一時間かけて港へ戻り、乗って来たカラヴェラ船の硬い簡易ベッドで仮眠を取って、早朝になれば再び一時間かけて悪鬼の巣窟へと向かう。
 この疲労に加えて、睡眠不足が彼女の神経をすり減らした。多忙だからというだけの理由ではない。目を閉じるとあの髪の毛が目の前に浮かび上がるのだ。あの中に従妹の髪があったはずだ。生まれてこの方一度も会うことなく、顔も存在も知らずに自分の身代わりとして命を奪われ、既にパタロアで灰となった十三歳のマリエラ・フェレールの髪――。髪だけが辛うじて彼女の生きていた頃の姿を留めている。ところが、今となっては、あの中のどこに従妹が存在していた痕跡があるのかも分からない。
 アルテミシアはのろのろとソファから立ち上がり、机の上のポットを手に取ってカップに中身を注いだ。出てきたのは紅茶ではなく、コーヒーだった。ふんわりとカップから立ち昇る芳醇な匂いを目を閉じて鼻いっぱいに吸い込み、深く呼吸をしてコーヒーを飲んだ。苦味が頭の細胞を再び働かせ始める。この時脳裏に浮かんだのは、サゲンと暮らす森の屋敷だ。木をそのまま切り出したような明るい色の木目が目立つテーブルと、白磁のカップが二つ、目玉焼きとよく焼けたパンの乗った皿、野菜たっぷりのスープ、それから、起き抜けの二重まぶたになった笑顔のサゲン。――
 こんなふうにどこかに帰りたいとこいねがったのは、人生で初めてのことだ。
「…よし」
 アルテミシアはまだ濡れている髪を布でワシワシと拭いた後、再び髪を後ろで一つに縛り、布を胴に巻きつけ、両端を胸の上で留めて簡単なドレスを作ると、もう一度机に向かった。
(さっさと全部終わらせて、サゲンと帰ろう)
 そのためには、まずはこれを終わらせなければならない。
 
「服はどうした」
 喫驚したようなサゲンの声にフと我に返り、アルテミシアは顔を上げた。窓の外では既に陽が高い位置に昇り、こんもり盛られていたクッキーはいつの間にか残すところあと一枚となっている。報告書もあと羊皮紙半分ほどで完成できそうだ。
 振り返ると、扉の前に外套を脱いだ軍装のサゲンがいた。険しい顔つきだ。二日間周辺の土地を含む屋敷の捜索や証拠品の検分に奔走する兵を指揮し、寝る間もほとんどないほどだったから、さすがに疲れているのだろう。顎には無精髭が生え、ゆるく波打つ栗色の短髪もちょっとくたびれて見える。
「あそこ」
 アルテミシアがカーテンレールに引っかかっている下着を指差した。
 腕を組んで咎めるような視線を送ってくるサゲンに、アルテミシアは弁解するように肩をすくめた。
「…あの屋敷のにおいがとれなくて、気持ち悪かったから」
「風邪を引く」
 サゲンは上衣を脱いでアルテミシアの肩に掛けてやり、アルテミシアが書き終えた報告書の束を手に取った。
 アルテミシアはサゲンにバレないようにスンスンと上衣の匂いを吸い込んだ。サゲンの方がヒディンゲル邸に長くいたはずなのに、染み付いているのはサゲンの匂いだけだ。これが、妙にアルテミシアの心を落ち着かせた。ついさっきまで、冷たい死の世界に独りぼっちでいるような気分だった。手は机仕事に集中していたが、筆でヒディンゲルの悍ましい罪悪を辿れば辿るほど、まるで自分が当事者であるかのように錯覚し、精神は地獄の氷山に囚われた。そこへ、サゲンの存在が匂いと声を伴って現れ、アルテミシアの意識をこの書斎へ、現実へと引き戻した。
「わたしが呼ぶまで誰も来ないって聞いてたけど」
「指揮官は別だ」
「バスケ元帥も?」
「そうだ」
「それは危なかった。死ぬほど気まずい思いをするところだったね」
「まったく…」
 サゲンは語気を強くして羊皮紙からアルテミシアの木綿の布に隠された胸へと視線を移した。当の本人は冗談めかして笑っているが、こちらにとっては冗談ではない。他の誰かが彼女の素肌を目にするなど、到底許せるものではない。
「もう少し警戒心を持て。そんな格好でいたら、誘惑していると思われても仕方ないぞ」
 サゲンの叱責するような口調に、アルテミシアは無性に反抗したくなった。疲労と行き場のない思いがそうさせているのは自覚している。自棄になっているのかもしれない。理由ははっきりとは分からないが、ただ目の前の相手を乱してやりたかった。
 アルテミシアは最後の一行を書き終えてペン立てに羽ペンを差し、わざわざゆっくりと立ち上がって胸がサゲンの身体に付くほど接近し、手の甲でサゲンの腕をなぞりながら最後の羊皮紙を差し出した。
「どうぞ、バルカ将軍」
 アルテミシアは小首を傾げ、わざと誘惑するように微笑んで見せた。サゲンの青灰色の瞳が煙るように欲望を映し出すと、アルテミシアは小さな満足感を覚えた。
 サゲンは苛立ったように眉間に皺を寄せてアルテミシアから羊皮紙を取り上げると、肩を掴んで引き離した。
「反抗のつもりか」
「何が?」
 しらばっくれながらアルテミシアはまだ悪戯っぽく微笑んでいるが、サゲンには魂胆が分かっている。
「…今この状況では俺が手を出せないと承知で煽っているな」
「だって、報告書ができたから急いで軍議を開かなきゃ。出て行ってくれる?服を着るから」
 アルテミシアはパラリとサゲンの上衣を滑り落として白い肩を露わにすると、膝をついて机に登り、わざわざ尻がサゲンの方を向くようにしてカーテンレールに引っかけた下着を取った。背後からサゲンの淫らな視線が痛いほど刺さる。
 しかし、勝利の笑みは長くは続かなかった。振り返るとサゲンが唇を歪に吊り上げ、捕食者の目を向けていたからだ。アルテミシアはそのまま机に腰掛け、捕食者と対峙した。
「…急いで招集をかけるんじゃないの?」
「それが、夕刻まで延期になった」
「どうして?」
「庭から骨が出てきた。バスケ元帥が現場を指揮しているが、まだ時間が掛かりそうだ。何十人分とある」
 サゲンは吐き捨てるように言った。やりきれない思いは同じだ。
「売られなかった女の子たちかな…」
「恐らくは」
 まただ。追い出したはずの薔薇の庭園の匂いが鼻の奥に戻ってくる。
 アルテミシアは叱責された意趣返しに相手の神経を逆立ててやろうとしたことを少なからず後悔したが、サゲンはこれをなかったことにはしなかった。
「俺はそれを報せに来たんだが――」
 サゲンは音もなく机に近付いてアルテミシアの腰を抱き寄せ、両脚の間に入り込んだ。
「俺は売られた喧嘩は買う主義だ。断っておくが、俺も気が立っているから優しくはできないぞ」
 不機嫌な青灰色の瞳の奥で欲望の色が濃くなり、火がついた。アルテミシアの背中にぞくりと背徳的な予兆が走り、凍り付いていた心臓を再び鼓動させ始める。サゲンを挑発することで自分が何を手に入れたかったのか、この時分かった。そして、サゲンも同じ救いを求めている。
「…いいよ。あなたの匂いで満たして欲しい」
 アルテミシアは懇願するようにまっすぐサゲンを見た。これがサゲンにとってどれほど強力な誘惑になっているか、本人は自覚してもいない。この瞬間にサゲンの血が熱く滾り、自制をやめさせた。
 サゲンはアルテミシアの腰を抱いていない方の手を背後に伸ばし、カーテンを力任せに引いて窓を覆うと、アルテミシアの顎を掴んで噛み付くように唇を塞ぎ、胸の上に巻きついている布に手を掛けて乱暴に剥ぎ取った。
 一糸纏わぬ姿となったアルテミシアの首筋にサゲンが歯を立て、手のひらで乳房を覆い、親指で突起に触れた。早くもアルテミシアの肌が紅潮し始め、ほんのり色づいた唇から小さな悲鳴が漏れた。
 宣言通り、サゲンはいつものような優しい愛撫をしなかった。アルテミシアが痛みを感じるほどに肌の至るところに噛み付き、吸い付き、痣のような痕を残した。
「いっ…!」
 まだ慣らされていない身体の奥に二本の指が突き立てられ、アルテミシアは苦痛に呻いた。
「奥は濡れているぞ、ほら」
 サゲンはそう言って指を引き抜き、濡れた人差し指と中指をアルテミシアの目の前に持って来てべろりと舐めた。アルテミシアはさすがに顔を真っ赤に染めて言葉を失ってしまったが、その後のサゲンの行動は迅速だった。
 サゲンは手早くズボンの前を寛げるとアルテミシアの脚を掴んで大きく広げ、腿を押し上げて自分の肩に掛け、息もつかせず一番奥の壁を叩きつけるように何度も突き入れた。
「あ!」
 まだ解されていない内部を痛いほど乱暴に突き動かされているのに、アルテミシアの身体は早くも反応を始め、腹の奥から背中を通って全身へと歓喜の震えが走った。
「あっ、あっ、サゲン――!」
「ああ」
 サゲンは獣のような息遣いでアルテミシアの身体を貪り続けた。ガタガタと机が音を立てて揺れ、アルテミシアは嵐の中に放り出されたような荒々しさに堪らずサゲンの首にしがみついた。頸の皮の下で脈がどくどくと速く打っているのを感じる。
 サゲンの肉体は熱く、脈を伴って、今この時、何よりも確かに生きている。石壁の暗く湿った場所に葬られた灰でも、生命から切り離された髪の束でもなく、身体の中に感じるこれ・・こそが現実だ。熱を灯され、絡み合って溶け合った二つの肉体が、この世で最も確かなものだ。
「――ッ、はっ、アルテミシア…!」
 アルテミシアが甘い叫びを上げながら腰を震わせて内部を収縮させ、サゲンを強烈な快楽へと導いた。
 
 サゲンに下腹部を拭われる感触が、アルテミシアを一瞬の自失から呼び醒ました。
「…痛むか」
「ちょっと」
 サゲンは自分の放った精液の付いた布をたらいに放り込み、床に落ちたアルテミシアの下着を拾って頭からかぶせてやった。あれほど彼女の身体に我を失いながら、直前で引き抜いた自分を大いに称賛したい気分だ。
 乱れて顔に掛かったストロベリーブロンドの髪を指でよけ、額に口付けると、アルテミシアが心地よさそうな唸り声を上げてサゲンの胸に頬を寄せた。
「でも、生き返った気分」
「そうだな。君の肌に色彩が戻ったようだ」
「そんなにひどい顔してた?」
「ああ。――」
 死体のようだった。と口を開きかけて、やめた。今の彼女にとっては禁句かもしれない。やっといつもの調子を取り戻したアルテミシアがまた死体のような顔になると困る。
「あなたも、鬼みたいな顔じゃなくなってる」
 サゲンの心配を知ってか知らずか、アルテミシアはサゲンの眉間を指でちょんちょんとつついて、そこに口付けをした。
「ハッ」
 サゲンが口を大きく開けて笑った。
「お互い様だ」
 ふふ、とアルテミシアが喉の奥で笑った。この耳をくすぐる微風のような笑い声が、またしてもサゲンの肉欲を昂らせた。生成りの下着から覗く胸元には先程サゲンが付けた痕がいくつも残り、薄い布の下で胸の先端がつんと立っている。
「ああ、だめだ。服を着ろ、アルテミシア。さもないとこれで終われない」
 アルテミシアは一瞬言葉を失って頬をじわじわと染めたが、しどけない仕草でそろりと両腕をサゲンに巻き付けた。
「…でも、軍議は夕刻でしょ」
 蜜色やグリーンの混じったハシバミ色の瞳が柔らかい光を含んで潤っている。サゲンも引き締まったアルテミシアの腰を両腕で抱き、その瞳を覗き込んだ。生命の中にいるという実感を、今度は何かに縋るような感情ではなく、満ち足りた気分の中で味わいたいのだ。気持ちは理解できる。サゲンも同じものを欲しているからだ。アルテミシアの唇が近付いてくる。今度は意図的に誘惑するようなそれではなく、柔らかくリラックスした笑みを浮かべて。
「…今度はゆっくり、優しくしてくれる?」
 ふ、と笑みを漏らし、サゲンはアルテミシアの唇にゆっくりと深いキスをした。
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