王城のマリナイア

若島まつ

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五十四、シンパシア - Sympathia -

 アルテミシアとアガタ隊の乗った小船は一番小さなカラヴェラ船へ到達した。既に航行はしておらず、入り江の奥まった場所に停泊している。恐ろしく岩の柱が入り組んでいて瀬が浅く、あちらこちらに岩礁があるような場所だ。浅瀬も難なく航行できるイノイル軍のカラヴェラ船でも、ここまでは入って来られないだろう。この小型のカラヴェラ船でさえ、岩礁を避けて航行するには地形を知り尽くしている必要がある。
 推測通りなら、ここに捕虜となった女たちや財産が集められているはずだ。
 外の甲板には誰の姿も見当たらなかった。船の中央に船室があり、扉は閉じられ、窓はすべてカーテンのような厚い布で覆われている。
 イグリの部下二人は見張りのため船に残り、イグリとアルテミシアは海賊のカラヴェラ船に跳び上がって縁に捕まり、静かに上った。船室からは、物音がしない。
 イグリが扉に向かって声を掛けようとしたが、アルテミシアがちょんちょんとイグリの肩を指でつつき、自分の方を指差した。
「そうだな。君の方が適任だ」
 イグリは頷いて小声で言った。女たちが捕まっているなら、女性の方が安心するだろう。
「誰か、いる?」
 返事はないが、微かに物音がした。息を殺して囁くような声のようにも聞こえた。
「わたしはミーシャ。捕まった人を助けるために、イノイル軍から派遣されて来たの」
 マルス語が通じない可能性も考慮して、アルテミシアはエル・ミエルド語でも同じ内容を繰り返した。
 中では物音が大きくなったようだ。何かの相談をしているのかもしれない。もしもここにいるのが捕虜でなければ、剣を抜いて闘わなければならない。アルテミシアとイグリは俄かに緊張した。しばらくすると、扉がゆっくりと開いた。すぐ奥には紅色のビロードのカーテンがあり、中の様子を窺い知ることはできない。すぐにそれがゆらりと動いて小柄な女が顔を覗かせた。顎が細く、唇が薄い、儚げな貌をした美しい女だ。年の頃は判らない。少女のようでも、大人の女性のようでもある。濃く長い睫毛に縁取られた新緑のような明るいグリーンの瞳がこちらを注意深く窺っている。
「…イノイル軍が来ているの?」
 女が少女のような高い声で発したのは、マルス語だった。エマンシュナ南西部の訛りがある。
「うん、そう。助けに来たんだよ」
 アルテミシアが言うと、女は口元に笑みを浮かべた。信用してくれたらしい。アルテミシアは安堵した。
 女は視界を遮っていたカーテンを開けた。広い船室の奥には他にも全部で六人の女たちが集められている。年の頃は十代半ばから二十代前半といったところだろう。顔立ちを見る限り、皆マルス人だ。
 彼女たちは商品として丁重に扱われているようだった。内部はローズピンクやコバルトブルーやオレンジ色の布張りで、天井から下げられた幾何学模様のガーランドや色とりどりの花などで美しく装飾されている。奥に見えるいくつかのカーテンで仕切られた部屋のようなものは、恐らく彼女たちの寝室だろう。中央には可愛らしい猫足のローテーブルがあり、その上にはいくつも果物が乗った銀の皿が置かれている。
 猫も何匹かいた。白と茶色の混じった毛の長い猫と、灰色の縞模様の毛が短い猫と、同じく真っ白な猫だ。どこかにまだ隠れているかもしれない。何人かの女がそれらの猫をしっかり抱いている。猫たちは女たちに馴れているようだった。
 奥で香を焚いているのか、甘い香りもする。えた臭いのする海賊船とは大違いだ。女たちの身の上を考慮に入れなければ、至極快適な空間だ。彼女たちは皆身なりがよく、髪を美しく結い、髪飾りを着け、ルメオ風の豪華なドレスを着ていた。ルメオの上流階級の子女と言っても通じるほどだ。かと言って彼女たちがルメオ人であるというわけではない。ルメオ風のドレスはマルス大陸では流行の最先端だから、買い手への見映えを考慮しているに過ぎない。栄養状態も良いらしく、捕虜にしてはみな血色が良かった。ただ、表情に乏しく、どこか虚ろだ。いくらきれいに整えられた場所であっても、海賊船に囚われているのだから無理もない。
 最初に応対した小柄な女がアルテミシアとイグリの前に進み出た。他の女たちと同じようにスカートの広がりが小さいルメオ風のドレスを着ていた。肩まで開いたドレスのターコイズブルーが小麦色の肌によく映え、腰まで波打つチョコレート色の巻き毛を一層美しく見せている。
 女は大きな緑色の目で二人をよく観察し、口を開いた。
「どうやってわたしたちを逃がすの?ここの地形では、余程この辺りを知っていないと岩にぶつかって船が沈んでしまうわ」
「誰が舵を取っていたの?」
 アルテミシアが尋ねると、女は瞳に暗い影を落とした。
「もちろん、海賊よ。船をここに停めた後、すぐに迎えの小船で親方のところへ行ったわ」
 アルテミシアは船室をぐるりと見回した。蔦模様の絨毯が敷かれた床の一番奥に窪みがあり、下のデッキに続く幅の狭い階段が見える。恐らくは、あの下に銀行に預けていない分の財産が保管されているはずだ。
 アルテミシアはイグリと無言で視線を交わした。果たして慎重なカノーナスが監督者もなく財産を置き去りにして戦闘に参加させることがあるだろうか。もしかしたら、どこかに海賊が潜んでいるのではないか。
「他に誰かいる?」
 女はアルテミシアの問いにかぶりを振って答えた。
「ここにいる子たちで、全員よ。あとは猫が三匹」
 嘘をついている素振りはない。
「…みんなでここにいて」
 アルテミシアとイグリは奥へ進み、下のデッキへ降りた。薄暗いが、人の気配はない。捕虜の女の言ったことは正しかった。
 下層のデッキは上層のように布張りの装飾などはされておらず、木の板が剥き出しになっている。その床板の上に保存食らしい乾物や酒樽がたっぷりと置かれ、ランプオイルの入った大きな瓶もいくつもあった。かなりの贅沢品だ。その一番奥に、いくつもの大きな木箱が布を被せられている。イグリが人一人通るのもやっとというほどの隙間を縫って奥へ進み、麻布を剥ぎ取って木箱を開けると、案の定、中身は戦利品の山だった。様々な国の貨幣や純金の塊、宝飾品がきちんと中で区切られて仕舞われている。その横に置かれたいくつもの木箱にも、恐らく同じものが入っているのだろう。
「…ここにあるだけで豪邸が建つな」
 イグリが溜め息を吐いた。
「銀行にはどれだけあるんだろうね」
 アルテミシアも同じくらい遣る瀬ない気持ちだった。奪われたものの大きさを考えると、とてもやりきれない。イグリが陰鬱な気分を振り払うようにアルテミシアの肩を叩いた。
「問題は、彼女たちをここからどう逃がすかだな。この船で岩を避けて行くのは、正直俺には無理だ。君もだろ?」
「小船を使おう。全員乗れなければ、往復しないといけないけど」
「奇遇だな。俺も同じ事を考えてたよ」
 イグリがウインクして見せたが、アルテミシアは肩を竦めて見せただけだった。気分は重くなる一方だ。イグリが気遣わしげに表情を曇らせた。
「なあミーシャ、大丈夫か」
「大丈夫。ただちょっと――」
 アルテミシアは身震いした。
 同じだ。上のデッキにいる彼女たちや、この略奪された戦利品の山は、自分がなるはずのものだった。この無機質な輝きが、まるで鏡のように感じられる。
(怖い)
 アルテミシアは拳を握った。
「わたしも、こうなってたかも…」
「…ああ。でもならなかったじゃないか。なんて名前だっけ?あの海賊…ああ、そう、ニドのタマだって潰してやったろ?君は略奪品なんかじゃない」
 アルテミシアはイグリに心許ない笑みを見せた。
「早いとこ彼女たちも助けてやろうぜ」
 イグリが先程よりも強くアルテミシアの肩を叩いた。

 女たちの輸送が始まった。
 小船の積載限度を考えると、やはり三人ほど乗れない者が出る。操舵手と戦闘要員で兵が三人は必要だから、ここを削るわけにはいかない。かと言って無理に全員乗せてしまえば、転覆の危険性が増す。結局、アルテミシアと捕虜の女二人が船に残り、小船の往復を待つことになった。
「お待ちを。あと一人乗れるわ」
 ターコイズブルーのドレスの女が船に残された少女を縁へと連れて来た。
「この子はわたしよりも小柄だしとても軽いの。一緒に乗っても平気よ。早くその船に乗せてあげて」
 既に小船に乗っているイグリは、先に乗り込んだ女たちを見た。確かに、何人かは少女と言ってもいい年頃で、大人の男の半分ほどの重さだろうと思われた。
「わかった」
 イグリは承諾し、最後に少女を乗せて出航した。カラヴェラ船には、アルテミシアと女が海賊の略奪品とともに残された。
「…夜風は冷えるわ。中で待ちましょう」
 女がアルテミシアを船室へと促した。麝香の香りがする船室へ入ると、真っ白な毛の短い猫がぐるぐると喉を鳴らして足元にすり寄ってきた。アルテミシアは屈んで猫の背を撫でてやった。毛並みはよく手入れされていて、柔らかい。
「あなた、強いのね」
「え?」
 アルテミシアは女の方を振り返った。女は白い猫を抱き上げて猫足のテーブルの前にちょこんと座り、銀の皿に置かれた果物の中から葡萄を手に取って一粒食べた。
「あ、ごめんなさい。さっき、あの軍人さんと話しているのが聞こえたの。‘海賊のタマを潰した’とか何とかって」
「ああ、あれは――」
 アルテミシアは気まずくなった。相手が人間の屑のような男だったからといって、感情に任せて瀕死の重傷を負わせたことは間違いだった。それに、凶暴な殺意に自分を呑み込まれてしまったことが恥でもあったし、空恐ろしくもある。アムのカルロ・スビート元帥は豪胆だと褒めたが、事実は違う。ただ、恐怖に負けたに過ぎない。アルテミシアにとっては、全く誇らしいことなどではなく、寧ろ汚点でさえあった。スビート元帥には冗談めかして誇らしげに言って見せたが、女だからと舐められないために必要だったからそうしただけだ。サゲンもアルテミシアの感情に気付いているのだろう。その証拠に、そのことをサゲンから話題にしたことは一度もない。
 しかし目の前の女は、英雄の冒険譚をせがむ子供のような顔でアルテミシアを見ていた。この不安な状況や彼女自身に起きた境遇を、それによって紛らわせたいのかもしれなかった。
「…そう。戦ったの。わたしも助けられたんだけど」
「でも、すごいわ」
 女は男なら誰もが夢中になってしまうような蠱惑的な微笑を浮かべて葡萄をもう一粒食べた。そのくせ、大きな緑色の瞳は好奇心旺盛な童女のように無垢に輝いている。このまま売られていたら、彼女のこの瞳も曇ってしまっていたに違いない。
「遅くなったけど、わたしはロクサナよ。ミーシャ」
 ロクサナが葡萄を食べていない方の手を差し出した。アルテミシアは握手を返すのも忘れ、呆然とした。頭を酒瓶で思い切り殴られたような気分だった。
 カノーナスの船で死んだ男は、最期に娘の名前を口にした。――ロクサナ、と。
 アルテミシアはロクサナの差し出した手を両手で掴んだ。ロクサナは少し驚いた様子で、小首を傾げた。
「ロクサナ…、あなたのお父さんのことで、話さなきゃいけないことが――」
「いいのよ」
 ロクサナはその先を察したらしい。アルテミシアの手を握り返し、伏し目がちに呟いた。
「そういう生き方をしてきたんだもの。仕方ないわ」
「どういう生き方?」
「先祖代々の家業を潰して、新しい事業に失敗して、生活のために妻の連れ子を売るような生き方」
 自嘲するように言ったロクサナの声は、少女というよりは人生に疲れた女のようだった。
「こんなところにいるんだもの。わたしに何が起きたか聞いても、驚かないでしょ?」
「うん…」
 そう答えながら、アルテミシアは胸が痛くなった。
「あの人は本当の父親じゃないの?」
「そうよ。母が早くに夫を亡くした後、小さいわたしを連れて結婚した相手。最初は老舗の宝石商だったけど、夢見がちで、どうしようもなくお金の使い方が下手だったのよ。いくら言っても、経済の仕組みが理解できない人だった」
「それは、意外だね。商家の人なのに」
 アルテミシアが言うと、ロクサナはふふ、と喉で笑った。
「元は農夫だったのよ。宝石商は、わたしの実の父親がやっていたの。それを母が継いで、再婚した後はあの人が主人になって、全部だめにした。最低でしょう?」
「それで、どうして二人揃ってここに?」
 ロクサナは唇をキュッと締め、目を伏して再び口を開いた。
「最初はわたしだけだったわ。バカよね。素人が海賊と直接関わりを持つなんて、死ぬまで食い物にされるに決まってるのに。あの人がここに来たのは、何年か後のことよ。その間に母は死んで、父はエマンシュナ中で詐欺を働いてお尋ね者になっていたの。警察隊から逃げてきた父を親方が仲間に入れて、親方の慰み者にされていたわたしと同じ船に乗って…、最悪の再会でしょ?罵って、唾を吐いてやったわ」
 殴らなかっただけましだ、とアルテミシアは思った。もしも自分がロクサナの立場だったなら、殴るだけでも済んだかわからない。
「その時、お父さんはどうしたの?」
 アルテミシアの問いにロクサナは吐息だけで笑い、吐き捨てるように言った。
「負け犬みたいに、地に伏して謝ってたわ。何でもするから許せって。それが弱みになるとも知らずに」
「罪悪感につけ込まれたってこと?」
「そうよ。わたしがいれば父は逃げないし、親方に言われるまま何でもやった。弱みがある人間は便利だもの」
 アルテミシアの脳裏に男の最期が蘇った。あの涙は罪悪感から生じたものだったのだろうか。「娘を死なせないでくれ」と頼んだ後に蚊の鳴くような声で発したのは、懺悔の言葉だったのだろうか。
「その頃はいつ親方に飽きられて他所に売られるかっていう毎日だったけど、女を売る仕事には女手があった方がいいって気付いたんでしょうね。どっちにしても、地獄には変わりないけど」
 親方とはカノーナスのことだろう。寵愛を受けたロクサナは他の女たちのように売られず、彼女たちを監督する役目を負わされていた。怯えてヒステリーを起こす女を御すのには、女の方が都合がいい。いかにも狡猾なカノーナスらしいやり方だ。
「辛かったね」
「父のことは、残念だけど…天罰が下ったのよ」
 そう言って顔を上げたロクサナの瞳は、痛ましいほどに決然としていた。
(同じだ)
 と、アルテミシアは思った。
(この子は、売られたわたし)
 もし十四歳のあの日、ラデッサで逃げ切れなかったとしたら、ヒディンゲルの元へ嫁いでいたら、自分もロクサナのようになっていたかもしれない。
「お父さんのこと、まだ恨んでる?」
 不意に、薄い緑色の瞳に虚ろな光が踊った。
「どうかしら。今となっては、もう分からないわ」
「亡くなる前に、あなたのことを気にかけていたよ。助けてやってくれって、言われた」
「泣いてた?」
「うん、泣いてた」
 ロクサナは薄い唇を引き結んだ。何かの感情を押し殺しているようだった。無言のまま葡萄をもう一粒食べ終わった後、アルテミシアに例のうっとりするような微笑を向けた。
「…今度はあなたのことを聞かせて。生まれはどこ?」
「ルメオの、パタロアっていう森と山ばかりのところだよ」
「素敵。わたしは海ばかりだったから、そういう場所って魅力的だわ。動物はいた?」
 アルテミシアは笑った。
「いたよ、たくさん。ウサギとか、鹿とか、熊とか、狼にも会ったことがある。狩りもしたよ」
「すごいわ。狩りは、あなたのお父さんが教えてくれたの?」
「あー、ううん。わたし、父親は知らないんだ」
「じゃあ、わたしと同じね。お母さんはあなたを一人で育てたの?」
「それも、あなたと同じような感じ。いろいろと複雑なんだ。話すと長くなるよ」
「聞きたいわ。時間はあるもの」
 少し躊躇したが、それで彼女の気が紛れるなら、それでもいい。
 アルテミシアはロクサナに生い立ちを話し始めた。ロクサナは話を聞くのが素晴らしく上手い女だった。これも売られてから身に付けた処世術なのかもしれない。アルテミシアは初対面の人間に対して、自分の人生をこれほど多く語ったことはなかった。が、何故か、ロクサナには話してしまう。彼女に立ち入った話をさせておいて自分は話さないのでは公平さに欠けるからとも言えるが、それ以上に彼女には不思議な力があった。
 また、アルテミシアはロクサナに自分自身を重ねた。義父に売られたという境遇だけではない。彼女が時折見せる暗く虚ろな瞳が、自分が心の底に抱え続けている暗い憤怒や深い恐怖と同じものを映したからだ。どこか自分と同じ目をしていると思った。
 ロクサナも同じことを感じたらしい。
「わたしたち、似てるわね」
 ロクサナがちょっと悲しそうに言ってアルテミシアの手を取った。彼女からは麝香とは違う甘い香りがした。

 カノーナスは水練の巧者であるらしい。
 サゲンはカラヴェラ船から下ろした救命艇の櫂を漕いでその後を追っている。が、その姿を見たのは海に呑まれていったのが最後だ。財産を乗せた船に向かったという確証はない。
 それにしても、波は高いとまではいかないが、大海原を敵が横行する中その身一つで泳ぐとは、いくら財産を守るためとは言え、無謀とも言える豪放さだ。これまで諸事慎重に事を進めてきたカノーナスとは別人のようだ。
 ハタ、と、櫂を漕ぐ手が止まった。
 ずっと持っていた違和感は、これだ。
(あれは本当にカノーナスか)
 指揮官は紛れもなくあの男だ。統率力も、恐怖で部下を縛り付ける力も持っている。加えて腕も立つ。
 しかし、戦法を見ても、本人を見ても、慎重に事を進めてきた狡猾な男とは人物像が違う。あの‘アリスモス・トリア’が、各国の権力者たちとあれほど細やかな条件を設けた上で不法な取り引きを行い、人身売買などという下劣な行為を一大ビジネスとして展開することができただろうか。
 そこへ、アガタ隊の乗る小船が差し掛かった。船の規模は、サゲンの方が二回りほど小さい。
「上官!」
 イグリが驚いて声を上げた。
「海賊の指揮官が泳いで捕虜の船に向かっている」
「まさか。カノーナスが?」
 イグリたちは波間を泳ぐ人影に気付かなかった。波が男を隠したのだろう。助け出された少女たちは、不安そうに互いに顔を見合わせている。
「おい、アルテミシアはどうした」
 女たちが積載量をやや超えて乗っているのには一目見て気付いていたが、アルテミシアの姿がその中に見えない。
「乗れなかった女性に付き添っています。彼女たちを軍船に乗せたら、迎えに…」
「くそ!」
 サゲンは再び櫂を掴んで船を漕ぎ始めた。
 ’アリスモス・トリア’がアルテミシアの方へ向かっている。本物のカノーナスもそこで合流する気かもしれない。
「あの爆発は陽動作戦だ!軍船に着いたら応援を寄越せ!カノーナスは別の奴だ!」
 アガタ隊の船に向かって叫びながら、サゲンは腕の筋が悲鳴を上げるほど櫂を強く引いた。
 何かとてつもなく嫌な予感がする。
 ’アリスモス・トリア’がアルテミシアに牙を剥く前に、斬る。――
 サゲンはギリリと奥歯を噛んだ。
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