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七十八、船出 - l'onde chiare -
トーレ港がだんだんと小さくなっていく。
アルテミシアは客船の縁に両肘をついて寄りかかりながら、最後の三日間に起きたことを思い返していた。
両親は二十年以上も離れていたのが不思議なほど息ぴったりで、二人ともできる限り多くの時間をアルテミシアと過ごしたがった。三日前には、ジュードと二人で港から少し離れた岩場まで釣りに行った。父親と二人で魚釣りなど、これまでの人生では考えられなかったことだ。ドナはあまりいい顔をしなかったが、アルテミシアはシャツとズボンだけの簡素な服を着た。釣りをする時は船乗りの時と同じ格好でないと、何となく違和感がある。
この日釣れたスズキ五匹とイワシ七匹は、なんとサゲンとロベルタが二人で調理した。サゲンが料理に明るいという新事実は、ドナの評価を大いに上げた。逆にマルグレーテが「男が出来すぎると女の価値が下がる」と聞き捨てならないことを言い出したので、アルテミシアは半ば憤慨しながら対抗心を燃やしてデザートを作った。かつて船長のバルバリーゴ夫妻に世話になっていた時に覚えたスパイスとレモンのケーキだ。サゲンのスズキ料理もアルテミシアのレモンケーキも、家人たちから大好評を得た。イヴは特にアルテミシアのケーキが気に入ったらしく、二切れもおかわりしていた。
ジュードは何に関しても寛容だった。アルミシアの服装に関しても立ち振る舞いに関しても何も口うるさいことは言わない。とは言え遠慮しているという風でもなく、ありのままの娘を理解しようとしているようだった。
ただし、唯一サゲンとのことには口を出した。それも、サゲンに故郷や家族のことを尋ねたり、アルテミシアと暮らすオアリス郊外の森の屋敷のことやオアリス城内でのことを詳しく知りたがったりと、どうやらオアリスに戻った後のアルテミシアの生活を心配してのことだ。
マルグレーテは間も無くバルカ子爵夫人になる娘に、でき得る限りのことを教えようとした。貴族の女主人としての立ち振る舞いや、主人の不在の間に屋敷をどのように宰領するかというようなことだ。最初のうちはアルテミシアも大人しく聞いていたが、会話のどこからどういう成り行きになったのか、「遠乗りしよう」とアルテミシアが提案したために失敗に終わった。
結局、馬を覚え始めたばかりのマルグレーテを伴って、ジュードとサゲンと四人でトーレの海沿いの道を馬で散策することになった。最初こそ娘のペースに乗せられてちょっと不服そうだったが、いちばん遠乗りを楽しんでいたのは当のマルグレーテだ。アルテミシアが散策の場所に海沿いを提案したのも、母親が海が好きなことを知っていたからだった。
こうして過ごしたトーレでの最後の日に、この三日間で最も驚くべきことが起きた。コルネール公爵夫妻の来訪だ。
客人の来訪を告げるノッカーの音を聞いて最初にリンド家の扉を開けたのは、たまたま遊びに来ていたシャロンだった。いつものようにヴィンチェンゾかドナがやって来たと思ったシャロンは、目の前に現れたとびきり美しい貴婦人と長身の優雅な紳士に度肝を抜かれて悲鳴だか歓声だかよくわからない奇妙な声を上げた。しかし、生粋のトーレ人であるシャロンには無理もないことだった。
ラベンダー色の軽やかなドレスを纏ったその貴夫人――イオネ・アリアーヌ・コルネール公爵夫人は、もともとはトーレの前領主の令嬢であり、現領主エリオス・クレテ公の姪であり、もっと遡ればルメオ共和国建国の立役者となった英雄の曾孫でもある。彼らの血を受け継いだ美しく聡明なクレテ家の姉妹は、トーレの領民にとっては憧れの的であり、一種の信仰の対象であると言っても言い過ぎではない。それは、トーレの民から「アリアネさま」と敬愛を込めて呼ばれていたイオネが隣国エマンシュナ王国に嫁いだ後も変わらない。
その上、後ろに控えている恐ろしく容姿端麗な黒髪の紳士は、誰がどう見てもその夫、アルヴィーゼ・コルネール公爵だ。
「くっ」
船の縁から海を眺めるアルテミシアが笑い声を漏らした。
「なんだ」
サゲンがやや強い海風に栗色の髪をはためかせながらアルテミシアの顔を覗き込んだ。
「昨日のシャロンの顔を思い出してた」
アルテミシアが答えると、「ああ」とサゲンも笑い声を上げた。
「あれは傑作だった」
ともあれ、シャロンは彼女が幼い頃から憧れてやまない「アリアネさま」とコルネール公爵の顔を挨拶も瞬きも、口を閉じることも忘れて目だけ動かして交互に見、ようやく二人が生身の人間だと理解すると今度は顔中を真っ赤にして狂喜したような驚愕したような、今にも泣き出しそうな顔でそのままピタリと止まってしまった。
上階から下りてきたアルテミシアとサゲンが見たものは、扉の前で奇妙な表情のまま固まってしまった女性を心底不思議そうに見つめる恩師と、その後ろでちょっと可笑しそうに唇の端を上げているその夫の姿だった。あれほど強烈な光景は、そうそう拝めるものではない。
家の中にアルテミシアの姿を認めたイオネが最初に発した言葉は、挨拶ではなかった。
「ねえ、彼女大丈夫?」
「多分アリアネ先生に会えて感激してるだけなので、大丈夫だと思います。ね、シャロン」
イオネは一人だけ彫像のように時が止まってしまったシャロンをそっとしておくことにし、驚きと歓びでキラキラと顔を輝かせた教え子に歩み寄って優しく抱擁した。
「まさかうちに先生がいらっしゃるなんて!」
「たまたま帰省の予定があったから、ちょっと様子を見に寄ったのよ。いろいろと、うまくいったみたいでよかったわ」
この時、後ろでサゲンと握手を交わしたアルヴィーゼが歪に唇を吊り上げたのを、師弟は知らない。
「あれは事実じゃない。イオネが早くここに来たいからとわざわざ出航を急がせたんだ」
アルヴィーゼが声を潜めて言うと、サゲンは苦笑した。アルヴィーゼ・コルネール公爵ほどの男も愛する妻に願われれば、それを叶える以外の選択肢を持っていないのだろう。
アルテミシアはイオネに向かって顔中で笑った。
「お礼をしてもしきれません。アリアネ先生のお陰で、家族がひとつに」
「真実に辿り着いたのはあなたたちよ。わたしがしたのはほんの些細なことだわ」
イオネはユルクス大学の厳格な教師だった頃と全く同じように目だけで微笑んだ。美しい菫色の瞳がきらきらと輝いている。
「いいえ。アリアネ先生がきっかけを作ってくれたんです」
「でも、あの時点ではあまりに不確かなものだったわ。だから――」
イオネがアルテミシアの後ろをぐるりと見渡した。この時階上から家人が集まってきたが、みな予期せぬ貴賓に度肝を抜かれて身動きも忘れ、シャロンに負けず劣らず、なんとも間抜けな顔をしている。エマンシュナからやって来たバロー一家とジュードにとっては、正に雲の上の存在である公爵夫妻が目の前にふらりと現れたのだから、言葉を失って当然だ。
イオネは彼らひとりひとりの顔を眺めてもう一度アルテミシアに向き直り、にっこりと笑った。
「絆の勝利ね」
フワフワと浮ついた様子のシャロンがようやく自我を取り戻したのは、公爵夫妻がリンド家を辞去しようかという頃のことだった。
コルネール公爵夫妻はアルテミシアの家族だけでなく町中の人々から大歓待を受けたあと、昼下がりになると一頭の大きな馬に二人で跨って去って行った。
そして、今朝。――出航の朝になってアルテミシアが行きたいと言い出したのは、海沿いの墓地だった。浜辺のすぐ近くにある花畑の中に女神オスイアの白い彫像が置かれ、それほど大きくない白い石碑が整然と並べられ、波や風の音と海鳥の声が聞こえる他は静寂に包まれている。
アルテミシアは‘Mariella Ferrer’と刻まれた新しい墓碑に白い野花を編んだ花輪を置き、その周囲を囲むようにいろいろな形の貝殻を置いた。ちくちくと心臓を刺すような痛みは、会うこともなかった従妹を思う度に何度でも蘇るだろう。少し前のアルテミシアなら、その痛みからも逃げようとしていたかも知れない。しかし、今は違う。行き場のない悲しみも罪悪感も、自分の一部だ。
「美しい場所だ」
サゲンが言った。朝陽を受けたエメラルドグリーンの波が小さな輝きの粒を無数に放って空気中をきらめかせ、海上を飛ぶ海鳥の滑らかな羽毛に光の波紋を描き、切り立った岩肌を優しく洗い清めるように打ち付けている。
「海が好きだったんだって。だから、お墓を移すなら絶対にここがいいってドナが手配してくれたみたい」
「優秀な乳母殿だ」
「そうでしょ」
アルテミシアは得意げに笑った。
「フェレール姓に戻してやったんだな」
‘マリエラ・フェレール’の墓碑を見てサゲンが静かに言った。母方の伯父の娘であるマリエラはエンリコ・ベルージの養女としてヒディンゲルに嫁がされたから、死後も書面上では‘マリエラ・ヒディンゲル’のはずだが、無論、マルグレーテは悍ましい記憶の残る名前のまま姪を弔うことはなかった。
「本当は、故郷に戻してあげるのがいちばんいいんだろうけど…」
アルテミシアは墓碑の名前に指でそっと触れた。マリエラはどんな顔をしていたのだろう。もしかしたら目の形が似ていたかもしれない。今となっては、生前の彼女を知る者の口から伝え知ることしかできない。しかしそれすらも、もはや薄ぼんやりしたものばかりだ。
「伯父さまが辛すぎて受け入れられないって、母さまに手紙を送ってきたみたい。お互いを責めることもなく、それきりだって」
「そうか」
サゲンは頷いた。
兄がマルグレーテを責められないのも道理だ。そもそもマルグレーテをエンリコ・ベルージなどと結婚させたのはフェレール家なのだから。それでも、兄妹の仲には生涯修復できない程の溝が生まれたに違いない。そしてマルグレーテもアルテミシアと同様、消えることのない罪悪感を抱えて生きていくのだろう。しかし、不意に顎を上げたアルテミシアの顔は闇をすっかり消し去ってしまうほどに輝いていた。
「でも、ここならマリエラも安心して眠れるよね。ほんと、ドナって最高でしょ」
「ああ」
サゲンは目を細めた。
「君を育てた人だ。素晴らしくないはずがない」
アルテミシアは夏空のように真っ青なイノイルのドレスを海風に靡かせ、太陽のように笑った。
波の向こうを眺めているアルテミシアの目から、光の筋が流れ星のように音もなく頬を走るのをサゲンは見た。
「別れがたいな」
「楽しかったから、尚更ね」
アルテミシアは涙を拭ってサゲンの肩に頭を預けた。
港へ見送りに来たシャロンは涙を深い緑の目いっぱいに溜めて道中気を付けろとか手紙を書けとかいつもの命令口調で言ったが、アルテミシアはいつもと変わらない笑顔でそれに応えていた。ドナもロベルタも皺の多い顔を涙で濡らし、ジュードに至っては周りを憚らずに顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
「あなたがそんなに泣くからわたしが泣けないじゃない」
とマルグレーテがちょっと呆れたような顔を見せたので、アルテミシアはおかしくなって笑い出した。
これが、つい十分前のことだ。既にトーレ港はいくつもの波の向こうの景色となり、人々の影がちらちらと動いているのが視認できるに過ぎない。
「家族との別れに立ち会うのは、二度目だな」
サゲンがアルテミシアの肩に手を置いた。一度目は初めて会った日のことだった。
アルテミシアは袖で目元を拭い、ちょっと首を傾げてサゲンを見上げた。
「君はあの時も泣いていたんだな」
惜しい。――と思った。
初めて会った日、ユリオラ号を見送るアルテミシアの顔をじっくり見なかったことだ。
あの時サゲンが見ていたものは、家族同然の者たちと別れたばかりのアルテミシアではなく、波に軌道を描きながら去っていくユリオラ号だった。さっさと船室へ引っ込んで行ったバルバリーゴ船長の背中のように、その波紋があっけなく、ある意味で無機質なものに感じられたが、それはアルテミシア自身のことをよく知らなかったからだ。
バルバリーゴも笑いながら妹分の旅立ちを見送った船員たちも、それが彼らなりの惜別の表現だったのだろうと、今なら分かる。
アルテミシアは顔を上げ、わざと悪戯っぽく笑って見せた。
「ワインをかけられて目が痛かっただけかもよ」
「ごまかしても俺には分かる」
サゲンが唇を吊り上げた。
「君は感情が溢れそうになると返って仕舞い込もうとする嫌いがある」
アルテミシアはちょっと顎を引いてどこか蠱惑的な上目遣いをしたかと思うと、突然跳び上がってサゲンの首の後ろに腕を巻き付け、サゲンの唇に自分の唇を押し付けた。
「これでも?」
熱を持ったハシバミ色の瞳が陽光を受け、複雑な色の混ざる光彩をいくつも孕んでサゲンを見た。その奥に、情熱がちらちらと映り込んでいる。
サゲンはアルテミシアの腰をそっと抱き寄せて頬に触れ、涙の跡の残った場所に口付けした。
「――が、仕舞いきれない。と続けようとしたんだ」
「これでもうまく隠してたんだよ。あなたに会うまでは」
「そうか?」
サゲンの柔らかく肌を撫でるような笑い声が耳をくすぐる。アルテミシアはうん、と頷いてその胸に身体を預けた。
「最初からこんなに自分を取り繕えなかったのは、あなたの前でだけ」
サゲンがアルテミシアの顎をつまんで上を向かせ、赤みがかった前髪を分けて額にキスをした。
「それは俺も同じだ。君は俺の節度を失わせる。初めて会った日から」
「確かに、あなたって最初に会った日からわたしにだけキツかったよね。ほんと、むかつく――」
胸を突き刺すような動作で伸びてきたアルテミシアの人差し指をサゲンが簡単に掴み、その身体を船の縁に追いやって腕の中に閉じ込め、減らず口を続けようとする生意気な唇を塞いだ。
「それはお互い様だろう」
そう笑ってサゲンはもう一度唇を塞ぎ、アルテミシアの下唇と上唇を交互に吸って舌を挿し入れた。周囲には仕事や旅行に出かける他の乗客の視線があるというのに、少しも気にならない。
アルテミシア・リンドがサゲンをそのような男に造り変えたからだ。
「あの頃は、戸惑ってたの。あなたが…」
サゲンが顔の角度を変えて再びアルテミシアの歯の間から舌を挿し入れた。
「俺が?」
訊きながら、もう一度アルテミシアの唇をぴったりと覆った。
「ん、…んん、ふ」
「俺が、何だ」
「んん」
口を開いて言葉を発しようとする度にサゲンの舌が絡まってきて邪魔をする。アルテミシアはキスの誘惑を振り払うように顔をぶんっと横に振った。
「――もう!話せないよ」
「それは悪いことをした」
と言いながら、悪びれる様子など無い。最初の日、ティティの背に乗ってアルテミシアにずけずけと不躾な質問をしてきた時と同じ顔だ。アルテミシアは頬を染めて唇を尖らせた。
「…あなたがわたしの中に踏み込んできたから。それまでは、あんなふうにわたしを深く知ろうとした人なんていなかったもの。例え仕事のための身辺調査でも」
「本当に仕事のためだったと思うか?」
「違うの?」
「あの時はそのつもりでいたが、後になって気付いた。あれはほとんど俺の個人的な興味だった。知れば知るほど興味が湧いたのは君が初めてだ。ただ、君のことがもっと知りたかった」
サゲンはアルテミシアの顔がみるみる耳まで赤くなるのを機嫌良く眺めながら、熱を持った頬を親指で撫でた。
「しょ、職権濫用じゃん…堅物のバルカ将軍が」
「気付いた時は自分でもどうかしていると思った。だがそういう自分を知ることができたのは君と出会ったからだ」
「わたしも、サゲンと出会って知ったことがいっぱいあるよ」
愛する人のそばがどれほど温かいか、求め、求められることでどれほど心が満ち足りるか。どちらもサゲンなしでは知ることができなかったものだ。
「まだまだ」
サゲンは優しく微笑んでアルテミシアの腰を引き寄せ、腕の中にぴったりとその身体を収めた。
「これからも増えるぞ。もっと知らない君を教えてくれ。生涯をかけて」
「あなたのこともね」
アルテミシアはにっこりと笑って背伸びをし、サゲンの高い鼻の頭に蝶が止まるようなキスをした。
アルテミシアは客船の縁に両肘をついて寄りかかりながら、最後の三日間に起きたことを思い返していた。
両親は二十年以上も離れていたのが不思議なほど息ぴったりで、二人ともできる限り多くの時間をアルテミシアと過ごしたがった。三日前には、ジュードと二人で港から少し離れた岩場まで釣りに行った。父親と二人で魚釣りなど、これまでの人生では考えられなかったことだ。ドナはあまりいい顔をしなかったが、アルテミシアはシャツとズボンだけの簡素な服を着た。釣りをする時は船乗りの時と同じ格好でないと、何となく違和感がある。
この日釣れたスズキ五匹とイワシ七匹は、なんとサゲンとロベルタが二人で調理した。サゲンが料理に明るいという新事実は、ドナの評価を大いに上げた。逆にマルグレーテが「男が出来すぎると女の価値が下がる」と聞き捨てならないことを言い出したので、アルテミシアは半ば憤慨しながら対抗心を燃やしてデザートを作った。かつて船長のバルバリーゴ夫妻に世話になっていた時に覚えたスパイスとレモンのケーキだ。サゲンのスズキ料理もアルテミシアのレモンケーキも、家人たちから大好評を得た。イヴは特にアルテミシアのケーキが気に入ったらしく、二切れもおかわりしていた。
ジュードは何に関しても寛容だった。アルミシアの服装に関しても立ち振る舞いに関しても何も口うるさいことは言わない。とは言え遠慮しているという風でもなく、ありのままの娘を理解しようとしているようだった。
ただし、唯一サゲンとのことには口を出した。それも、サゲンに故郷や家族のことを尋ねたり、アルテミシアと暮らすオアリス郊外の森の屋敷のことやオアリス城内でのことを詳しく知りたがったりと、どうやらオアリスに戻った後のアルテミシアの生活を心配してのことだ。
マルグレーテは間も無くバルカ子爵夫人になる娘に、でき得る限りのことを教えようとした。貴族の女主人としての立ち振る舞いや、主人の不在の間に屋敷をどのように宰領するかというようなことだ。最初のうちはアルテミシアも大人しく聞いていたが、会話のどこからどういう成り行きになったのか、「遠乗りしよう」とアルテミシアが提案したために失敗に終わった。
結局、馬を覚え始めたばかりのマルグレーテを伴って、ジュードとサゲンと四人でトーレの海沿いの道を馬で散策することになった。最初こそ娘のペースに乗せられてちょっと不服そうだったが、いちばん遠乗りを楽しんでいたのは当のマルグレーテだ。アルテミシアが散策の場所に海沿いを提案したのも、母親が海が好きなことを知っていたからだった。
こうして過ごしたトーレでの最後の日に、この三日間で最も驚くべきことが起きた。コルネール公爵夫妻の来訪だ。
客人の来訪を告げるノッカーの音を聞いて最初にリンド家の扉を開けたのは、たまたま遊びに来ていたシャロンだった。いつものようにヴィンチェンゾかドナがやって来たと思ったシャロンは、目の前に現れたとびきり美しい貴婦人と長身の優雅な紳士に度肝を抜かれて悲鳴だか歓声だかよくわからない奇妙な声を上げた。しかし、生粋のトーレ人であるシャロンには無理もないことだった。
ラベンダー色の軽やかなドレスを纏ったその貴夫人――イオネ・アリアーヌ・コルネール公爵夫人は、もともとはトーレの前領主の令嬢であり、現領主エリオス・クレテ公の姪であり、もっと遡ればルメオ共和国建国の立役者となった英雄の曾孫でもある。彼らの血を受け継いだ美しく聡明なクレテ家の姉妹は、トーレの領民にとっては憧れの的であり、一種の信仰の対象であると言っても言い過ぎではない。それは、トーレの民から「アリアネさま」と敬愛を込めて呼ばれていたイオネが隣国エマンシュナ王国に嫁いだ後も変わらない。
その上、後ろに控えている恐ろしく容姿端麗な黒髪の紳士は、誰がどう見てもその夫、アルヴィーゼ・コルネール公爵だ。
「くっ」
船の縁から海を眺めるアルテミシアが笑い声を漏らした。
「なんだ」
サゲンがやや強い海風に栗色の髪をはためかせながらアルテミシアの顔を覗き込んだ。
「昨日のシャロンの顔を思い出してた」
アルテミシアが答えると、「ああ」とサゲンも笑い声を上げた。
「あれは傑作だった」
ともあれ、シャロンは彼女が幼い頃から憧れてやまない「アリアネさま」とコルネール公爵の顔を挨拶も瞬きも、口を閉じることも忘れて目だけ動かして交互に見、ようやく二人が生身の人間だと理解すると今度は顔中を真っ赤にして狂喜したような驚愕したような、今にも泣き出しそうな顔でそのままピタリと止まってしまった。
上階から下りてきたアルテミシアとサゲンが見たものは、扉の前で奇妙な表情のまま固まってしまった女性を心底不思議そうに見つめる恩師と、その後ろでちょっと可笑しそうに唇の端を上げているその夫の姿だった。あれほど強烈な光景は、そうそう拝めるものではない。
家の中にアルテミシアの姿を認めたイオネが最初に発した言葉は、挨拶ではなかった。
「ねえ、彼女大丈夫?」
「多分アリアネ先生に会えて感激してるだけなので、大丈夫だと思います。ね、シャロン」
イオネは一人だけ彫像のように時が止まってしまったシャロンをそっとしておくことにし、驚きと歓びでキラキラと顔を輝かせた教え子に歩み寄って優しく抱擁した。
「まさかうちに先生がいらっしゃるなんて!」
「たまたま帰省の予定があったから、ちょっと様子を見に寄ったのよ。いろいろと、うまくいったみたいでよかったわ」
この時、後ろでサゲンと握手を交わしたアルヴィーゼが歪に唇を吊り上げたのを、師弟は知らない。
「あれは事実じゃない。イオネが早くここに来たいからとわざわざ出航を急がせたんだ」
アルヴィーゼが声を潜めて言うと、サゲンは苦笑した。アルヴィーゼ・コルネール公爵ほどの男も愛する妻に願われれば、それを叶える以外の選択肢を持っていないのだろう。
アルテミシアはイオネに向かって顔中で笑った。
「お礼をしてもしきれません。アリアネ先生のお陰で、家族がひとつに」
「真実に辿り着いたのはあなたたちよ。わたしがしたのはほんの些細なことだわ」
イオネはユルクス大学の厳格な教師だった頃と全く同じように目だけで微笑んだ。美しい菫色の瞳がきらきらと輝いている。
「いいえ。アリアネ先生がきっかけを作ってくれたんです」
「でも、あの時点ではあまりに不確かなものだったわ。だから――」
イオネがアルテミシアの後ろをぐるりと見渡した。この時階上から家人が集まってきたが、みな予期せぬ貴賓に度肝を抜かれて身動きも忘れ、シャロンに負けず劣らず、なんとも間抜けな顔をしている。エマンシュナからやって来たバロー一家とジュードにとっては、正に雲の上の存在である公爵夫妻が目の前にふらりと現れたのだから、言葉を失って当然だ。
イオネは彼らひとりひとりの顔を眺めてもう一度アルテミシアに向き直り、にっこりと笑った。
「絆の勝利ね」
フワフワと浮ついた様子のシャロンがようやく自我を取り戻したのは、公爵夫妻がリンド家を辞去しようかという頃のことだった。
コルネール公爵夫妻はアルテミシアの家族だけでなく町中の人々から大歓待を受けたあと、昼下がりになると一頭の大きな馬に二人で跨って去って行った。
そして、今朝。――出航の朝になってアルテミシアが行きたいと言い出したのは、海沿いの墓地だった。浜辺のすぐ近くにある花畑の中に女神オスイアの白い彫像が置かれ、それほど大きくない白い石碑が整然と並べられ、波や風の音と海鳥の声が聞こえる他は静寂に包まれている。
アルテミシアは‘Mariella Ferrer’と刻まれた新しい墓碑に白い野花を編んだ花輪を置き、その周囲を囲むようにいろいろな形の貝殻を置いた。ちくちくと心臓を刺すような痛みは、会うこともなかった従妹を思う度に何度でも蘇るだろう。少し前のアルテミシアなら、その痛みからも逃げようとしていたかも知れない。しかし、今は違う。行き場のない悲しみも罪悪感も、自分の一部だ。
「美しい場所だ」
サゲンが言った。朝陽を受けたエメラルドグリーンの波が小さな輝きの粒を無数に放って空気中をきらめかせ、海上を飛ぶ海鳥の滑らかな羽毛に光の波紋を描き、切り立った岩肌を優しく洗い清めるように打ち付けている。
「海が好きだったんだって。だから、お墓を移すなら絶対にここがいいってドナが手配してくれたみたい」
「優秀な乳母殿だ」
「そうでしょ」
アルテミシアは得意げに笑った。
「フェレール姓に戻してやったんだな」
‘マリエラ・フェレール’の墓碑を見てサゲンが静かに言った。母方の伯父の娘であるマリエラはエンリコ・ベルージの養女としてヒディンゲルに嫁がされたから、死後も書面上では‘マリエラ・ヒディンゲル’のはずだが、無論、マルグレーテは悍ましい記憶の残る名前のまま姪を弔うことはなかった。
「本当は、故郷に戻してあげるのがいちばんいいんだろうけど…」
アルテミシアは墓碑の名前に指でそっと触れた。マリエラはどんな顔をしていたのだろう。もしかしたら目の形が似ていたかもしれない。今となっては、生前の彼女を知る者の口から伝え知ることしかできない。しかしそれすらも、もはや薄ぼんやりしたものばかりだ。
「伯父さまが辛すぎて受け入れられないって、母さまに手紙を送ってきたみたい。お互いを責めることもなく、それきりだって」
「そうか」
サゲンは頷いた。
兄がマルグレーテを責められないのも道理だ。そもそもマルグレーテをエンリコ・ベルージなどと結婚させたのはフェレール家なのだから。それでも、兄妹の仲には生涯修復できない程の溝が生まれたに違いない。そしてマルグレーテもアルテミシアと同様、消えることのない罪悪感を抱えて生きていくのだろう。しかし、不意に顎を上げたアルテミシアの顔は闇をすっかり消し去ってしまうほどに輝いていた。
「でも、ここならマリエラも安心して眠れるよね。ほんと、ドナって最高でしょ」
「ああ」
サゲンは目を細めた。
「君を育てた人だ。素晴らしくないはずがない」
アルテミシアは夏空のように真っ青なイノイルのドレスを海風に靡かせ、太陽のように笑った。
波の向こうを眺めているアルテミシアの目から、光の筋が流れ星のように音もなく頬を走るのをサゲンは見た。
「別れがたいな」
「楽しかったから、尚更ね」
アルテミシアは涙を拭ってサゲンの肩に頭を預けた。
港へ見送りに来たシャロンは涙を深い緑の目いっぱいに溜めて道中気を付けろとか手紙を書けとかいつもの命令口調で言ったが、アルテミシアはいつもと変わらない笑顔でそれに応えていた。ドナもロベルタも皺の多い顔を涙で濡らし、ジュードに至っては周りを憚らずに顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
「あなたがそんなに泣くからわたしが泣けないじゃない」
とマルグレーテがちょっと呆れたような顔を見せたので、アルテミシアはおかしくなって笑い出した。
これが、つい十分前のことだ。既にトーレ港はいくつもの波の向こうの景色となり、人々の影がちらちらと動いているのが視認できるに過ぎない。
「家族との別れに立ち会うのは、二度目だな」
サゲンがアルテミシアの肩に手を置いた。一度目は初めて会った日のことだった。
アルテミシアは袖で目元を拭い、ちょっと首を傾げてサゲンを見上げた。
「君はあの時も泣いていたんだな」
惜しい。――と思った。
初めて会った日、ユリオラ号を見送るアルテミシアの顔をじっくり見なかったことだ。
あの時サゲンが見ていたものは、家族同然の者たちと別れたばかりのアルテミシアではなく、波に軌道を描きながら去っていくユリオラ号だった。さっさと船室へ引っ込んで行ったバルバリーゴ船長の背中のように、その波紋があっけなく、ある意味で無機質なものに感じられたが、それはアルテミシア自身のことをよく知らなかったからだ。
バルバリーゴも笑いながら妹分の旅立ちを見送った船員たちも、それが彼らなりの惜別の表現だったのだろうと、今なら分かる。
アルテミシアは顔を上げ、わざと悪戯っぽく笑って見せた。
「ワインをかけられて目が痛かっただけかもよ」
「ごまかしても俺には分かる」
サゲンが唇を吊り上げた。
「君は感情が溢れそうになると返って仕舞い込もうとする嫌いがある」
アルテミシアはちょっと顎を引いてどこか蠱惑的な上目遣いをしたかと思うと、突然跳び上がってサゲンの首の後ろに腕を巻き付け、サゲンの唇に自分の唇を押し付けた。
「これでも?」
熱を持ったハシバミ色の瞳が陽光を受け、複雑な色の混ざる光彩をいくつも孕んでサゲンを見た。その奥に、情熱がちらちらと映り込んでいる。
サゲンはアルテミシアの腰をそっと抱き寄せて頬に触れ、涙の跡の残った場所に口付けした。
「――が、仕舞いきれない。と続けようとしたんだ」
「これでもうまく隠してたんだよ。あなたに会うまでは」
「そうか?」
サゲンの柔らかく肌を撫でるような笑い声が耳をくすぐる。アルテミシアはうん、と頷いてその胸に身体を預けた。
「最初からこんなに自分を取り繕えなかったのは、あなたの前でだけ」
サゲンがアルテミシアの顎をつまんで上を向かせ、赤みがかった前髪を分けて額にキスをした。
「それは俺も同じだ。君は俺の節度を失わせる。初めて会った日から」
「確かに、あなたって最初に会った日からわたしにだけキツかったよね。ほんと、むかつく――」
胸を突き刺すような動作で伸びてきたアルテミシアの人差し指をサゲンが簡単に掴み、その身体を船の縁に追いやって腕の中に閉じ込め、減らず口を続けようとする生意気な唇を塞いだ。
「それはお互い様だろう」
そう笑ってサゲンはもう一度唇を塞ぎ、アルテミシアの下唇と上唇を交互に吸って舌を挿し入れた。周囲には仕事や旅行に出かける他の乗客の視線があるというのに、少しも気にならない。
アルテミシア・リンドがサゲンをそのような男に造り変えたからだ。
「あの頃は、戸惑ってたの。あなたが…」
サゲンが顔の角度を変えて再びアルテミシアの歯の間から舌を挿し入れた。
「俺が?」
訊きながら、もう一度アルテミシアの唇をぴったりと覆った。
「ん、…んん、ふ」
「俺が、何だ」
「んん」
口を開いて言葉を発しようとする度にサゲンの舌が絡まってきて邪魔をする。アルテミシアはキスの誘惑を振り払うように顔をぶんっと横に振った。
「――もう!話せないよ」
「それは悪いことをした」
と言いながら、悪びれる様子など無い。最初の日、ティティの背に乗ってアルテミシアにずけずけと不躾な質問をしてきた時と同じ顔だ。アルテミシアは頬を染めて唇を尖らせた。
「…あなたがわたしの中に踏み込んできたから。それまでは、あんなふうにわたしを深く知ろうとした人なんていなかったもの。例え仕事のための身辺調査でも」
「本当に仕事のためだったと思うか?」
「違うの?」
「あの時はそのつもりでいたが、後になって気付いた。あれはほとんど俺の個人的な興味だった。知れば知るほど興味が湧いたのは君が初めてだ。ただ、君のことがもっと知りたかった」
サゲンはアルテミシアの顔がみるみる耳まで赤くなるのを機嫌良く眺めながら、熱を持った頬を親指で撫でた。
「しょ、職権濫用じゃん…堅物のバルカ将軍が」
「気付いた時は自分でもどうかしていると思った。だがそういう自分を知ることができたのは君と出会ったからだ」
「わたしも、サゲンと出会って知ったことがいっぱいあるよ」
愛する人のそばがどれほど温かいか、求め、求められることでどれほど心が満ち足りるか。どちらもサゲンなしでは知ることができなかったものだ。
「まだまだ」
サゲンは優しく微笑んでアルテミシアの腰を引き寄せ、腕の中にぴったりとその身体を収めた。
「これからも増えるぞ。もっと知らない君を教えてくれ。生涯をかけて」
「あなたのこともね」
アルテミシアはにっこりと笑って背伸びをし、サゲンの高い鼻の頭に蝶が止まるようなキスをした。
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