王城のマリナイア

若島まつ

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八十、将軍とマリナイア - il Generale e la Marinaia -

 身体の中の至る所で小さな炎が燃えているような感覚だった。
 ローズマリーの石けんと野花のような肌の匂いが窓から射す月明かりと小さな燭台の灯りの中に混ざり合って官能的に漂い、感覚を鋭くさせる。
「あ…」
 アルテミシアが身をよじり、足でシーツを乱した。触れた絹の下で乳房の先端がサゲンの指の腹を押し上げるように硬く立ち上がっている。サゲンは首筋の柔らかい部分に吸い付き、片手でしなやかな腕を這い上がり、寝衣の肩紐を下へ引いて乳房を暴いた。
「…薄着すぎないか」
 意図せず不満げな言い方になった。つ、と鎖骨から胸へ指を滑らせると、アルテミシアが心地よさそうに呻いた。
「ちょうどいいよ」
「君の肌は――」
 サゲンが耳朶にかじりつくと、アルテミシアの身体が小さく震えた。
「綺麗だ。他の誰の目にも触れさせたくない」
 アルテミシアは大きく息を呑んだ。サゲンは手のひらで露わになった胸をすっぽり覆い、もう一方の胸を舌で味わっている。
「あっ…、あなたにしか、見せない…」
 アルテミシアの息が熱く上がり始めた。鈍い光を放つ瞳の奥でサゲンを求めている。
「いい心掛けだ」
「ん、あ…!」
 サゲンの舌が絡め取るように胸の上を蠢いた。アルテミシアは堪らずサゲンの短い髪にしがみついた。サゲンの手が全身を慈しむように、或いは焦らすように胸に触れ、寝衣の裾から膝、腿、腰を通って引き締まった腹の中央の谷を滑っていく。
「んん…」
 アルテミシアが脚をすり合わせた。
「気付いているか。君はいつもこう・・されると――」
 と、サゲンが笑みをこぼしながら言い、アルテミシアのもう片方の乳房を口に含んだ。
「あっ」
「身体を熱くして中に欲しがり始める。脚を閉じて隠そうとしても無駄だ」
 熱くて大きな手のひらが腰を通って太腿の内側に入り込み、柔らかい部分を掴むようにして脚を開かせ、下着の腰紐を解いて秘所を露わにした。サゲンの膝が割り込み、無防備な場所が開かれる。
「あっ、待って」
 アルテミシアは燃えるような自分の体温を持て余しながら懇願した。自覚はある。もう中は滴るほどに濡れているはずだ。もう何度もしている行為なのに、それを知られるのが恥ずかしい。
「もう遅い。俺は君を隅々まで知っている」
「ふ、あっ…!」
 アルテミシアがびくりと反応した。サゲンの指が中心に触れ、奥から溢れてくる蜜を上部に塗りつけ、上下に優しく擦った。
「あっ、あ…んん」
 唇を塞がれ、サゲンの舌が絡まってくる。快感が血のように身体中を巡り、全身がサゲンの熱を欲した。
 アルテミシアは重なった唇の下でサゲンに応えながらサゲンの寝衣のシャツの胸元の紐を解き、裾をズボンから引っ張り出してその下の素肌に触れた。熱い肌の下に硬い筋肉の隆起がある。それらを辿るように腰から背中へと手のひらを滑らせ、左肩に小さく盛り上がった傷痕に触れた。
「君の手は気持ちいい」
 サゲンの声が掠れている。
「もっと触れてくれ」
 アルテミシアは触れられた部分から繰り出される快感に悲鳴にも似た呻き声を上げながら、まっすぐ見つめてくるサゲンの青灰色の瞳を見つめ返した。シャツを脱がせやすいようにサゲンが腕を上げると、今まで触れられていた場所にもどかしい熱だけが残った。早く続きが欲しかった。アルテミシアは急いたようにシャツをサゲンの頭から引き抜いた。燭台の灯りが美しい肉体に陰影を描いて暗い部屋に浮かび上がる。思わず見惚れてしまう、完璧な肉体だ。
「その目はだめだ、アルテミシア」
 サゲンを見上げた目が熱情に潤んでいる。ただでさえアルテミシアを手に入れた喜びで自制が効かないというのに、ますます欲望が大きくなる。
「丁寧にしてやれなくなる」
「いいよ。あなたなら、どんなふうでも」
 全身の血液が沸き立った。サゲンはアルテミシアの首筋を掴んで唇に噛み付くようなキスをし、アルテミシアが痛みを感じるほど強く乳房を掴んだ。アルテミシアのしなやかな腕がサゲンの欲望を受け止めるように背中を包んだ。
「ここ、苦しそう…」
 アルテミシアが唇を浮かせて誘惑するように囁き、背から腰、腰から恥骨を掠めて臍の下へと指で触れた。閉じられたズボンの中でサゲンの一部が痛いほどに硬直し解放を待ちわびている。
「…ッ、う」
 サゲンが呻いた。アルテミシアの指が前を掠めただけで、忌々しいほど正直に身体が反応した。
 アルテミシアはボタンを外し、大きく張り詰めた場所を解放して手のひらに包んだ。鉄のように硬くなったそれが手の中でびくりと反応し、信じられないことに、更に硬くなった。
「熱い…」
 アルテミシアがそこを撫でた。サゲンの熱い吐息を首に感じると、それだけでアルテミシアの身体も熱を増した。腹の奥がじくじくと疼いて目の前の男を欲している。サゲンの呼吸に呼応するように、息が乱れた。
「もっと触っていい?」
 アルテミシアが上擦った声で問うと、サゲンは唇を吊り上げてアルテミシアの身体を抱いたままごろりと仰向けになった。
「訊かなくても、全て君のものだ」
 アルテミシアがサゲンの胸に顎を乗せてちょっと恥ずかしそうに笑った。
 サゲンが引き寄せるまでもなく、アルテミシアはそのマーガレットの花びらのような愛らしい唇でサゲンにキスをして控えめな動作で舌を絡めてきた。柔らかい手がサゲンの熱い部分を包んで動き、サゲンの理性をますます乱していく。
 アルテミシアは唇を放し、ざらざらした髭を感じながらしっかりした顎を啄んで首へと唇で触れ、左の鎖骨の下の傷痕にキスをした。皮膚の再生している箇所が硬い筋肉の上に不均一な凹凸を作っている。
「まだ痛む?」
「痛みはない。それより――」
 サゲンがアルテミシアの髪をそっと撫でた。
「君が欲しくて苦しい」
 懊悩するように形の良い眉が歪んでいる。アルテミシアの胸が痛いほどに締め付けられた。
「わたしも、苦しい。サゲンが全部欲しい」
 サゲンは呻いた。アルテミシアの手がサゲンの欲望を包み、柔らかい唇が肌を啄みながら胸を通って鳩尾へ下りていく。滑らかな髪が肌を這うように撫でる柔らかな感触でさえ、強烈な刺激になった。
 柔らかい唇が丹念にサゲンの腹を下った。硬く引き締まって割れた筋肉が薄い皮の下で動き、アルテミシアの愛撫に反応している。
 アルテミシアはサゲンのズボンを下ろして裸にし、今度は膝から内腿へと啄み、その上の硬く張り詰めた熱の塊を口に含んだ。
「――ッは…」
 熱い息を頭上で感じる。自分の脈が速くなったのをサゲンの肌を通じて感じ、男の無防備な声がもっと聞きたくなった。アルテミシアはそれを口に含んだまま舌を這わせ、丸みを帯びた先端をそろりと舐めた。サゲンは堪らず呻いてアルテミシアの頭を掴んだ。
「ん」
「ああ、アルテミシア…」
 ぞくぞくと快感が背中を迫り上がってくる。サゲンの興奮と熱が身体に溶け込んでいくようだった。
 アルテミシアが脚の間からサゲンを見上げた。丸みを帯びたアーモンド型の美しい目が熱を持って潤み、白い肩が燭台の火で艶やかに輝いている。乱れた寝衣は乳房を隠しもせずに胸の下でわだかまり、ただその肢体を官能的に見せるだけだ。温かい口の中で舌が絡みついて先端をつつき、時折吸っては強烈な刺激を与えてくる。
「君に触れたい…」
 サゲンはアルテミシアの頬に触れ、顎を掴んで脚の間から離した。頬は火照り、唇は血色が増して濡れている。あまりに無防備で、扇情的だ。
 理性が壊れたと自覚したときにはアルテミシアの身体をベッドへ押さえつけて胸の下に残っていた寝衣を完全に剥ぎ取り、獣のように唇を奪って乳房を掴んでいた。
「あ…!」
 サゲンは歯を立ててアルテミシアの首筋に吸い付き、親指で硬く膨らんだ胸の先端を円を描くように撫で、甘やかな肌を啄んで乳房を食んだ。
「君はどこもかしこも甘いな」
 サゲンの指が下腹部を下って中心に入り込むと、アルテミシアが小さく悲鳴を上げて腰を浮かせた。
 身体の中に埋められたサゲンの指が内壁を解すように蠢き、早くも快楽の源泉を探り当てて強烈な刺激を与えてくる。
「さっきより随分濡れている。俺のを舐めて興奮したか」
「…ッ、んう!」
 アルテミシアは顔を真っ赤にして首を振ったが、言葉が出ない。サゲンに指で奥をつつかれ、胸に歯を立てられて、唇を噛んで高い悲鳴を飲み込んだ。すぐにサゲンの手が顎に伸びてきて下唇を引っ張り、口を開けさせた。
「噛むな」
「だっ、だって…」
 サゲンが指を動かすごとに湿った音が耳に響き、腹の奥がむずむずする。短いサゲンの髪が唇と同じ場所をなぞり、胸から臍へと移動していった。その間、サゲンはアルテミシアの内部から緩慢に刺激を与え続けている。柔らかい内壁が焼けるような熱を持って狭まってくる。
「はっ…あ…、あっ、待っ――」
 ビク!とアルテミシアの身体が跳ねた。
 サゲンが指を奥に埋めたままその上の膨れた場所に吸い付き、アルテミシアの身体中に激しい刺激を与えた。
 アルテミシアはサゲンの髪にしがみつき、迫り来る絶頂の波を自分から追いかけるように腰を揺らした。息と共に吐き出される悲鳴にも似た声さえ止められない。
「んっ、あっ、ああ…!だめ…」
「だめ?」
 サゲンが脚の間に顔を埋めたまま息だけで笑った。
「…っ、気持ちいい――」
 ふ、とサゲンは満足げに微笑み、いつもアルテミシアがよく反応する深部を丹念に突きながら舌先で突起をくすぐった。
 すぐにアルテミシアの全身を激しい快楽が襲い、腹の奥から鋭い感覚となって脳へと突き抜けていく。アルテミシアはシーツを掴んでその感覚を受け入れ、背を弓形に反らせて悲鳴を上げた。
 サゲンは中から指を抜くと脱力した脚を掴んで更に大きく開かせ、それまで指が埋まっていた場所に舌を挿し入れた。アルテミシアが高い声で叫ぶと奥から欲望が溶け出して溢れ、サゲンの舌を伝って唇を濡らした。逃げ腰にならないように腰を捕まえていると、アルテミシアの身体が小さく震え始めた。
「や、あっ、だめ、いっ――」
 真っ白な絶頂が襲ってきた後でアルテミシアはサゲンの嵐のようなキスを受け入れ、その首筋に腕を巻き付けてぴったりと素肌を触れ合わせた。血潮の色を上らせた唇から浅く速い呼吸が聞こえ、柔らかい温度とアルテミシアの野花のような香りがサゲンの身体を更に熱くする。
「サゲン…」
 瞳をとろりと潤ませ、甘く誘惑するような声色でアルテミシアが囁いた。サゲンは何かの糸が切れたように性急な動作でアルテミシアの膝を開き、唇を貪るように重ねたまま、大きく熱く立ち上がったものを彼女の奥まで突き立てた。あまりの気持ちよさに、サゲンは思わず恍惚として呻いた。内部は熱くうねり、サゲンが動く度に狭まってその先を促すように包み込んでくる。
「ああ、いい。アルテミシア…」
 サゲンの太く形の良い眉が歪み、煙るような色の瞳が苦悶するように細まった。胸がぎゅうっと縮んで身体中に歓びが走り回り、身体の奥をサゲンが突くと、それらが強烈な刺激となって全身の感覚を奪った。
 サゲンに膝を持ち上げられ、肩に担がれて更に奥まで入り込まれ、アルテミシアは悲鳴を上げた。サゲンが呼吸を乱しながら最深部のいちばん感じやすい場所を攻め立てるように突き上げてくる。あまりに大きな快感を受け止めきれずにサゲンの背と腕に爪が食い込むほど強くしがみついた。絶頂に押し上げられたばかりの身体がサゲンの熱情に感応し、ますます大きな快楽の波に呑まれていく。
 アルテミシアの甘い吐息がサゲンの肌をくすぐった。よく鍛えられて適度に筋肉のついたしなやかな脚が胴に絡まって緊張を始め、サゲンを奥へと誘うように腰が揺れた。背中から快感がぞくぞくと迫り上がり、アルテミシアを感じる以外の感覚を奪っていく。胸を口に含んでやさしく歯を立て、膝を肩に担いだ状態で奥まで突き立てた瞬間、アルテミシアが叫んで内部を激しく収縮させた。
「ああっ――!」
「はっ…」
 サゲンは大きく息をついた。危うく呑み込まれるところだった。力を失ったアルテミシアの腕がぱたりとシーツに落ち、内部はまだ焼け付くように熱くびくびくと動いている。
「んん…」
 自分の内部がサゲンを締め付ける感覚でさえ刺激になった。荒波が襲って来た後のぼんやりした意識のままサゲンを見上げると、何か耐え難いものに耐えるような苦悶の表情をしていた。それなのにアルテミシアを見つめる目は優しく情愛に満ち溢れて、燃えている。
 アルテミシアがサゲンの首を引き寄せて唇を重ねた。繋がったままのサゲンの一部が内壁を押し上げるように硬度を増した。
「あっ、ちょっと、待って。まだ…ひゃっ!」
 サゲンは唇を吊り上げ、アルテミシアの背中を抱いてごろりと仰向けになり、腰を支えて上体を起こさせた。
「ああ!」
 目の前がチカチカするほどの衝撃が奥に届き、サゲンの硬い腹筋を包む腿の内側がふるふると震える。
「止まっているぞ、ほら」
 サゲンが下から腰を押し付けると、アルテミシアが高い声で鳴いた。
「君が動いてくれ」
 アルテミシアは唸り声を上げながら素直に従った。硬い腹の上に置いた両手をサゲンが掬い上げて指を絡めてくる。アルテミシアがゆるゆると腰を前後に揺らすとサゲンは天を仰ぐような仕草で仰け反り、ふかふかした枕に後頭部を沈めて熱い息を吐いた。青灰色の瞳が恍惚と細まる。アルテミシアの胸に歓びが迫り、身体の中がぎゅうっと縮まった。
「…ッ、いいのか」
「ん…、あ、いい…」
「ああ、ほら。もう右に傾いている。調教が必要だ」
「そっ、そんなの…あっ」
 サゲンがアルテミシアの腰を掴んで揺さぶり、熱く熟れた内部を余すところなく侵した。アルテミシアはサゲンの腕に掴まって痛みにも似た激しい快楽を受け入れ、高い声を何度もあげた。
「ふ、あ…!」
 サゲンの指が胸へ伸び、くるくると弄ぶように中心を弄った。アルテミシアは思わず腰を浮かせたが、サゲンの手が素早く腰に伸びて来て阻止され、バランスを崩した。その瞬間にサゲンはアルテミシアの身体を抱き上げてベッドに押し倒し、膝を抱えたまま奥へと思い切り突き入った。
 アルテミシアは突然襲ってきた何度目かの絶頂に悲鳴を上げて身体を震わせた。身体も心も、もうサゲンしか感じられない。おかしくなりそうだ。
「も、だめ…」
「まだだ」
 サゲンの熱が身体の奥で暴れている。荒波に放り出されたような激しさが新たな快感を生み、融け合った部分が淫らな音を立てて弾けそうなほどに熱くなった。羞恥も躊躇もなく全てを曝け出して愛し合える人は、世界中のどこを探したってここにしかいない。
「ああ、アルテミシア…!」
「サゲン、サゲン愛してる…」
「くっ――」
 サゲンが激しく奥を突きながら獣のように呻き、アルテミシアの全身を強く抱きしめて奥に全てを解き放った。呼吸をひどく乱して肩に頭を預けてくるサゲンが愛おしくて堪らず、アルテミシアは短い巻き毛をさわさわと撫でて汗の浮いた額にキスをした。サゲンは熱烈な口付けでそれに応えた。
「俺も愛している。世界中の何よりも」
 唇の触れ合う位置でそう囁き、もう一度甘やかな唇を味わった。
「アルテミシア、俺の妻…」
「まだだよ、正式には」
 アルテミシアはくすくすと笑った。左手の薬指には、波模様の透かし彫りが美しい金とオパールの指環が燭台の灯りを反射してキラキラと輝いている。
「では明日、登城ついでに陛下のもとへ婚姻証明書を持って行こう。もう一日も待てない。君を今すぐ妻にしたい」
「いいよ、せっかちな旦那さま」
 アルテミシアは笑ってサゲンに羽が触れるような口付けをした。
「でも――陛下が証人?それって…」
「不躾か」
「ううん、すごく効力ありそう」
 サゲンは低く官能的な声で笑ってアルテミシアを抱きしめた。
「そうだ。一生逃げられないぞ」
 アルテミシアはこの上なく幸せな気分でサゲンの大きな身体を抱き締めた。
「一生捕まえていて、あなたのそばに」
 サゲンにもう一度唇を塞がれた後、サゲンの匂いと熱に満たされる行為に没頭し、その他の一切を放棄した。

 二人がようやく他のことを始めたのは、翌夕のことだ。既に陽が落ち始める時間だったが、悲鳴を上げる身体を無視して濃紺の軍服と登城用の青いドレスを身に付け、ともかく女王の元へ参上した。手には、婚姻証明書として二人の名を記した羊皮紙を携えている。
 ロハクの若い従僕が門前で二人を出迎え、正式な会見が行われる謁見の間ではなく、イサ・アンナ女王個人の執務室へと案内した。
 始めてここに来た日のように、重い扉の代わりに薄地の淡い緑色をしたカーテンが風にふわりと靡いて石造りの城内に爽やかな色彩を添えている。
 カーテンのすぐ後ろにいたのは、ロハクだ。いつものように明るいグレーの長いローブを羽織って直立している。
「お待ちしていましたよ」
 ロハクは元々猫のように細い目をもっと細めて二人を見た。帰還を喜んでいるようにも、長らくの不在を責めているようにも見える。が、ロハクが言葉を発する前に、奥から杏子色のゆったりしたドレスを纏ったイサ・アンナが足早に進み出た。
 イサ・アンナはさくらんぼ色の大きな口を左右に広げて目に三日月のような弧を描かせ、温かく柔らかい腕でアルテミシアを力強く抱擁した。
「よう帰った」
 アルテミシアは泣きそうになった。これほど心の温かい君主が、他のどこにいるだろう。
「バルカ将軍も、通詞どのの奪還ご苦労だったな」
 イサ・アンナが茶目っ気たっぷりの笑顔で言った。
「勿体ないお言葉ですが、陛下、わたしは妻を迎えに行っただけで――」
「お?」
 イサ・アンナが黒い瞳をらんと輝かせてアルテミシアの両肩に白い手を置き、二人の顔を交互に見た後、アルテミシアの左手を持ち上げて指環をまじまじと見つめ、サゲンが細く巻かれた上等な羊皮紙を携えているのを見て、ゆっくりと顔中に笑みを広げた。喜色満面といった感じだ。
「でかした、将軍。これでミーシャは正式に我が王国の民だ!それに、なんとわたしの最も信頼する者二人が夫婦になるとは、これほど嬉しいことはないな!ロハク!」
「陛下の寛大な御心とわたしの心労が報われるというものです」
 ロハクは微笑して顎を引いた。執務机の引き出しから小さなビンを取り出して蓋を開け、サゲンから羊皮紙を受け取って机上に金色に光る重りを乗せて真っ直ぐに広げた。
「いろいろと申し上げたいことはありますが…」
 細い目がサゲンとアルテミシアを行ったり来たりし、最後にここ数か月で一番の喜びを露わにしているイサ・アンナで止まり、最後にもう一度サゲンとアルテミシアに向いた。細い目は柔らかく弧を描いている。
「まずはおめでとうございます。心から祝福しますよ」
「ありがとう、ミシナさん!」
 アルテミシアが飛び上がるようにロハクに抱きついた。ロハクはちょっと煩わしそうに眉を寄せたが、ウンウンと満足そうに頷く女王を見てアルテミシアの肩をポンポンと叩いた。
「苦労をかけた」
 サゲンが笑いもせずに言うと、ロハクは何かを諦めたように肩を少し落とした。
 イサ・アンナは軽い足取りで執務机に向かい、羽ペンをしごいてロハクの用意したインクを付け、サゲンの持ってきた結婚証明書の右下にイノイルの古語とマルス語の二種類の署名をした。
「我、イノイル国王イサ・アンナ・ウラニア・ルチア・エレクトリナ・シトーが、汝らサゲン・エメレンス・バルカとアルテミシア・ジュディット・リンドの正式な婚姻を証明する」
 イサ・アンナが羊皮紙を厳かに掲げて見せ、二人に真夏の太陽のような笑顔を見せた。アルテミシアとサゲンは顔を見合わせてニヤリとした後、イサ・アンナに向かって膝を曲げてお辞儀をした。
「はい、陛下」
「謹んで、アルテミシア・ジュディットを妻に貰い受けます」
「では、そなたの旅は終わりか、ミーシャ」
 イサ・アンナはロハクに羊皮紙を渡しながら言った。
「いいえ、イサ・アンナさま。これから新しい旅に…そうですね、まずは三つほど」
「そんなにか」
「はい。サゲンと出る夫婦の旅、通詞としての旅、それから、新しくイサ・アンナさまとご一緒したい旅があるんです」
「おっ、いいな。どんな旅だ」
 イサ・アンナは少女のように目をキラキラと輝かせた。
「それは休暇から帰ったらお話しします」
 アルテミシアはにっこりと笑った。

「俺にも言わないつもりか?」
 城を出た後、サゲンが言った。沈み始めた夕陽が空気を黄金色に染め、サゲンの頬とつやつやしたティティの黒い毛並みを輝かせている。
「まだ内緒。でもサゲンにも関わることだよ」
 アルテミシアは鐙に足を掛け、ひょいとアレイオンの栗色の背に跨がった。
「それはますます尋問したくなるな」
「無駄だよ」
 アルテミシアはいつもサゲンがするように唇の端を吊り上げて見せた。サゲンも同じように低く笑うと、手綱を握ってティティをゆるゆると歩かせた。
「まあ、今はそれより両親の元へ行かなければ」
「えっ、今から?」
 アルテミシアは仰天してアレイオンに合図することも忘れてしまった。サゲンとティティは前をどんどん進んでいく。考えてみれば、当然だ。本当なら結婚証明書を女王のところへ持って行く前に行っておくべきだったのだ。
(まずい)
 と、今更ながら思った。順番を間違えた。
(もしサゲンがこれで怒られたりしたら…)
 確実に親子喧嘩になるし、そうなった場合の原因は自分だ。なんだか急に不安になってきた。
 ところが、サゲンはティティを止まらせて振り返り、アルテミシアの顔を見るなり可笑しそうに笑い出した。
「大丈夫だ、来い」
 サゲンの言葉はいつもそうであるように真実だった。突然の息子とその妻の訪問にバルカ子爵夫妻は大いに驚いた様子だったが、特に慌てることも腹を立てることもなく、すんなりとアルテミシアをバルカ家の嫁として招き入れた。それどころか、アルテミシアにとってはかなり予想外のことだったが、サゲンの母ミクラ・カテリナがサゲンとよく似た切れ長の目に涙を浮かべるほどの喜びようを見せたのだった。
「まあまあ!なんてきれいなお嬢さんかしら!アルテミシア・ジュディット、好きな食べ物はなあに?モモのコンポスタは好きかしら。今日のデザート、わたしが作ったのだけど。あ、先にお夕食だわね。うちの料理番はね、山育ちなのだけれどとにかく魚料理が絶品なのよ。お魚は好き?今日はちょうどとってもいいマグロが手に入ったと言って…」
「ミクラ、アルテミシアにも話す隙を与えなさい」
 呆然とするアルテミシアを見かねて父エンジ・リアンデルが静かに妻を制止した。表情は少ないが温かい雰囲気の紳士だ。佇まいがサゲンとよく似ている。髪が白くなる前はもっとよく似ていたのだろうとアルテミシアは思った。
「ああ、そうね。わたしったら。オホホ。でも仕方ないわ。だってエンジ、こんなに素敵なお嬢さんがわたしたちの娘だなんて。もっとずっと先になるかもと思っていたのに、なんて嬉しい驚きかしらね!」
 ミクラが丸い頬をつやつやさせた。エンジは無言で頷き、微笑んだ。
「息子を幸せにしてくれてありがとう、アルテミシア。歓迎するよ」
 なんだかひどく恥ずかしくなってきたが、それ以上にサゲンの両親からこれほど快く受け入れられたことが踊り出したいほど嬉しかった。アルテミシアは頬を染めて義理の両親となった二人と抱擁を交わした。
「ほらな。言った通りだったろう」
 サゲンがアルテミシアの肩を抱いて小声で囁いた。アルテミシアはとびきりの笑顔で応えた。
 この日、夕食の席にはこの四人の他に、サゲンの弟シグロ・ノアリムがいた。普段は遠方で法律家の修行をしているが、この日はたまたま帰郷していたらしい。兄と同じ濃い栗色の巻き毛を肩まで伸ばして一つに縛り、ベストの前を開けたまま、この家族の中でいちばんラフな格好で階上から現れた。身長は兄や父と同じように高くすらりとしていて、顔はサゲンとそっくりだ。
「可愛いお嫁さんを連れてきたんだって?兄さん」
 無言の兄の視線の先を辿り、食卓にアルテミシアの姿を認めたシグロは、兄に向かってちょっと困惑したように眉を下げた。
「…なんで兄さんの新妻が父上と母上の間に座らされてるんだ?」
 とシグロが指摘した通り、アルテミシアは何故かエンジとミクラの間に座っている。しかも、弟の登場に気付かないほど三人の話が弾んでいた。普段からよく笑う母はともかく、常に無表情で口数の少ない父親までもが声を上げて笑っている。
「母上がもっと話したいと言ってこうなった。本当ならここに――」
 とサゲンが今まさにシグロの座ろうとしている隣の椅子を顎でしゃくってムスッとした。
「座るはずだった。俺の存在は無視だ」
「そいつは、なんていうか…。ま、おめでとう、サゲン兄さん。今まででいちばん幸せそうだ」
「ああ」
 サゲンは弟に滅多に見せない顔で柔らかく微笑んだ。

 翌日以降は、サゲンの宣言通りの休暇になった。サゲンは一日に何度もアルテミシアを求め、入浴の間もその身体を離さなかった。アルテミシアも同じくらいサゲンを求めた。全身が溶けてしまいそうなほどの熱情にアルテミシアが音を上げることの方が多かったが、それでも二人きりの時間をこれ以上ないほど濃密に過ごし、休暇の最後の日には一日の殆どをベッドで過ごした。
「大丈夫か」
 サゲンがアルテミシアの身体の奥でもう何度目とも知れない絶頂を味わった後、まだびくびくと震えて首にしがみついているアルテミシアの背を撫でて言った。
「もうだめ…」
「本当に?」
「あっ」
 身体の中でサゲンが硬度を取り戻しているのを感じ、アルテミシアは身をよじった。こんなに激しい快感を一日中幾度となく味わわされていては、明日から普通の生活に戻れなくなりそうだ。しかし、サゲンはアルテミシアをうっとりするような官能的なキスで誘惑し、とうとうもう一度その身体を手に入れることに成功した。
「ああ、愛している。アルテミシア」
「ん、わたしも、愛してる…」

 休暇から戻った二人は、数か月の不在が嘘のように次々と職務をこなした。が、積もりに積もった仕事で長らくの間は忙殺される日々を送ることになった。
 更にアルテミシアは女王に乞い、人身売買などの犯罪に巻き込まれた女性や子供たちのための保護施設を作り、その後も彼らのための療養施設や学校の設立に勤しむことになった。これが、女王と出る新しい旅だ。
 そして、もう一つの旅もまた、めまぐるしく光に満ちて、この上なく幸福なものだ。
 サゲンは任務で長期間屋敷を空けることがなくなった。これは周囲の人間から見れば天変地異ほどの変化だったが、本人にとってはそうでもない。一日の終わりには最愛の妻のそばにいたいというだけのことだ。
 二人がオアリスの小高い丘の上にある壮麗なオスイア神殿で婚礼を行うことがようやく叶ったのは、夫婦となってから二年後のことだった。
 イサ・アンナ女王が「わたしが媒妁したようなものだからな!」などと張り切って自ら取り仕切ったため、外国にいるアルテミシアの親族は全員女王の船で呼び寄せられ、軍の関係者どころか近隣国の有力者までもが大勢バルカ夫妻の結婚を祝いに駆けつけた。
 中にはエマンシュナのコルネール公爵夫妻とその子供たちの姿もある。公爵夫人は第三子を懐妊中で、大好きな蜂蜜酒に手を伸ばそうとしたところをその夫に止められ、ちょっとむくれていたが、アルテミシアが温かい紅茶に蜂蜜酒を少しだけ混ぜたものを差し出すと、たちまち上機嫌になった。
 この日のためにロハクは女王の政務をいくつも押し付けられて頭を抱えたが、持ち前の処理能力でもってすべてを婚礼の前日に終わらせ、礼服を一分の隙もなくビシッと決めてこの婚礼に出席した。
 最も驚くべきは、誰よりもこの婚礼の準備のために時間を使った女王が末席に座ったことだ。国家元首が主賓として列席しては自分が目立ちすぎるからと、本人の強い希望でお忍びでの参列となった。いつもより地味な礼装だったが、それでも存在感を隠しきれない女王を、アルテミシアはなんだか可笑しく思った。
 花嫁介添人のエラは、アルテミシアが両親の婚礼で着た波と花の刺繍のドレスをイノイル風の細身の形に仕立て直して身に纏い、上官の花婿介添人の栄誉を与えられてちょっと派手なジャケットで洒落込んできたイグリと穏やかに微笑み合いながら寄り添っている。
 成長期を経てすっかり大人の佇まいになったイヴは相変わらず人の輪から抜けて隅でスケッチに勤しんでいたが、サーシャやシャロンなどは錚々たる招待客の顔ぶれに感激して終始キョロキョロしていた。シャロンの隣にはヴィンチェンゾがぴったり寄り添い、その腕の中では二人の間に去年生まれた赤毛の男の子がすやすやと眠っている。
 この婚礼でサゲンとアルテミシアの次に注目を集めたのは、よちよち歩きの可愛らしい双子の女の子だ。二人とも赤みがかった金色の髪で、目はハシバミ色をしている。
「ラウラ、ミルテ」
 アルテミシアが呼ぶと、双子がぱあっと笑って白いドレスの広い裾をワサワサさせ、両腕を上げてトコトコと近付いてきた。アルテミシアの隣に立つ深い赤の礼服を身に纏ったサゲンが双子を同時にひょいっと抱え上げ、キャッキャと無邪気に喜ぶ顔を交互にまじまじと見た。
「見れば見るほど、二人とも君によく似ているな。生まれたての頃より似てきたんじゃないか」
「そりゃ、同じ親から生まれたんだもん」
「義兄としては将来が心配だ。悪い虫がつかないようにしなければ」
「トーレの妹たちをオアリスから監視する気?」
 アルテミシアは声を上げて笑った。サゲンの好きな、夏空のように澄んだ声だ。結婚してからというもの、彼女は日に日に輝きを増して今ではオアリスでは評判の美人となっている。それだけにサゲンの頭痛の種が増えたことは言うまでもないが、同じくらいサゲンのアルテミシアへの愛も深くなっている。それは、アルテミシアも同様だ。
「本当に、お前の子供の頃とそっくり同じ顔よ。性格はこの子たちの方がよっぽど大人しいけれどね」
 マルグレーテが言った。初夏の晴れた日に相応しい明るいグリーンのドレスを纏って、髪を肩まで短くしている。どうやらアルテミシアが髪を短くしていた時に便利そうだと思っていたらしく、昨年双子を出産した時にドナの制止も聞かずバッサリと切ってしまったのだ。代わりに今はアルテミシアが長い髪をきれいに結っているから、平素から髪には女の魂が宿ると強く信じているドナの心も少しは慰められるというものだ。
「でも年を取ってからの双子育児はまるで戦争だよ。ドナとロベルタがいてくれなかったらどうなっていたことか」
 グリーンの礼服にところどころ子供たちの食べこぼしをくっつけたジュードが言うと、ドナとロベルタがその後ろでしたり顔をしながらウンウンと頷いて見せた。
「まあ、この分だと僕たちの孫は双子じゃなさそうだね」
 ジュードは一番上の娘の腹を見て言った。アルテミシアが着ている花嫁衣装は、イノイルの一般的な締め付けのきつい礼装ではなく、胸の下でゆったりと広がる花の地紋のある真珠色のドレスで、裾にはアルテミシアお気に入りの青い波の刺繍が施されている。
「二人も入ってたらこのドレスも着られなかっただろうね」
「それより二つしか年の変わらない叔母と甥っ子か姪っ子同士が更に双子同士だなんて、奇妙すぎるわよ。それこそ運命の悪戯ね」
 マルグレーテは冗談めかしてそんなことを言ったが、アルテミシアとサゲンの間にはこの時腹に宿っていた最初の息子が生まれた三年後に男女の双子が生まれることになる。

「君と出会ってから――」
 サゲンが小さな声で言った。腕に栗色の髪をした赤ん坊を立ったまま抱いて、ゆっくりと身体を揺らしている。昨日サイ・テティシアと名付けられたばかりの赤子は、父親の穏やかな目をウトウトと眺めながら睫毛の長い目蓋を閉じたり開いたりしている。
「予想だにしない旅が増えたな」
 終始緩みっぱなしのサゲンの顔を眺めながら、広いベッドに座るアルテミシアがくすくす笑った。その腕の中では明るい金色の髪をしたもう一人の赤子ジン・アミントレが既に寝息を立てて眠っている。
「わたしも今同じこと考えてた」
 サゲンはようやく目蓋を閉じた娘を起こさないよう、そっと身を屈めて穏やかに弧を描く妻の唇にキスをした。開け放たれた窓からそよそよと吹く初夏の風が、アルテミシアの柔らかい髪を、肩を撫でるように揺らしている。
「おっと」
 サゲンは扉の向こうからパタパタと聞こえる足音に耳を傾けた。足音はバタッという音と同時に止まり、次いで「あっ、坊っちゃま!」とケイナの慌てたような声が聞こえた。
「小さなランゼが転んだぞ」
「泣くかな?」
 サゲンとアルテミシアが唇を触れあわせ、低い声で笑い合った。
「かあしゃま、とうしゃまぁ」
 寝室の扉が開くと同時に、シオジお手製の空色のベストを着た明るい栗色の髪をしたランゼ・ケイロンが僅かに青の混じったヘーゼルの瞳をキラキラと輝かせ、母親にそっくりな満面の笑みで飛び込んで来た。兄になったばかりのランゼは、近頃は転んでも泣かなくなった。
 アルテミシアとサゲンは顔を見合わせて笑った。
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