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第一話
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拝啓 斉木美奈子様
突然このような手紙を受け取って、あなたはどう思われるでしょうか。あるいはたちの悪い悪戯だと思い、怒っておられるかもしれません。
何しろあなたにとって私は死んだはずの人間なのですから。
私はあなたにとって、一体どういう人間だったのでしょうね。恋人、それとも友人、もしくはただの同僚でしょうか。
あなたにとって私がどういう人間であったかは、今となってはよく判らないことです。でも、私にとってあなたがとても大切な人であることは間違いありません。あるいは愛以上に、深い感情を抱いているといっていいでしょう。
だから。
そうであるからこそ、こうして手紙を書いています。本当にこの手紙があなたに届くのか、自信があるわけではないのですが。何しろ私とあなたの間に横たわるのは、死という名の深淵なのですから。
前置きが長くなってしまいました。
そろそろ用件に入りましょう。
あなたは目覚めなければならない。その深く果てしのない眠りから。
そのためには、魔法使いと会う必要があります。
❖
暦の上ではもう春だとはいえ、山上の空気は十分冷たかった。屍衣のように純白のコートを身に纏ったその男は、ゆっくりと木立の間を歩いてゆく。その右手にはアタッシュケースが提げられていた。白いコートは穏やかな春の日差しを受け、深緑の宇宙を渡ってゆく月のように輝いてみえる。
唐突にその建物が現れる。山奥深い、観光地から少し離れた場所に、その奇妙な館はあった。林に囲まれたその大きな館は、知らずに見ると夢の中にだけある幻影が突然現実に現れたように思える。
かつて大富豪が別荘として建てたといわれるその館は、豪華客船を模して造られていた。山中の森林という深緑の海を渡ってゆく巨大な船ということらしい。
甲板に立った白衣の彼は、その大きな建物を見渡す。建てられたのは随分前のはずだが、緩やかな曲線をもつ結構瀟洒な外観を持っていた。ただ、建てられた時にはおそらく洗練されたデザインだったのかもしれないが、長い年月がある種の風格のようなものをあたえている。
そう、喩えて言うなれば。
深緑の海底に沈んだ難破船、とでもいうような。
その死にも似た静寂を纏った建物の甲板を、彼はゆっくりと歩んで行く。風もとまり空気は重く淀み、陽の光さえなぜかここではくすんで見えた。あたかも緑の海底のように。
彼の前には、巨大な扉が聳えている。頑丈そうな木材で造られたその扉は、巧みな螺旋模様の彫刻がなされていた。どこか呪術的結界のように来るものを拒むような、重々しさがある。
彼は、静かに、そう恋人の手に触れるようにそっとその扉に手をかけた。青白い呪術紋様が浮かび上がり手と扉の間に一瞬火花がはしる。彼は白いコートのポケットから手のひらに収まるサイズの携帯端末を取り出すと、片手で操作した。その小さなディスプレイに呪術紋様が浮かび上がる。それと同時に扉の表面に浮かんでいた紋様が、光を発して消滅していった。彼は再び扉に手をかける。
溜め息のような音をたてると、扉はゆっくりと開いていった。
突然このような手紙を受け取って、あなたはどう思われるでしょうか。あるいはたちの悪い悪戯だと思い、怒っておられるかもしれません。
何しろあなたにとって私は死んだはずの人間なのですから。
私はあなたにとって、一体どういう人間だったのでしょうね。恋人、それとも友人、もしくはただの同僚でしょうか。
あなたにとって私がどういう人間であったかは、今となってはよく判らないことです。でも、私にとってあなたがとても大切な人であることは間違いありません。あるいは愛以上に、深い感情を抱いているといっていいでしょう。
だから。
そうであるからこそ、こうして手紙を書いています。本当にこの手紙があなたに届くのか、自信があるわけではないのですが。何しろ私とあなたの間に横たわるのは、死という名の深淵なのですから。
前置きが長くなってしまいました。
そろそろ用件に入りましょう。
あなたは目覚めなければならない。その深く果てしのない眠りから。
そのためには、魔法使いと会う必要があります。
❖
暦の上ではもう春だとはいえ、山上の空気は十分冷たかった。屍衣のように純白のコートを身に纏ったその男は、ゆっくりと木立の間を歩いてゆく。その右手にはアタッシュケースが提げられていた。白いコートは穏やかな春の日差しを受け、深緑の宇宙を渡ってゆく月のように輝いてみえる。
唐突にその建物が現れる。山奥深い、観光地から少し離れた場所に、その奇妙な館はあった。林に囲まれたその大きな館は、知らずに見ると夢の中にだけある幻影が突然現実に現れたように思える。
かつて大富豪が別荘として建てたといわれるその館は、豪華客船を模して造られていた。山中の森林という深緑の海を渡ってゆく巨大な船ということらしい。
甲板に立った白衣の彼は、その大きな建物を見渡す。建てられたのは随分前のはずだが、緩やかな曲線をもつ結構瀟洒な外観を持っていた。ただ、建てられた時にはおそらく洗練されたデザインだったのかもしれないが、長い年月がある種の風格のようなものをあたえている。
そう、喩えて言うなれば。
深緑の海底に沈んだ難破船、とでもいうような。
その死にも似た静寂を纏った建物の甲板を、彼はゆっくりと歩んで行く。風もとまり空気は重く淀み、陽の光さえなぜかここではくすんで見えた。あたかも緑の海底のように。
彼の前には、巨大な扉が聳えている。頑丈そうな木材で造られたその扉は、巧みな螺旋模様の彫刻がなされていた。どこか呪術的結界のように来るものを拒むような、重々しさがある。
彼は、静かに、そう恋人の手に触れるようにそっとその扉に手をかけた。青白い呪術紋様が浮かび上がり手と扉の間に一瞬火花がはしる。彼は白いコートのポケットから手のひらに収まるサイズの携帯端末を取り出すと、片手で操作した。その小さなディスプレイに呪術紋様が浮かび上がる。それと同時に扉の表面に浮かんでいた紋様が、光を発して消滅していった。彼は再び扉に手をかける。
溜め息のような音をたてると、扉はゆっくりと開いていった。
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