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痴女(ちじょ)
しおりを挟む俺は、黒六白の黒豚だ。
黒い体に、手足の先と鼻先、それにくるっと上に丸まった尻尾の先が、白い毛で覆われている。
だから、黒六白。バークシャーと呼ばれる、とても美味い豚だ。
最近、『 THE 黒豚らーめん 』という旨いカップ麺が新発売になったようだ。だが、とも喰いになるから、俺は食わないが。
俺の趣味はスロット。自称、スロッター黒豚だ。
小さな盆地の外れにある、大きな養豚場近くの低貸しパチ屋が、いつもの俺のネグラだったのだが。
地方の単線ローカル鉄道の、茶色い色をした鈍行列車の電車内。
早朝の車内は、とりどりの制服を着た通学の学生たちで混み合っていた。
( ガタン、ゴトン ゴトン … ガタン、ゴトン … )
俺は列車の窓際にある緑色のシートに座り、がたごとと揺られていた。
その日俺は、この小さな盆地の真中の県庁所在地に新しくできた、大きなパチンコチェーン店の新装開店にスロを打ちに行くところだった。開店時間は、午後一時。
パチ屋までは、盆地の外れにある俺の住む養豚場から、この単線の田舎の鉄道で約一時間。まだ、十分に早い時間だった。向こうに着いたら、美味いコーヒーチェーンで一服付けて、ブラックコーヒーでも楽しむとするか。
公立や私立の高校、そして中・小学校が集中するエリアを過ぎ、車内にわさわさとたむろしていた、電車通学の学生たちもみな降りて、急に車内はがらんとする。
電車は、住宅地沿線を走る。様々な色合いの家々の屋根が、車窓を流れ通り過ぎていく。
やがて、電車を待つ人もまばらな無人駅に、電車は止まる。
( プシューッ、ツ ) 扉が開く。
車掌がホームに出て、車両の前後を指さし確認している。
むちっとした体形の、渋めのピッチりとした服に身を包んだ、普通のどこかの奥さん風の女性が乗り込んでくる。
その女性は車内をぐるっと見回すと、わざわざ、長いシートの真中に座る、俺のすぐ右横に腰かけてきた。
周りの座席は随分と、まだ空いているというのに。俺の横に、ぴたりと。
「うんっ? … 」
年の頃妙齢な、むちむちとした身体の、浅黒いデュロックの熟女は、そのでかいケツを、ぐいぐいと横に座る俺に押し付けてくる。はち切れそうなその躰をも、俺の脇腹に向けてぐいぐいと。
( ぐいぐい、ぐいぐいぐい、ぐいぐい ぐい … )
(ぐいぐいぐい、ぐいぐい ぐい… )
俺は無意識に、シートの上の腰を反対の方へとずらす。
( ぐいぐいぐい、ぐい… )
俺はまた、腰を横へとずらす。
「ん。… ⁉」
( ぐい … )
「ハッ⁉ これか! …」
「これか⁈、この〇〇線に出るという 、噂の痴女というのは?」俺は、心の中で、そう呟いた。
そして、その ” 怪異 ” に遭遇してしまった恐怖に、少し顔を引きつらせる。
( ぐいぐい、ぐいぐいぐい、ぐいぐい ぐい )
なおも女は、俺の腰に、横からでかいケツを押し付け続ける。
( ぐい ぐい、ぐい … )
俺は、座るシートの左側へと、尻をカニ歩きにずらしながら逃げる。
だが、隣に座る女のむちむちしたケツは、俺を追いかけてくる。
( ぐい … )
俺は顔を上げ、横に座る、ケツを俺に押し付け続けている女の顔を見やる。
女はうつむきながらも、恍惚とした表情を見せている。どこかほんのりと赤く、そして上気した顔色を、横顔のその浅黒い肌ににじませ恥ずかしそうに体を丸めながらも、まだ自分のむちっとした体を俺に押し付ける。( くいっ … )
まばらに座るほかの乗客たちは、俺とその女の間での静かな無言の攻防に、誰も気が付いてはいないようだったが。
「やはり、できる豚はもてるぜ!」(違うか …)
「… … …」
だが、俺は妙に冷静な頭の片隅で、どこか少し感動してもいた。
「熟女の痴女かぁ … しかも、見事なでかい尻だゎ … 」
心が汚れきっている今ならば、でかいケツフェチの俺としては、その時、その女に声を掛けていたかもしれない。
「お嬢さん。これからパチ屋に、一緒にスロ打ちに行きませんか? …」 … と。
だが、まだ今よりか少し心が澄んでいたその頃の俺は、その色黒の痴女の纏う ” オーラ ” に圧倒され、『やめてください!』の一言も、発せられないままでいたのだが。正直、迫りくる女のでかいケツから、自分の尻を逃がすのに精一杯で … 。
そして、やがてその女は満足したと見え、俺に見切りを付けたのだろうか、電車が駅に停まると、俺の顔に冷たい一瞥を投げつけただけで無言で立ち上がり、開いたドアを出ていった。そのでかいケツを、ぶいぶいと左右に振りながら。
俺は黙って、去っていく女の尻を無言で見つめ、ただ見送っていた。
(おわり …)
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