薄明かりの下で君は笑う

ひいらぎ

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「志野っていまなにやってんの?  仕事」

「仕事はしてない」

「は!?  やめたの」

「ああ、2年前に」

「2年前って……ニートじゃん。にしては金持ちすぎない?」


自宅は豪邸、出てくる料理も安物ではない。
それに志野からプレゼントされる服はいつもハイブランドなものばかり。
おかしい。
そんな裕福なニートがいるとしたら、親のスネかじりではないか。


「意外~……じゃあなに、親が大富豪とか?」

「ネットで収入を得てんだよ」

「ん??  ネット?  え、ネットってお金もらえるの?」

「本当に知らないんだな……」


知るわけがない。
スマホの存在は知っていても所持していないうえに親から持たされたこともない。
いまの時代、ネットを通じて収入を得ている人間がいるのか。


「なにしたらお金もらえるんだ……」

「色々ある。動画投稿でもモデル活動でも慈善活動でも、いまはネットさえあればやりたい放題だ」

「へーすご。おれの知らないあいだに世の中は周り回ってるんだなぁ」

「……お前もそうすればいい」

「なーんか難しそう」

「やり方ならいくらでも教える。だから男娼なんてもうやめろ」

「……」


どうして心配そうに言うのか、おれは志野に少し腹が立った。
赤の他人なのに。


「やめらんないかなー、趣味みたいなもんだし」

「ならやめなくてもいい。でも安売りはするな、傷を増やされたらこっちが面倒なんだ」

「そんなイヤなら、志野が抱いてくれればいいのに。そうしたら傷は増やさないし、ヤバそうな男に声をかけないよ」

「……」


おれはクズ野郎だ。
志野の良心を利用して自分の虚しさを埋めようとしている。
この男はおれと性行為がしたくて近づいてきたわけじゃない。
単純に良心で人助けをしただけだろう。


「後悔しても知らねえぞ、くそガキ」

「ガキじゃないし。そんな年齢変わんないじゃん、お兄さん」

「キモい呼び方やめろ」

「みるみるモンモ~ン」

「薬でもやってんのか、お前は……」

「あはは~、1回薬誘われたけどなんか怖くて逃げたよ」

「そういうことを笑顔でいうな、バカ野郎」


子どもに囲まれたみるモンと目が合った気がして手を振ると、彼も振り返してきた。


「あれ絶対おれのこと好きじゃん~」

「すぐちょっかい出すな淫乱。ビュッフェだから元が取れるようにたくさん食えよ」

「びゅ、なんて?  びゅ、ふえ?」

「ビュッフェ。セルフってわかるか?」

「わかる」

「セルフで食べたいもんを選べるのがビュッフェな」

「食べ放題ってこと!」

「ああ」


食べ放題のレストランに行ったことはない。
志野はおれに初めてを教えてくれる。
未成年でもないが、おれが初めて知るものは多い。


「食べ放題……」

「よだれを垂らすな」

「志野は毎日ビューなんとかってのを食べてるのか!  羨ましいんだけどっ」

「毎日なわけあるか。あんたが世の中を知らなすぎるから連れてきたんだよ」

「おれは闇の覇者だから」

「うっせー」


返しに笑いながら歩いているとき突然、志野の腕につよく抱き寄せられた。
一瞬のことで困惑するおれをよそに、背後から見覚えのない男がすれ違う。


「っ」

「あっぶねえ……怪我してないか」

「うん……」


いま、変だった。
おれの鼓動、壊れてる。
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