異世界へようこそ

飛狼

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序章 異世界転移

◇うまい話には裏があるというけれど。

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 俺は、ラストダンジョン『断罪の塔』の最上階にある“深淵の間”へと、遂に突入した。
 一歩その空間に踏み込むと、全てが濃い闇に包まれ一切の視界が閉ざされる。
 だが、今の俺には、そんなものは通用しない。たとえ、どのような邪悪で恐怖に彩られた闇であろうともだ。
 這い寄る恐怖は、最大限まで伸ばした【状態異常耐性】のスキルが弾き、視界を覆い尽くす闇も――即座に、職業特性に組み込まれた【暗視モード】へと視界を切り替えると、まるで霧が晴れていくかの如く、中の様子が鮮明に見てとれる。
 そこは、上下四方ともの四角い石組で造られた大広間。凍てつくような冷気に包まれ、俺の吐く息も白い。
 その広々とした広間には、中央にただひとつ、重厚な漆黒の玉座が据えられているのみ。そして、そこに座すのは……。
 
『ニンゲンヨ、良クココマデ来タ。ダガ、ソレモココマデダ。我ハ邪神……』

 そこにいたのは、周囲の景色にそぐわず無駄に豪華な――金糸銀糸で編まれた煌びやかな衣装を身に纏う男。額の両際からは、二本の角がぬっと天に向かって伸びている。爬虫類にも似た顔立ちに、口元からは長く真っ赤な舌がチラチラと見え隠れする。明らかに人ではない異形の姿。男はにこやかに話し掛けてくるが、その言葉の途中で、俺は問答無用で飛び掛かった。

「やかましい! お前の能書きを聞いてる余裕はこっちにはねえんだよ!」

 こっちは、ここに来るまでかなりの時間をかけているのだ。とてもではないが、悠長に話をする気にはなれない。逸る気持ちを抑えきれず、俺は男に剣を向けたのだ。

 ――いっ気に畳み掛けさせてもらうぜ!

 右手に光剣アマラを、左手には闇剣カマラを持ち、身体の前で交差させて声高に叫ぶ。

「グランドクロススラッシュ!」

 十字に交差した剣から飛び出すのは、白く輝く光と漆黒の闇。クロスした形の光と闇が、油断していた玉座の男を貫いた。

『グハッ! 人間メ卑怯ナリ! ヤハリ人間ハ……』

 ヨロヨロと玉座から立ち上がる邪悪な男は、尚も話し掛けようとするが、俺は構わず斬撃を繰り出す。

「だぁかぁらぁぁぁ、うるせえんだよ! 余裕をかましてるお前が悪いんだろ!」

 男の肩口から入った光剣アマラが、男の身体を斜めに切り裂く。左から横薙ぎに振るった闇剣カマラが、男の胴を真っ二つに切り裂いた。

 ――殺(や)ったか?

 だが、男の切り裂かれた筈の傷口から、霧状の闇が漂い出すと男の全身を包み込んだ。

 ――ちっ、これしきではやはり駄目か。

 俺は飛び退くと、一旦玉座から距離を取った。

『オノレ人間メ、我ノ力ヲ思イ知ルガ良イ!』

 男の全身を漆黒の闇が覆い尽くし、それが次第に巨大化していく。その膨れ上がる闇は轟音を響かせ天井を突き破ると、石組が瓦礫となり降り注ぐ。

 ――こいつは、ちょっと不味いか!

 職業スキルの【瞬速】を使い瓦礫を躱していると、頭上から低い声が辺りに響き渡る。

『ハッハハハ、矮小ナ人間ガ我二逆ラウトハ無駄ナ事ダ』

 見上げると、崩れた天井の隙間から青空が見える。そして、巨大化する闇は、既に上空高くまで伸びていた。

「やかましい! 偉そうに……たかが、プログラムされたAI(人工知能)のくせに!」

 俺は自分の職業『ニンジャマスター』の固有スキル、【瞬速】と【飛脚】を同時に発動させる。降り注ぐ瓦礫を難なく躱し、落ちてくる数個の大きな塊を踏み越え、天井の割れ目から塔の外に飛び出した。
 外の明るさに一瞬、視界を奪われるが、直ぐに目を細め通常モードへ戻すと、【飛脚】のスキルで空気の塊を作る。それを足場に、上空へと駆け上がった。

 そうなのだ。ここはオンラインゲームの中で、今戦ってる相手はラスボスの邪神ザカルタだった。
 あれは半年前の事だったかな。今までに無い、新たなヴァーチャル技術を使ったVRMMOゲーム『ゼノン・クロニクル』が、一般公開されたのは。
 それが、全世界に向けて大々的に宣伝されると、一躍、業界で一番有名なゲームとなった。何故ならそれは、過激な謳い文句があったからだ。

『ラストのボスを最速単独撃破した者に、賞金一億円と豪華な賞品!』

 このキャッチコピーに、全ての人が色めきたった。学校内やテレビ放送の中では勿論、果ては一流企業の社内でも、その話題が尽きる事はなかった。世の中は “誰が一億円を手にするのか”その話題一色に染まったといっても過言ではなかった。だから、一億の文字に踊らさた沢山の人々が、ゲームに挑戦したのだ。

 この俺も、それに踊らされた一人だったというわけだ。この半年、長く辛い月日だった。録に睡眠も取らず、給料の大半をつぎ込み、挙げ句に借金までして挑んだ。
 課金アイテムや課金スキルに、洒落にならない金を注ぎ込んだのだ。
 だが、そのおかげで、レベルもステータスもカンスト。所謂、カウンターストップした状態になった。しかも、課金アイテムで、そこから更にステータスを底上げしている。その上、ほとんど全てのスキルも課金で取り込んでいるのだ。
 さっき、最初に放った【グランドクロススラッシュ】も、本来は聖騎士のスキル。俺の職業『ニンジャマスター』では使えないスキルだ。しかし、課金スキル 【全スキル開放】で使う事が出来るようになった。装備についても、【全装備開放】のスキルを持っているので、どんな武器や防具でも装備する事が出来る。
 簡単そうに聞こえるが、課金したからといって直ぐに全てのスキルやアイテムが手に入る訳ではない。超レアなスキルやアイテムは、まず隠しダンジョンを見付ける。そして、課金して謎の鍵を貰って初めてそのダンジョンの中に入れるのだ。その最奥に眠るのが、超レアなアイテムやスキルだった。だから大半の者は、途中でその難解さや、多額の金が掛かる事に嫌気がさし途中で諦める。しかし、ラスボスを倒すにはどうしても、それらが必要だった。
 だから俺は諦め切れず、必要なアイテムを手に入れるため、殆どのダンジョンにも潜ったのだ。
 そして遂に……。


 雲ひとつない青空の下、俺は【飛脚】のスキルで足場を築き、宙に浮いている。目の前には人の形はとっているが、何処までも広がる巨大な闇があった。

 ここで、負ける訳にいかない。ラスボスに負けると、全てを失い最初の街に戻される。また一からやり直すなど、今の俺には無理な相談。既に、借金で首が回らない。勝って一億を手にするしかないのだ。

『人間ノ分際デ、ココマデ出来ルトハ誉メテヤロウ。ドウダ、我ガ手下ニナルナラ見逃シテモ良イガ』

「馬鹿言ってんじゃないぜ。お前を倒して一億を手に入れなきゃ、俺は破産なんだよ!」

 さっき使った【グランドクロススラッシュ】が通用しないとなると、もはや残る手はひとつしかない。【グランドクロススラッシュ】は、俺の持つスキルの中では、かなりの威力があったからだ。
 俺は『ニンジャマスター』のスキルの中でも、究極のスキルを使う事にする。
 こいつは隠しダンジョンの中でも、もっとも困難で厄介だと言われる三つのダンジョンの最奥で手に入れる宝珠。武の宝珠、魔の宝珠、速の宝珠を体内に吸収して、初めて開放される隠しスキルだ。もっとも、課金アイテムの謎の鍵も、相当の値段がしたのだが。

 やつが油断して、余裕を見せている今が好機。何もさせずに勝つ。

「【影分身の陣、千人掌】!」

 俺の叫びと共に、周囲に数えきれない程の、魔法陣に似た円形の黒い影が浮かび上がった。その無数の影の中からは、俺とそっくり同じ姿をした黒装束の男が、ゆっくりと起き上がってくる。
 見渡す限りの周囲――そこには、千人の俺が出現していたのだ。光剣アマラと闇剣カマラを手に持ち、装備も、カンストしたステータスも全く同じ千人の俺がいた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 俺の雄叫びに呼応して、その千人の俺が一斉に動き出す。
 突如現れた千の軍勢に、さすがの邪神ザカルタも驚いたのか、一瞬動きを止めた。
 千の俺が、この機を逃すはずもなく一斉に攻撃を開始する。

 ――ここで、一気に倒してみせる!

 このまま倒せなければ俺の負け。何故なら、この究極スキルは、ごっそりとHPとMPを削るからだ。この後、とてもではないが、まともに戦えるとは思えない。だから、負けた後は現実に戻って首を括るしかない。だが、勝てば夢の億万長者だ。
 この勝負、負ける訳にはいかない。いや、きっと勝てるはず、トップランカーの俺が千人もいるのだから。

 ――【ラッシュ】【ラッシュ】【ラッシュ】【火炎斬】【雷刃破】【氷爆突】【双剣撃】……。


 僅かに残ったMPを、スキルに全てを注ぐ千人の俺が、縦横無尽に闇を切り裂いていく。
 正に圧巻。
 様々な色を煌めかせた千人の俺が、闇を蹴散らし霧散させていく。青空の下ではあるが、それはさながら巨大な闇の中で、色鮮やかな大輪の花を咲かせる打ち上げ花火の様であった。

『ウガァァァァァ!』

 俺のMPが尽き果て、時間切れで千人の俺がひとりに収束していく頃、遂に、邪神ザカルタが断末魔の叫びを上げた。
 最期の闇が塵となり消え去ると、俺は両手を天に向かって突き上げ、歓喜の雄叫びを上げる。

「うおおぉぉォォォォォ!」

 あふれる涙がこぼれ落ち、頬を伝って顎先へと滴る。辛かった半年を思い出し、込み上げる喜びに体を震わせた。
 興奮しながらも俺は、家と車を買ってそれから等と、一億円の使い道を頭の片隅で考えていた。そんな、若干邪(よこしま)な喜びに満たされていた時、脳内に運営からのインフォメーションが流れてきた。

『おめでとうございます。これほど早く攻略されるとは、我々運営一同も驚いております。それでは早速ですが、豪華な賞品を進呈致しますので、そのままお進みください』

「んっ?」

 機械的な音声のアナウンスに、俺はちょっと首を傾げる。

 ――どういう事だ? ここで受け取るのか?

 当然俺は、現実世界で一億円と、その豪華な賞品を受け取るものだと思っていた。
 首を傾げ、そんな事を考えていると、目の前に真っ白な両開きの扉が現れた。

 ――まあ、あれだな。何かお祝いのイベントなんかがあって、目録とかが貰えるのかな。

 あれだけ派手な宣伝をしていたのだ。メディア向けの何かイベントでもあるのかもと、俺は気軽に考えた。だから、目の前の扉に何も考えず手を掛け、喜びの勢いもそのままに、思いっきり扉を開けた。
 だが……。

 途端に、扉の向こうから目映いばかりの光が溢れる。

 ――うおぉっ、眩しい! 何がぁ……。

 余りの眩しさに瞼を閉じる。その時に、微かな浮遊感を感じた。だが、次の瞬間には一気に体が落下し始めた。

 ――なっ、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!

 同時に、意識が急速に薄れていく。

『それでは、皆様が心より願う異世界転移を進呈いたします。より良い異世界ライフをお楽しみ下さい』

 薄れゆく意識の中で、あの運営からの機械的な音声が脳内に響いた。

 ――えっ、えぇぇぇぇ! 何それ? 俺はそんな物は望んでねえぞ! 俺の億万長者ライフがあぁぁぁぁ!

 そして、俺の意識が途切れた……。
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