異世界へようこそ

飛狼

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第三章 カンザキ商会

◇能ある鷹は爪を隠すというけれど。

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「随分と偉そうに言うけど、どう見ても話に聞くほど強そうにに見えないわよ」

「……悪かったな」

 カイナがにやにやと笑いながら俺に近付くと、模擬戦用の木剣を渡してくる。
 そりゃそうだ。俺は日本にいる時は、ごく普通のサラリーマンだったからな。強者の雰囲気なんか、醸し出せるはずもないさ。

「取り敢えず、先ずは私と一対一の試合で決着をつけるのが先でしょう」

「ふむ、良いだろう」

 俺が頷き、木剣を受け取った途端、カイナが手に持つ木剣で喉に突きを入れてくる。

 ――うおぉ! 危ねぇ!

 俺は辛うじて体を捻って横に躱す。が、続けざまに、もう一本の木剣を横に薙いでくる。それを後ろに転がって、何とか躱した。

「前もそうだったけど、今のも良く躱せたわね」

 いつの間にか、カイナは両手に木製の小剣を構えていた。

「おい、卑怯だぞ!」

「勝負に卑怯はない。油断した方が悪いのよ」

 お前はどこの剣豪だ!
 言いたいことは分かるが、これはあくまで練習だろ。 
 だいたい、今のは木剣でも良くて大怪我、下手したら死んでたぞ。やりすぎだろ。
 それにしても、今のはぎりぎりだった。だが、前は【瞬速】のスキルを使って躱したが、今回はスキル無しの能力のみで躱せた。どうやら、やはり俺の能力もかなり上がってるようだ。
 しかし、相変わらず危ない娘だなぁ。

 そんな事を思いながら、少し離れた所で立っているタンガに視線を向けると、満足そうに頷いていた。

 ――やっぱりお前かぁ!

 ちっ、まだ若い娘に、つまんねえ事を教えやがって。大体、お前は魔族の時も、油断してやられてただろうが……後で覚えてろよ。

「ふんっ、油断する方が悪いねぇ。獅子は兎を捕らえるのにも、全力を尽くすと言うからな。それなら俺も、全力でいかしてもらおう」

 俺はカイナに向かって、全力で駆け寄る。

 ……で、結果は、散々に翻弄している……カイナが。

 ――あれっ、おかしいな。

 俺はカイナの攻撃を躱すのが精一杯。もう必死の形相で、汗だくの状態ですが……何故だ。
 今も、カイナの繰り出す連続した左右の突きを、体も手足もてんでばらばらに躱し明後日の方向に向いている。まるで、不格好でコミカルなダンスでも踊ってるような感じだ。お世辞にも、体術とは呼べないようなもの。

「うぅん、何か気持ち悪い。皆から話に聞いて想像してたのと、ちょっと違うわねぇ」

 カイナが、俺の事を小馬鹿にしたような顔を見せる。

「おいヒューマン、真面目にやれ。真面目に!」

 傍らで見守るタンガまで、野次を飛ばしてくる始末だ。
 くそっ、こいつら……能力値的には上がったといっても、まだまだということか。
 まぁ、それも当然か。俺が使っていたのは、あくまでもゲーム内でスキルを多用して操っていた体術。現実世界では、正式に武術なんて習ったことも無いのだから。逆に考えると、素の能力値で躱せてるだけでも凄いのか。

「皆が言うほど強くないじゃない。皆は騙されてるのじゃないの」

 しかし、カイナの辛辣な口調に、俺の男としてのプライドは、もうズタズタだよ。
 えぇい、スキル無しの縛りプレイは、もう止めだ!
 これ以上の恥をかく訳にいかない。俺の威厳にも関わるからな。
 ここからは、スキル有り有りの本気モードで行かしてもらうぞ。

「ふぅ……今までは……手加減……していたからな……ここからは……本気の本気だ」

 俺は息も絶え絶えになりながらも宣言する。

「……本当に?」

 カイナがまた、疑わしそうな視線を向けてくる。
 くぅ、こいつだけは。お前にだけは負けん。
 みてろよ、そんな態度を取ってられるのも今だけだ。
 俺は【瞬速】のスキルを発動させると、一気に間合いを詰める。それは、今までとは比べものにならないほどの速さだ。それもそのはず、【瞬速】のスキルで素早さが二倍になっているからだ。
 カイナは眼を剥いて、驚きの表情を浮かべた。
 それに構わず、俺は更にスキルを発動させる。

「【ラッシュ】【ラッシュ】!」

 攻撃力の増す戦士のスキルを連続して繰り出した。
 俺が続け様に薙いだ木剣が、カイナの左右に持つ木剣の根元に当たった。すると、二つの木剣は、あっさりと宙を飛んでいく。

「あっ!」

 叫んだカイナの二つの木剣が、手に持つ柄の少し上の辺りから、ぽっきりと折れていたのだ。そして、俺は木剣の剣先をカイナの喉元に、そっと当てていた。

「これで、チェックメイトだ!」

「くぅ、悔しいぃぃ!」

 カイナが手首を痛めたのか、頻りに手首を擦りながら顔を歪めて悔しがっていた。
 ふぅ、少し大人げなくやり過ぎたかな。だが、何とか俺の威厳は保てたようだ。
 しかし、ほっと一息ついたのも束の間。

「油断は禁物だと言ったはずだぜ、ヒューマン!」

 今度はタンガが、背後から襲い掛かってきたのだ。

 ――なっ、何て外道な師弟なんだこいつらは。

 タンガの木剣が横に薙いでくる。前にはカイナがいるので、逃げ場がない。瞬時にそれを見て取ると、俺は咄嗟に【飛脚】を使って宙に駆け上がり、難を逃れる。

「ヒューマン、そいつは悪手だぜ!」

 タンガは俺が単にジャンプして逃れただけだと思い、落ちてくる俺に合わせて斬撃を繰り出そうとしていた。

 悪いな、生憎と俺は宙を駆ける事が出来る。
 俺は反則級のスキルを使い、そのまま、タンガの頭上を走り抜ける。そして、背後へと回ると、タンガを思いっきり蹴り飛ばした。

「ぐわぁっ!」

 タンガは呻き声を上げて地に転がるが、直ぐに立ち上がってきた。

「まだまだぁ!」

 タンガが雄叫びを上げ、此方に突進してくる。

 さすがは獣人、結構タフだな。

「そぉりゃあぁぁぁぁ!」

 タンガは上段に担ぎ上げた木剣を、走り寄る勢いに気合いを乗せて降り下ろしてくる。
 その速さは、俺が【瞬速】を使う速さと遜色がない。いや、その速さはそれ以上かも……タンガの本気、歴戦の獣人戦士だというだけの事はある。
 だが……。

「【幻遁中段 朧影】!」

 中段の忍術スキル【幻遁中段 朧影】は、残像を残す目眩まし。実際の動きからコンマ数秒のずれた残像が相手には見える。
 タンガの降り下ろした木剣は、俺の残像を切り裂く。その隙に、実際の俺はタンガの木剣の下を掻い潜り、抜き胴を決める。しかも、その際に【ラッシュ】を全力で発動させていた。

「うがぁっ!」

 タンガは吹っ飛び、派手に転がっていく。今度は立ち上がる事もなく、呻き声を上げ続けていた。
 まぁ、タフなタンガならこれぐらい大丈夫だろ。

「お前ら、これで納得したか」

 全く、この脳筋師弟には参るな。見せる気の無かったスキル、【飛脚】と【幻遁中段 朧影】を使ってしまっただろうが……たくっ。

「おい、ヒューマン。あの薬はもう無いのか?」

 タンガは痛みが酷いのか、顔を歪めて尋ねてくる。

「なぁに、それだけ喋れるなら大丈夫だ。唾でも付けとけば、治るだろうさ」

 霊薬は貴重なレア回復薬。そうそう使ってられるかよ。それにこれは、お前が撒いた種だからな。後はもう知らん。

「さてと、そろそろ朝飯の時間か。朝早くから運動したから、すっかり腹が減った」

 俺が朝陽を手のひらに透かして見ていると、カイナが「あっ」と大声を上げる。

「私も朝の仕事があるのよ。急いで戻らないと」

 カイナは慌てて、屋敷に向かって走り出した。

「おい、お前ら。俺を置いていくなぁ!」

 背後から聞こえるタンガの声を無視して、俺はゆっくりと歩いてカイナの後を追い掛けた。
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