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飛狼

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第四章 邂逅と襲来

◇案ずるより生むが安しというけれど。

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「【雷遁中段 雷刃散華】!」

 頭上高く差し上げたサーベルの刃先から、放射状に幾筋かの雷が放たれる。たちまち、周りに群がるガーゴイルに直撃し、数匹のガーゴイルが黒焦げになった。そのままガーゴイルは墜落して、海中へと没していく。

 ――あうっ! 俺の経験値の糧が……まさか、海中に探しに行く訳にもいかないし。

 墜落していくガーゴイルを、俺は指を咥えて眺めるしかなかった。
 水飛沫を上げて海中へと没するガーゴイルに、思わず嘆息がこぼれ落ちる。

 そうなのだ。格好つけて船の上空まで上がってきたものの、良く考えたら、ここで戦うと魔石の回収が出来なかったのだ。

 残念だが、諦めるしかないかぁ。
 望んだ形では無かったが、折角、経験値を得るための魔獣討伐を決意してたのに……。
 俺はがっくりと肩を落とす。

 だが、それも束の間、直ぐに大きく息を吐き出し気を取り直すと、微かな燐光を放つサーベルを眺めしみじみと呟く。

「しかし、雷撃の一撃でガーゴイルを葬るとは……やはり、このサーベルは使い勝手が良いな」

 本当に良い物を貰った……いや、貸してもらってるだけか? けど、無期限とか言ってたから貰ったようなものか。
 そこで父親エルフ、ケインの苦虫を噛み潰したような顔が思い浮かぶ。
 立場上、ヒューマンの俺に頭を下げるのに差し障りがあるようだが、あのツンデレぶりには参るよな。父親エルフのツンデレとか、勘弁してもらいたいものだ。
 俺は苦笑いを浮かべつつ、手元にあるサーベルを見詰めた。

 しかしこのサーベル、魔力を増幅するとか言ってたが、それだけで無く威力も幾分か上がってるように感じられる。それに、魔力の伝導率が半端なく良い。だから、少ない魔力でスキルを発動させる事が出来たのだ。
 複数のスキルを同時に展開する俺の戦闘スタイルは、強力だがその反面、多くの魔力を必要とする。カンストレベルだったゲームの時とは違い、まだまだ魔力量の少ない今の俺には、このサーベルは本当に有り難かった。
 さすがは、サンタール家に家宝として秘蔵されていた魔剣。長い間、宝物庫に置き忘れられていたために、その銘は失伝してしまったたようだが、それをサラが見付け出し持ち出していたと聞いている。
 この魔剣、ひとつ難を挙げるとすれば、刀身が細身で少し華奢な作りになってるところかな。対人相手ならまだ良いが、魔獣相手だと直接斬り付けるには、少々心もと無い。ま、痛し痒しといった所か。

 しかし、それにしてもサンタール家は古い家柄らしいから、宝物庫には色々と掘り出し物がまだまだ有りそうだ。一度は中を覗いてみたいものだと思う。
 まぁ、俺のアイテムボックスの中で装備出来ずに肥やしとなってる、超が付く程のレア装備品ほどの物は無いだろうけど。

 そんな事を考えつつ周りを見渡すと、残りのガーゴイルは、ざっと見たところ30匹ほど。その内の半数近くは雷の影響で麻痺しているのか、その動きを止めている。
 残りの半数は今の雷撃を警戒してか、俺から距離を取り、遠巻きに周りをぐるぐると回っていた。

 それにしても、麻痺してるガーゴイルは翼も動いていないのに浮かんでるとか、どんな仕組みになってるのか不思議だ。もっとも、あの図体で飛んでる事自体がおかしな話なのだが。まあ、魔法的な何かだとは思うけど。

 ――さてと、どうしたものかな。

 なんとなく皆の前で格好付けて、ここまで駆け上がってきたが、さすがにこの数は厳しいかな。
 もともと、忍者系の職業クラスはそのトリッキーな攻撃から、単体相手には無類の強さをみせるが、多数の相手との戦闘は不得手だったりする。
 そのため、魔導師の広域魔法のスキルを修得していたのだが、今の魔力値では扱うのは無理だ。
 忍術スキルの上段を使うには魔力が足りず、中段のスキル【風刃乱舞】は、単体の相手に無数の風の刃を叩き込むスキル。今使った【雷刃散華】も、本来は素早く動く単体相手に使うスキルだ。
 狙いを付けるでなく、周囲に向けてランダムに10本ほどの雷を放射するスキル。スキルを放つ時には隙も多く、一斉に掛かって来られると対処出来ない。
 さっきは、ガーゴイル達が宙を駆け上がる俺に驚き警戒していたため、上手くスキルを発動させる事が出来たが、二度目となると逆にこちらの隙をついて、一斉に襲って来るかも知れない。いや、ガーゴイルにも、それぐらいの知恵は有るだろう。
 それに、中段のスキルは意外に魔力を喰うからなあ。

 ――そうなると……。

 俺は船の方にちらりと目を向ける。
 そこでは、まだ10匹ほどのガーゴイルに、水夫達が立ち向かい頑張っていた。一時は混乱から劣勢となっていたが、今はタンガやカレリンが先頭に立ち盛り返している。カリナ達も、傷付いた者達の手当などをして後方支援を行っているために、拮抗した戦闘を繰り広げていた。
 狭い船の甲板上で、中空から襲い掛かるガーゴイル相手に、良く善戦している。カレリンが腕っぷしが自慢の水夫を集めたと言ってたが、それも頷けるほどだ。
 中でもひときわ目を引くのは、獣人であるタンガは勿論だが、ヒューマンであるはずのカレリン。太さが人の腕ぐらいもあり、長さも自分の身長より長い鉄の棒を振り回して、力任せにガーゴイルを殴り付けていた。しかも、それでガーゴイルにダメージを与えている。確かガーゴイルにも、そこそこの防御力があったはず。
 おいおい、腕力には自信があるとか言ってたけど、あのおっさんどんだけだよ。本当にヒューマンなのか? やっぱり、ゴリラとかの獣人じゃないのぉ。

 とはいったものの、戦況はどちらに転ぶかまだ分からない。早く船に戻った方が良さそうだ。
 時間的な余裕も無いようなので、あれを使う事にする。マーダートレントの時の事もあるので、カレリン達ヒューマンの皆の前であまり使いたくなかったが、そうも言ってられなさそうだ。
 まあ、それも今更だがな。こうして、空を駆けガーゴイルと戦ってる時点で、俺がまともなヒューマンだと皆は思って無いだろう。
 今は、出し惜しみしてる場合でもないだろう。
 それならできることは、ひとつ。敵が数で来るなら、こっちも数で勝負だ。

 俺は霊薬を取り出すと一気に呷った。途端に、体力や魔力といった活力が体中に漲る。それを感じながら高らかに叫ぶ。

「【影分身の陣 千人掌】!」

 ニンジャマスターの究極スキルを発動させる。
 叫ぶと同時に俺の周りには、魔法陣に似た円形の黒い影が現れた。その数は10。それら黒い影の中からは俺と同じく魔剣を手に持ち、俺とそっくりな者達が浮かび上がってくる。
 千人にはほど遠い数だが、今の俺ではこの人数が妥当だと思う。多分、限界まで体力や魔力を削れば、20から30人ぐらいまでいけそうな気もするが、ゲームと違ってここは現実の世界。セーブやリセットなど出来ないのだ。
 戦闘中に、体力や魔力が切れてしまうのを避けなければいけない。だから、少なめに出現する人数を制限している。
 この究極スキルは体力と魔力を大幅に削るため、ゲームのように残魔力量を数字で確かめることが出来ない上に、低レベルの今の俺には結構リスクの高いスキルでもあるのだ。

 ――先ずは麻痺して動けないガーゴイルから。

 俺を含め、11人の俺が一気にけりを付けるべく、周りに散って行く。
 4人の俺が、周囲で飛び回るガーゴイルを牽制し、その間に残りの俺達が、動けず空に漂うガーゴイルを次々に屠っていく。

 ガーゴイルは、蛇に似た頭を持ち背中には灰色の大きな翼を持つ。だが、その姿形は2本ずつの手足を持ち、人の姿に似ている。
 だからなのか、動けないガーゴイルに刃を向けるのに、元が平和ぼけした日本人である俺は、躊躇い忌避感を覚えてしまう。
 ましてや……。

「【刺突】!」

 サーベルの切っ先が吸い込まれるかの如く、ガーゴイルの目玉に突き刺さった。そして、そのまま眼窩から潜り込む刃が、ガーゴイルの脳髄をぐりぐりと傷付ける。

 ――うげぇ……この感触はさすがに辛い。

 ニンジャマスターの暗殺スキル【刺突】は、敵の急所を的確に突く。だから、防御力の一番薄い目を狙い脳髄を抉る。華奢な作りのサーベルで斬りつけるには、目を狙うのが一番確実なため、スキルもそのように働いてしまうのだ。

 うぅむ……分かってはいるが、さすがになぁ。

 周りを見ると、分身達も俺と同じくおっかなびっくりな様子で、次々とガーゴイルを仕留めている。
 だが……。

 ――本体の俺より、分身の方が強くないか?

 確かに腰が引けた状態ではあるが、本体である俺とは違って実に手際よく効率的に止めを刺していくように見える。
 そう、そこには迷いや忌避感といった感情などは無く、ただ、俺の物真似をしながら戦ってるように見えるのだ。

 ゲームの時は深く考えなかったが、こうして現実となって分身体を眺めると、俺の考え通りに動くとはいえ、少々、薄気味悪くも感じる。皆が、このスキル【影分身の陣 千人掌】を見て、俺を魔物と勘違いしたのも納得できるほどに。

 などと考えていると、背後から襲い掛かってくる気配が、突然。

 ――うおっと、危ない!

 周りで牽制していた分身の間隙を突き、一匹のガーゴイルが俺の背後から襲い掛かってきたのだ。間一髪で【瞬速】を発動させると、横に転がるように躱し難を逃れる。
 空中で横に転がるというのも妙な感じだが、【飛脚】を使うと出来てしまうのだ。

 だが、ガーゴイルは尚も追撃を仕掛けようと、此方に向かってくる。俺は体勢を立て直す時間を得るために、転がりながらも初動の速い【風遁初段 風刃】を放つ。

『グギイィィィ……!』

 風が刃と化し襲い掛かると、ガーゴイルは絶叫を上げた。
 その隙に体勢を整え、次の追撃に備えて魔剣を体の前に構える。

 戦いの最中に考え事に気を取られるとは、油断し過ぎだなって……。

 ――あれっ!

 目の前で、【風刃】の一撃を受けたガーゴイルが、海中へと墜落していく。
 俺は【風刃】一発で倒せるとは思っていなかったので、当然、追撃が来るだろうと身構えていたのだが……ガーゴイルってこんなに弱かったか?

 ゲームの時は、ガーゴイルは中級のモンスターだった。だから、忍術スキル初段の一撃で、倒せるはずなど無いと思っていた。
 魔剣のお陰なのか?
 いや、幾らなんでもおかしすぎる。

 おっと、また考え事に没頭する所だった。今は戦闘の最中。もっと、戦いに集中しないと。
 もっとも、【風刃】の一撃で倒せるとなると、大分、話も変わってくるが。
 俺は空中でも、【飛脚】と【瞬速】を使う事が出来る。長距離を飛ぶ速度は他に譲るが、こと、空中での機動力ではガーゴイルに負けるとは思えない。なんといっても、俺は地上で動くように空中でも駆け回れるからだ。

 まぁ、弱くなってる分には文句もない。それなら、一気に決着を付けさせてもらうだけ。

「いくぞ! そおぉリゃあぁぁぁ!」

 気合いも新たに、分身体も含めて11人の俺が、残りのガーゴイルに向かっていく。

「【風遁初段 風刃】!」

 11人の俺が放つ風の刃が、11匹のガーゴイルに襲い掛かり確実に葬る。残り数体となったガーゴイルは恐慌をきたし、それを分身体が囲み袋叩きにしていた。

 こうなるともう、弱いものいじめだな。

 瞬く間に、最後の一匹を海中へと叩き落とすと、分身体は俺へと集束する。

 ふぅ、これで終わりか。それにしても、ガーゴイルは思っていたより、やはり……弱い。これも、魔素の封印とやらに関係があるのだろうか?
 考えて見ると、あの禁足地『不浄の森』にいたマーダートレントも、それに、コロビ魔族となったバーリントンにしても、今から考えると思っていたより弱かったのでは無いだろうか?
 幾ら俺が多数のスキルを使えるといっても、基本となる能力値は低い。初心者レベルに毛が生えたような俺に、果たして倒せるものなのだろうか?

 ふむ、やはり……おっと、そんな事を考えてる場合ではないな。
 今は早く船に戻らないと……。

「船が……」

 ミラキュラス号がいるはずの洋上に目を向けると、既に遥か南へと移動していたのだ。

 ――おいおい、俺を置いてくなよ。

 置いてけぼりとか、勘弁しろよな。

 慌てて宙を駆け抜け、船の後を追い掛ける。

 しかし、帆は畳んでたはずなのに……潮に流されてるのか?
 いや、そうじゃないな。
 良く見ると、海上を進む船は青い燐光を放ち、更に速度を上げ南へと進んでいる。

 あれか、あの海神? の像のせいなのか。

 一路、南を目指す船の行く先にはモルダ島がある。そういえば、ガーゴイルの群れも南から飛来してきていた。

 ――モルダ島には、いったい何が?

 遥か南の洋上を透かし見て、一抹の不安を抱え俺は船を追い掛けた。
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