綺麗な先生は好きですか?

くるむ

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第一章

紫藤先生の気持ち

「気が付いたようね、大丈夫?」

保険医の高階先生が、俺の顔を見ながら近づいて来た。

「は、はい。大丈夫です」

ちょっぴり目のやり場に困る。
だって高階先生、すっげースタイル良くて。巨乳で。
本人も分かっているからなのか、胸の谷間が強調されるような服を着ている。

……おまけに美人だったりするんだよな。

腰を少しかがめて俺の頭に手を乗せる。
谷間が目の前に現れて、思わず顔が熱くなった。

「頭痛とか、吐き気とかは無いのね?」
「は、はい」

少し体を引いて俺の顔を見ながらの問いかけだったけど、相変わらず胸の谷間は俺の視線の先にある。
赤いだろう顔で返事をしたら、高階先生にクスリと笑われた。


……これって、確信犯って奴?
皆が噂する通り、高階先生って見られて喜ぶタイプなんだろうか……。

じっと見てるのも変なので、視線をそこから引き剥がして顔を横に向けたら、なんだか冷めた目をした紫藤先生と目が合ってしまった。


うわっ!
俺が高階先生の谷間をガン見してたの見られてた!?

違いますー!
そりゃ、男だからおっぱいの引力には負けますけどー

必死で紫藤先生に目で訴えていたのに、先生はフイッと目を逸らしてしまった。

「じゃあ大丈夫だとは思うけど、念のため病院で検査してもらった方が良いかもしれないわね。ええっと……」
高階先生はそう言って時間を確認した。

「良いですよ、高階先生。僕が彼を病院に連れていきます」
「そうですか? すみません、じゃあお願いしてもいいですか?」
「ええ」

そう言って、紫藤先生は高階先生にニコリとほほ笑んだ。そしてその後、俺に振り向いたのだけど、笑顔が…笑顔がいつもと違う気がしますよ、先生!




……というわけで、近所の大きな病院に行って一応検査をしてもらった。先生の付き添いで。
検査の結果は何事も無いという事で、先生と2人で安堵の息を吐いた。

そして今、先生の車で家まで送ってもらっている途中だ。

「あの、先生……。結局迷惑かけてごめん」
「……迷惑なんて思ってないよ。それどころか……、迷惑かけたのは僕の方だ」
「迷惑なんかじゃないよ! だって俺が勝手に先生のこと好きで、勝手に守りたいって思っているだけなんだし」

「それは、単なる思い込みなんじゃないのか?」

いつもの優しい声音と違って、どこか冷めた硬い声に俺は驚いて先生の顔を見た。
先生は真っ直ぐ前を見て運転しているんだけど、その横顔は無表情で、俺の背中を嫌な汗が伝う。

「君は僕が男性に迫られてるところに出くわしたから、自分の気持ちを勘違いしているだけじゃないのか? ……女性の方が好きそうだし」
「そんなことないですっ!!」

さっきの事が勘違いされちゃったのだと気づいて、俺は思わず大声を出して否定した。そのあまりの切羽詰まった大声には、先生も驚いたようだった。

「俺は……、俺はたとえ裸で高階先生が俺を誘っていたとしても、紫藤先生のところに迷わず行って、紫藤先生の服をはぎ取ります!」
「……は? え!?」

とんでもない俺のたとえ話に紫藤先生は本気で驚いたらしく、目を見開いた後、車を路肩へと寄せた。


「南くん……」
先生は困惑したような、それでいてちょっぴり咎めるような表情で俺を見た。

「……す、すみません。でも、否定しないですよ。そりゃ、俺はゲイじゃないです。中学の時に好きだったのは女の子だったし……。でも半端な気持ちじゃなくて、俺は先生がどんなに強くても先生のこと守りたい。少しでも先生が嫌な気持ちになるような目には、合って欲しくないんだ。だって、そんな事想像するだけで俺、胸ン中ざわざわして……、耐えられないよ」

本当にそうなんだ。
自分が殴られるよりも何よりも、先生が誰かに迫られたり襲われたりって考える方が心臓がえぐられるくらいに辛い。

先生に俺の事を好きになってもらえなくても、それでもこの気持ちが本物だってことだけは分かって欲しくて、俺は先生の目をじっと見つめた。
先生も視線を逸らしたりしないでちゃんと俺の目を見てくれて、お互い一分近く見つめ続けていた。

紫藤先生がフッと息を漏らし、視線を床に落とす。


「……君みたいな子は初めてだ」

静かな空間にポツリと零れた言葉。

低く静かな声音に、先生の気持ちが見えない。
どういう意味だろう……。呆れたってこと?

数秒の沈黙の後、先生が顔を上げて俺を見た。その表情は、嫌悪でも呆れた物でも無く、少し困ったようないつもの先生の表情だった。

ゆっくりと伸びてくる腕。
その伸びた手が、殴られた頬を優しく慈しむように撫でる。



「僕も、君のことが……、好きだよ」


硬質で綺麗な先生の声が、この狭い空間にじんわりと広がって行った。
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