綺麗な先生は好きですか?

くるむ

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第六章

溶ける心

辛抱強く、優しい瞳でじっと見ている先生。
俺のことを心配して、その不安を取り除こうとしてくれている先生の優しさに、結局俺は重い口を開かされる羽目に陥っていた。

「志緒利さん……」
「え?」

俺が志緒利さんの名前を出したことに、ピンと来なかったようだ。
『なんでまた志緒利なんだ?』といった表情で俺を見る。そんな先生に、ちょっと居た堪れない気持ちになったけど、もう名前を出してしまったんだし今さら誤魔化せない。
俺はちょっと自棄になりながら、もう全てをぶちまけようと思った。

「……先生、志緒利さんに対して心許してるっていうか……、信頼してるっていうか……。なんか他の人と一緒に居る時より素直になってるみたいで……。なんか、ちょっと……。あの人、美人だし……」

俺のモゴモゴとした説明に、最初先生は訝しい顔をしていたけれど、だんだん何かを納得する表情に変わっていった。

「それって、俺が志緒利に説得されてたところを見て思ったんだろ?」
「……そうだけど、それだけじゃない。……志緒利さんと先生って、なんか普通に仲が良いように見える……」

「ん~、仲が良い、かぁ……。別に俺と志緒利は、特に連絡取ったり2人で会おうとかそういう事もしないんだけどな。実際、今日会ったのも……、何年ぶりだ? 多分、2年半ぶりくらいじゃないのかな」

「そうなの? じゃあ電話とかライ……。メールとかは?」
「しないな。向こうからも別に来ないぞ?」
「ええっ!? じゃあ、なんであんなに普通に仲良いの?」
「仲良い……?」

詰め寄る俺に、先生は全くその意識が無いようで考え込んだ。

「志緒利のことを特別に意識してることは無いけど、たぶん南がそう思うのは、俺があいつに普通に接してるからなんだよな?」

「……うん。ていうか、仲が良く見える」
「それ、あいつが女だからそう意識してるんじゃないのか?」
「え……?」

言われてみれば、そうかな?
渚さんとのあの珍妙な、阿吽の呼吸って感じは余り気にならないし。

「そう言う事か……。あのな、南。俺は傍若無人で無愛想で他人に興味もないけど、一応まともな相手にはまともな対応くらいはするぞ? 高田や小波は煩くまとわりついたり、人のプライバシーまで聞きたがる面倒くさい奴らだから相手をする気は無いけど、志緒利は普通にまともだから素直に意見も聞ける。渚のヤローは半分揶揄いが含まれてるから、突っかかりたくなるが……、それだけの事だ」

「そう、なの……?」
「そうだよ。大体……」

不自然なところで先生は言葉を止めて、俺のことをじっと見る。

「顔を見たいと思うのも南だけだし。触りたい、自分のモノにしたい。誰にも渡したくないって思うのも南だけなんだけど?」

「せん……せ」
「渚も言ってただろ? 奇跡的な存在だって。……俺も、今だってそう思っているんだけどな」

優しい顔で見つめられ、俺のことが、俺のことだけが大切で特別なんだと訴えてくれる先生に、嫉妬と焦りで凝り固まっていた重くて暗い心が溶け出してくる。
そしてそれと同時に、恥ずかしいくらいに熱いものがセキを切るように込み上げてきた。

「……っ、ごっ、ごめんなさ……っ。お、俺……」
「まーったく、ホント、可愛いよなぁ」

ボロボロと涙が止まらなくなってしまった俺を、先生が抱き込むようにギュッと引き寄せて、そのままの流れでコロンと布団の上に転がった。

見上げる俺の瞳に映る先生は、すごく優しい顔をしている。
涙で濡れている顔をじっと見られているのがなんだか恥ずかしくて、そっと目を伏せると、先生の体温がゆっくりと近づいてきた。

そして――

俺の唇に、ふわりと温かく柔らかい先生の唇が重なった。
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