綺麗な先生は好きですか?

くるむ

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第六章

歪んだ思い 3

「黙ってないで返事くらいしろよ。誰なんだ、そのユウミって」
イライラと急かすように話す先生に、遠山さんは眉間にしわを寄せて不機嫌な顔を返す。

「……お前、本当に知らないのかよ? 優美だよ、優美! 優しいに美しいって書いてゆうみ。知ってんだろうが、前田優美だよ」
「…………」

眉を寄せて腕を組む先生の傍で、渚さんが「ああ!」と顔を上げた。

「そういや居たな、そんな子。ちょっとふわふわした感じの子だろう? 一時期、澪に一生懸命話しかけていた子だ」
「……そうなのか?」

渚さんにヒントをさらに貰ったというのに、当の先生はどうも思い出せそうにないらしい。

「お前、本当に覚えてないのか?」

驚愕したような遠山さんの顔。どうしても信じられないようだ。

「その……、優しくて美しい子だっけ? そんな子なんて知らないよ。俺によく話しかけてたって言ってたけど、当時の俺には一方的に話しかけてきているって意識しかない奴は結構いたし」

「…………」

唖然とした顔を崩せない遠山さん。だけどそれと同じく、俺もかなり唖然としていた。
そりゃ、先生から他人に興味はないって事は、何度か聞かされてきたことではあるけれど、まさかほとんどの人を、自分に一方的に話しかけているという認識で済ませてしまうほどだとは思ってもみなかったから。

「で? その優しくて美しい子がどうしたって?」
「優美だよ、優美!」
「……はいはい、優美ね。で、その優美がなんだって?」

馬鹿にしたような態度を止めようとしない先生に、遠山さんはカチンとはきたようだけど、自分の分の悪さを分かっているからだろう。ため息を吐いた後、顔を上げた。

「大学んとき、優美に告白したら……、紫藤の方が良いなんてぬかしやがったんだよ」

「……断るときの材料に使うなよ、ったく……」

然も迷惑と言わんばかりの先生の表情。
その横では、渚さんが苦笑している。多分、それは違うだろうと思っているに違いない。

「多分、そんなんじゃない。俺が、紫藤みたいな欠陥人間なんかより俺の方がマシだって言ったら、紫藤に相手にもされない人が何言ってんのよって言ったんだ。それにあいつはどんなにお前が不愛想にしていても、いつも楽しそうに話しかけてた。あいつにとってはお前が合格ラインだったんだよ。顔やスタイル、それに頭の良さもな!」

「…………」

「だから俺はお前のことを意識して……、紫藤とまともにやりあっている渚や柳瀬と何が違うんだろうって考えて……。それなのに、なんでお前は優美のことを思い出しもしないんだよ!」

今までの鬱憤をぶちまけて真っ赤になって言い募る遠山さんに対し、先生は逆に白けた感じになって行っている。ハァッとため息を一つ吐いて、腰に手を当てて遠山さんを見返した。

「……別に。その優美って子が遠山にとっては特別な存在だったのかもしれないけど、あの当時の俺にとっては大勢の中の1人だった。ただそれだけの事だろ? お前も言ってた通り、あの当時の俺は他人に極端に興味も持てない欠陥人間だ。……そんな奴を持ち上げて、変なライバル意識なんて持つんじゃねーよ。俺にそんな価値なんて、無いっての」

「……紫藤」

落ち着いた声で喋る先生に、遠山さんはまるで憑き物でも落ちたような、まるで見知らぬ人を見るような目で先生を見た。

「……お前、紫藤だよな? 本物、だよな?」
「おい」
更に呆れた表情になる先生に、今度は遠山さんがため息を吐いた。

「……お前、本当に変わったんだな。なんだか、別の人間と話してるみたいだ」
「悪かったな」

「紫藤」
「なんだ」
「お前、本当にこの南くんとは教師と生徒だけの関係なのか?」
「当たり前だろ。――ただ、助けてもらったり色々あったから、一番可愛い生徒には間違いないけどな」

顔色一つ変えず平然と答える先生の言葉を、どうやら遠山さんは信じてくれたらしい。自嘲するように笑って、そのまま奥へと入って行き自分の荷物を手にして出てきた。

「遠山?」
「俺、帰るわ。このままいても良いけど、南くんに不快な思いさせちゃったからな。……悪かったね」
「…………」

遠山さんは前半を渚さんと先生に、後半は俺に向けて話した。
だけど俺は、それに対して何も返事を返すことは出来なかった。だってやっぱり、いくら事情を聴いたからって、許せるだなんて思えなかったんだ。

「後は任せるよ」

遠山さんはそう言って俺らに軽く手を振って、コテージを後にした。
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