綺麗な先生は好きですか?

くるむ

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第七章

恋人の時間 4

ちらりと時計に目をやった先生が、「もうこんな時間か」とつぶやいた。

「出前でも取るか。……このエリアだと……。南、お前寿司は大丈夫か?」
「うん。好きだけど」
「じゃあ、それにするか。メニューは、これでいいか」

多分宅配アプリを使っているんだろう。サクサクと注文した後、携帯をテーブルの上に置いた。

先生がやっとこっちを向いたので、すかさず先生に抱き着く。
普段したくても我慢しなくちゃならないことを、ここに居る間にしっかり堪能するんだ。

「飯食ったらどこか行きたいところとかあるか?」

先生が、俺の頭を軽くなでながら尋ねた。甘やかされている犬のような気分で、俺も先生の胸に頬を擦りつける。

「ううん。どっか行くよりこうやっていたい」
「そっか」

先生も俺の気持ちを分かってくれたようだ。頭を撫でていた手は、今は背中を摩っている。
甘やかしモードに入ってくれた先生に、俺はちょっぴり心配していたことを思い切って聞いてみることにした。

「ねえ、先生」
「うん?」
「……高階先生ってさ、実は紫藤先生のことを好きって……事はないの?」
「え……?」

先生は本当に思いもよらないことを聞かれたようで、動いていた掌をピタリと止めて俺の顔を覗き込んだ。

「高階先生が? 俺のことを……? なんだお前、そんなことが気になっていたのか?」
「少し……。だってさ、紫藤先生って他の誰よりも綺麗でカッコイイから、実は高階先生もあわよくばって、先生のことを狙ってるのかもしれないなって……」

「南……」
困ったような、それでいて甘く崩れたような表情だ。

「……心配してくれるのは有り難いが、それはないよ」

「そんなの分からないじゃないか。……だって先生、実はかなり鈍感だろ。自分が他人の目にどんな風に映っているのか、もうちょっと自覚してよ」
「…………」

自覚の無いだろう先生に、ちゃんと意識してほしくて真顔で訴えた。先生は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに苦笑いの表情になった。

「……大丈夫だ。俺はある程度の事は自覚している。……学校ではちょっと、演技しすぎになっちまってるか……」

多分後半のは独り言だ。
でも、ある程度の事は自覚してるって言ってるけど、俺に言わせればそれも疑わしい気になるんだけど。

「とにかく、高階先生に限ってはあり得ないことだから心配するな」
「だから、何でそう言えるんだよ」

詰め寄る俺に苦笑して、先生が俺の頭をくしゃりと撫でる。

「なあ、南」
「……はい」
「お前、口は堅い方だよな?」

口……?
ムニッと自分の口の両端を掴んでみる。そんな俺の仕草に、先生が吹き出した。

「わ、分かるよ。誰にも言うなって事なら、ちゃんと内緒にするよ。別に俺、持ってる情報を他人に喋りたいってタイプじゃないから」

「そうだよな。……じゃあ、これから話すことは松本にも内緒だぞ?」
「……分かった」

俺が真剣な表情で頷いたとほぼ同時に、玄関のチャイムが鳴った。

「ちょっと待ってろ。出前が来たようだ。後は食べながら話そう」
「うん」

先生が玄関に歩いていくのを見ながら、俺は誰にも言ってはいけない事ってどんな話なんだろうと考えてみた。
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